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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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腕の行方と誰かの背中

「なあー奥村君」
「ん?」
塾が終わった後の廊下で、志摩に呼ばれて振り向いた。
その後の展開に体が硬直した。動けなかった。





燐が寮に着くと、雪男はすでに帰宅していた。
いつもの祓魔師の制服ではなく、普段着だ。
最近見ていなかったので珍しい。
「おかえり兄さん・・・どうしたの?」
「なんでもない」
燐は荷物を置くと、机に突っ伏した。
珍しい。ベットに直行しないなんて。
兄の不調を感じ取り、突っ伏した顔を上げさせておでこを露出させる。
そこに手を置いて、体温を測った。
「うーん熱はないみたいだけど」
「なんでもねーよ」
「兄さんのなんでもないは信用できない」
「・・・信用ねぇな」
「嫌なら話してよ。何かあったの?」
「なんでもねーよ」
「もしかして志摩君絡み?」
燐の座る椅子が動いた。図星か。昔からわかりやすい。
「・・・お前見たのか」
「見たってなにを?志摩君が兄さんを抱きしめたところなんて見てないよ」
「見てんじゃねーか!」
「え、ちょっと待ってよ。まさか本当に・・・」
雪男の顔がみるみる青くなっていった。
燐は思う。しまった。俺はなんて馬鹿なことを。
雪男がカマをかける男だと知っていたはずなのに。
寮の部屋から出ていこうとする雪男を燐は手を掴んで止めた。
どこへ行こうとしていたかは聞かないでおく。
とにかく、雪男をここに留めておかないとすごくまずい。

「手離してよ兄さん」
「いやだ」
「じゃあ話してよ」

交換条件か。昔からこういった交渉が上手い奴だった。
雪男の表情から察するに、逃れることはできないだろう。
燐は観念して話し出した。


「なあー奥村君」
「ん?」
塾が終わった後の廊下で、志摩に呼ばれて振り向いた。
目の前に志摩の体が迫ってきて。
ぎゅっと抱きしめられた。

「ちょ、待て待て待て!!」

いきなりなんだ。
燐は身体に抱きつく志摩を引き離そうと背中に手を回した。
だが、何かに気づいたのか。燐の身体は硬直してそのまま動かない。
志摩はそのまま燐を抱きしめている。
燐の鼓動が速くなる。胸の辺りから志摩の鼓動も聞こえてくる。
早く終われ。早く終われ。
燐は願った。

「さよならのハグとかしてみたんやけど」

志摩の体が離れた。燐はあからさまにほっとした息を吐く。

「なんか奥村君って抱かれるの嫌いなん?」
「・・・その言い方はやめろ」
「訂正。奥村君って抱きしめられるの苦手なんやな」
「ほっとけ」
「否定はせんのやね。また一つ奥村君のことわかった気がしたから、今日はこれでさいなら」

志摩はさっさと扉の向こうに消えていった。
冗談だったらしいが、こっちはたまったもんじゃない。
ちくしょう、また遊ばれた。
でも、それ以上に。





「志摩君に怪我させなくてよかった・・・って思ったわけか」
雪男は納得した。燐は納得がいかない顔をしている。

なんでいつもこいつにはわかるんだろう。
俺は雪男の事、わからないことが多いのに。

燐は机に突っ伏したまま。不平を述べる。

「なんでわかるんだよ」
「そりゃ生まれた時からの付き合いだしね」

雪男の言ったとおり。志摩に怪我をさせないでよかったと思った。
幼稚園児の頃に神父を殴って肋骨を骨折させたことがある。
成長した今では力加減ができるようになったが、それでも時々怖い。
怪我をさせないだろうか。人間は壊れやすいから。

俺は人間じゃないから、加減しないと壊してしまいそうで怖い。
だから、俺は人を抱きしめることができない。
抱きしめられた時に硬直するのは、相手を傷つけないためだ。


歯痒い。


拳を握り締める。手の平に血が滲んできた。
自分が傷つくのはいいけど、人を傷つけたくない。
神父を傷つけた時に自分に誓ったことだった。

雪男が傍に来たことが、気配でわかった。
傷ついた手の平に、雪男の手が重なる。
途端、強い力で腕を引っ張り上げられる。


雪男に、抱きしめられた。
「雪男・・・!」
燐の体が硬直する。
雪男が答えた。

「兄さん、僕は壊れないよ」

雪男は強い力で燐を抱きしめた。
逃げようとする燐の身体を強い力で引き止める。
離さない。

「兄さんより背が高いし。兄さんより体格いいし、兄さんより筋肉あるよ」
「嫌味かてめぇ!」
「だからさ、怖がらないでよ。大丈夫だよ」
「・・・」
「大丈夫だよ、兄さん」

だらりと下げられていた燐の腕が、雪男の背中を辿った。
でも、抱き返すことはなかった。

(まだ、時間がかかるのかな・・・)

身体的接触を怖がるようになった理由も何もかも雪男は知っている。
乗り越えるのは燐自身だ。だから、それまで雪男は待つつもりでいた。


(でも、志摩君のこと・・・本気で考えたほうがいいかもしれないな)




抱きしめられていた燐は気がつかなかった。
雪男の顔が見たことが無いほど冷たい顔をしていたことに。

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そしてなにより

「そうやなーお馬鹿なところとか意外とかわええと思うわ。お馬鹿かと思いきや、悪魔との戦闘になると頭切れるやんな。この間屍倒した時はヒヤヒヤしたけど、すごいと思うで。
でもな、これは奥村先生も思っとることやと思うけど、無謀すぎやしません?一人で戦いに行くのはあんまりいいこととは思えんよ。怪我しても、仲間がおらんと助けれんやろ。
そこだけは心に留めといてな。坊だって、ラリアットかましたのはひとえに奥村君の心配をしてたからやで。
ちゃんとそこわかっとる?うん、わかっとるんならええわ。よしよし、ええこやね。あ、そういう素直な所とかええと思う。なに、そんな照れんでええやん。可愛いポイント。略してKP追加やなー。
あ、ごめんてからかってないよ。拗ねんといて奥村君。
そうそうコレ忘れとったわ。黒髪に青い瞳の珍しい組み合わせも高感度アップ。

そして何より顔がいい」






「と、志摩に言われたんだが俺どう答えるのがよかったと思う?」

燐がげっそりとした顔で勝呂に問いかけた。
授業でクラスメイト同士、他己分析をしてみようということになった。
祓魔師に必要なのはチームワークだ。お互いのことを知るために、また自分の知らない一面を知るために行なわれている分析の授業だった。
「竜騎士に向いているか」「騎士を目指す理由は」「悪魔に対してどう対処するか」
など、将来のことを見据えて目指す職と自分との間に違和感がないかなどを調べる意味もある。
燐はしえみとやろうとも思ったが、面と向かって「相手の印象や良いところ、直す所」を言うなんて耐えられない。
これでも思春期の男の子。デリケートにできている。
そこで、京都組と混ざって分析をすることになったのだが。


志摩のは分析というより、口説きに近い。


「・・・なんていうか、すまん奥村」
「いや、お前が謝ることじゃないけどさ」
「志摩さんに聞いたのは間違いでしたね奥村君。僕とやります?」
「頼むわ子猫丸」
「えー、奥村君俺の分析は?俺の印象は?」
「エロ魔人、このひと言に限るな」
「ひどい!」

他己分析は難しい。燐の頭にはそうインプットされたのだった。

むっつりとオープンスケベ

「あかんわぁ真面目すぎるで皆」

志摩がぽつりと呟いた。
合宿で朴が悪魔に襲われてから、警戒のためにグループでの行動を心がけていた矢先のことだ。
男子は勝呂達が寝室に使っている部屋に集まっていた。
雪男は神木としえみのお風呂へ護衛として同行しており、ここにはいない。部屋には二段ベットが配置されており、勝呂と志摩、子猫丸と燐が隣り合って下のベットに座って雪男の帰りを待っていた。

「真面目すぎるってどういうことや志摩」

勝呂が志摩に言う。志摩はため息をついて三人を見渡した。

「だって、折角の合宿やのにお決まりのラブイベントがひとつもないんですよ。そりゃあ寂しくもなりますし、ため息だってでますよ」
「志摩さんまだそないなこというてはるんですか?」

合宿にかこつけて女子の風呂を覗こうとしたりと志摩は自分の男としての欲に忠実だ。
エロ魔人のふたつ名は伊達ではない。

「でも坊達こそおかしいんですと僕は言いたい。だって花の15歳なのに
何故そこまで枯れているのかと、何故そこまでストイックなのかと」
「ちょっと待て、俺は枯れてなんかねーぞ!」
「おい奥村、それは俺が枯れてるといいたいんか?オイ」
志摩は食いついてきたな、と人の悪い顔をして二人に応えた。
「じゃあ坊と奥村君ってどこまで経験ある?」
燐が盛大に噴出し、勝呂は志摩の頭を張っ倒す。
「ストレートすぎるやろ!アホか!」
「ええやないですか、クラスメイト同士の親交を深めようとしただけですよ」
頭を叩かれても悪びれる様子ひとつなく、志摩は燐にどうなん?どうなん?とつついていく。
「志摩さん、いくらなんでもそれは・・・」
子猫丸の制止を志摩が手をかざして止める。
思わず引いてしまうぐらいの熱の篭った視線だった。

「そこ!そこがあかんのや!男が四人も揃って猥談もひとつもせんのは男としての義務を放棄しているのと同じですわ!合宿で恒例の女子風呂の覗きが許されへんのなら、せめて猥談くらいはしましょうよ!」
「お前・・・溜まってるんか・・・?」

勝呂は完全にドン引きしている。熱くなっていく志摩に撃沈していた燐が追撃を開始する。
やられたらやりかえせという教えは藤本神父からの直伝だ。

「俺のことはともかくだ!け、けけ経験とかお前はどうなんだよ!?」
「あ?俺?答えてええの?あれは小学校1年のときやったなぁ・・・
担任の美人の新任教師24歳と家庭科準備室でな」
「は!?小1!?」
「志摩さん止めてあげてください!志摩さんの話はなれない人にはディープすぎますから!」

子猫丸が燐の耳を塞いだところで、じゃあと志摩が会話を方向転換させた。

「奥村君って人生のうちエロビどんだけみたことある?」
真剣な眼差しに思わず口が滑った。
「さ、3本・・・だけど」

ああ、3本なんだ。と勝呂と子猫丸は聞き入ってしまう。他人のあれそれのゴシップはやはりどうしても聞きたくなる、蜜の味である。

「洋モノ?和モノ?どうやって見たん?いうてみ」

警察の取調べのごとく志摩の追及が続く。尋問中の犯人、取調べ中の被告人、いや、さながら罪人の懺悔の告白
のように燐は声を絞り出して答えていった。

「和モノ・・・親父の部屋にあったのを、いない隙を狙ってこっそりと・・・」

顔を両手で覆い隠して、燐の体は震えていた。顔が真っ赤になっているあたり罪悪感より羞恥心のほうが強そうだ。

「うん、王道やな。大丈夫やで奥村君、君の罪は男全員が犯す人生の軽犯罪やな」

燐の肩を抱いて引き寄せ、頭を撫でた。うん、やっぱこの子おもろいわぁ。
格好のおもちゃを見つけた志摩はいじりをやめない。

丁度そこで、部屋のドアが開いたことに燐と志摩は気づかなかった。
勝呂と子猫丸が会話に参加しなくなったことから、二人は察するべきだった。

「和モノってことは着物かぁ。ええ趣味してるわ。女優さんはどんなん?」
「可愛い系で、きょ・・・巨乳」
「ほほう、で?内容は?」
「緊縛でした」
「無理矢理?」
「違う、同意の上でだった」
「モザイクあった?」
「いや、カメラの角度?とかで見れなくしてたし、なかったぞ」
「じゃあよかったなー、俺なんかモザイクなしの洋モノを好奇心で見た結果、ご飯食べられへんかったことあるから」
「え!?外国のってそんなにハードなのか!?」
「えらいことなっとったわぁ。今やったらドンと来いやけど」
「お前どんたけだよ!」




「兄さんもどんだけだよ」

肩を寄せ合う二人の背後に、冷気を纏った雪男が居た。
勝呂と子猫丸は扉の横の方に避難しており、ベットに座って熱く語り合っていた二人とは対象的だ。
勝呂がにやりとした笑みを二人に向け、言った。


ご愁傷さま

「「裏切り者!!!」」
燐と志摩は叫んだが、雪男の持っていたファイルで頭を叩かれる。
「猥談するにも限度があるでしょう!慎みぐらい持ちなさい!!」
「ヒドイわぁ奥村先生!男の生理を否定せんといて下さい」
「そうだ!そうだ!むっつりのくせに!俺知ってんだぞ!雪男のカバンの・・・」
言い終わる前、片手で口を塞がれ仰向けにベットへ押し付けられた。一瞬の早業だった。
押さえ込まれた燐はなおも雪男の手をはずそうとするが、抵抗する燐の口を塞ぐことしか考えていないせいか
雪男の手が腰のホルスターにのびる。志摩が顔を青ざめて止めに入る。

「せ、先生それはやりすぎや!俺らが悪かった!奥村君許したって!!」
「麻酔弾なんで害はないです」
「そ、そないにバレたくないんですか・・・!?先生のカバンには何がはいっとるんですか!」
「むー!むー!ふぐーーー!!」
「先生あきません!奥村君が窒息してまいます!」

遅れて部屋に入ってきたしえみ達の前には、ベットの上で余計なことを言わないようにと落とされた燐と震える志摩の姿
があった。
「雪ちゃん、なにかあったの?」
「しえみさんたちは知らなくてもいいんですよ」
優しく微笑みながら何事もなかったように片付けようとする雪男に、勝呂は薄ら寒さを感じた。
そして、勝呂は見ていた。
雪男の視線はお風呂から上がったしえみのほんのり赤くなった胸の谷間をチラ見していたことを。


勝呂は悟った。雪男の方はむっつりスケベだ。

僕が日常に帰るため

銃に、弾を込める。
もう何回繰り返しただろう。
悪魔が次々に湧いてくる。
それをゲームかなにかのように機械的に撃ち殺していった。
もう何回繰り返しただろう。
悪魔を殺す引き金を引くことを。



今日は帰るのがとても遅くなってしまった。
学園の寮で一緒に暮らし始めてから、はじめての長期任務だった。
いい加減、携帯食じゃなく美味しいご飯でも食べたい。
ここ数日で何体悪魔を殺したことだろう。
日常からかけ離れた生活を続けたせいで、心も身体も荒んでしまった。
背後で、音がした。
雪男は反射的に銃を引き抜き背後に向ける。
なんてことはない。空き缶が風で転がっただけのことだ。
疲れているのだろう。
雪男はため息をついて重い荷物を抱えなおす。
3日も帰れなかったので、兄の様子が心配だ。
理事長に変なことされていなければいいのだが。


雪男は男子寮の前まで着くと、3日前と寮の様子が違うことに気づく。

(電気がついてない・・・)

もう寝てしまったのだろうか。他の建物と比べて、寮の明かりの量は明らかに違う。
どの部屋も、玄関の電気すらついていないのだ。
雪男は腕時計で時刻を確認した。午後7時。兄も寝るにはまだ早い時間だ。
留守にしているのだろうか。でも、塾はもう終わっている時間だ。
雪男は首をかしげながら、荷物を抱えなおした。
とりあえず、部屋まで帰って荷物を置かないと重くてしょうがない。
視線を兄と暮らす部屋に向ける。
一瞬、青い光が灯って消えた。

「兄さん?」

青い電光など、寮には設置されていない。
なら、あの青い光はなんだ。
雪男は急いで玄関をあけた。辺りはしいんと静まりかえっている。
自分達二人しか住んでいないので当然だ。
でも、この静けさと青い光に胸騒ぎがした。



雪男は玄関に荷物を置く。いつでも敵が来たとき反撃できるように。
(屍が差し向けられていないといいんだけど)
あの時も停電していた。いや、だめだ。考えるために立ち止まるな。
嫌な予感を拭うためには行動あるのみ。
雪男はゆっくりと部屋に向けて歩く。ぎしぎしと古くなった床板が軋む。
真っ暗だ。階段の電気もついていないなんて、ブレーカーが落ちてしまったのだろうか。
目を凝らしながら前に進む。月明りの中、ほこりが舞うのが見えた。
1つ深呼吸する。
古い、ほこりの臭いの中に、なにかが焦げる臭いが混ざっている。

「火事か!?」

雪男は走り出した。
部屋のドアを開ける。
いきなり、部屋の中からなにかが振り下ろされた。雪男はそれを銃で受け止めていなす。
硬い。棒のようなものだ。
攻撃されて反撃しないわけにもいかない。
雪男は相手に近づいて胸倉を掴んで、思いっきり壁に叩き付けた。
ゴン、とい鈍い音が部屋に響いた。
相手の力が抜ける様子がわかる。
「・・・あ」

壁に身体を預けて、ぐったりする様子を見てはじめて気づく。

「兄さんごめん!」

頭を思いっきりぶつけたので、完全に落ちている。
敵かと思っていた。だって、中から攻撃されればそう思うだろう。
でも、言い訳したい相手は伸びている。
雪男は伸びた兄を抱えて、ため息をついた。
疲れて帰ってきてみれば、余計疲れることが待っていた。
そこで、机の上に置かれているものに気づいた。



「で、なにか言いたいことは?」
「ごめん、兄さん」

雪男は素直に謝った。机の上にはできたてのチャーハンが置かれている。
ことの次第はこうだ。
雪男が寮に着いた頃、ほとんど同時期に停電が起きてしまった。料理を作っている最中だった燐は、
手元がわからないまま火をつけるのに抵抗があった。
火事になっては大変だからだ。

「でも、青い焔出してチャーハン焼くのはどうかと思う」
「そこは俺が悪かった。すまん」

で、後は焼くだけだったので、青い焔を出して一気にチャーハンを仕上げた。
右手にフライパン。左手に青い焔。火力は初めちょろちょろ中パッパ。
サタンが見れば泣いてしまいそうな光景だ。
雪男が見た青い光の原因がコレ。
チャーハンを皿に移した後、分電盤に向かおうとしたところで燐は気づく。
誰かがこの部屋に近づいている。ネイガウスのこともある。
警戒した燐は木刀を持って侵入者を撃退しようとする。
そこを、逆に雪男に撃退されてしまった。
お互いただの勘違いだった。
停電も、分電盤のスイッチがおかしくなっていただけだ。
警戒しすぎることは悪くはないが、冷静になることも必要だと二人は実感する。
「頭いてぇ」
「ごめんって兄さん」


明るい部屋のなか兄弟で、食卓を囲む。
「まぁいいから、早く喰えよチャーハン冷めちまうぞ」
「え、これ兄さんのじゃないの?」
「俺はもう食ったんだよ」

チャーハン作って待っててくれたのに、本当に悪いことした。
雪男はうな垂れながら、チャーハンを口に入れる。
ほっこりと美味しい、携帯食なんかじゃ味わえない美味しさ。
食べなれた兄の料理の味だ。

「これ、焔で作ったんじゃなかったならもっと素直に味わえたのにな」
「おい、俺の火力技術を褒めろよ」
「そもそも、焔使っちゃダメって言ってるでしょ」
「でも、うまいだろ」
「・・・悔しいことに」

雪男は、日常に帰ってきたことを実感する。
兄の作ってくれたご飯を食べること。
ささやかな幸せが、悪魔を殺し続けていた昨日を遠く感じさせてくれる。



任務から帰ってくる度に、こうして労わってくれる兄の存在に感謝した。

瞬間を捕まえて

たまに、携帯電話で写真を撮る。
それは朝焼けの空だったり、道端に咲いている雑草だったり、様々だ。
俺はたまに、写真を撮る。
それは気になったものを留めておくためのメモのようなものだ。



「それなんですか志摩さん?」
「ん?」

塾での休み時間。
子猫丸が志摩の携帯の待ち受け画面を見て、言った。
画面には人が写っている。
志摩の場合好きなアイドルの写真や、エロ雑誌の写メを待ち受けにすることが多い。
今回は、そのどれとも様子が違うようだ。

「これ、誰ですか?見たこと無い人ですけど」
「その写真、奥村君やで」
「え」

子猫丸は志摩から携帯を受け取り、じっくり見た。
確かにクラスメイトの奥村燐だ。
窓の外を見ている時の横顔をばっちり撮られている。
でも、写真で見る彼は、普段の姿からは想像もできない。

「なんていうか、奥村君じゃないみたいに見えますね」
「そうやろ、子猫さんもそう思うやろ」

志摩がたまに写真を撮ることを子猫丸は知っていた。
それは道端の草だったり、ビルの隙間の風景だったり、
気になったものを気の向くままに撮っているという印象がある。
今回の写真は若干趣向が違うように思えた。

「なんか、奥村君ってたまに『ああ、違うな』って思うことがあるんですよ。これはその時の写真」
「それわかります、目を惹くっていうんですかね。上手い事いえないですけど」

浮世離れしている、というのだろうか。
クラスメイトとして付き合っているし、普段はそんなこと全然感じない。
それなのに、ふとした瞬間。まるで人ではないような感覚を感じる時がある。

「雰囲気いうんかな。しゃべっとったらそんなことないのに。
 黙って外を見てるときとか、人間じゃないみたいや」
「人間じゃないみたいなんて失礼ですよ志摩さん」
「でも、違うなって思いません?」
「まぁ人が大勢いても、なんか奥村君ってみつけやすいですよねぇ」
「そうでしょ。不思議な子やなー奥村君。弟の先生はそんな雰囲気ないんやけど」

「おい、なんの話しとんや」

勉強していた勝呂が二人のほうを見る。
志摩は待ちうけ画面を勝呂に見せた。
「これ、だれやと思います?」
「・・・?誰やそれ」
「奥村君です」
「なんやアイツ全然違うな」
「でしょう、坊はどんな風に感じます?」

志摩は「人間ではない」と思った。
子猫丸は「目を惹く」と思った。

「青いな」

「は?どういうことです」
志摩が聞き返す。
「どういうもなんも、その写真の奥村見てたら思っただけや」
青い。どういうことを意味しているのかわからないけど。
「青い・・・か。確かにそうかもしれませんね」

奥村燐を表す色があるとすればそれは青色だ。
それだけは揺ぎ無い。
青い夜といい、退魔の世界には青色にあまりいい印象はないのだが。
不思議と奥村燐の見せる青色に不快感は感じない。

ふとした瞬間に見せる顔。
きっと自分では気づいていないだろうが、他人が感じる差異。
それはこの青色が原因なのかもしれない。

「でも、お前が人の写真撮るなんて珍しいな志摩。そない奥村のこと気になったんか」

気になった。

勝呂の言葉を聞いて、納得した。
志摩が写真を撮るのは、気になったものを留めておくためのメモのようなものだ。
志摩は携帯を閉じた。
この奥村燐を他の人に見せるのが、なんだかもったいなく思えて。


(俺、この瞬間の奥村君のこと捕まえときたかったんかもしれんなぁ)


それはクラスメイトに向けるには重い、独占欲だったのかもしれない。

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