青祓のネタ庫
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薬の調合をしていると、グラム数に敏感になってしまうのは職業病だろうか。
台所に立って兄の料理を手伝っていると、その適当さにあきれてしまった。
カップですくって、確かめもせずに投入。
よく目分量であれだけ美味しい料理が作れるものだ、一応褒めているつもりでも
兄はそうとは取らなかったらしい。
「なんだよ、料理ってのは分量じゃねーだろ」
「でも分量守らないとできないじゃないか」
「適当でも美味けりゃいいじゃんか」
「ご飯はそれでもいいけど、今作ってるのはお菓子だから適当じゃダメ」
お菓子の場合少しの分量の違いで生地が膨らまなかったりする。
雪男は再三注意するが、自分の腕に絶対の自信を持つ燐は譲らない。
「大丈夫だ!!」
「・・・もう」
ケーキの生地のたねはもう出来上がり寸前だ。
今更作り直すわけにもいかないので、このままいくしかない。
燐は生地を指で掬って舐めた。
もう少し砂糖が必要なようだ、燐は雪男に砂糖を足すように言った。
「どれだけ入れればいいの?」
「適当」
そういわれても、正直わからない。何グラムからよくて何グラムからダメなんだよ。
料理に慣れていないわけではないが、料理のこういう「適当」な部分を雪男は好きになれない。
仕方なく雪男は砂糖を秤にかける。燐も自分のスタイルを貫くなら雪男も自分のスタイルを貫くまでだ。
秤がグラム数を指し示した。
21グラム。
「・・・21グラム、か」
軽量カップを持ち上げてみる、軽い。
「魂の重さってやつか?」
生地を混ぜ合わせる燐が言った。
雪男は自分の考えていたことが通じたことに驚く。
「すごいね、覚えてたんだ僕の授業」
「お前、俺のこと馬鹿にしすぎだろ」
人間が死んだ時の体重を量った医者がいた。
その結果、人間は死の際に、呼気に含まれる水分や汗の蒸発とは異なる何らかの重量を失うことを発見。
その重さが21グラムであるという。
「ただ、犬の死での実験ではその結果は反映されなかった。
他の患者の遺体で計測しても何グラム減ったかは明確にはわからなかった。だから今では俗説ってことになってるね」
「でも、21グラムって随分軽いな」
「軽いか重いかはわからないよ。魂の重さの平均がわからないんだもの。
これも俗説だけど、一生懸命生きている魂は重くなるんだってさ」
「ふーん」
今では18グラムが魂の重さとする説もある。
そうすると、一番最初の被験者の魂は3グラム分「頑張って生きた」という証になるんだろうか。
魂のことは祓魔の世界でも未知の領域だ。
燐は生地を混ぜ合わせながらぽつりと言った。
「悪魔にも魂の重さってあんのかな」
燐は雪男の持っていた21グラムの砂糖を生地の中に入れた。
生地のたねを混ぜ合わせる。
21グラムはあっという間に溶けて消えていった。
雪男は応える。
「悪魔にあるかはわからない。人間にあるかもわからないしね」
「うん」
「でも、兄さんの魂は重そうだ」
雪男は生地を掬って燐の前に差し出した。
燐は雪男の指についたそれを舐め取って味わう。
「21グラム分甘いな」
ここ最近私生活が立て込んできたため、更新を不定期に変更します。
申し訳ありません!
書きたいものは多々あれど。
12時間越え労働に身も心も壊れたらまた帰ってきましょうか・・・
ロウドウキジュンホウなんてのはまやかしでっせ。せつない。
そういうわけで、不定期になります。
ああ、でもS.Qについての萌えを吐き出しに来るやもしれません。
早売りは買えなくなっちゃうけどね!
ではでは。
ちょっとばたばたするので、お知らせは後日に。
拍手返信しますー。
3/20 22:39 貴重なメフィ燐~の方
おお、まさかメフィ燐に反応いただけるとは思いませんでした!
これでメフィ燐、志摩燐、雪燐、アマ燐と着々と燐は我が家の総受けキャラになっていくわけです。
理事長のもふもふな感触は燐の心にいつまでも残ることでしょう。
メフィ燐いいですよね!!マイナーという言葉は知りませーん^^
拍手ありがとうございました!!
「先生!落ち着いてください!!」
「僕は落ち着いていますフェレス卿。その証拠に勝呂君たちに帰るようにいいましたよ」
銃を構えて、雪男はメフィストに詰め寄った。
つまり、外に人がいないためこの部屋は密室だ。
何が起きても、そう銃を撃っても目撃者はいないわけだ。
「先生、奥村君の体調の変化に気づかなかったんですか?」
床に寝ている燐を横目で見た。
メフィストに倒されて気絶しているのかと思っていたが、顔が少し赤くなっている。
ぐったりとした身体。どうやら部屋に入ってから倒れたようだ。
雪男はメフィストに視線をやりつつも、燐の傍に膝を着いた。
額に手をやると、少し熱い。熱でもあるのだろうか。
朝、寝ている姿を見た時には異常は見られなかったのに。
「どういうことですフェレス卿」
「どうもこうもないですよ、奥村君なんで聖水なんか飲んだんですか?」
聖水、飲んだ。
そのキーワードだけで予想がついた。
昨日、机の上に聖水の入った瓶を置いていた。
雪男の顔が青く染まる。
感情の内訳でいうと兄への怒り半分、机に置いたまま寝てしまった自分への怒り半分。
「・・・なんで兄が聖水を飲んだと気づいたんですか?」
「今日、奥村君にお小遣い渡した時に、気づいたんです。
最初は間違いかと思ったんですが、酔っ払ったような状態を見て気づきました。上級悪魔が聖水を飲んだときそういう中毒症状が出ることがあるんですよ。治療しようとしたら奥村君が逃げたので、寮まで来たんですけど」
下級悪魔なら聖水をかけただけで死ぬ。しかし、上級ともなると聖水だけでは死なない。
皮膚にかけられただけなら聖水は気化するか、胎内に取り込んだ場合気化しないため
毒を身体に含んだ状態が続く。症状は人間で言うなら酔っ払った状態に近いものになる。
燐が今朝から足がおぼつかなかったのも、立ちくらみがしたのも、その中毒症状が原因だった。
雪男はうーうー唸る燐のお腹をそっと撫でた。
「兄さん・・・大方喉が乾いたからとかそんな単純な理由で飲んだんでしょう」
「期待を裏切らないお兄さんですね」
「フェレス卿、先ほどはすみませんでした。この症状を治療するにはどうすればいいんですか?」
雪男は持っていた銃を降ろした。
「簡単ですよ、口から聖水の聖気を吸い取ればいいんです。そうすれば聖水はただの水になりますから」
反射的にまた銃口を向けてしまった。
小遣いを渡した時に逃げたというのはそういうことか。
誰だって、理事長にいきなりキスされそうになったら逃げるに決まっている。この部屋に来る前に聞いたガラスが割れた音。悲鳴。
説明もないまま治療しようとしたメフィストに、燐が抵抗した音だったのだ。
雪男は銃をまた降ろした。ここは冷静にならなければならない。
兄のためにも自分のためにも。
「吐き出させる、という方向は?」
「ないこともないですが、吐き出すときに気管に詰まれば窒息しますよ」
「それって、理事長にしかできないんですか」
「まぁこの学園でできるのは私くらいでしょうね」
「じゃあ、聖水の聖気を消すくらい邪悪なもの食べさせるとか」
「コールタール千匹くらい食べさせるか、血を1リットルくらい飲めば、或いは」
いずれも倒れて唸る燐には難しそうな課題だった。
雪男は燐に問いかける。
「兄さん、選べる?」
「ど、れ・・・も・・・嫌だ」
右手を上げて、ぱたぱたと振った。精一杯の抵抗らしい。
だが、選択の時は迫っている。
「昨日はすみませんでした。
どうやら僕らの部屋に侵入した悪魔がいて、たまたま兄に用があった理事長がそこに出くわしたようなんです。
部屋にいた兄を庇ったらああいう状態になったそうですよ。いやあ偶然って怖いですね。
僕も、すぐ部屋に入って銃で悪魔に応戦しました。結果的に倒したので、安心してください。
あ、兄が今日調子悪そうなのは昨日の悪魔に少しだけ怪我を負わされたからです。心配するようなレベルの怪我ではないので、気にしないでくださいね。
では、授業を始めます。」
一呼吸で言ったので、その意味を正確に理解できたものは少ないだろう。
勝呂と志摩、子猫丸は反論の余地も許されないまま授業に入ることになった。
(昨日は家庭の事情っていうとったやろ先生・・・)
悪魔なんていなかったじゃん。
気づいてはいたけれど、突っ込んだらいけないらしい。
三人以外の生徒は雪男の言葉を理解できなかったのだろう。
すこしだけざわついたが、すぐ授業に入っていった。
勝呂は机に突っ伏している燐の姿を見て、志摩と子猫丸に顔を寄せた。
「・・・まぁ解決はしたみたいやな」
「にしても、ほんま昼ドラも驚きの展開やったわぁ。気になるわぁ」
「志摩さん、好奇心は猫をも殺すって言葉知らんのですか?」
雪男の言葉を信じていないわけではないが、全てを信じるわけにもいかないようだ。
理事長、燐、雪男。その関係は後見人とその子供という関係だけではない。
もっと根本的なところに、秘密がありそうだ。
しかし、子猫丸が言う言葉にも一理ある。
好奇心は猫をも殺す。
ヘタに首をつっこめば、なにが出てくるかわからない。
(まぁ、あいつが本当に困っとった時に助けたればええやろ・・・)
勝呂はそう、自分の心にけじめをつけ授業に意識を向けた。
勝呂は知らなかった。
机に突っ伏す燐が今、とても傷ついて尚且つ困っていたことに。
(・・・メフィストにキスされた・・・)
どうしようもない状態で選んだ道だった。
メフィストにキスされるのは嫌だったから、薄れる意識の中でせめてと思って犬姿での治療を頼んだ。
もふもふした感触は今も忘れられない。
あの時の雪男の表情はもっと忘れられない。
ちなみに治療後メフィストは爆笑しながら去っていった。
流石は人の不幸は蜜の味を地で行く男だ。
体調は戻ったけれど、雪男の表情は冷徹だった。機嫌は極寒地帯といっていい。
自分の選択は雪男のお気に召すものではなかったようだ。
きっと、今日の授業が終わった後また苛められるんだろうな。
ちらりと教壇に上がる雪男を見た。視線がかち合う。
「奥村君、教科書の205ページを読んでください」
「・・・はい」
苛めはすでに、始まっているようだ。
燐は、二度と雪男の机にあるものを触るまいと心に誓ったのだった。