青祓のネタ庫
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「はぁ!?奥村が藤堂に拉致された?」
知らせを聞いた勝呂は眉をしかめる。
志摩は、旧校舎で燐の制服を回収すると、いったん救護テント本部へと戻ってきた。
藤堂相手では一人では、戦えないと思ったからだ。
志摩自身が知りうることをすべて話せば、
勝呂は今回のコールタールの発生原因もうなずけるな、とつぶやいた。
「このこと、先生は知っとるんか!?」
「わかりません、先生に電話しても話し中やったんです」
「まずは、先生に連絡取らな始まらんな。それと、霧隠先生にも・・・」
「霧隠先生につながりました!坊に代わってほしいそうです!!」
携帯をいじっていた子猫丸が、声を張り上げた。
本部は、ほかの場所よりも早くコールタール祓魔作業を行ったので、前よりは
少しだけ電波が通じやすい。
勝呂は、今志摩から聞いたことを全てシュラに話した。
シュラは、最悪だな。と今の状況を的確に告げた。
『雪男はいないんだよな?』
「はい。まだ奥村を探しに行って戻ってきてません」
『・・・そうか、あいつが一番まずいかと思ったんだが』
「霧隠先生は本部にはおらんのですか?」
『ああ。さっき別の救護テントが襲われたんで、応援でそっちに来た所だ。
コールタールは雑魚だが、数が多すぎる。
上級の祓魔師もそれぞれのテントに散らばって対処しているような状況だ。
正直・・・私もここを離れられない』
シュラからの応援は難しい。
勝呂はなおさら、雪男と連絡がとれないことが歯がゆかった。
祓魔師は一人では戦えない。
以前の勝呂なら、飛んででも燐を探しに行っただろうが、京都でチームワークの大切さを学んでいる。
単独行動をするにしても、ほかの仲間と足並みを揃えなければ意味がない。
「志摩、奥村先生にもう一回連絡」
言おうとしたところで、眼鏡をかけた人物がこちらに向かってきている。
びしょ濡れになっているが、あれは間違いない。
「奥村先生!よかった。探しとったんですよ!」
『雪男と合流できたのか!?ちょっと代わってくれ!』
勝呂が霧隠先生です。と携帯を手渡す。
雪男は感情の読めない表情のまま、電話にでる。
「もしもし」
『雪男、今お前が掴んでいる情報を話せ』
「藤堂は、兄を誘拐しその血を使って学園内で儀式場を築いています。
数は不明ですが、おそらく複数でしょう。
そこからコールタールを呼び出して、瘴気をばらまいているようです」
『藤堂と会ったのか?』
「はい―――兄は、助けられませんでした」
話を聞いていた京都の三人組も、顔をしかめた。
雪男は血にまみれた兄を思い浮かべて、唇を噛む。
『儀式場はどんな風だった?中級以上は呼び出せそうな魔法陣だったのか?』
「いえ、かなり簡易な魔法陣でした。おそらくそれは難しいかと」
『そうか・・・よし。お前はこれから塾生と共に学園内の儀式場を潰せ』
シュラからの言葉、これは上司命令だろう。
兄を助けに行け。とはいわれないことはわかっていた。
だから、遭遇した時点で取り戻したかったのに。
手が届かなかった。これはいいわけでしかないが。
学園にいる人の数と兄一人の命。天秤にかければどちらが重いかなど明白だ。
「わかりました。これから塾生と共に魔法陣の除去にあたり・・・」
「先生、ちょおすんません」
勝呂は雪男から携帯を横取りして、シュラに問いかける。
普段の彼からはありえない行動に、雪男は目を白黒させた。
「奥村を捜索するな、とはいいませんよね?」
『ぶふふー、勝呂君は頭がまわるにゃー。お兄ちゃんのことが心配で思考停止してるビビリとは大違い』
「おい!てめぇ今なんつった」
「おわ、先生が素に戻った!」
雪男は声が届くように、携帯のスピーカーフォンをオンにする。
これで、ここにいる全員にシュラの声が届く。
『いいか、お前等は命令で生徒の救護にあたっている。この状況じゃあ動こうにも動けないだろう。
今回は、魔法陣を破壊するために校内に入るという一種の「言い訳」ができたわけだ。
聞くところによると、お前等でも破壊できそうな陣だしな。
おまえたちは陣を破壊しつつ、奥村燐の捜索にあたれ。
ただし、無茶はするな。藤堂と鉢合わせたら洒落にならない。
あくまで、捜索に徹しろ。居所が掴めたなら、私か雪男に連絡だ』
シュラはそう言うと、私は外の方をできる限り捜索する。と言った。
雪男はシュラに対して素直な感想を述べた。
「見捨てろとか言うかと思いました」
『おまえなー、仮にも弟子なんだぞ。弟子を見捨てる師匠にはならないと私は決めてんの』
なにやら養父に関して含みのある言い方をされた気がしたが。
雪男は黙っておいた。神父とシュラの関係は二人だけの物だ。
とやかく言う必要はないだろう。
「シュラさん」
『なんだよ、ストレスビビリ』
「変な言い方はやめていただきたい」
『ぷくくー、京都でも言っただろ。自分にだけは正直でいろって』
「そうですね、ありがとうございます」
うわ、ビビリにお礼言われた!という言葉が聞こえたが、かまわず切った。
雪男は周囲を見渡す。
そこには、自分たちを悪魔の―――魔神の息子と知ってもなお、見捨てずにいてくれる仲間がいた。
「では、危険な任務になりますが、よろしくおねがいします」
「あいつほっとく方が心臓に悪いわ。あ、子猫丸は杜山さんたちにもこのこと伝えてくれるか?」
「一応、一般人の救護が優先されますし、このまま残っても大丈夫です。とも伝えてください」
「わかりました。ほな僕も後から追います」
「俺もがんばりますー」
一人では、きっとできないこと。
今まで、自分が兄を助けなければと思っていた。
神父が死に、味方は兄弟しかいない状況だと思いこんでいた時もあった。
でも、ここにくれば、自分だけではないことを実感できる。
人は、人と関係を持つことで強くなれる。
京都で学んだことは、確実に自分たちを前に進めてくれているだろう。
兄さん、僕たちは一人じゃないよ。
雪男は前を向いた。
今度こそ、兄を取り戻す。仲間と一緒に。
「ところで志摩くん、今度は連絡事項はささいなことでもしましょうね。見落としは命を危険にさらしますよ?」
「おっわっわわ!坊、ばれてる!俺が奥村君とすれ違っちゃってたこと、先生にばれとるううう!」
「当たり前やろ、俺が言うた。仕方なかったとはいえ反省はせえ」
きらりと光る眼鏡に身震いが止まらない。
志摩は、気合いを入れて奥村燐の捜索に当たろうと心に決めた。
仲間は、燐に呼びかける。
絶対に助けるぞ。と。
声はがんがんと頭に響く。
暗闇の底から俺を呼ぶ声。
どこか移動したような感覚がして、地面が揺れる。
頬をはじかれて、衝撃で一瞬声が飛んだ。
目を開けば、藤堂がいた。
「まだ死んで貰っては困るよ奥村燐君」
「・・・う」
「ああでも相当弱ってるのは確かか」
藤堂は、そばに置いてあった倶利伽羅を取り出した。
燐を拉致してきたときに一緒に持ってきておいた。それを一気に引き抜いた。
暗闇の中が青い炎に照らされる。
燐を苦しめていた傷口が、徐々にふさがっていく。
悪魔特有の治癒力のおかげで、少しだけ息がしやすくなった。
「君のその力、きれいだよね」
藤堂は、意識もおぼろげな燐に話しかける。
「君が、その力を得るために犠牲にしてきたものはいったいなんだい?」
「犠・・・牲?」
「そう、代償ともいおうか。悪魔の力を得たなら、
相応のものを無くしたはずだろう?少なくとも、僕がそうだった」
藤堂には、家族がいた。
家に縛られる父と、優秀な兄。
藤堂は、いわば落ちこぼれだ。
家は兄が継ぐことが早くから決まっていたし、父はそんな家を継ぐ兄のことしかみていなかった。
藤堂は、自分が家族に愛されていたという記憶は薄い。
いつも、目の前には父の背中があり、兄の背中があった。
そう、家族は自分のことなどみてはいなかった。
いつも、いつも、いつも。
では、自分の価値はいったいなんだ。
兄のスペアのごとく扱われる日々。
そう思い悩んでいたところに、青い夜が来た。
父と兄は死に、家督は藤堂が継ぐことになった。
ふってわいた幸運。とも呼べるかもしれないが、
家督をついでそれがどんなにつまらないことだったかも
藤堂は同時に気づいてしまう。
僕は、こんなものに捕らわれて人生を終えるのか?
家という縛りにあこがれていた時代も、確かにあった。
しかし、今の自分はどうだろう。
この立ち位置は、自分で勝ち得、選んだものではない。
父が亡く、兄を失ったからこそ手に入れたもの。
そう、いつだって藤堂の前には父と兄の背中がある。
その背中を失ってもなお自分の前に立ちはだかるもの。
自分の力で手に入れたわけではないという思い。
しかし、越えたかった父と兄は既に亡く。
藤堂は一生越えられない、重荷を背負った。
死んでも、なお、父と兄と。そして家に縛られている自分。
今際の際。父は、青い炎に焼かれながら叫んだ最期の言葉がある。
「私の父はね。最期まで兄の。家のことしか頭にない奴だったよ」
悪魔の力を借りて捨てたものは。
父が。兄が。以前の藤堂が大切に思っていた「家」だ。
藤堂が悪魔堕ちしたことにより、藤堂家の名は地に堕ちた。
ざまあみろ。と思った。
これまで縛られていたしがらみを捨ててやった。
家も、地位も。称号も。仲間も。
なにもかもなくしてやった。
それが、藤堂が悪魔の力を得た時に捨てたもの。
藤堂は、燐の首に手をかけた。
炎が、藤堂の腕を焼こうと絡まるが、燐の血にまみれたそれを炎は浸食しなかった。
燐が目を見開いていると、血だよ。と藤堂が言う。
君の血に染まって、君の血を取り込んだ。
少しだけだけど、耐性はつくみたいだ。
顔が、とても近くにある。吐息が耳にかかって気持ち悪い。
「君は、弟の、奥村雪男君に対して思ったことはないかい?彼がうらやましいって」
はやくから神父に才能を認められ、祓魔師になった雪男。
任務の際に一緒に出かけることもあっただろう。
祓魔師の勉強を見て貰ったこともあっただろう。
二人は、秘密にしていた。
燐が、魔神の息子であることを。
燐がいつからか感じていた。疎外感。
その時期は、ちょうど雪男が祓魔師を目指すようになった頃と同じ時期だった。
優秀な弟。かたや、落ちこぼれの兄。
喧嘩のたびに、神父は近所に謝りに出かけた。
弟は、一度もそんなことはなかった。
うらやましかった。
そう燐が雪男に思ったことは一度ではない。
人間のようにいきられる雪男がうらやましかった。
「君が、悪魔の力に目覚めなければ、君達のおとうさんは死ななかったんじゃないかい?」
人が悪魔の力を得るには、同等の対価が必要だ。
君がおとうさんを殺したんだ。
悪魔の力を得る為の代償に。
弟君は、君に銃を向けた。
君に死んでほしかっただろうね。
おとうさんを君に殺される前に、君を殺しておけばよかったと思ったはずだよ。
弟君に残されたのは、悪魔である兄だけ。
「人間」の味方は残らなかった。
君は、おとうさんからも、弟からも奪ったんだ。
そうして、青い炎を手に入れたんだろう?
君は、とても、残酷だね。
この青い炎は、犠牲の光だ。
君が奪った人物の命で燃えている。
「そんな代償を払うくらいだったら、こんな力はいらなかっただろう?」
うつろな瞳をした燐はこくり、とうなずく。
藤堂は、しめた。と思った。
力を奪うのに一番手っとり早いのは、力の放棄を持つものに宣言させることだ。
もちろん力全てを奪えるわけではないが、放棄の意志の作用に反応して出たほんの少しの力で十分だ。
青い炎には、火の粉だけでも価値がある。
藤堂は、それを手に入れるために燐を言葉で責めた。
15歳の子供を追いつめることは、簡単にできる。
傷口を抉ってやればいいのだ。
炎が、弱々しくなっていった。
藤堂は、追い打ちをかける。
「じゃあ、この力、僕にくれるかい」
放棄すればいいんだ。
そうすれば、自由になれるよ。
君の心を苦しめるものから解放される。
燐の心に甘く響く声―――
燐は、藤堂に答えた。
「いやだ」
藤堂は、目を見開く。
燐は、搾り出すように言葉を吐き出した。
「なにも、知らねぇくせに・・・俺が、神父さんが、雪男が、大切に想っていたこと・・・勝手に語るな!
この力を投げ出して、神父さんが帰ってくるならなんでもするさ・・・
でも、そうじゃない。
ここで力を捨てたら、俺は自分から逃げたことになる・・・
神父さんは、そんな俺なんかみたくないはずだ。雪男だって。
あいつが俺のこと嫌いでもいい。俺は家族を嫌いにはなれねーけど・・・
みっともなくったって、嫌われていたって。それでも、俺は・・・生きて、
神父さんが正しかったことを証明するんだ・・・!!」
神父は、燐に人間として生きていてほしかった。
でも、それは悪魔である燐を否定することにはつながらない。
神父は、雪男は。奥村燐のことを大切に想ってくれていた。
魔神の息子であることも。青い炎をもつことも。
全てを受け入れてくれた家族が。そして、仲間がいる。
名前を呼んでくれるだけで、俺は救われる。
だから俺は、自分から逃げないで生きられる。
燐は、目に涙を浮かべながら、決してこぼさなかった。
炎は先ほどとは違い、勢いを増して藤堂の体を覆う。
焼き尽くされはしないが、このままここにいればまずいことになりそうだ。
藤堂は、燐の首を絞める。
明確な殺意をもって。
「・・・ぐっ」
「残念だね。少しでも痛みの少ない方法で奪おうと思ったんだけど。
君が望むならしょうがない」
奪うよ、君の力。
そうして、藤堂は燐の首に噛みついた。
痛い。痛い。焼けるような痛み。
炎が、熱が奪われる。
人体の急所の一つである頸動脈、悪魔の牙でそこを犯される。
牙が燐の体内に入り込み、溢れる熱い炎を、流れる血を。藤堂は喰らった。
「いや、だ・・・!離せ!!うあああ!!!」
ただでさえ、失血している体だ。
これ以上血を失えば死ぬかもしれない。
もう、藤堂にとってはどうでもいいことだが。
カルラの赤い炎と、燐の青い炎が相克するように火花を散らす。
視界が、赤と青の信号で埋め尽くされる。
どどん、という音が聞こえた。
学園に描いた魔法陣が消失する感覚を藤堂は感じる。
きっと、この子を取り戻すために「仲間」が陣を消しているのだろう。
この場所は人の目には留まりにくいように外側から術をかけている。
それが壊されない限り今の所、見つかる確立は少ない。
しかし、時間の問題かもしれない。
「いろいろな意味で、お迎えが近そうだね。
でも、あの陣の中には大量のコールタールがいる。
オトモダチが瘴気にやられてなければいいけどね?」
オトモダチが死んだら、きみのせいだ。
藤堂の声を意識の奥底で聞いた。
燐は、声を上げようとするが、のどを動かすのもだるい。
力が抜けていく。死を予感させる寒気の中。
声は、燐を起こすようにささやきを強めた。
お呼びください
声は言う。
私は、あなたの声に応えましょう
お呼びください 一言でいいのです
それが、私とあなたを繋ぐ縁となりましょう
お呼びください。
私の名は―――――
燐は、こぼれるようにささやいた。
「来い、アスタロト」
すべてが漆黒に包まれる。
おおせのままに、若君
声は、すぐ近くから聞こえた。
悪魔のささやきに、燐は答えた。
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