青祓のネタ庫
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最近疲労困憊であまり顔を出せず申し訳ない・・・orz
無事に届きますように!新刊出ます~。
雪燐・燐受け小説本 A5 52ページ 二段組み スペースは西1ホール I33a です。
あらすじ
魔神を倒した後、燐は騎士團によって処刑されてしまう。
騎士團への反逆を疑われた雪男は台湾支部へと異動させられるが、
処刑を行ったアーサーへの殺意が止まることはなかった。
劇場版ネタバレ有りなので、観ていない方はご注意を。リュウさんとアーサーさんが登場します。
当日はよろしくお願い致します・・・!!東京は実質初なのでドキドキです。
間に合ったので、ライトニングさんの使い魔になる燐のコピ本も作ってみました~。
如何にして彼を殺すか サンプル
通販はとらさんにお願いしております。
虎の穴「如何にして彼を殺すか」通販ページ
追記です。ご質問ありがとうございます!
伽藍DOLL、メモリアルダイバーの手持ちは春コミに持ち込みますが、
メモリアルダイバーは残部が残り数冊となっております。
当日は新刊を含めたこの3点が並ぶと思われますのでよろしくお願い致します。
最初の30分くらいはお買いもので留守の予定ですが、ちゃんと戻って参ります~。
サト様
コメントありがとうございます。了解致しました。
14時過ぎ等、午後のあまり遅い時間ですと撤収してしまう可能性がございますのでご注意ください~。
万が一の場合は、またご連絡頂けると幸いです。
*WEB用に改行しておりますが、実際は詰めております。
飲食店の扉を出てから、中にいる店主に声をかけた。
「ごちそうさまでした、また来ます」
「おう、またいつでも来いよ!」
そう言って、扉を閉める。ここの店はいつもおいしいご飯を作ってくれる。
表向きは居酒屋、という形を取っているが、
その実好まれているのはメニューに組み込まれている家庭料理だった。
高級料理店にはない温かい味は、疲れた生活を送るサラリーマンの癒しだ。今日も美味しかった。
時間を確認すれば、夜の九時だった。
社会人にとっては、まだまだ早い時間帯だ。
しかし、今の町は普段とは違ってしんと静まり返っている。
最近ニュースを騒がせている物騒な事件が多いからか外食する者も少ないようだ。
寂しくなった町を見て、早く事件が解決すればいいなと思う。
さて、後は帰って風呂に入って寝るだけだ。
ご飯の支度をしなくていいのは楽だ。働いているとどうしても自分で料理をするのは難しくなってしまう。
かといって外食が続けば金銭的な問題も出てくる。
今行った居酒屋は、値段も手頃でサラリーマンの間で噂になる密かな人気店だった。
値段よし、味よし、あとは席取りにさえ手こずらなければ通いつめたい所である。
残業時間にもよるが、お腹が空いているのに店に入れない時ほど悔しい時はない。
店主も初老、とまではいかないが五十代後半の気のいい親父だ。
相談ごとを若いねぇと豪快に笑ってくれるところが気に入っている。
夜道を上機嫌で歩いていると、一人の男とすれ違った。
男は全身真っ黒な服で包まれており、一般人とはまるで雰囲気が違う。
その様子に、ぴんとくるものがあった。
あ、この人祓魔師じゃないかな。
正十字学園町には、祓魔師が多く住んでいる。
この男もきっとそうだろう。祓魔師の任務は過酷だと聞いている。
自分と同じく疲れているのだろうな。
まぁ普通のサラリーマンと命がけで戦う職場の人間を同列に考えてはいけないのだろうけれど。
男の顔が、街頭に照らされた。
「あれ・・・?奥村、くん?」
思わず声が出た。男が振り返った。視線が合う。慌てて取り繕った。
「人違いでした?あの、すみません!」
「いえ、貴方は・・・」
男の声を聞いて、間違いないと確信した。
学生時代にはお世話になった。懐かしい出会いに、笑いながら声をかけた。
「覚えていらっしゃらないかもしれないですけど、お兄さんにお世話になった醐醍院っていいます!
弟の奥村雪男・・・君ですよね?」
醐醍院は脳裏に浮かんだ懐かしい級友に思いを馳せた。
悪魔が見えると怯えていた自分に、悪魔が見えなくなる目薬をくれた優しい友達。
高校を卒業してからはめっきり会わなくなってしまった。
彼は祓魔師を目指していたので、高校卒業と同時に就職してしまったらしい。
大学に進学した醐醍院とは接点が薄く、それっきりになってしまった。
彼は今どうしているのだろう。醐醍院の友人や同僚でも奥村燐と接点がある者はいなかった。
もちろん、弟である雪男も同様に。
「懐かしいな、奥村君は元気ですか?」
あれ以来悪魔が見えることはなくなった。
燐のおかげだ。彼は自分が悪魔であることを隠さなかったので、最初は怯えて失礼なことをしてしまった。
でもとてもいい子なのだと気づけば、自然と友達になりたいと思った。
彼は第一印象で結構損をしていると思う。その癖は大人になった今は直っているだろうか。
醐醍院は他愛もない挨拶のつもりで先ほどの言葉を告げた。
タイミングがあえば、また会いたいと思っていたから。
「殺されました」
返ってきた言葉に、醐醍院は耳を疑った。何の話だろう。そう思った。
でも、雪男は醐醍院をひどく冷めた目で見つめていた。動揺する醐醍院に雪男は思い知らせるように言葉を放つ。
「兄は、殺されました。だから僕はこれから兄を殺したやつを同じ目に合わせてやろうと思うんです」
醐醍院が見た雪男の瞳は、青白い街灯のせいか刺さるように冷たい。
まるで、瞳の奥が青い炎で燃えているかのように思えた。
「どういうことですか」
醐醍院が呟いた言葉はそれだけだった。
***
頭は急所の一つだ。直接衝撃が来たせいで満足に動くこともできない。口には血の味が広がる。
「上司に向かって銃を向けるとはいい度胸だ」
雪男はここに来る前にメフィストにも銃を向けたがメフィストは悪魔である。
危機的状況を楽しむ余裕もあり、常識とはずれているところがあるのでお咎めはなかった。
アーサーは違う。彼は騎士團の狗とも呼ばれる存在だ。
騎士團の思想を幼い頃から植え付けられ、純粋培養とまで呼ばれている。
例外は許されない。雪男は揺れる意識の中、つぶやいた。
「兄さんを殺したのか」
それだけは確認したかった。本当にいないの。兄さんはもういないの。
死体を確認できなかった。呼吸が止まっているところを見なかった。
じゃあ、どこかで生きているんじゃないのか。死体がないってなんだよ。
さっきまで生きてたじゃないか。僕とじゃべっていたじゃないか。
これからをどうするかって。聖騎士になる夢がもうすぐ叶うんじゃないかって。
そう思ってたのに。それが奪われたことが信じられない。
アーサーは何の感情も篭もっていない言葉で雪男に告げた。
「そうだ俺が殺した」
この部屋に血の通った人間などいないのではないか。
雪男の心が冷たく冷える。ぐらぐらと燃えるような憎しみが沸き上がってくる。
殺された。たった一人の家族を殺された。兄さんを殺された。
雪男が感じた衝動は人間として至極当たり前の感情だった。
「アーサー=オーギュスト=エンジェル。僕はお前を許さない」
燃えるような瞳でアーサーを見つめても、倒れている雪男には彼を傷つけることもできない。
アーサーは無線で連絡を取ると、すぐに扉が開いて部下が部屋の中に入ってくる。
部下も流石に血塗れの部屋の様子に一瞬入るのを躊躇したようだ。
アーサーに睨まれて正気に戻ったのか、急いで雪男の腕を掴んで拘束し立たせる。
雪男は足がふらついて支えられながら部屋から連れ出された。握りしめた燐の祓魔師のコートは手放さなかった。
あの部屋を連れ出されてから、雪男は祓魔師の詰め所の一室に軟禁されていた。
窓もなく、扉にも格子がはまっている。外には見張りの声が聞こえてくるので、逃げ出すことは不可能だろう。
上司に武器を向けた処置としては温いほうだ。それも、雪男が人間だったからだろう。
この部屋に拘束されてから数時間。雪男は真実を知ることになる。
***
「久しぶりだな。あの祭りの時以来か」
かなり昔に任務でほんのわずかだが会ったことがある。
十一年に一度の祭りの際に街を訪れた祓魔師だ。あの祭りの後兄である燐はどこか様子がおかしかった時があった
。祭りの時に何かあったのか。聞いても教えてくれなかったので、今ではもう知ることもできない。
リュウはあの祭りのテーマになっている玉兎を祓った祓魔師の一族の末裔だ。
大昔から続く一族だからだろうか。雪男は首を傾げた。
「老けませんね貴方」
「そういうお前は相当年を食ったように見えるな」
リュウは雪男が高校生だった時と何ら変わらない容姿をしている。
この人半分くらい悪魔の血入ってるんじゃないだろうか。
そう思えるくらいリュウに変わりはなかった。いや、もしかしたら雪男が変わり過ぎたのかもしれない。
「まぁせっかく来たんだ。こき使ってやろう」
「・・・」
「冗談だ。おおよそのことは聞いている。俺は騎士團に全て従うような腹はない。
好きな時までいて、好きな時に帰れ。台湾支部を預かる身になったのでな。
無理だと感じたら日本にとんぼ帰りさせるくらいの権限はあるぞ」
あのシュラという女から話は聞いている。とリュウは言った。雪男は驚いた。
そういえばシュラとリュウもあの祭りで知り合っていた。
上一級祓魔師同士気が合うこともあったのかもしれない。
リュウはそう言うと、雪男を離れに案内した。他の場所とは違い、緑に囲まれた落ち着いた建物だ。
中をみれば、最低限の生活ができる施設もあった。
雪男は部屋に入ると、辺りを見回した。どうも日本にいる時のような雰囲気を感じる。
そう、まるで燐がいたあの寮の部屋のような。なぜだろう。
「ここはお前の兄がたまに来て使っていた部屋だ」
「兄がここに来ていたんですか!?」
寝耳に水だ。全く知らなかった。そもそもリュウと燐がそんな仲だったなんて、話にも上がったことなかった。
雪男が動揺していると、リュウは更に追い打ちをかけた。
「お前の兄との関係は・・・そうだな。秘密の関係だ」
「なんなんですかそれ!」
雪男が怒るとリュウは冗談だ。と茶化した。いや、どこからどこまでが冗談なんだ。
あんた兄さんの何なんだよ。どきどきばくばく心臓が早鐘を打っている。
兄のまさかの交友関係に度肝を抜かれた。
「悩み相談室・・・ですか?」
雪男は自分に振られた任務の内容を確認した。
窓口での案内はやったことはあるが、今回は電話での対応らしい。
本来なら別の担当者がいたのだが、担当者が急遽インフルエンザにかかってしまい、お鉢が回ってきたと言うわけだ。
電話での応対は対面式とは違い、相談者の顔が見れないので意外と難しい。
対応を間違えればクレームになってしまう。雪男は気合いを入れた。
丁寧に対応すればきっと大丈夫なはず。
雪男は電話応対での注意点を確認する。
まず個人情報を漏らしてはならない。これは基本だろう。動揺してはならない。
これもそうだ。相談相手が挙動不審では相談者が安心できない。
そして、これは他と違うだろう。自分の名前を言ってはならない。
この電話は祓魔師の悩み相談も応対しているらしい。
曰く、祓魔の世界は世間が狭い為お互いに誰であるかわからないようにしていた方がいいらしい。
もしも事態が緊急を要するなら名前を聞く場合もあるが、それでも言うか言わないかは本人の判断による。
セクハラなどデリケートな問題もあるからだ。そのほかにもパワハラ、差別問題うんぬん。
いくつかある資料を頭に叩き込んで雪男は電話の前に座った。
他の部署に内容が漏れないように、電話ボックスのように仕切られた場所にいる。
他の応対者も横並びに同じところにいるが、会話はできない。中は完全に防音だ。
雪男は心を落ち着けた。電話相談は世間の人が家に帰る夜七時から十時までの三時間の間に行われる。
今日は平日なので時間は限られるが、土日は八時間拘束だ。早く担当者が復帰することを祈るばかりである。
時計を確認すると時間になった。途端に電話機が鳴り響く。早いな。
ワンコールで出ると、マシンガントークが始まった。雪男は落ち着いて対応する。出だしは上場だった。
「・・・いえ、だから大丈夫ですから安心してください」
電話の応対を始めて10件目で疲労が出てきたところで引っかかった。
長時間電話を引っ張る強者が。この場合は早く切り上げて次の電話に移るのがセオリーだがそれが中々難しい。
雪男は更に十分かけて相談者を納得させてから、電話を切った。時計を確認する。
終了時間十五分前だ。雪男は一息ついた。あと一件くらいで終わるだろう。
一呼吸おいたところで電話が鳴る。これで終わりだと思えばやさしくなれる気がした。
「はい、こちら正十字騎士團お悩み相談室です」
「あのー、相談したいことがありまして」
「どういった件でしょうか?」
問いかけると、相手は少し口ごもった。言いにくいのだろう。
この場合は出方を待つに限る。しばらく待っていると、話し出した。
声の感じからして若い男だろう。
「セクハラについてなんですけど」
「はい」
「男がされている場合って・・・どうやったら止めてもらえるかなって」
おおっと、これは重い内容が来たぞ。雪男は内心冷や汗をかいた。
雪男は大人びているとは言っても所詮十五歳の男子高校生である。
セクハラ問題はもっと人生経験のある人に相談してください。とも言えるわけもなく。
「相手は女性上司とかでしょうか」
言って浮かんだのは痴女まがいの格好をしたシュラであった。
あの人なら初な新人祓魔師をからかっていたとしてもおかしくはない。
あんな体をしておきながら中身はおっさんだ。だからこそ性的なことに対して容赦がない。
免疫がなかったら対応は難しいだろう。と、雪男は勝手に犯人を決めつけていた。
相手はうーんと声を上げると。
「言いにくいんですけど、男から・・・」
おおっと。もっと重い内容だった。男から男へのセクハラ対応。
これはもう自分の手に負える内容ではない。どうしよう。
雪男が悩んでいると、電話口の相手はぼそぼそと話始めた。
そうだ、話を聞いて欲しいなら、聞くくらいなら僕にだってできるだろう。雪男は覚悟を決めた。
「どうぞ話して下さい」
「はい・・・最初は気のせいかなって思ったんですけど。
ここでいうなら、上司、かな。話があるって部屋に行ったんですけど。そしたらいきなり抱きしめられて」
驚いて抵抗したのだが、上司の手前強く出られなかったらしい。
その上、最初から部下が抵抗することをわかっていたのか、交換条件を突き出してきた。
もう金は渡さない。家族がどうなってもいいのか。と。
「それは・・・悪質ですね」
「はい、でもそれ言われたら俺としてもあんまり強く出れなくて。
上司に金を貰っているのも事実だし・・・家族のことも」
弱みを握られた人間は弱い。そのままなし崩し的に関係を強要されているようだ。
雪男は頭が痛かった。まさか騎士團内部でこんな犯罪が行われていようとは。
しかも男と男。差別をするつもりはないが、明日からすれ違う同僚の様子を確かめてしまいそうである。
相談者が男であることも上司の手の内である気がする。
男であったらそんなことがあったとしても、周囲に相談しにくいだろう。
これは犯罪だ。雪男は覚悟を決めた。
「言いにくいですが、これは犯罪です。訴えることも可能ですし、警察に突き出すことも可能ですよ」
あくまでそうしろ、とは言わない。
相談者のプライバシーのこともあるし、決めるのは相談者でなければならないからだ。
相談者は悩んでいるようだった。警察に訴えるにしても、実名が出てしまう。
男なら当然悩む問題だ。女性にしてもそこで躊躇してしまう。
「そうなると、相手は捕まりますか?」
「ええ」
そうでなければおかしいだろう。見返りや立場を利用して関係を強要するのは対価型セクハラと呼ばれる。
立派な犯罪だ。犯罪者を野放しにしてはならない。
「わかりました・・・最後に上司に強く言ってみます。それでもダメなら最終手段に出ることにします」
「そうですか、がんばってください」
「ありがとうございます。こんな時間まで」
時計を確認すれば相談時間をとうに過ぎていた。それでも迷える子羊を救ったならばやりがいはあった。
修道院でも神父が相談者に対して導きを行っていた。
それに比べたらまだまだだけど、少しでも人の役に立てたのならいいな。と思った。
「元気出ました。家族に晩ご飯作って、行動に移そうと思います。覚悟決まりました」
「ふふ、よかったですね。ちなみに今日のご飯は何ですか?」
雪男にしたらちょっとした世間話くらいの問いかけだった。相手もそれにうれしそうに答える。
「弟の好きな、魚の煮付けにしようと思います。ありがとう」
相談者はそう言って電話を切った。
電話の切れた音が頭に響いている。
雪男はすごくすごく嫌な予感がした。
電話が切られる前に、うにゃーん。という猫のうれしそうな声が聞こえてきたからだ。
猫はどこにでもいるだろう。誰だって飼っているだろう。
でも、でも。相談者がイコール頭に浮かんだ人物だったらどうしよう。取り返しがつかないことになりそうだ。
雪男は受話器を置いて、急いで立ち上がった。
相談時間が終わればそのまま帰っていいことになっている。一分一秒でも時間が惜しい。
それでも雪男は相談室を出て一言声をかけた。帰りますね。え、ああお疲れ。
その言葉を背後で聞いて、鍵を近くにあった扉に差した。律儀な性格の自分が恨めしい。
一息で寮に到着すると、急いで食堂を確認した。そこにはほかほかの魚の煮付けがある。
一足先にクロが煮付けを食べていた。
「クロ、兄さんは!?」
クロはうにゃーんと声を上げた。肉球を上に上げている。部屋か。
階段をかけ上がる。廊下に出ると、部屋の中から声が聞こえてきた。
『やめろッ俺はもうお前とそういうことはできない!』
『何故ですか奥村君、こんなにも私は貴方を愛しているのに!』
ビンゴだ。
雪男は自分の勘を信じたことに感謝しながらも、この巡り合わせを呪った。
いつもの担当者がインフルエンザになっていなければ。
電話をかけるタイミングが少しでも違っていれば。受け取るものが雪男でなければ。
こんなことにはならなかっただろう。
兄は後見人に、メフィストに手込めにされた。
断罪を下すのはこの手に握る銃のみだ。
雪男は扉を蹴りやぶった。
部屋には、ベッドの上でもつれ合うメフィストと燐がいた。
個人情報保護法など知ったことか。
これはメフィストという後見人が実の兄に対して犯した性犯罪への粛正だ。
漏洩には当たらない。
「こちら正十字騎士團お悩み相談室です!!」
男子寮に発砲音が響きわたる。
悪戯コレクション2のリンク修正しました!
拍手で教えてくださった方ありがとうございます。
あ、あと春コミ参加する予定ですのでお知らせします~。
スペースは西1ホール I33a となります。行けるように・・・頑張りますorz
暗闇の中で、リュウがこちらに向かって歩いてくる足音だけが不気味に響いていた。
辺りを見回すが、見たこともない場所だ。燐は警戒した。自分は先程まで部屋で宿題をしていたはずだ。
雪男がポットにお湯を入れに席を外したので、自分もトイレに行こうと席を立った。
ドアノブを回した所までは覚えているのだが。燐は起き上がろうとした。
しかし、体に何かが巻き付いていることに気づく。
見れば、体に一本の長い呪符が巻き付いている。
首の方から、足元まで蛇の様に螺旋状に巻かれていた。
なんだこれは。足音が止まる。燐は目の前にいるリュウを睨み付けた。
「なんの真似だ」
こんな所に閉じ込められて、拘束される謂れはない。
リュウは棍を燐に向けている。
「それはこちらの台詞だ。ここはどこだ、答えろ」
「え?」
「・・・何?」
二人して、顔を見合わせた。会話が噛み合っていない。
燐は呪符の巻き付いた手をリュウに伸ばす。リュウは無言で首を傾げた。
「何の真似だ」
「起きれない、悪いけど起こしてくれ」
呪符の効能だろうか、燐の体にはまるで力が入らなかった。
リュウはしばらく考えてから、燐の手を取って体を起こしてやった。
手を離すと、燐が人形のように仰向けに倒れる。リュウは関心した。
「面白い」
「遊ぶな!」
燐が怒ると、今度はちゃんと背もたれがある場所に置かれる。リュウはその隣りに腰かけた。
「お前のせいではないようだな」
リュウは燐より先に目を覚ましたらしく、もう辺りを散策したようだ。
この建物は、円状の床と天井まで届く高い窓が特徴的だった。
天井は鉛筆の先のように尖っている。
どんな仕掛けなのかはわからないが、屋根があるはずなのに空が見える。
空は暗く、星が瞬いている。もう夜なのか。燐は少し不安になった。
雪男に何も言わないままここにいる。多分心配しているだろうな。
ため息が一つ出る。帰ったら怒られそうだ。いや、それよりも帰れるのだろうか。
鉛筆の先から柄の部分までをカットしたような建物。
恐らくは何処かの塔の一室だろうとリュウは言った。
床には、燐達の外に山のような荷物が積まれている箇所があった。
燐が凭れているのも、その荷物の一部らしい。燐は近くにあるものを手に取った。
軽い動作くらいなら、呪符に巻かれていても出来るようだ。
燐は手の中にあるものを見てぎょっとする。暗闇の中にあってもわかる異様な形。
「なんだそれは、形から想像するに・・・ジャパニーズこけしというものか」
「違ぇ!」
「暗闇でよく見えないが。電動でぐねぐねと動くようだ、日本の工芸品はハイテクだな」
にやにやしながらリュウがこちらを見ている。こいつ、絶対わかってやってるだろ。
リュウは見た目は若いが、燐の丁度倍生きている三十代の男だ。
それなりの経験はあるのだろう。対して燐はまだ十代の思春期真っ盛りだ。
知識としては知っているものの、そういうおもちゃを手に取るなど初めてである。
くそ、なんだこれ俺のじゃないのに恥ずかしい。
燐は乱暴に手の中にあったブツを放り投げた。
離れた壁に当たって落ちる、かしゃんという音がむなしい。
リュウは燐の背後に積み重ねられているものに手を伸ばす。
ぽいぽいと目の前に荷物が放り投げられる。
それらは、見たこともないものばかりだった。
銀時計、ネックレス、宝石。剣、絵画。かと思えばおもちゃやフィギュア。
お菓子のパッケージなんてものもある。
統一性がない。燐は首を傾げる。なんだこの場所は。
リュウはひとしきり漁り終えると、ため息をついた。
「呪いや聖具の類のものもあれば、ただのガラクタもある。
ひとつ言えるとしたら、珍しい。ということか・・・」
「めずらしい?」
「そうだ、そもそもお前の体に巻き付いている呪符もかなり珍しいぞ」
「え、これお前がやったんじゃないの?」
「それをして俺に何の得がある」
「えええええ!?」
てっきりリュウがやったものとばかり思っていた。
リュウが気が付いた時には、すでに燐の体に巻き付いていたらしい。
燐の抵抗を封じるようなことをして、得をするものがいるということ。
そいつが真の犯人だ。
リュウは燐の体に巻き付いている呪符に手をかける。
何回か触って、概要は把握したようだ。
「これはおそらく、捕まえた物の状態を保つためのものだな。
生け捕り、飼い殺し。そんな術だ。
大体の退魔の術が消滅を主としている分珍しいな」
「これ取れるか?」
「それをして俺に何の得がある」
リュウは燐を放置しようとした。燐は慌てて抗議する。
こんな場所に置き去りとか勘弁してほしい。
「ひでぇ!」
「冗談だ」
そもそもリュウも閉じ込められているので、どこにも行けない。
棍でぐりぐりと突かれた。
こいつ、遊んでる。動けない悪魔を弄んで楽しいか。ちくしょう。
「笑えねぇよ!」
炎が出せたら燃えていただろうが、あいにく炎もある程度封じ込める代物らしい。
リュウは札を燐の体から剥がしていく。
剥がれた部分から動けるようになっていく。そして、嫌な予感がした。
燐はここに連れて来られる前、そう。トイレに行こうとしていたのだ。
この呪符は捕まえた物の状態を保つためのものらしい。
燐は周囲をぐるりと見回した。ここは塔の一室のようだ。
当然人が生活できるような施設はないと考えていい。
まさか。まさか。
燐はどっと冷や汗が出た。咄嗟にリュウの呪符を剥がす手を止めるよう叫んだ。
「なんだどうした?」
「もしかしたら、もしかするけど。ここ、トイレないよな?」
「ないな」
「俺、トイレに行こうとしてここに来たんだけど・・・」
リュウも気づいたようだ。この呪符を巻いているからこそ何も感じていないが、
外した途端に激しい尿意に襲われるかもしれない。
そうなれば終わりだ。人として十五年生きてきたプライドがずたずたである。
リュウは燐の青い顔を見ると、一旦止めていた手を再び動かし出した。
燐はついにキレた。
「止めろっつってんだろ!!!漏らしたらどうすんだよ!!」
トイレのことなので、必死である。
リュウは首を傾げた。
「冗談だ?」
「なんで疑問系なんだよ!やめろ!ちくしょう!お前もトイレ行きたくなればいいのに!」
「甘いな魔神の落胤。俺ほどのイケメンになれば汗も排泄もコントロール可能だ」
「マジかよ!?」
「サインなら後にしてくれ」
「いらねぇよ!」
リュウはさわやかな笑顔で答えた。でも、心底悪い顔だった。
「ちなみに全て冗談だ」
「笑えねぇよ!!」
再度呪符を巻かれた燐は、ようやく落ち着くことができた。
リュウもすることがなかった鬱憤を燐をからかうことで晴らせたようだ。
二人で床に寝そべった。天井は仕組みはわからないが空が見えるようにできている。
夜の星を二人で眺めることになろうとは、想像もしていなかった。
冷たい冬の空は、星がよく見える。この部屋の中はとても冷えた。
燐の格好は、部屋着だけだ。それでも耐えられているのは、この呪符のおかげなのかもしれない。
捕えたものを、そのままの姿で保存する術。どんな悪趣味な輩が作り出したのだろうか。
リュウは祓魔師の服を着ているのである程度は耐えられるだろう。
「寒くないか?」
燐が問いかけた。
「大丈夫だ」
それは本当だった。燐はしばらく黙ってから、口を開いた。
「あいつ、寒く無かったかな」
あいつ、とは恐らくうさ麻呂のことだろうとリュウは思った。
空には雪がちらついている。うさ麻呂のことを覚えているのは、リュウと燐くらいしかいない。
メフィストも覚えていそうだが、感傷に浸るような性格はしていないだろう。メフィストは悪魔だ。
悪魔は自分の快楽に忠実に生きている。欲しいと思えばその通りに動くし、我慢など基本的にしない。
感情の動きは人とは違う。ルールの違う生き物だとリュウは思っていた。
感傷に浸る悪魔とは、珍しいな。とリュウは燐を見つめた。
リュウは思い出を掘り起こす。幼い自分に唯一寄り添ってくれていた友達。
彼の最期は自分がもたらした。彼の死は、リュウが背負っていくものだ。
そして、うさ麻呂の最後は燐が背負っていくものだろう。
「忘れずに覚えてくれているものがいる。それだけで、きっと寒くはないだろう」
燐もそうか、と答える。
空から雪が落ちてきている。二人の手が自然と近くなった。
握った手は、お互いに温かかった。
「・・・ちょっと思ったけど、俺らって忘れられたりはしてねぇよな?」
「少なくとも、お前の弟はお前がいなくなったら楽にはなりそうだな」
「ひでぇ」
しかし、雪男に迷惑をかけている自覚はあるので少しだけ脳裏によぎる。
俺がいなかったら、雪男は自由なのだろうか。
それはたぶん本当だ。雪男、ご飯ちゃんと食べてるかなぁ。
リュウはごつん、と燐の頭を拳で軽く叩いた。
「冗談だ、気にするな」
「・・・うん」
そのまま二人で星を眺めた。まずは体力を温存する。
それが重要だ。
***
雪男はいらいらしていた。
部屋を探しても、日本支部の思い当たる場所を探しても未だに燐の行方がわからなかったからだ。
最悪の想像が頭をよぎる。
ヴァチカンに連行されてしまっていたら。
イルミナティに連れ去られていたとしたら。
しかし、メフィストが言うには学園外に出た痕跡はないらしい。
では、一体どこにいるのだろうか。
雪男は祓魔塾の講師が集まる職員室に足を向けた。
「あれ、奥村君こんな時間にどうしたの?今日夜勤じゃなかったよね?」
「ええ・・・ちょっと探し物、を」
雪男は言葉を濁した。燐が消えたことはまだ支部には知られていない。
ごく限られたものしか情報が与えられないのは、それだけ燐の立場がまだ安定していないことを示していた。
「あれ、君もなにか無くしたの?」
「君も、とは?」
支部内で最近よく物が消えるという話を講師は話した。
昔から何かしらものがなくなることはあったらしいが、最近は頻発しているらしい。
雪男自身は物をなくすこと自体が少ないので、あまり気にしていなかったのだが。
「そういえば、塾生のみんな七不思議解決したんだってねぇ」
「ええ、協力して任務ができるようになってよかったです」
「貴重な一歩だよね、今年癖のある子多いから」
「そうですね」
本当なら世話話をしている暇はない。一刻も早く手がかりを見つけなければ。
一日二日なら誤魔化せるだろうが、それ以上は無理だ。
兄さん、どこにいるの。
講師が雪男の様子に気づく前に、電話が鳴った。
電話に出てしばらくすると、講師の声が荒くなる。
「え?台湾支部のリュウ氏が行方不明?」
その言葉を聞いて、雪男は呆然とした。
一体、何が起こっているんだ。
消えた二人の行方は、未だに掴めない。