青祓のネタ庫
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真面目すぎることは嫌いや。
やっぱり人生は楽しく生きないと損やと思う。
子猫さんにしても、坊にしても、結局考えすぎるから
眉間に皺寄せて難しそうな顔しとる。
気楽に考えればええやん。
「おまえも俺のべんとうがくえないのかー」
向かい合わせで距離をとって座っていたのに、志摩は燐に迫られていた。
志摩は石の上に座っているので、燐に覗き込まれるように顔を見られている。
その手には弁当箱。燐は食べ終わったようなので、中身は空っぽだ。
そもそも志摩用の弁当は今手の中に持っている。
燐の顔は赤く、近くに寄られたおかげでわかるが酒臭い。
自分の言動も理解していない酔っ払いだ。
「いや、もう喰うてるよ奥村君!それ空やから!」
「うる、へー。だいたいおめーかっこわりーぞ志・・・摩」
いきなり燐の体がこてんと倒れてきた。
志摩は弁当を膝の上において、倒れてきた身体を抱きとめた。
「奥村くーん・・・」
呼びかけても返事は無い。肩口に顔がもたれ掛るようになっているので、
彼の寝息が耳に当たる。
「くすぐったいんやけど・・・」
返事は無い。起きる気配も無い。
あかん、酔っ払いの世話せなあかんとか自分貧乏くじひいたなぁ。
はぁとため息をつくと、燐の尻尾が視界に入った。
普段は元気に動く尻尾を何回か見たけど、寝ているせいかそれは
大人しく地面に垂れている。
「やっぱり人間じゃないんやなぁ。奥村君」
首を捻って、顔を覗いてみた。顔は酒のせいで紅くなっているが、
安らかな顔つきだ。
うん、奥村君てやっぱり顔はええな。
俺の次くらいに。
いつまでもそうしているわけにもいかないので、膝の上の弁当を石の上に
移動させる。燐の身体を抱えて腕を肩のほうに回させた。
二人三脚をするときの姿勢、という風だ。
「肩は貸したるから歩きやー、奥村君」
「うーん・・・うるへー」
夢と現を行き来しているらしい燐の意識は定まらない。
メンドクサイが、このまま部屋まで運ぶしかない。
背後で猫のにゃおにゃおという鳴き声が聞こえた。
振り返れば、普通の猫ではない猫が、こちらにむけて何かを訴えていた。
「・・・そういえば前、使い魔にしたとかいってたような・・・」
メッフィーランドでの任務の時だ。あの時は冗談だと思っていたが。
猫と視線があう。
「なあ、俺の弁当もってついてこれる?俺奥村君部屋まで連れてかなあかんの。できる?」
石の上においた弁当にはまだ中身が残っている。このまま置いておくのもなんなので、
できればもってきて欲しい。志摩の腕は燐のせいで塞がっている。
説明すると、猫は承知したのか、頭の上に志摩の弁当を乗せてついてきた。
普通使い魔とは、主意外の命令は聞かない。しかし、志摩が燐の為になることをしていることは理解しているらしい。言うことを聞いたのは燐の為になることをしている
志摩へのお礼の意味でもあるのだろう。
「賢い子やねー、奥村君とは大違いやなー」
「にゃー」
「うっせーぞクロー」
燐が寝言で呟く。使い魔の猫の名前はクロというのか。
「君、クロいうん?」
志摩は聞いてみた。
「にゃお」
クロは応える。
そのまま二人と一匹は旅館の中へ消えていった。
燐に与えられた部屋は、皆が寝ている大部屋とは違い離れの一角にある。
大方、悪魔である燐を隔離するための思惑があるのだろう。
人間が大勢いる部屋とは分けられている。
悪魔だからという理由で。
「はー、疲れたわー!」
布団の上に燐の身体を投げ出し、畳の上に座る。
大の字になって眠りこける燐の顔を見て少し腹が立った。
「人に運んでもらっておきながらのんきやなー」
頬をぶにっとひっぱってみたけれど起きる気配はない。
障子の格子の影が燐の寝顔にかかって、月の淡い光がぼんやりとその身体を照らす。
青く、光っているように見えた。
「・・・」
青い焔を使う姿を思い出した。
あの時確かに感じた恐怖は嘘なんかじゃない。
でも、目の前の光景にあの時の恐怖は感じなかった。
「奥村君ー・・・」
燐が寝返りをうった。
「・・・奥村君ねとーるー?」
返事は無い。
「おくむらくーん」
聞こえるのは寝息だけ。
「悪戯するでー」
志摩は燐の体の上に伸し掛かった。
無防備に晒される首元。
「――――ッ」
燐の体がピクリと反射を返す。
志摩は身体を離し、燐の首元を見た。
血は出ていない。ほんのいたずらのような歯形をそこに残した。
少しは痛かっただろうが。
しかし歯形の痕は、眺めているうちに先ほどより痕が薄くなってくる。
つけた歯型は皮膚に付けられた傷と同じだ。治癒、しているのだろうか。
人間とは違う速度で。
「・・・やっぱり人間じゃないんやな。奥村君」
その痕が朝まで残っていたら燐をからかうネタができたのに。
人間とは違う速度で生きる燐の姿。
志摩はその事実にほんの少しのさみしさを覚えた。
部屋を出ると、クロが待っていた。
律儀に待っていたらしい。
弁当箱を受け取ると、ひと言呟く。
「おおきに」
「にゃー」
そうして部屋を後にした。
翌朝、食堂にいる燐に志摩は普通に話しかけた。
「奥村君オハヨー、昨日ちゃんと部屋戻れた?」
「・・・覚えてねー」
「あっはっはやっぱりなー。一応俺飲まんとって正解やったわー」
ちらりと視線を燐の首元に向けた。痕は少しも残っていない。
「なんか首のほうがちくちくするんだよなー」
燐が昨夜、痕をつけたところを摩る。
「寝違えたんちゃう?」
「そうかもなー」
背後に視線を感じて振り返る。
子猫丸がはらはらとした顔でこちらをみている。
大方燐と話す志摩の身を案じてるのだろう。
真面目すぎることは嫌いや。
やっぱり人生は楽しく生きないと損やと思う。
子猫さんにしても、坊にしても、結局考えすぎるから
眉間に皺寄せて難しそうな顔しとる。
気楽に考えればええやん。
だって、奥村君ええひとやん。
子猫さんだって、坊だってわかってはるんやろう。
だから、自分の思ったとおりにすればええんや。
――――むしろ、燐の首に噛み付いておきながら
いけしゃあしゃあと本人の前で嘘をつく。
俺のほうがよっぽど悪い人間やんな。
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