青祓のネタ庫
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≪ 無理矢理、ダメ。絶対 | | HOME | | トイレの神様6 ≫ |
心の内を家族に話したことで、燐の周囲の環境は驚くほどに変わっていった。
神父だと思っていた父は祓魔師という悪魔を祓う職業を生業としており、
雪男もその免許を取得しているという。
悪魔のことを。燐を殺す技術を磨いていることに、
ショックを受けなかったといえば嘘になる。
けれど、悪魔として目覚めた燐が
この世界で生き残るためには必要な知識であることも理解はできた。
雪男は、燐を守ろうとしてくれていた。
かつて自分が雪男を守っていたのと同じように。
燐は悪魔の、魔神の落胤として唯一青い炎を継いでいる。
虚無界を統べる力を持っている燐を悪魔は見逃しはしないだろう。
あらゆる方法で、燐を物質界から浚おうとするはずだ。
藤本も雪男も、燐の知らないところで燐を守るために動いてくれていたのだと、
燐はようやく知ることができた。
そして、自分も強くならなければならないことを知った。
「俺も、祓魔師になりたい。そうすれば雪男やジジイに迷惑かけなくて済むだろ」
「僕は反対だ、兄さんに危険なことさせられるわけないだろ!!」
「なんだよお前はよくて俺はダメなのか!!
雪男は医者目指してるんだから、祓魔師なんて危ない職業したらダメだろ!」
「それを言うなら兄さんの方が危険だ!
現場に出て悪魔に誘拐されたらどうするんだ!僕は認めないよ!」
そんな兄弟の喧嘩はあれど、藤本が仲裁することで燐は祓魔師の道を進むことになった。
どのみち、燐も悪魔に対抗する術を身につけなければその身が危ない。
燐は藤本と雪男に祓魔師としての勉強をみてもらいながら、時折男のことを思い出した。
不思議なことに、されたことは覚えているのに顔は靄がかかっているかのように思い出せなかった。
ただ、あの男の声。あれだけは忘れることができない。
燐の耳元で、燐の背後で、燐の目の前で。
燐のことを陥れた、神様の声。
あいつを探さなければならない。
祓魔師を目指したのは、自分の身と家族を守りたいと思ったから。
けれどその一方で燐を陵辱したあいつを探しだしこの手で決着をつけなければならない。
そうしなければ、燐は本当の意味で前に進めない。
そんな気がしていた。
***
紆余曲折を経て燐が祓魔師の免許を取得した後、支部長に挨拶に行くことになった。
雪男に導かれて、初めて理事長室に足を踏み入れた。
祓魔塾にいた頃も、卒業する時も、
上の判断が必要な時であっても理事長は忙しいという理由ですべて聖騎士である藤本が取り仕切っていた。
そのため、燐は祓魔塾生時代一度も支部長に会ったことはない。
今回の挨拶が初めての邂逅となる。
いわば雪男や燐の上司に当たる人物だ。
緊張していないといえば嘘になる。
けれど、こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
弟である雪男も心配そうにしていたが、挨拶くらい大丈夫だろう。
そう思って扉を開けた。
けれど、その判断は間違いであった。
「ようこそいらっしゃいました、奥村燐君」
男の声を聞いて、燐は全身の血の気が引いていくのがわかった。
忘れられない、あの夜の声が。
昼間の暖かい日差しの溢れる支部長室の中から聞こえてきている。
燐は視線をあげた。そこには男がいた。
男は執務室の真ん中にあるデスクに座っていた。
燐に気づいて立ち上がると、男は長身でピエロのような奇抜な格好をしていることがわかる。
燐がなにも言えないままでいても、男の方が勝手にしゃべり始めた。
「こんにちは、私は正十字学園の理事長兼、
正十字騎士團日本支部長のメフィスト=フェレスと申します。
この度は祓魔師免許の取得おめでとうございます。
奥村先生には及ばないとは言え、
その年で、魔神の落胤であるというハンディを抱えたまま合格するとは非常に将来が有望だ」
貴方のここは、こんなにも私を求めて締め付けているというのに。
どの口がイヤだと言っているのでしょうね。
メフィストの言葉とともに、あの夜の出来事が思い起こされる。
燐の呼吸が荒くなる。
目の前にいるメフィストに、近寄って欲しくなかった。
メフィストは握手を求めて燐の前に手を出した。
「これからよろしくお願いいたします」
ああ、この手が泣き叫ぶ燐を犯したのだ。
誰にも触れられたことのない場所に指を突き立てられ、メフィストのものをくわえ込まされた。
開かされた足を閉じることは許されず、
時を忘れるほどにベッドの上で交わりを強要され続けて。
瞼も、口も、耳も、胸も、腹も、足も。燐のすべてを犯された。
記憶がフラッシュバックして、燐は口元を抑えてうずくまってしまう。
雪男は様子のおかしい兄に駆け寄り、メフィストも心配そうに燐の体を支えようと手を伸ばす。
燐はメフィストの手が触れる前に、拒んだ。
「―――触るなッ!」
そう叫んで、メフィストから距離を取ろうとして後ずさりした。
位置的に背後にいる雪男にぶつかりそうになり、燐は慌てて振り返る。
けれど、おかしなことが起きた。
雪男が動かないのだ。
燐に駆け寄ろうとする動作のまま止まっている。
どうして。
燐は雪男に話しかけた。雪男は動かない。
それに部屋の中のすべての音が消えている。
物音一つしない静寂の中。メフィストの声だけが聞こえてきた。
「私の力で時を止めました。貴方と話をする為に必要でしょう?」
「てめぇと話すことなんかあるか!!」
見つける時を、待っていた。
燐は倶利伽羅を抜刀する。
青い炎が刀身から全身に沸き上がりメフィストに向かって襲いかかる。
メフィストは青い炎を指を向けるだけで弾き飛ばす。
一瞬で攻撃が防がれたことに驚くが、猛撃を緩めるつもりはなかった。
候補生時代に上級の敵と遭遇しなかったわけではない。
青い炎が通用しない相手だっていた。
その経験から、燐は的を絞ることにした。
刀を構えるとただ一点だけを狙い、足を踏み出す。
狙うは首元のみ。一撃で相手を殺す必要がある時に使う方法。
槍撃のような、青い筋の刃が空間に走る。
メフィストはその追撃を止めようとした。
けれどできなかった。
青い炎を纏った切っ先がメフィストの前に展開していた防御用の結界を貫く。
燐は、本気でメフィストを殺そうとしている。
彼は、ただ、メフィストだけを見ている。
まるであの夜のような一時ではないか。
ああ、このまま時を止めてしまいたい。
けれど残念なことにそれはできない。
メフィストは時を止めたまま燐と対峙している。
メフィストの首もとまで迫った刃を防ぐのに、時を止める方法は使えない。
ならば。
メフィストは笑って燐の刃を手で掴んだ。
刃と炎がメフィストの手を切り裂いて、血しぶきが飛び散る。
けれど手が燃え尽きることはなく、
向かってきた刃をそのまま後ろに引いて、燐を自分の元へと引き寄せた。
燐の目が驚きで見開かれる。
一撃で首を落とせなかった。それで勝敗は決まってしまっている。
「残念。いい線いってたんですけどね。
もう少し経験を積んでからまた試してみるといい」
メフィストはそう言うと、引き寄せた勢いそのままに燐の唇を奪った。
噛みつくようなキスと、咥内に進入してくる熱い舌先。
燐の舌を絡め取り、逃げようとする燐の頭を手で固定してしまう。
血塗れの手で、燐の体を抱いて腕に閉じこめた。
悪魔の力で拘束されてしまえば、燐は逃げ出す術がない。
乱暴に咥内を荒らされている間には息継ぎも許されなかった。
しばらくメフィストの好き勝手に燐を弄んでいると、
限界を迎えたのか燐の体から力が抜けていった。
これではもう抵抗することもできないだろう。
メフィストは燐の口を解放してやると、燐はせき込みながら床に倒れ込んだ。
それでもなお、涙目でメフィストを睨みつけてくる姿を見て、
また悪魔的な思考が浮かんでくる。
「そんな瞳で見つめて、また犯されたいんですか?」
「この悪魔ッ!!誰があんなことするか!!」
燐は口元を乱暴に拭ってメフィストから距離を取った。
けれど自分の手に倶利伽羅がないことに気づくと、顔面を蒼白にした。それもそうだろう。
燐の命ともいえる悪魔の心臓は倶利伽羅の中に入っている。
その命を、あろうことかメフィストが握っているのだから。
「無防備ですねぇ、尻尾に関しては私が散々躾たので隠しているのでしょうけど。
急所をモロ出しなんて貴方露出狂の嗜好でもあるんですか」
「それ、か・・・返せよ!!」
怯えた声で詰め寄った。そんなことをしてもかわいいだけだというのに。
メフィストは倶利伽羅の刀身をゆっくりと舌で味わうように舐める。
燐に見せつけるように。
途端に燐の体は電気が走ったようにしびれて、その場にへたりこんでしまった。
ぞくぞくと走る痺れは覚えがあった。
下半身に熱が籠もって、身動きが取れなくなる。
「可愛らしいことだ、ちょっと急所に悪戯をしただけだというのにね。
あの夜のことを、体が思い出したんでしょう?」
燐は首を横に振って必死に否定した。
けれどその感覚を忘れることができなかったのは事実だった。
悪魔を討伐した時。初めて試験に合格した日。
任務で傷を負ってしまい、眠れない夜。
燐の体はその度にあの夜を思い出して、心は自己嫌悪に陥った。
自分一人の手では、もう満足ができない体になってしまっていることを思い知る。
メフィストを殺せば、あの夜のことも。
この体のことも忘れて、前に進めると思ったのに。
燐は瞼に涙をためて、悔しそうにポロポロとこぼしていった。
メフィストはため息をついた。
憎むような視線を向けてくれたらいいのに。
これではまるで、この子はただの人間ではないか。
「どうしますか?まだやりますか?」
メフィストは倶利伽羅を燐の元に投げると、燐はそれをあわてて受け取った。
倶利伽羅を鞘に戻したことで、燐の炎は収束していく。
もうメフィストと戦う気はないだろう。
燐は涙を拭うと、ぽつりぽつりと話し始めた。
「どうして、俺にあんなことしたんだよ」
意味がわからなかった。
暗い日常に訪れた突然の衝撃。
家族と打ち解けるきっかけにもなったけれど、燐の心に暗い影をもたらした。
「貴方に、自分を知ってもらいたかったからです」
メフィストはそう言った。
燐が自分の正体を知ることで、変わったことがたくさんあった。
遠巻きにしかつき合えていなかった家族と打ち解けた。
不安でしょうがなかった自分の力と向き合えた。
ぐちゃぐちゃだった心が、力が、一つの向かうべき方向を見つけた。
自分をこんな目にあわせた、
トイレの神様を探さなければならない。
燐はあの夜のことをこれまで何度も思い出した。
けれどあの夜を境に、燐の人生はいい方向へと変わっていったといってもいい。
目の前にいるメフィストは悪魔だろう。
神様だと偽って、燐を騙した悪魔。
そんなひどいやつのはずなのに。
「どうして、俺を気遣うようなこと言うんだよ。お前のやってること。
俺を陥れたいのか、助けようとしてるのかわかんねぇよ」
メフィストは目を見張った。
燐の言葉は予想外のものだった。
燐に嫌われるようなことしかしていないというのに。
この子は気づいていたのだろうか。
燐の心の不穏が、悪魔に憑りつかれていた人間を引き寄せていたことを。
そんな燐を追いつめることで、家族に心の内を打ち明けるようにメフィストが仕向けたことを。
「・・・貴方に私の魔力を注ぐことで早期に覚醒を促せば。
そうですね、例えば。藤本が魔神に乗っ取られて死ぬことも、
貴方が悪魔に見つかって窮地に陥ることも―――なかったのではないかと思いましてね」
メフィストがぽつりと本心を呟いた。
そう、行動には結果が伴う。
過去には未来がつきものだ。
このままいけば燐がどうなるか。
そんな未来を、メフィストは知っていた。ただ、それだけのこと。
「どういう意味だ。ジジイは死んでねぇだろ。縁起でもないこと言うな」
「ええ、そうですね。けれどそういう未来も、あったかもしれないということですよ。
私はそれを止めたかったのかもしれない」
メフィストはそう燐に語った。
燐は首を傾げる。あったかもしれない未来を言われてもわからない。
燐は今、そんな世界を生きてはいないからだ。
メフィストは時を止める力を持っている。
もしかしたら、あったかもしれない未来を知っているのかもしれない。
けれど、それが何だ。
燐はメフィストの前に立つ。
拳を握ると、己の腕力のみでメフィストの顔をブチ殴った。
油断していたのか、メフィストは部屋の端まで飛んでいってしまった。
「それでお前がやったことを水に流すと思うなよ!!!この強姦悪魔!!!」
初体験がトイレなだけに、と言えば益々燐は怒っただろう。
無言のまま無惨に倒れ込むメフィストにこの外道がと燐が吐き捨てる。
それはそうだろう。
燐にとってはあのトイレで、連れ去られた先のベッドで犯されたことがすべてだ。
まだ何も知らない燐を、メフィストは散々楽しそうに好き勝手に嬲ったのだ。
お前、絶対に楽しんでいただろう。
燐はメフィストの本性を見抜いている。
メフィストは確実に折れた首を修復しながら立ち上がった。
そして改めて燐に向き直る。
メフィストに一矢報いたからだろうか。
燐の瞳には青い炎が揺らめいており、先ほどまでの怯えた様子はない。
燐はもう、悪魔に立ち向かえるだけの力も心構えもできている。
メフィストは指を鳴らして時を進めた。
「自分の手で選び取る。それこそ、私が見たかった貴方の姿だ。
またのお越しをお待ちしておりますよ、奥村燐君」
二度と来るかと吐き捨てて、燐は乱暴に理事長室を出ていった。
雪男は何が起きたのかわからず、慌ててメフィストに謝罪をする。
時が止まっていた間の出来事を人間は感知できない。
今までの全ては、メフィストと燐の秘密だ。
二人は今日初めて出会った上司と部下の関係。そう周囲には思わせておかなければならない。
すみません、兄がとんだご迷惑を。
慌てる雪男を諫めて、メフィストは笑った。
彼は、思った以上におもしろい。
いつか力をつけた彼に、青い炎で殺されてもいいだろう。
そう思うくらいに、燐のことを気に入ってしまっている自分に笑う。
雪男が兄を追いかける為に、理事長室を出ていった。
閉まった扉に向けて、メフィストは呟く。
「悪魔は快楽の求道者にして、
人は中道にして病みやすい・・・貴方は、どんな闇がお好みですか?」
そこにいるはずのない燐に向かってメフィストは囁いた。
***
「もう、最初から上司と騒動起こすなんて兄さんは何考えているのさ!」
騒ぐ雪男の言葉を右から左に聞き流して、燐は廊下を歩いていく。
まさか雪男にメフィストとの関係を言えるわけもない。
バレた瞬間に、父である藤本と共にメフィストの屋敷に火を放つ雪男の姿が思い浮かんだ。
家族を犯罪者にしたくはないので、燐はこの先も誰にもあのことを言うつもりはない。
けれど一矢報いたとはいえ、まだむかつきは収まっていない。
早く寮に帰ろうと思い、ポケットの中にある鍵を探った。
手早くドアに差し込もうと取り出した鍵の中に、見覚えのない鍵が一本。
ピンク色をしたそれは、あの悪魔を思い出すのには十分であった。
お待ちしておりますよ。
脳裏に悪魔の囁く声が聞こえる。
燐の熱は、決して収まったわけではない。
ただ、見ないふりをしていただけだ。
燐がごくりと喉を鳴らした。じわりと耳元にメフィストの、男の声が甦る。
足を止めた燐に、雪男が声をかける。
「兄さん、どうしたの?」
屋敷を出ようとドアを開けた雪男に向かって燐は言う。
「悪い、ちょっと。トイレに行ってくる」
そこには、燐だけの神様が待っている。
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