青祓のネタ庫
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目を開けた。
見えたのはいつも使っている家のトイレの天井だった。
服もきちんと着ているので明け方だけれど寒さはさほど感じなかった。寝ていたのか。どうして。
ぼんやりとそのまま座っていると、寝ぼけていた頭が徐々にはっきりとしていく。
そうだ、俺は。
燐は体を起こした。トイレの便座に座っている状態だったので、体はすぐに起きあがる。
けれど体の奥底から痛みが走ったことで、眉をしかめた。
まただ。俺はまた、あの男に。
燐は体を震わせる。昨晩あの男に何度も何度も犯された。
回数なんてわからないくらいに。
あれは人の交わりではない、それこそ獣や。言ってしまえば悪魔の狂宴のようなものだ。
意識が飛んでも何度でも引き戻された。
燐の体も心も、もうあの男から逃れることができないくらいに染められてしまっている。
その証拠に、奥底からはまたあの男の残滓が流れ出している。
燐は屈辱に唇を噛みしめた。
幸いなことに、まだ明け方であるせいか耳を澄ましてみても家族が起きる気配はない。
ここで処理をして、急いで風呂場に行けばばれることもないだろう。
意を決して、手をそっと自身の後ろに忍ばせた。
あの公園で処理をした時に比べれば、できるはずだ。
けれどこんなことを何度も経験することになるとは思っていなかった。
燐が手を後ろにやったことで、気づいたものがある。
腰のあたりに、変な感触がある。燐は視線を後ろに向けた。
驚いたことに自分の腰の下のあたりから、獣のような尻尾が生えていた。
驚きすぎて声も出なかった。
そして思い起こされるのは昨晩の出来事だ。
青い炎を吹き出した燐の体を、男は弄んだ。
男は後ろから燐を苛む時に、燐の黒い尾を何度も何度も引っ張って。
刺激を与えられる度に、燐は頭の中が真っ白になった。
痛いような気持ちいいような感覚の中、男に中を犯され続けていた。
そうだ、男は言っていた。
「悪魔の・・・尻尾は、弱点で。
人に見せるなって・・・俺、俺は・・・人じゃなかったんだ」
お前は俺の子だ。
そう言ってくれた父の言葉を裏切るように、
燐の体は男によって悪魔としての目覚めを迎えた。
人じゃなくなった俺は、ここにいてもいいのだろうか。
燐が考えていると、脳裏に男の声が響いてきた。
昨晩言われた言葉だった。
貴方が人ではないことを、打ち明ける人が必要です。
戻ったら、まず始めに家族に打ち明けなさい。
もし逃げたりすれば―――わかりますね?
最後に中に注がれた時のことだ。
意識が混濁している中に言われた言葉だけれど、妙にはっきりと覚えている。
この尻尾や、炎のことを家族に言えというのか。
無理だと思った。現に燐は自分の体のことなのに、わけがわからなくて怖いと思っている。
自分ですらそうなのに、家族がそう思わないわけがない。
尻尾を引っ張ってとれないかやってみたけれど、痛みがひどいだけでどうしようもなかった。
燐はひとまず処理だけを手早く済ませることにする。
悩んでいたら、時間だけが過ぎていく。
絶対に、男に犯され続けたことだけは知られたくない。
「ん・・・うぅ」
漏れる声は、服を噛むことでやり過ごす。
指を自身の中に入れて、男の影を何度も掻きだした。
手は男のもので汚れきってしまったが、何度でも残滓を水で洗い流していく。
太股から流れ出るその感触が気持ち悪くてしょうがない。
燐は自分の頬から何かが伝い落ちていることに気づいた。
そっと頬に触れれば、赤い血が付いていた。
鏡で確認してみると、頬に鋭い刃物で切られたような傷がある。
これはあの男につけられた傷だった。
頬の傷は目立つけれど、この程度ならば喧嘩でついたと言えば誤魔化せるだろう。
泣いてなんかない、泣くものか。
昨晩散々泣いた。けれど男はやめるどころか喜々として燐の体を貪った。
燐は頭を振って男との記憶を忘れるように、流れ落ちた残滓を拭う。
しばらくそれを繰り返すことで、ようやく一息つくことができた。
あとは、体を綺麗に洗いたかった。
べたつきはなく綺麗にはされているが、男の舌や指が余すところなく触れた体だ。
燐自身が、汚れていると思えばそれは綺麗にしなければならない。
燐がそっとドアを開ければ、周囲はしんと静まり返っていた。
廊下を歩いて、風呂場に向かう。
まだ、誰も起きていないんだ。安心して燐は脱衣所への扉を開けた。
そこには、藤本が立っていた。
「よう、燐。早いな」
「え・・・」
予想外だった。なんで起きてるんだ。動揺して言葉が出ない。
思えば脱衣所の中にある洗濯機を回しているようだ。
洗濯の当番で、早めに起きていたのかもしれない。
燐は急いで廊下に出ようとした、けれど藤本の方が早かった。
逃げるように去ろうとした燐の腕を掴んで、
身長差を利用するようにあっと言う間に自分の腕の中に閉じこめる。
燐は突然抱きしめられて訳が分からなかった。
けれどこの腕から一刻も早く抜け出したかった。
こんな汚い俺に触らないでくれ。
暴れる燐の頭を藤本は優しく撫でる。
「お前が、俺たちから逃げたがっていることは知ってるよ」
静かな声が響いた。
叱るような声色ではない、諭すような落ち着いた声だった。
「なぁそんなに俺たちは信用できないのか。
お前、何日もどこに行っているのかわからなくなって。
帰ってきたと思ったらまたいなくなって。
何かあったんじゃないかって心配するだろ・・・燐」
洗濯の当番なんて、建前だったのだろう。
戻らない燐を藤本は待っていた。ずっとずっと心配していたのだ。
この腕を抜け出さないといけないのに。
燐は動くことができなかった。
違うよ父さん、俺が人の中にいることが間違っているんだ。
言いたいのに、涙がこみ上げてきた。
男の声が頭の中に響く。
家族に打ち明けなさい。
言ったら信じてくれるだろうか。
言っても、俺のことを追い出さないでくれるだろうか。
このあたたかい腕を無くさないで、済むのだろうか。
燐は男の声に押されるように、言った。
「おれ、俺・・・人間じゃなかった・・・
父さんとも、雪男とも、違ったんだッ・・・」
ぽろぽろと泣き出す息子の姿に、藤本が動揺した。
泣く子の姿は久しく見ていない。
藤本はどうした、なにがあったと燐の目を見て質問する。
その目は真剣そのものだった。
力が強すぎて父の肋骨を折ってしまったときも、喧嘩した相手の親に謝りにいったときも。
燐が公園でひとりぼっちでいたときに、迎えに着てくれたあのときも。
父は何度でも燐に手を差し伸べてくれた。
諦めるなと、言ってくれた。
燐は、父のこの目を信じようと決めた。
「青い、炎が体から出て、尻尾も、あって。
俺、どうしたらいいかわかんねぇよぉ・・・」
泣きながら訴えた。
人間じゃない俺はどうすればいいのかと。
燐の必死の訴えに、藤本は悟った。
燐が気づいてしまったことに。
己の宿命に目覚めてしまったことに。
魔神の落胤として、燐はこれからあらゆる者に存在をねらわれる立場になるだろう。
燐は人ではない。悪魔として、これからを生きていくことになる。
けれど、それがなんだ。
魔神の落胤なんか関係ない。
不安で、燐が泣いている。
泣きながら、自分の秘密を打ち明けてくれた。
今ここにこうして途方に暮れている子供を守らない親がいるだろうか。
藤本は燐を強い力で抱きしめた。
今まで自分が嘘をついてきたことで、燐が傷ついていたことを悟った。
ごめんな、不甲斐ない父ちゃんで。
ごめんな燐。
「大丈夫だ、燐。お前はどんな姿になったって。お前は俺の息子だよ」
泣かないでくれ。
そういえば、燐はますます泣いた。
今まで我慢してきた不安が決壊したのだろう。
子供の姿のままで泣く燐を藤本はいつまでも抱きしめていた。
***
しばらくした後、二人は皆を起こして今後のことを話し合うことにした。
やはり修道院の皆も燐の正体を知っていたらしい。
弟の雪男も知っていたというのには驚いた。
そこで、何で教えてくれなかったのかという喧嘩にもなったけれど。
藤本が諫めて、燐に黙っていたことを代表して謝ってくれた。
謝って欲しかったわけじゃなく、
嘘をつかれていたことに傷ついたのだと告げれば、藤本も雪男も少しだけ泣いた。
燐の心にかかっていた暗い霧が、ようやく明けた気がした。
「燐、これの姿が見えるか?」
藤本が空中に漂う虫のようなものを指さした。
頷けば、これは悪魔で魍魎という名前だと教えてもらった。
そしてこれからはもっと学ぶ必要があると言われた。
「悪魔に傷を付けられると、悪魔が見えるようになるんだ。
もしかして、その頬の傷が原因か?」
本当は違う。
頬の傷じゃなくて、本当はこの体の奥底につけられたあの傷のせいだ。
男はこういう質問が来ることをあらかじめ予想していたかのように、
燐の頬に傷を残したのだろうか。
燐は少しだけ考えた、けれど答えは決まっている。
『うん、この傷のせいだと思う』
家族に嘘をつかれたことで傷ついていたのに。
俺は嘘をつかないといけない。
矛盾は燐の胸に暗い滴のように広がっていく。
それでも決して言うことはできない。
俺と神様の二人だけの秘密。
「トイレの神様に、つけられたんだ」
一つ、嘘をつくことがうまくなった。
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