青祓のネタ庫
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≪ 亡国のプリズム9 | | HOME | | 小屋暮らしの奥村燐 ≫ |
被告人は前へ、という言葉にメフィストは意識を浮上させた。
はて、自分は今まで執務室で仕事をさぼってゲームをしてはいなかっただろうか。
それがどうしてまた、法廷に呼ばれているのだろうか。
メフィストの脳裏に一瞬だけ疑問が浮かぶが、すぐにどうでもよくなった。
ちょうどよく、先ほどまで行っていたゲームは裁判物がテーマだ。
早速覚えた決め台詞を使うのもいいだろう。
メフィストは基本的に享楽主義者だ。
いかに疑わしい状況となろうとも、持ち前の演技力と言葉を使い、巧みに相手を騙してしまう。
今回もおもしろいことになればいいくらいにしか考えていなかった。
メフィストは裁判官の言う通り、中央に設置されている台の上に立った。
台の手すりは半円状になっており、よくドラマなどで見かけるセットと同じである。
ライトがつけられて、室内の様子がよくわかるようになった。
裁判官としてメフィストの目の前に座っていたのは、敵対する長兄、ルシフェルだった。
メフィストは度肝を抜かれるが、軽口を叩くのを忘れない。
「兄上、なにやってるんですか?」
「兄弟間の諍いを止めるのも長男の役目かと思いまして参上したまでです」
今現在、イルミナティと騎士團で代理戦争をしているような状況のルシフェルとメフィスト。
それをお前が言うか。とメフィストはつっこみたくなった。
けれど、兄がメフィストと同じ意見になったことは未だ嘗て無い。
これは、かなり自分にとって不利な裁判になることは確かだ。
とっとと、とんずらするのがいいだろう。
メフィストはいつものようにスリーカウントで逃げ出そうとした。
けれど、その前に自分の周囲に光の鳥セラフィムが出現しているのがわかる。
騎士團各支部を自爆して襲撃した、ルシフェルの使い魔である。
「ちょっとでも逃げる動作をしようものなら、もろとも自爆しますよ。
いくらお前でも五体バラバラになれば修復に時間がかかるでしょう。
その隙を狙えばお前を消すこともたやすいでしょうね」
淡々と言っているが、逃げれば即殺す裁判官って一番危ないんじゃなかろうか。
メフィストはここはおとなしくルシフェルの言うことに従うことにする。
裁判官の機嫌を損ねて、刑の裁量に変動があってはたまらない。
メフィストは裁判を受けることを許諾した。ルシフェルもそれに頷く。
お前を訴えている相手はこの方です、とメフィストの左横を指さした。
そこには、すさまじい形相でこちらをにらみつける奥村雪男と、
何でここにいるのかよくわかっていなさそうな奥村燐がいた。
かつて自分が後見人を務めていた奥村兄弟に訴えられている。
なんということでしょう。メフィストは吹き出しそうになった。
けれど、ここで吹き出すと、雪男が切れるだろうから我慢だ。
メフィストは一気にこの裁判が茶番に思えてきた。
奥村兄弟を丸め込むのはたやすいことだ。
いくらメフィストを訴えようとも、かなわないということを思い知らせてやるのもいいだろう。
この裁判で、嘘偽りを述べないと誓いますか。とルシフェルは三人に問いかけた。
三人とも誓います。と答える。
もっとも、ここにいる誰もメフィストが真実を語るとは思っていないだろうけれど。
裁判は、始まった。
「それで、私は何の罪で訴えられているのでしょう?」
メフィストの問いに、雪男が答えた。
どうやら被害者は兄である奥村燐であるようだ。
雪男は弁護士としての役目を果たす為にここにいる。
雪男は理路整然と兄の被害を述べた。
まず、給料の未払いにより心身共に仕事に支障が出るレベルにまで兄は追いつめられました。と説明をする。
取り出したのは奥村燐の通帳だった。そこには燐が騎士團で働きだしてから今までの給料が振り込まれている。
毎月二千円。高校生の頃、雪男がもらっていた給料に比べてゼロが二つも足りない。
兄は当初フェレス卿に抗議に向かいました。
けれどもこれは兄が任務の際に壊した建物の修理代が入っているのだと言葉巧みに嘘をつき、
兄に賃金を支払いませんでした。僕は学生です。
兄は僕に頼ることも考えたようですが、学生の身分の僕と働いている兄。という関係を考えたら
援助して欲しいという要望は踏みとどまるしかありませんでした。
それから、僕がこの件に気づくおおよそ一年程の間。
月二千円で暮らしていたのです。
悪魔だからという理由で、騎士團の運営する寮にも入れてもらえず、
フェレス卿の紹介で入ったほったて小屋で暮らしていました。
電気ガスは料金の関係から止めており、水だけはかろうじて引いていたような状況です。
衣服を買う余裕もなく、高校の時の制服のブラウスや僕のお下がりを着まわしてなんとかやりくりをしていたようです。
当然のことながら布団はなく、夜は新聞紙にくるまって寝ていました。
小屋の中に唯一あった電球は、高校の時に理科の実験で使うような乾電池で光る豆電球でした。
食事も一日に一食のみ。
栄養失調で体を壊す一歩手前でとどまっていたのは、悪魔としての回復力と体力の賜でしょう。
普通の人間ならばまず間違いなく病院送りです。
ここまで、一言たりとも噛まなかった雪男は更に恐ろしい形相で訴えた。
栄養失調のまま任務に向かったことで、怪我も増えていたようです。
悪魔を祓うことだけが祓魔師の仕事ではない。
デスクワークだってあるし、時には悩み相談だって行ったりするのだ。
過労と栄養失調で普通のルーチンワークですらままならなくなったことで、
仕事が貯まり残業が増え、兄の睡眠時間は五時間を切っていました。
そんな折り、フェレス卿から兄にこんな提案があったそうです。
雪男は燐の携帯を取り出して、メールの画面を見せる。
今夜私の部屋へ来ていただけませんか。
おいしいご飯を用意しています。
最近、仕事が忙しいせいで休んでいないことも知っています。
久しぶりにお話をして、楽しいことでもしませんか。
私も最近一人が寂しくなってきましてね。
今晩一晩つき合ってくれるだけで、一万円お小遣いとして差し上げます。
二晩なら、色を付けてお渡し致します。
お待ちしてますよ☆
その日はちょうど、雪男と燐が食事をする日であったので、メフィストの目論見は実現しなかった。
雪男は間一髪で燐の救出に成功したのだ。
「かなり用意周到に計画は練られています。
最終的には前後不覚に陥った兄を手込めにすることが狙いだったのでしょう。
計画的な性犯罪です。教育者という立場にいながら、本質はただの性犯罪者です」
ルシフェルは雪男の言葉を聞いて、確かにサマエルは昔から年若い者が大好きでしたね。とつぶやいた。
メフィストは兄上は病弱なせいか元気で勝ち気な子が好きですよね。と言い返した。
ルシフェルはメフィストに雪男の証言についての反論はあるかと問いかける。彼はさらりと答えた。
「全く記憶にございません」
「ふざけるな!どこの政治家だ、証拠があるんだぞ!」
「それは食事の誘いであって性行為の誘いではありません。起こってもいないことに対しての罪は問えないでしょう」
「そのあたりはどうなのでしょう。性犯罪は被害者がいないと成立しませんし。
末の弟よ、サマエルとの関係性について答えてください」
「メフィストと?」
「ええ、答えられますか」
燐はまだ栄養が頭に行き渡っていないせいか、ぼーっとしている部分があった。
そのせいかあったことをそのままオブラートに包まずに答えることになった。
「メフィストには、部屋に呼ばれた後の記憶が無いっていうのが何回かあった。
途中で一回だけ気づいた時にはなんでかメフィストに乗っかられてて、
体まさぐられて、イヤだっていってもやめてもらえなかったことが・・・」
誰もが無言になった。これ、確定じゃん、と。
仮にそういうことがあったとしてもです、とメフィストは燐の言葉を遮った。
「奥村燐は悪魔です。そして私も悪魔です。
性犯罪などという言葉は人間が使う言葉です。
悪魔に人の法律が適用されるなんてことは聞いたことがありませんね!」
悪魔は法律に縛られはしない。
人に手を出せば犯罪だが、人でないのだからいいだろう。
余りに横暴な論理だが、結局やましいことをしていたのは事実のようだ。
雪男はキレているし、燐は栄養不足でぼーっとしてる。
メフィストは裁判官、悪魔が法律に縛られることはあるのでしょうか。とルシフェルに問いかけた。
悪魔の論理は悪魔が決める。確かに一理ありますね。とルシフェルはメフィストに賛同した。
判決を下します、と法廷に乾いた音が響く。
「この一件は悪魔の裁量でどうにでもなるということが判明致しました。
というわけで、悪魔で裁判官の私の独断と偏見でサマエル、末の弟に手を出した貴方は死刑です」
ルシフェルがぱちんと指を鳴らすと、周囲にいたセラフィムが輝く光を放ち始めた。自爆する気だ。
メフィストははじけ飛ぶ瞬間に叫んだ。
「異議あり!!!!」
起きたら、そこは自分の執務室であった。
手にはゲームオーバーと表示されたゲーム機を持っている。
夢だったのか。なんていう現実的な夢を見ていたのだろう。
そもそも、裁判官がルシフェルだった時点でメフィストの命運は尽きている。
とんだ魔女裁判、いや悪魔裁判だ。メフィストはため息をついた。
しばらくして執務室の扉がノックされベリアルがお客様です、と客人を案内してきた。
客人とは、逮捕状を持った警察官であった。
夢が、現実になる。
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