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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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亡国のプリズム9


俺たちを助けてくれ。
ただ一つの願いを、悲鳴を聞いて私はここへ降り立った。
そう、私の敵である兄の手の中にそれはいた。

目の前にうずくまる小さな青い瞳の子供の姿を見て、メフィストは笑い出しそうになった。
聞いたことがある。父である魔神が気まぐれに人間の女を孕ませて、
子供が産まれた。その子供は青い炎を使うのだと。
あくまで、悪魔同士の噂でしかないと思っていた。
父の力を受け継いだ者は、メフィストを含め兄弟の中でさえ誰一人いなかった。
生粋の悪魔であるメフィスト達でさえ神なる父の炎は継げなかったのだ。

それがどうだろう。

目の前にいる子供を見て、メフィストはにやりと笑う。
悪魔としてはまだ子供も子供だが、内に秘める力は父に匹敵するものがある。
内を見ると、ルシフェルに手をつけられているようだったが、そ
のことすらも今は不快に思う前にむしろ喜ばしい。
この子供はここから、ルシフェルの手から逃げ出したいと思っている。
そしてメフィストはこの子供を浚いたいと思っている。

今日はとてもいい日だ。

メフィストは指を鳴らして、その場の時を止めた。
動かなくなった外道院と屍人。出雲の姿を見て、燐は動揺する。
出雲は間一髪で助かった。けれど、燐と目の前にいる男以外は動かない世界。

「出雲と月雲に何をした!」
「落ち着いてください。時間を止めただけです。彼女たちに危害は何も加えていません」
「時間を・・・?」

燐が周囲を注意深く見ると、飛んでいた埃や敵である外道院も動きを止めている。
ぴくりとも動かない。こんなことをできる奴がいるのか。
燐はメフィストの姿を改めて見た、ピエロの格好をした胡散臭い男がそこにいる。

「申し遅れました。私メフィスト=フェレスと申します。
貴方の望みに答え、城で執務中であるにも関わらず参上したまでです」
「じゃあお前、俺が呼んだ・・・悪魔、でいいんだよな」
「ええ、並大抵の者では私は呼び出せはしないのですが、
呼びかけに応じた分、貴方の願いを叶えましょう―――その代わり、対価は頂きますけど」

悪魔と取引するには、相応の対価が必要になる。
相手が上級になるだけ求められるものは上がっていく。
燐は迷わず答えた。

「俺たちを助けてくれ」

自分だけじゃない。
出雲も月雲も。ここから連れ出してくれ。
メフィストは笑う。
ああ、兄であるルシフェルはメフィストが現れたことに気づいているだろう。
それでも、あのいけ好かない兄の目の前でこの子を浚う気分は最高だ。
それこそ、対価などいらないくらいに楽しい気分だった。

「承知しました、小さな若君」

メフィストが燐の体を抱き、時の止まった出雲と月雲を腕に寄せる。
子供三人を抱いてもまだ余りあるほどにメフィストの体はとても大きく感じられた。
スリーカウントを鳴らして、四人の姿はピンク色の煙とともに消えていった。
時が始まり、気がついた外道院の目の前には誰もいなくなっていた。

***

暗闇と冷たい床しか知らなかった体に暖かい太陽が差し込んだ。
目を開くと、地面には緑と土が満ちており、遠く続く地平線まで青い空が広がっていた。

世界が、広い。

燐は目を瞬かせた。
今まで燐が知っていたのは、狭い村と暗い森。そして、あの冷たい研究室だけだった。
こんな世界があるだなんて、夢にも思わなかった。
地面に足をつけると、生きていると実感できた。

「どうです、久しぶりの外の空気は。
あそこは息がつまるほどに死と欺瞞に満ちた場所だ。
子供の情操教育にはとてもよろしくないですからね」

その証拠に屍人の障気に当てられた出雲や月雲はまだ目覚めずに
メフィストの腕の中で気を失っている。
悪魔である燐と人である出雲達では明確に違いがあるのだ。

「すげぇ、空がきれいだ」
「それはよかった。では、あちらの風景はどうです」

メフィストが指さした方向には、国があった。
小高い山の上に大きな城が構えられておりその麓には城下町が広がっている。
遠目からでも、多くの人が町を動かす為に働いている光景が見えた。
あれだけの人がいるなんて、信じられない。
燐の見たこともない触れたことのない世界がある。
燐の胸はいっぱいになった。
けれど、一抹の不安が脳裏によぎる。
そうだ雪男はどうなったのだろう。
王族だということで連れていかれてしまった、弟は無事なのだろうか。

「なあ、お前は悪魔なんだろう。悪魔って何でも知ってるのか」
「なんでも、という訳ではありませんね。
少なくとも私はあの国で貴族に成りすまして暮らしていますから
人よりは知っている、くらいですけれど」
「人より知ってるならいい。
俺の弟、雪男っていうんだ。どこにいるか知らないか」
「それは貴方の願いですか」
「うん、無事に暮らしていることが知りたい。知ってたら教えてくれ」

呼び出された主人の願いならば従わざるをえない。
メフィストはじっと燐の姿を見た。
弟、というと弟の方も魔神の血を引いているということだ。
そうすると、瞳に赤い光彩が出るという特徴もある。
そうだ、いつだったか城で噂になっていた。王族の子が見つかったと。
使用人の内の誰かがそれの瞳は、珍しい青い瞳と赤い光彩だと言っていなかっただろうか。
導き出された結論に、メフィストは笑いだした。

「貴方は魔神の子でありながら、敵国の王族の子でもあるのですか!
いやあ全く、だからこそ人はおもしろい!」

メフィストは呆然とする燐に全てを話した。
燐の正体が人類の敵である魔神の落胤であること、
そして弟は王として目の前に広がる国に祭り上げられていること。
悪魔の国と、人の国。この二つは長きに渡り戦争を繰り返していることも。

「人と悪魔は相入れない。貴方は弟さんに一生会うことはないでしょう。
だって貴方は悪魔ですからね」

敵を内に入れる者などいない。
メフィストはそう切り捨てた。
話を全て聞き終わった燐はメフィストの顔面に向かって思い切り蹴りを食らわせた。
突然のことに体勢を崩したメフィストだが、
腕に抱えていた出雲達は離さなかっただけ根性はある。

「俺は悪魔じゃない!!」
「ではこの耳と尻尾はどう説明します。
人は人と違うものを迫害し、蔑みます。
貴方がどう望もうとも、貴方は人間である弟とは違う。悪魔です」
「なら、悪魔のまま人として生きる」
「愚かなことを」
「そんで、魔神をぶっとばす」
「は?」
「この国は、悪魔に攻められているんだろ。
雪男が生きているこの国に、手出しなんかさせねぇ。
俺が魔神を倒して、雪男が安心して暮らせる世界を作るんだ!」

あいつが王として生きなきゃならないなら、俺はあいつの盾として生きてやる。
王座に興味などなかった。ただ、家族が安心して暮らせる世界が欲しい。
燐の動機はごくごく単純なものだった。
その計画は壮大だ。けれど、その身に眠る青い炎を使えば不可能ではない気がした。
メフィストはひとしきり大笑いをすると、よろしいと指を鳴らした。

「おもしろい、その願いを叶える為に私も人肌脱ぎましょう。
貴方をあの国の騎士団の団員として迎え入れます。
見習いから這い上がり、騎士団長まで上り詰めてごらんなさい。
そうすれば多少なりとも王族や貴族達への謁見も叶いましょう。
貴方はあの国の、王の武器となるのです」

王の兄という事実を隠して、泥をすするような汚い仕事も侵しながらそれでも前に進んでみせろ。
弟は王としての身分から、兄のことを見る機会もそばにいると思うことすらないだろう。
それでも、ただ一目会いたいという思いだけでどれだけやれるのか、それを私に見せて見ろ。

「貴方の弟に会いたいと叫ぶ心が、悲鳴が。私を呼び出した対価です」
「・・・わかった、なんとしてでもやってやる」

人と悪魔。王族と下民。
同じ母から生まれたはずなのに、二人の運命は大きく分かれてしまっていた。
燐の決意は確かだ。けれど、同時に不安も抱いていた。
雪男と別れた時、燐はまだ人間だった。
けれど、ルシフェルに無理矢理目覚めさせられてせいで燐は悪魔として覚醒してしまった。

雪男は、俺が生きてたらどう思うだろう。
悪魔としての俺を、一体どういう目で見るんだろう。

燐の先を見つめる瞳はまっすぐた。けれど。
王様になったお前は、俺のこといらないって思うかもしれないな。
不安を抱きながらも、燐は弟がいる国で生きていくことを決めた。


「しかし燐くんに兄上のにおいが染み着いていて結構なレベルで不快ですね。
これから秘密を共有していくにあたり、今晩あたり私とどうですか」


誘ったメフィストは出雲達を避けた上で青い炎で盛大に燃やされた。

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