青祓のネタ庫
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*WEB用に改行しておりますが実際には詰めてます。
【メモリアルダイバー】
雪男はそっと視線を探らせる。
いつも、しえみが座っている席の横。
そこに見たこともないものが座っていた。
青みがかった黒髪に、成長期だろう未成熟の体、服は正十字学園の制服を着ている。極めつけはその瞳だ。
青い瞳に、赤い光彩。独特の色合いの組み合わせは、他に見たことがなかった。目が、僕と似ている。
雪男が感じた印象はそんなものだった。
体は志摩が言っていた通り、透けていた。やはり幽霊。ゴーストの類だろう。
雪男は一応聖水を持ってはいるが、この幽霊に対しては敵対行為を取りたくないと思ってしまった。
雪男の迷いを見抜いたのだろうか。最初から気づいていたのだろうか。教室の中から声がかかった。
「入れよ」
声は、ただの人間の声だ。まるで生きているかのようにも感じてしまう。
しかし、彼は死者だろう。体がそこにはないのだから。雪男は観念して、教室の中に足を踏み入れる。
「気づいていたんだね」
「まぁな、音したから」
「これでも訓練された祓魔師なんだけどね」
「それを言うと、俺は悪魔だけどな。音で人の区別くらいつくよ」
雪男は思わず自分の足下を見た。
足音は立てていないに等しかったのに、人が移動するほんのわずかな音を聞き取っていたのか。
雪男は目の前にいる幽霊に向き合う。足下に向かって伸びる、黒い尻尾がある。
人間ではない、悪魔の証拠だ。悪魔でも幽霊になることがあるのか。これは新たな発見だ。
「君、すごいね」
「そうだろ、奥村雪男先生」
「あれ、僕の名前知ってるの?」
「いつも見てたからな、ここで」
幽霊の少年は自分が座っている席を示した。
そこは教卓からほど近い場所で、居眠りをしていても一目瞭然な位置だった。
こんなに近い場所にいた、というのなら雪男が気づかないわけないのだが。雪男は首を傾げる。
しかし、幽霊とはそういうものだ。いつも見えるものから出現状況が限られる者まで限りなくいる。
少年は、どちらのタイプだろうか。今のところ塾の中でしか目撃はされてないらしい。
「不思議か?俺が見えるのが」
「今までは見えなかったからね」
「ま、ちょっと頑張ってみたからその成果かな」
「なに?誰かに用でもあったの?危害を加えることを考えていたのなら・・・」
「おい、その物騒な銃をチラつかせんなよ!そんなこと考えたこともねーから!」
「じゃあ、なんでここにいるの?何か未練でもあった?」
雪男が幽霊に問いかける。未練、それはゴーストを。幽霊をこの世に縛り付けている鎖だ。
鎖がなくなれば幽霊は消えていく。それに、ずっとここにいるとなると彼にとってもよくないだろう。
「ここは悪魔払いを専門とする祓魔塾の教室だよ。今はいいかもしれないけど、
ずっとここにいたら教員や生徒の誰かに祓われてもおかしくはない。君はそれでもいいのかい」
悪魔を無理矢理に祓うことは以前と比べて少なくなったとはいえ、ないわけではない。
雪男自身、悪魔が上げる断末魔の悲鳴が耳について眠れない日が続いたこともあった。
今では悪魔の個体数自体が減少しているため、騎士團の方針もだいぶ柔らかくなってはきている。
自分と同じ学園の生徒の幽霊。できることなら、祓わずに済ませたかった。
この幽霊の未練は、想いはなんだろうか。雪男は問いかけた。幽霊は、少し目を伏せてから口を開いた。
「俺、やり残したことがあるんだ」
幽霊は、ここに残りたい。残って、祓魔塾の授業を一緒に受けたい。と言い出した。困ったのは雪男だ。
いくら未練があるとはいっても、現在受験や昇級試験に追われる教室に幽霊を入り込ませるなど、
教員としてどうだろう。雪男の眉間にどんどん皺が寄っているのを見て、幽霊は文句を言った。
「なんだよ、人にやりたいこと聞いておいて。無理ならポイか。せつねぇな」
「よく言うね、本当ならここで無理矢理祓うことだってできるんだよ?」
雪男は幽霊の言葉に少しカチンときて、冗談めかして手のひらで銃を転がした。
以前なら悪魔を見つけた瞬間に引き金を引いた代物だ。
思えば、こうして会話をするだけ雪男にとっては進歩だろう。
しかし幽霊は、当然ともいう風に口にした。
「お前に俺は撃てねーよ」
当然であるかのように言うので、雪男は拍子抜けしてしまった。
先ほどのように動揺するでもなく、雪男なら絶対にそんなことはしないだろう。という信頼ともいえる眼差しだった。
悪魔からそんな目で見られたのは初めてだ。雪男はどう対応していいのかわからなかった。
「ひとまず、明日塾の皆が来てから相談しよう。僕だけの教室ってわけじゃないからね。それでいい?」
「おう!ありがとな雪男!」
「ちょ・・・呼び捨て?年下なのに」
「俺お前と同じ年だぞ」
「え、嘘だろ!?」
雪男は思わず、幽霊の顔をまじまじと見てしまった。
月明かりに照らされているが、教室の中が暗闇に包まれていたことがよかったのだろう。
輪郭がぼんやりと映し出されて、幽霊の顔がそこにあることを教えてくれる。
どう見ても、年下だろう。結論はやはりそこだった。
「ま、俺悪魔だから成長スピードが人間と違うんだよな」
「それを早く言ってよ」
雪男が思わず幽霊の肩を叩こうとするが、その手はすり抜けてしまう。
その光景を、幽霊は寂しそうな眼差しで見ていた。雪男はその顔を見て、心が乱れた。
そんな顔をしないでくれ。強く思った。でも、相手は悪魔の幽霊だ。
そんな人の心を動かす手段など心得ているのかもしれない。
雪男は幽霊に視線を合わせられないまま、後ろを向いた。
「ひとまず、今日は帰るよ。それまではここにいていいから」
「おう、じゃあお言葉に甘えるぜ」
雪男はそのまま教室を出ていこうとした、明日のことを考えると憂鬱だ。
雪男がこの状況をどう説明するか悩んでいると、背後から声がかかった。
「俺の名前、なんて名前だと思う?」
幽霊は問いかけるようにつぶやいた。悪魔の誘いや甘言に乗ってはならない。
それは祓魔師になった時に教えてもらう最初の言葉。
雪男はこの幽霊のことを全面的に信頼しているわけではない。
害はなさそうだが、見える一面だけ見ていると痛い目に合うものだ。
「さぁ、思い当たらないな」
雪男はそのまま答えた。この幽霊に会ったことは一度もない。
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