青祓のネタ庫
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「悩み相談室・・・ですか?」
雪男は自分に振られた任務の内容を確認した。
窓口での案内はやったことはあるが、今回は電話での対応らしい。
本来なら別の担当者がいたのだが、担当者が急遽インフルエンザにかかってしまい、お鉢が回ってきたと言うわけだ。
電話での応対は対面式とは違い、相談者の顔が見れないので意外と難しい。
対応を間違えればクレームになってしまう。雪男は気合いを入れた。
丁寧に対応すればきっと大丈夫なはず。
雪男は電話応対での注意点を確認する。
まず個人情報を漏らしてはならない。これは基本だろう。動揺してはならない。
これもそうだ。相談相手が挙動不審では相談者が安心できない。
そして、これは他と違うだろう。自分の名前を言ってはならない。
この電話は祓魔師の悩み相談も応対しているらしい。
曰く、祓魔の世界は世間が狭い為お互いに誰であるかわからないようにしていた方がいいらしい。
もしも事態が緊急を要するなら名前を聞く場合もあるが、それでも言うか言わないかは本人の判断による。
セクハラなどデリケートな問題もあるからだ。そのほかにもパワハラ、差別問題うんぬん。
いくつかある資料を頭に叩き込んで雪男は電話の前に座った。
他の部署に内容が漏れないように、電話ボックスのように仕切られた場所にいる。
他の応対者も横並びに同じところにいるが、会話はできない。中は完全に防音だ。
雪男は心を落ち着けた。電話相談は世間の人が家に帰る夜七時から十時までの三時間の間に行われる。
今日は平日なので時間は限られるが、土日は八時間拘束だ。早く担当者が復帰することを祈るばかりである。
時計を確認すると時間になった。途端に電話機が鳴り響く。早いな。
ワンコールで出ると、マシンガントークが始まった。雪男は落ち着いて対応する。出だしは上場だった。
「・・・いえ、だから大丈夫ですから安心してください」
電話の応対を始めて10件目で疲労が出てきたところで引っかかった。
長時間電話を引っ張る強者が。この場合は早く切り上げて次の電話に移るのがセオリーだがそれが中々難しい。
雪男は更に十分かけて相談者を納得させてから、電話を切った。時計を確認する。
終了時間十五分前だ。雪男は一息ついた。あと一件くらいで終わるだろう。
一呼吸おいたところで電話が鳴る。これで終わりだと思えばやさしくなれる気がした。
「はい、こちら正十字騎士團お悩み相談室です」
「あのー、相談したいことがありまして」
「どういった件でしょうか?」
問いかけると、相手は少し口ごもった。言いにくいのだろう。
この場合は出方を待つに限る。しばらく待っていると、話し出した。
声の感じからして若い男だろう。
「セクハラについてなんですけど」
「はい」
「男がされている場合って・・・どうやったら止めてもらえるかなって」
おおっと、これは重い内容が来たぞ。雪男は内心冷や汗をかいた。
雪男は大人びているとは言っても所詮十五歳の男子高校生である。
セクハラ問題はもっと人生経験のある人に相談してください。とも言えるわけもなく。
「相手は女性上司とかでしょうか」
言って浮かんだのは痴女まがいの格好をしたシュラであった。
あの人なら初な新人祓魔師をからかっていたとしてもおかしくはない。
あんな体をしておきながら中身はおっさんだ。だからこそ性的なことに対して容赦がない。
免疫がなかったら対応は難しいだろう。と、雪男は勝手に犯人を決めつけていた。
相手はうーんと声を上げると。
「言いにくいんですけど、男から・・・」
おおっと。もっと重い内容だった。男から男へのセクハラ対応。
これはもう自分の手に負える内容ではない。どうしよう。
雪男が悩んでいると、電話口の相手はぼそぼそと話始めた。
そうだ、話を聞いて欲しいなら、聞くくらいなら僕にだってできるだろう。雪男は覚悟を決めた。
「どうぞ話して下さい」
「はい・・・最初は気のせいかなって思ったんですけど。
ここでいうなら、上司、かな。話があるって部屋に行ったんですけど。そしたらいきなり抱きしめられて」
驚いて抵抗したのだが、上司の手前強く出られなかったらしい。
その上、最初から部下が抵抗することをわかっていたのか、交換条件を突き出してきた。
もう金は渡さない。家族がどうなってもいいのか。と。
「それは・・・悪質ですね」
「はい、でもそれ言われたら俺としてもあんまり強く出れなくて。
上司に金を貰っているのも事実だし・・・家族のことも」
弱みを握られた人間は弱い。そのままなし崩し的に関係を強要されているようだ。
雪男は頭が痛かった。まさか騎士團内部でこんな犯罪が行われていようとは。
しかも男と男。差別をするつもりはないが、明日からすれ違う同僚の様子を確かめてしまいそうである。
相談者が男であることも上司の手の内である気がする。
男であったらそんなことがあったとしても、周囲に相談しにくいだろう。
これは犯罪だ。雪男は覚悟を決めた。
「言いにくいですが、これは犯罪です。訴えることも可能ですし、警察に突き出すことも可能ですよ」
あくまでそうしろ、とは言わない。
相談者のプライバシーのこともあるし、決めるのは相談者でなければならないからだ。
相談者は悩んでいるようだった。警察に訴えるにしても、実名が出てしまう。
男なら当然悩む問題だ。女性にしてもそこで躊躇してしまう。
「そうなると、相手は捕まりますか?」
「ええ」
そうでなければおかしいだろう。見返りや立場を利用して関係を強要するのは対価型セクハラと呼ばれる。
立派な犯罪だ。犯罪者を野放しにしてはならない。
「わかりました・・・最後に上司に強く言ってみます。それでもダメなら最終手段に出ることにします」
「そうですか、がんばってください」
「ありがとうございます。こんな時間まで」
時計を確認すれば相談時間をとうに過ぎていた。それでも迷える子羊を救ったならばやりがいはあった。
修道院でも神父が相談者に対して導きを行っていた。
それに比べたらまだまだだけど、少しでも人の役に立てたのならいいな。と思った。
「元気出ました。家族に晩ご飯作って、行動に移そうと思います。覚悟決まりました」
「ふふ、よかったですね。ちなみに今日のご飯は何ですか?」
雪男にしたらちょっとした世間話くらいの問いかけだった。相手もそれにうれしそうに答える。
「弟の好きな、魚の煮付けにしようと思います。ありがとう」
相談者はそう言って電話を切った。
電話の切れた音が頭に響いている。
雪男はすごくすごく嫌な予感がした。
電話が切られる前に、うにゃーん。という猫のうれしそうな声が聞こえてきたからだ。
猫はどこにでもいるだろう。誰だって飼っているだろう。
でも、でも。相談者がイコール頭に浮かんだ人物だったらどうしよう。取り返しがつかないことになりそうだ。
雪男は受話器を置いて、急いで立ち上がった。
相談時間が終わればそのまま帰っていいことになっている。一分一秒でも時間が惜しい。
それでも雪男は相談室を出て一言声をかけた。帰りますね。え、ああお疲れ。
その言葉を背後で聞いて、鍵を近くにあった扉に差した。律儀な性格の自分が恨めしい。
一息で寮に到着すると、急いで食堂を確認した。そこにはほかほかの魚の煮付けがある。
一足先にクロが煮付けを食べていた。
「クロ、兄さんは!?」
クロはうにゃーんと声を上げた。肉球を上に上げている。部屋か。
階段をかけ上がる。廊下に出ると、部屋の中から声が聞こえてきた。
『やめろッ俺はもうお前とそういうことはできない!』
『何故ですか奥村君、こんなにも私は貴方を愛しているのに!』
ビンゴだ。
雪男は自分の勘を信じたことに感謝しながらも、この巡り合わせを呪った。
いつもの担当者がインフルエンザになっていなければ。
電話をかけるタイミングが少しでも違っていれば。受け取るものが雪男でなければ。
こんなことにはならなかっただろう。
兄は後見人に、メフィストに手込めにされた。
断罪を下すのはこの手に握る銃のみだ。
雪男は扉を蹴りやぶった。
部屋には、ベッドの上でもつれ合うメフィストと燐がいた。
個人情報保護法など知ったことか。
これはメフィストという後見人が実の兄に対して犯した性犯罪への粛正だ。
漏洩には当たらない。
「こちら正十字騎士團お悩み相談室です!!」
男子寮に発砲音が響きわたる。
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