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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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メフィストの屈辱


さぁ撫でろ、と言わんばかりに毛玉が膝の上にいる。

いつもは猫又のクロの居場所なのだが、クロはお散歩に出かけている為、ここにはいない。
それを幸いとばかりにメフィストは我が物顔で燐の膝を占領していた。
もちろん、ピンクのテリアの姿である。
これがもし人型だったのなら、間違いなく蹴りとばしているのだが。
動物の形をしているものに暴力を振るう気にはなれない。
燐は基本的に優しい性格をしているのだ。
メフィストはそこにつけ込んでいる。

(邪魔だなぁ・・・)

さすがに口には出さなかったが、膝を占領されると身動きがとれない。
燐は考えた、今は休日とはいえやることはたくさんある。
平日にできなかった家事を自分がやらなければ、一体誰がやるというのだろう。
俺もお母さん欲しいわ。雪男と交代で家事をやっているとはいえ、メインで動いているのは燐だ。
雪男は働いているので帰宅時間も遅い。そうなれば燐がやるしかないのだ。
ここで時間を無駄にするわけにはいかない。燐は最終手段に出た。

メフィストの背中をそう、と撫でる。ピンクの背中がぞわぞわ、と動いた。
燐はその動きを見逃さなかった。よし、いける。燐の指が巧みに動いた。
背中をごしごし撫でてから、頭からしっぽの付け根まで揉みほぐすように手を動かす。
そのまましっぽの先まで指で擽ると、次は肉球だ。
足の指、爪の先まで広げてから肉球をぷにぷにと刺激する。
案の定、メフィストは膝の上で溶けていた。

「あああ~」

すさまじいマッサージ効果だ。メフィストは溶けきっている。
恍惚の表情である。燐は気を良くして、手の動きを続けた。

ここか、ここがええんか

志摩がエロ系のゲームをやっていた時によく呟いていた言葉を思い出す。
確か、指でこするとゲームの女の子の服がなくなっていくとかいうゲームだった。
志摩の恍惚とした表情を思い出して、なんともいえない気分だ。
いや、これは単に撫でているだけだから、変な意味はない。
でもメフィストはぺしょんと潰れているし、心なしか呼吸が荒い。
燐はイヤな予感がしていた。なにか、自分はやりすぎてしまったような気がする。

「っく、いつこんな手管を身につけたのですッ」
「てくだ?いや、いつもクロが撫でろって言ってくるから自然と・・・・」
「なんですって!?」

メフィストの首が、燐の方へ回る。燐はきょとんとした顔をしているが、それを許すメフィストではない。
おのれ猫又め。こんな喜び、いや楽しみを見いだしていたとは。
しかし今回気持ちよく撫でてもらったとはいえ、クロの二番煎じのような気分で屈辱的だ。
メフィストの頭の中では、クロと燐のスキンシップが性行為にまでレベルアップしていた。

事実は只のマッサージなのに、思いこみとは恐ろしく激しいものである。
膝の上の不穏な空気を感じ取ったのか、燐はもう終わりだ。とメフィストの尻を叩いた。
クロにもやっているので、癖のようなものだった。
クロとの間ではこれが終わりの合図なのだ。しかし、メフィストはそんなこと知らない。
いきなり尻を叩かれて、ごろりと膝の上から転げ落ちてしまう。
痛みで変身が解けてしまうくらい驚いた。

「ぎゃ!」

床の上に転がるおっさんに、燐はテリアに向ける視線ではなく冷たい視線を向けた。
ああ、自分はこんな奴撫でてたのか、ちょっとイヤだな。

「俺家事やるからさっさと帰れよ」
「人の尻叩いておいてひどい言い草ですね!」
「変な言い方やめろよ!」

メフィストはなぜあんなに燐に触れられると気持ちがいいのか考えた。
もしかして、青い炎が原因ではないだろうか。青い炎は全ての悪魔の根源に通じるものだ。
いわば、悪魔にとっての命であり、悪魔にとっての力そのもの。
その青い炎がじんわり燐の手から伝わってきているのだと考えると。
気持ちがいいに決まっている。これは由々しき自体だ。
そんな高貴なものをほいほい使っているとは、燐はわかっているのだろうか。
いやわかっていない。そんなのあの猫又なんかに使わないで欲しい。
自分だけで独占したい。
メフィストのクロへの許せない気持ちが、不幸なことに燐へと向かってしまった。

「人の尻を叩くわ、炎を安く使うわ!貴方は少し反省すべきですね!」
「え?」

メフィストは人差し指を燐へと向けて。いつものスリーカウントを唱えた。

「アインス・ツヴァイ・ドライ!」

ぼふん、と燐が煙に包まれる。どんな変な格好になっているのか。
燐は恐る恐る自分の姿を確認した。しかし、別に何かが変わった訳ではないようだ。
燐は目の前に立ってニヤニヤ笑っているメフィストに向かって殴りかかった。

「なにすんだよ!」

殴りかかった燐の手が、メフィストによって止められる。
メフィストの手のひらに吸い込まれた拳は。ぱし、という乾いた音を部屋に響かせた。
そこで燐はいつもと違う感触に気づく。あれ、おかしくないか。
燐は違和感を感じながらも、もう片方の手で殴りかかった。
その手もメフィストに捕まれてしまう。両手をぐい、と頭上にあげられて足が浮く。
ばたばたと足を振るが、抵抗ができない。

おかしい。いつもならもう少しくらい抵抗できるのに。
自分に起こった変化についていけない燐に、メフィストが答えを呟いた。

「ふふふ、力が出ないでしょう?貴方の悪魔としての力を封じました。
今日一日、貴方は只の人間です」
「はぁ?なんでそんなこと」

きっかけはクロに嫉妬したからです。
とは言えないのでもっともらしいことをメフィストは口にする。

「貴方は悪魔としての力に頼りすぎですし、炎を垂れ流し過ぎです。
一日くらい力に頼らず生きてみなさい!」
「俺はそんなことしてねぇよ!」
「自覚は大事ですよ奥村君」

ぽい、とメフィストに軽々と投げられ、ベッドに転がされた。
メフィストにのし掛かられて、燐は身を竦ませる。
炎を出そうとしても、出せなかったからだ。
いつもなら力でどうにでも退かせるのに、今はできない。
メフィストは燐の首筋を舌でなぞった。

「わかりました?人間が脆弱な力しか持ち合わせていないことが」
「うる・・・せぇ!!」

腹を蹴りとばす。メフィストは燐のささやかな抵抗をものともせずにそこにいる。
まるで飼っているペットとじゃれあっている、くらいのレベルにしか見ていないのだ。
燐は、少しの恐怖を覚えた。瞳に怯えが写る。
それをメフィストは愛おしそうに見つめていた。
燐に思い知らせることができたと思ったのだろう、メフィストは燐の上から退いた。

「では、良い一日を」

メフィストは煙のように消えていった。
燐は急いで起きあがると、メフィストに舐められたところを拭き取った。

今日一日、燐はただの人間であるらしい。
さわって確認すると、しっぽもなくなっていた。耳も尖っていない。
完全に人間であった時のようになっている。
一応、十四歳までは人間として過ごしてきたのだから、別段変化はないだろう。
燐は単純に考えていた。

「気を取り直して・・・家事するか!」

たまっている家事を消化すべく、燐は腕をまくった。
あんな変な悪魔のことなど忘れてしまおう。今日一日くらいなんとかなるさ。

***

「くっ・・・腕がいてぇ」

燐は大量の洗濯物を持って屋上に上がろうとして、挫折していた。
なんだこれ、いつもなら軽々階段上がれるのに。
洗濯籠二個を一階から屋上にまで持ってあがるのに、こんなに疲れるものなのか?

燐は階段の踊り場でぜいぜい息を切らしている。
普通の人間なら当たり前のことなのだが、体力宇宙の悪魔体質であった燐にそれがわかるはずもない。
今の燐の体は、平均的な男子高校生の体でしかないのだ。
不自由な体を抱えながら、燐はなんとか洗濯物を片づけた。
その後も、料理をしようとして鉄鍋が重くてふらふらになったり、買い物袋を倒しそうになったりした。

屈辱だ。燐は絶望感を抱えながら、部屋に引きこもっていた。
今日部屋から出なければ、問題は起きないだろうと思ってのことだった。
しかし、無情にも部屋に携帯の着信音が響く。

「え?任務・・・?」

志摩からの連絡に燐は一瞬行きたくない。と言いそうになった。
いや、だがここで逃げたらメフィストに言われた通り、
悪魔としての力に頼りすぎていたことを認めてしまうではないか。
ならば行くしかない。燐は倶利伽羅を持って立ち上がり、部屋を出た。

部屋の隅に、黒い陰が沸いていることには気づかなかった。

***

「奥村君、今人間ってほんま?」
「うん、マジっぽい」

待ち合わせ場所にいた志摩はまじまじと燐の姿を見た。
確かに耳も尖ってないし、しっぽもなくなっている。
出会った時には悪魔だったので、志摩にとっては新鮮な姿だった。
志摩は、思いついたように提案をした。

「奥村君、腕相撲しよう!」
「えー、いくら人間になったからってお前には負けねぇわ」
「ええから、ええから」

近くのベンチに腕を乗せて、勝負した。
結果、燐が負けた。

「うはははは!勝った!初めて奥村君に力で勝ったった!!」
「嘘だッ!」

もう一回やって、やっぱり負けた。燐は呆然としていた。
呆然としたまま、任務に取りかかると案の定失敗した。
現在、植物型の悪魔に宙ぶらりんに吊されている。
倶利伽羅も取られてしまったので抵抗の仕様もない。

「おーろーせー!!」

ばたばた動いていると、頬を銃弾がかすめた。ぴたりと動きを止める。
志摩が呼んだのだろう、雪男がライフルを構えているのが見えた。

おお弟よ、兄を撃つことなかれ。
兄ちゃんは今人間なので、撃たれたら死んでしまいます。

しかし、そこは雪男なので抜かりはなかった。
銃弾は悪魔の急所をずれることなく打ち抜いた。打ち抜いたことで悪魔は消える。
燐は落下した。このまま落ちれば骨折くらいはしそうだ。
身をすくませていると、暖かく自分を包む何かがあった。

「兄さん、大丈夫?」

落ちた燐は、雪男に抱き止められて難を逃れたようだった。
よかった、助かった。と思っていると雪男はそのまま歩きだしている。

「降ろせよ」
「志摩君から聞いたよ、兄さん今人間なんだってね」
「う・・・うん」
「じゃあ、僕の方が今力が上なのかなぁってね」
「なん・・・だとッ!?」

燐は雪男の腕から逃れようとしたが、できなかった。
そのまま笑いながら抱えられて抵抗の仕様もなかった。
雪男は体格が良く、燐よりも身長が高い。普通に考えれば燐よりは力は上のはずだ。
それが逆転したのはひとえに燐が悪魔としての力を持っていたからだった。

「兄さんは大人しくしてるといいよ、今日はずっと部屋にいてもいいからね」

雪男は生まれてから今までで一番いい笑顔をしていた。充実している。という顔だ。
今まで兄を守ろうとがんばってきたのに、それがうまくいかなかった。

その夢が叶っている。実にいい日だ。

雪男はそのまま笑いながら燐を六○二号室に監禁し、実にいい笑顔でまた仕事に向かっていった。
兄よりも勝り、兄を監禁したかった夢も叶い、雪男は最高の気分だったようだ。
もちろん、雪男の名誉のために言っておくと、監禁したのは燐の身の安全の為である。


燐は怒濤のような一日を体操座りで振り返った。


「俺、やっぱり悪魔として生きてたんだなぁ」


燐は優しい詠唱の仕方。という教科書を読みながら遠い目をしていた。
無くなってみると、いかにその力に頼っていたかがわかる。
それが普通になっていたからわからなかっただけなんだろう。
メフィストの言うとおりだったのかな。
落ち込んでいると、床に差している影が動いた。
窓の外の夕日が落ちている。今日が終わりそうだった。
床の影に視線を落とすと、影が不自然な動きをしていた。

「ん・・・?」

影から、手が出てきた。顔が覗いている。視線が合った。

「ワカ、ギミ・・・おいたわしい・・・お姿に・・・」
「ぎゃああああ!出た―――!!!」

アスタロトが腕を伸ばして、燐を影の中に引きずりこもうとする。
昼間に部屋の隅に沸いていた陰はアスタロトだった。
気づかれぬようにそっと潜り込んでいたのだ。
いつもなら、青い炎で撃退できる。
しかし、今は人間の姿。青い炎には頼れない。このままでは虚無界行きだ。

どうする。どうする。

雪男はこんな時どうしてた。勝呂はこんな時どうしていた。
神父―――ジジイはこんな時。
燐はあることを思い出した。
手元にあった教科書を引っ張って、ページをめくる。

「そ、そのこころにはあくがある」

燐は影に引きずりこまれながら、必死に詠唱を口にした。
悪魔であった頃なら考えられなかったことだ。
アスタロトの様子が変わり、ぐいぐいと燐を引っ張る力が強まる。
しかし。負ける訳にはいかない。

「主は、私の助け、私の盾であるッ」

アスタロトが苦しんでいるのがわかる。燐の口を塞ごうと影を延ばす。
させるか。燐は最後の言葉を口にして、十字を切る。

「汝、途に滅びん!!」

ギャアアアアア!!
アスタロトの依代だった魍魎の集合体が消えていった。
本体だったら、燐の拙い詠唱では効果はなかっただろう。でも、なんとかなった。

燐は自分の力で悪魔を退けることができたのだ。

部屋の中は、気づけば暗い。日が落ちたようだ。
体が変わっていくことがわかる。力が満ち、熱い炎が体の内側から沸いてくる。

「ようやく、元通りか・・・」

悪魔になりたかったわけではないが、
この世界で生きていくには悪魔としての力が必要なのだろう。
なくなって初めてわかることもあるものだ。

「でも、人間だからできることもあるんだよな」

詠唱で倒すことも、聖水で倒すことも、悪魔としての力がないからこそできることもある。
そうやって人は悪魔に対抗してきたのだ。
燐は聖水を持ち、十字架をポケットに入れた。
その身に宿る青い炎を纏わせて、行く先はメフィストの屋敷だ。

「悪魔祓いには、色々な手段が必要だってわかったわ」

それを今から証明しに行こう。
燐は倶利伽羅を抜く。途中で悪魔にとって毒である薬草も取っていこう。
青い炎だけではない。ありとあらゆる手段で、メフィストに思い知らせてやろうではないか。


「あいつは、俺をおもちゃにしたことを反省すべきだ!!」


志摩に負け、雪男はいい笑顔だった。燐の男としてのプライドはズタズタだ。
メフィスト邸に乗り込んだ燐は、メフィストにある屈辱を与えた。

聖水、十字架、薬草を使って弱らせた後、
青い炎でこんがりと焼き上げて抵抗を封じ、テリアに変身させる。
四十度の熱湯に放り込み、熱い温風をかけた後、
ブラシでときほぐして、青い炎を灯した手で撫でまわした。
そして、二人で一緒の布団に入って。
でも顔を見られたくなくて、背中を向けて口にする。

「人間になってわかったこともあった・・・いいたくねーけど、ありがとな」
「燐君・・・貴方可愛すぎますよ」

襲いかかろうとしたメフィストに、燐は指一本触れさせなかった。


メフィスト、夜の屈辱の出来事だった。

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