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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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首に鎖


しゃらんしゃらんと首に付けられた輪から伸びる鎖の音。
静かな部屋の中にその音だけが響き渡る。煩い。

この鎖と輪は取れないのだろうか。

初めは引っ張ったりしたけど、首が苦しいからそのうちやらなくなった。
鎖の先には何もついていない。
ただ、首の輪から鎖が伸びてるだけで、不自由だけど拘束されてはいなかった。
問題はこの鳥かごのような檻だ。
肩くらいなら外に手を伸ばせるけど、体が出れるような幅は無い。
かごの中には一面に白いクッションが敷いてあるから、体を痛めることはない。


このかごの中で、首に鎖を付けられて閉じ込められている。


自分の意思ではない、出れるものなら外に出たい。
でも、身体がだるくて力が入らなかった。
檻を壊すこともできない。
だから、鳥かごの中で寝そべってぼんやりと時間が過ぎるのを待つだけ。



鳥かごの前には天井まで広がる大きな窓があった。
外には学園に向かう学生服姿の少年少女達がいる。
自分の服を見る。
黒い長ズボンに黒いシャツ。黒いベスト。
ベストには所々白いレースがあしらわれている。
胸元には黒いリボンがあり、ゴシックな雰囲気が出されている。
なんなんだよこの服。
この服だって、自分で着たわけじゃない。
気がついたらここにいて、この服を着て閉じ込められていた。


俺も、あの制服着てたはずなのに。
なんで俺はここにいるんだろう。


ズキリと頭痛がした。
あれ、今の感情はなんだろう。
ここにいる理由もわからない、外の世界がなつかしい。
なんでだろう。なにも覚えていないのに。
この距離だと、顔が辛うじてわかるくらいだったけど外にいる皆は楽しそうだった。

見ているのが辛くなって窓に背を向ける。
部屋の中はがらんとしてて、唯一鳥かごの前にソファが置いてあるだけだ。

部屋の中はとても広い。

外には人がいるのに、この広い部屋には自分一人だけしかいない。
孤独感が強まる仕組みに嫌な思いが浮かんだ。
こんな悪趣味なことをするやつには心あたりがある。
覚えていないはずなのに、そいつの気配を感じた。
部屋の扉が開いた。この広い部屋にしては小さな扉を開いて、その人物はこちらに向かってくる。
コツ、コツ、コツ。
ヒールの高い靴のせいで足音がやけに響く。
人物はこちらが起きているのに気づくと、ニヤリと笑った。
そいつはソファに座って、足を組む。
自分が鳥かごの中にいることで、とても満足しているようだった。
思わず言った。


「悪趣味」
「よくわかっているじゃないですか」


ピエロ風の服を着た男は、おかしくてしょうがないという風だ。
こいつの好きにされたくないという思いが強くなった。

「外に出たい」
「許可できません」

鳥かごから手を伸ばす。
ソファのピエロには手が届かなかった。不快だ。
ピエロは立ち上がって、首から伸びた鎖を引っ張った。
がしゃんと音がして鉄柵に顔をぶつける。痛かった。
起き上がろうとしたけど、鎖を足で踏まれて起き上がれなかった。
鎖を持っていないほうの手で、前髪を掴まれる、視線を無理矢理合わせられる。


「あなたの苦痛に歪む顔、結構イイですね」


そのまま、顔に手を這わされた。こいつ、調子に乗りやがって。
唇を撫でる指に噛みついた。痛みに呻くかと思えばそうではなく。
逆に指を口の中に突っ込んできた。口内に相手の血の味が広がって気持ち悪い。
指は味を覚えこませるように動き回って出て行った。
見せ付けるように吐き出してやったけど。
ピエロ男は言った。


「あなた、名前は?」


名前?なまえ。俺の名前。
頭の中は霞がかかったように何も思い出せない。
口が勝手に動いて音を発する。


「奥村燐」


ピエロ男は考えるようにして言った。

「私の名前は?」

考えたけど思い出せなかった。また、口が覚えていたように応える。

「メフィスト」
「記憶あるんですか?」
「・・・ねーよ」

他人に聞かれて確信した。記憶はない。
でも口は覚えていた。
俺の名前は、奥村燐。そのはずだ。
その名前とともにあるはずの記憶は思い出せなかったけど。


俺は、どうしてここにいるんだろう。


不安な表情を見て満足したのか、メフィストは鎖を踏んでいた足を外した。

「また来ます。いい子にしててくださいね」
「外に行くのか」
「イイエ」
「じゃあどこに?」
「貴方のいないところに」

そう言って、メフィストは出て行った。
そうして部屋に取り残された。



心にぽっかりと穴が空いたようだ。
誰かいないのかな。
燐は窓の外を見た。

制服姿で学校に向かっていく集団の中にひときわ目に付く人物がいた。
そいつは後ろ姿だけだったけど、誰なのかわかった。
記憶はなかったけど、呼び止めたかった。

気づいてくれ。

窓を叩こうとしたけど、手は鉄柵に阻まれて届かなかった。
そいつは何かに気づいて後ろを向いた。
眼鏡、顔にあるホクロ。青い目。
その目は後ろから来た女の子に向けられていて、こちらには気づかない。

「・・・雪男」

雪男、あいつは確かそういう名前。
雪男は金色の髪の女の子と立ち止まって少しだけ話す。
二人とも笑っていた。でも、その光景を見て俺はすごく寂しくなった。

何も知らないけど、そこに俺もいたような気がして。
そこにいけないことが寂しくて、しょうがない。

雪男は先に歩き出した。
金色の髪の女の子は何かに気づいたのかこちらを向いた。
思わず口から声が出た。

「しえみ」

そうか、あの女の子はしえみっていうのか。
しえみは一瞬驚いた顔をした。
けど、雪男に呼ばれてこちらに背を向けて去っていった。
二人は仲が良さそうに歩いていく。
俺をおいて歩いていく。

「なぁ・・・雪男、しえみ」

学校に向かう人物はもうまばらだ。
しばらくしたら誰もいなくなった。
がらんとした部屋に、答えてくれる声はない。




「雪ちゃーん」
呼ばれる声に振り向く。しえみがいた。
いつもなら登校中に会うことはない。
今日はたまたまタイミングがあったのだろう、一緒に教室まで行こうという話になった。
「花も咲き始めて綺麗だねぇ」
「そうですね」
花びらが風に舞って、空に浮かんだ。しえみはそれを追って視線を空の方に向けた。
通学路から遠く離れた、空に近い屋敷の方に花びらは舞っていく。
正十字学園は町が上に上に積まれている構造になっているので、学校よりも上の方に
建物があるのは不思議ではない。
でも、しえみは疑問に思った。
その屋敷の―――窓のところに男の子がいたからだ。
「しえみさん、どうかしました?」
雪男が呼ぶ。しえみは屋敷に背を向けて雪男の方へ歩き出した。


あの男の子の顔。そうだ。


「なんだか、雪ちゃんに似た子がいた気がしたんだけど・・・」
「僕に?」
「うん、気のせいかな」
「もしかしたら悪魔でも見たんじゃないですか?」
「うん、そうかもしれないけど、でもね。なんだか」
「気になることでも?」
「その子、すごく寂しそうな顔してたの・・・」
「しえみさん、授業でもやりましたけど悪魔はそうやって油断させて取り憑くのもいるんですよ」


うん、と呟いてしえみは気持ちを切り替えた。
これから学校だ。神木さん達だっているし、雪ちゃんもいる。
楽しい時間が待っている。
そうだ、クッキーを作ってきていたのを忘れていた。
「雪ちゃん、私ねハーブクッキー作ってきたの!今回は特殊なハーブ使ったんだよ!」
しえみはカバンからどす黒い塊の入った袋を二つ取り出した。
その一つを雪男に渡す。
雪男の顔が歪んだが、一瞬で取り繕って笑顔になった。
「ありがとうございます」
「あれ、おかしいな。雪ちゃんにあげるつもりだったのになんで2個作ったんだろう?」
「神木さんの分じゃないんですか?」
「神木さんと朴さんのはまた違うのあげようかと思ってて・・・おかしいな」
一つだけ余ったそれをかばんに仕舞おうとするしえみに雪男は思わず声をかけた。
なぜだか2つじゃないといけない気がした。
「じゃあ、僕が2つ貰いますよ」
「いいの?ありがとう」
「いいえ」

二つ目を雪男に渡す時、しえみはふと思った。

「雪ちゃんに兄弟がいたらきっとあの子みたいなんだろうなぁ」
「さっきの?」
「うん」
「それくらい似ていたのなら見てみたい気もしますが、それはないですよ」
「だよね」


雪男は言った。



「だって、僕は一人っ子ですし」

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