青祓のネタ庫
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安息日―――キリスト教やユダヤ教では、『創世記』で啓典の神が天地創造の7日目に
休息を取ったことに由来し、何も行ってはならないと定められた日とされている。
その後姿には見覚えがあるのに、僕は何にも覚えていない。
刀、だろうか。肩に背負って僕から遠ざかっていく姿。
「―――がいなかったら、きっと僕は祓魔師にもなってなかった。
医者を目指して今頃その勉強してたはずだろうね」
酷いことを言った気がした。
―――の顔は見えなかった。
部屋から出て行く後姿。
心では謝りたかった。
だから帰ってきたら謝ろう、その時にはそう考えていたんだ。
瞬きをした瞬間に、その後姿は跡形もなく消えていた。
―――って一体誰?
僕はなにをしたかったんだっけ。
誰かに謝りたかった気がするんだけど。
目の前を見るけどそこにはもうなんにもいない。
雪男は目覚めた。まだ日は出ていない時刻だ。
汗をびっしょりとかいていて気持ちが悪い。
起き上がって、眼鏡をかけてびっくりした。
いつもと違う風景。
ここは正十字学園の寮だ。
お金持ちが通う学校なだけあって、設備は無駄にいい。
雪男の場合は学生だけでなく、塾の講師としての仕事もある為
一般の生徒とは違う個室が用意されていた。
白い壁にシャンデリアの如く装飾された電灯、端には大きなベットもある。
机の上には大きなパソコンがあって、薬草の陳列棚も天井にまで届くほどで
収納に便利だ。この部屋を一人で使っている。
正確には使い魔のクロがいるから、一人と一匹だ。
部屋の隅っこにはクロ専用のトイレと猫ベットがある。
クロは部屋のトイレを使ってくれないのでそれが悩みだ。
そうだ、入学してから何ヶ月たっていると思う。
使い慣れた部屋のはずじゃないか。
なんで僕はいつもと違うと思ったんだろう。
寝ぼけているのかな。ベットから降りて、洗面台で顔を洗う。
さっぱりとした。目の前の鏡を見た。
寝癖ではねた髪。寝起きで目つきが悪くて。
まるでそれは―――のようで。
ぎくりと嫌な思いが心をよぎる。
僕はなにかとんでもない間違いをしているんじゃないだろうか。
そんな思い。
足元から声がした。
「にゃーにゃー」
「クロ、どうしたの?」
使い魔のクロは雪男の足元でしきりに鳴いて何かを訴えている。
お腹でも空いたのだろうか。クロは部屋の中をうろうろして、
ベットの上に乗ってなにかを探していた。
「どうしたの?」
「にゃー」
クロの言葉は僕にはわからない。
僕には?いや誰にもわからないはずだ。
だってクロは悪魔だ。僕は人間で言葉がわかるはずなんてない。
なんでこんなこと思ったんだろう。
「にゃーにゃー」
クロは扉を開けろと爪で引っかきだした。こんな仕草だったら僕にもわかる。
仕方ないのでドアを開けて外に出してやる。
クロは一目散に走っていって階段の方に消えていった。
あんなに急いでどうしたんだろう。
なにを探しているんだろう。
ちらりとクロのえさ箱を見る。フードは半分近くが手を付けられていない。
ここの所あんまりえさを食べていないようだ。
どこか具合でも悪いのかもしれない。帰ってきたら診察してみよう。
そう考えて雪男は学校に行く準備を始めた。
「なんですか?」
「・・・あ、いえすみません。人違いでした」
その人は肩に竹刀を入れた袋を提げていた。
同じ正十字学園の制服を着てるからたぶん剣道部だったのだろう。
思わず声をかけてしまった。
―――じゃないのに。
ずきんと頭痛がして、思わず頭を押さえる。
僕を呼ぶ声が聞こえた。
「雪ちゃーん」
呼ばれる声に振り向く。そうか、しえみさんの声だったのか。
おばあさんのこともあって悪魔にも取り憑かれて色々大変だっただろうけど、
塾にも、学校にも通えるようになってよかった。
いつもなら登校中に会うことはない。
今日はたまたまタイミングがあったのだろう、一緒に教室まで行こうという話になった。
「花も咲き始めて綺麗だねぇ」
「そうですね」
しえみは立ち止まって、どこかを見ていた。
「しえみさん、どうかしました?」
話を聞くと、僕に似ている誰かがいたらしい。
でも、そんなことはありえない。
だって僕は一人っ子だもの。神父さんに育てられて、神父が死んだから
その友人である正十字学園の理事長に後見人になってもらった。
本当にそう?
ずきりと頭痛がして、また頭を押さえた。
「雪ちゃんどうしたの?頭でも痛いの?」
心配そうな顔で言われた。大丈夫だ、こんなことなんでもない。
誤魔化すのは得意だ。だから答えた。
「いえ、なんでもありません」
僕は嘘をついた。
この嘘つきだらけの世界でもなお。
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