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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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願望は世界を廻る


神は、6日かけて世界をつくりました。
そして、最後の一日に休息をとったのです。
世界を創造した後の休息。
それが、7日目だったのです。
では、その次の日は一体いつでしょうか。

「来るだろうとは思っていましたよ奥村先生」

メフィストは扉の前で、雪男と対峙していた。
雪男の方は、無表情だが冷徹な殺気がにじみ出ている。
かたやメフィストの方は余裕があり、飄々とした態度を崩さない。

「兄は、ここにいるんでしょうフェレス卿」
「さぁてどうだか」

メフィストは扉の前から動かなかった。
雪男が部屋に入ることを阻止しているようだった。

「今のでわかりました。外の世界の人間は兄の事を誰も覚えていなかった。
僕の兄と言われて「そんな人いたか」という存在に対する疑問ではなく、
居場所に対しての疑問「どうだか」と答えるということは、
僕に兄がいることを知っていないと出てこない答えだ。ここにいるんでしょう」

メフィストはわざとらしく眉間に皺を寄せて悩むような仕草をとった。

「青い炎に触れたことで、記憶が甦ったようですね」
「なぜこんなことをした」
雪男はまだ銃を持ってはいない。
だが、いつでも弾丸を撃ち出せるように準備はできている。
「そうしなければならなかったから、ですかね」
「何が言いたい」
「今日は何曜日ですか、奥村先生」
「質問で返すな」
「質問は答えに繋がりますよ」
「・・・日曜日だろう」

教会は休みだった、今日は安息日だから。

「本当に、今日は日曜日なんでしょうか奥村先生?」
「・・・?」
何か含みのある言い方をされる。
雪男の感覚では、そのはずだ。

「日曜日は安息日だ。休む日。これは誰でも知っている。
厳密に言うと「何も行ってはならない日」だということは知っていましたか?」
「何が違う」
「いいですか、何も行ってはならないのです。
でも、存在すること自体何かを行っていると捉えればそうなります。
だから我々は隠れなければならなかった」

メフィストは我々、と答えた。
メフィストと燐。それ以外にも何かが隠れたといえば―――

「悪魔という種族そのものが隠れなければならなかった、
ということですか?何故・・・」

メフィストはご名答、と答える。
リーパーもゴブリンもコールタールもいなくなった。
属する所が違うのに、みんな一斉に示し合わせたかの如く人間の前から姿を消した。
種、そのものの消失。
それはいったい何を意味するのか。

「物質界と虚無界は表裏一体。しかし悪魔の中ではね時間の流れは物質界―――人とは全く違うんですよ」

祓魔師―――正十字騎士団の側に寄り添い、悪魔を祓う知恵を貸す悪魔。
彼の姿は何百年たっても変わらない。
「たとえば貴方が何百年もその姿で生きているということも、でしょうか」
「そうです。今回のことは私一人のせいではないのですよ奥村先生。
世界がそうさせている。気づいていますか?奥村君が消えて何日たっているかを」

言われて雪男は思い返す、そして思い出せなかった。
喧嘩して兄が消えて何日たった?
3日、くらい・・・いや、でももっとたっている気がする。
記憶力には自信があるのに、答えは出てこない。
本当に、今日は日曜日なのか?
それすらも疑問に思えてきた。
時間の感覚が、メフィストが質問するごとにわからなくなっていく。

「今日は8日目なんですよ、少なくともこの時間軸ではね」
「8日・・・?」
「ええ、一週間と1日ではないんです。
一週間の終わり7日目と一週間の始まりの一日目の狭間。だから8日目」
「それだと、一週間が8日の計算になる」
「言ったでしょう?悪魔は時間の流れが違うと」

神は物質界を創造した7日目に休息をとった。
悪魔は神の休む日を足がかりに物質界に進行を進める為、
神の眠りと目覚めの狭間―――8日目に休息をとった。


「つまりね、今は狭間の日。魔神が眠り、神が目覚めるまでの間。
 悪魔の安息日なんですよ」

実際には人間時間で何日たっているのかを人間は知覚できない。
ここは悪魔の時間だから。悪魔は別の時間軸を生きている。
だから、日が昇り、落ちてもそれを一日とするか一時間とするか、一分とするかは人間にはわからない。
そんな悪魔の時間の中、人間は危険にさらされる。悪魔も人間を狙って物質界へやってくる。
当然、神は物質界への悪魔の進行を許すわけにはいかない。
だから、悪魔の安息日には「神」が目を付けたものに天罰を与える仕組みになっている。
そうして、物質界は守られてきた。

「我々ほどの上級悪魔になると、神にも目を付けられやすい。
そうしていつしか、悪魔は神から隠れ、
協定のように「何も行ってはならない日」になっていった。
悪魔は神から隠れなければならない。なにもしてはならない。その仕組み。
我々は神に一度負けている、だからこの世界では神の意志が悪魔よりも有利に働く。
だからこそ彼をここに閉じこめる必要があった」

メフィストは扉を叩いた。
この奥に、いるのか。
閉じ込められている間、酷いことをされなかっただろうか。
不安が雪男の心によぎる。

「閉じこめる必要はなかったはずだ!」

「では聞きますが、奥村君は一度たりとも魔神の青い炎を出さずに生活できたと思えます?」

雪男は答えなかった。おそらくそれは不可能だっただろう。
燐はまだ炎を完全にはコントロールできてはいない。
何かの感情の発露で炎を出す可能性は十分ある。
そうして、「神」に目を付けられる。

「兄を天罰から守ったとでも言いたいのか?」
「そうとは言いません」
「では、兄の存在そのものをみんなの記憶から消す必要は、あったのか?」

「おや、その言いぐさは心外だ。お兄さんを「いらない」と望んだのは貴方自身でしょう?奥村先生」

その言葉が雪男に突き刺さる。


「あなたは、任務で兄弟の悪魔を殺していましたよね。
そして、その結末を奥村君のせいにした。
確かに、奥村君がいなければ君は祓魔師にもなっていなかった。
そうすれば、あんな風に君が彼らを殺すこともなかったでしょう」
「うるさい・・・」
「悪魔という存在は人間にとってとても都合が良い。
何か悪いことがあれば悪魔のせいにできるし、悪事を侵した人間も魔が差した。
悪魔が囁いた。と言えばそれも悪魔のせいになる。
例え、それが自分自身が招いた事であっても。悪魔は人間にとっての恰好の逃げ道なんですよ」
「黙れ!」
「だから、あなたがあの兄弟を殺した原因を悪魔である奥村君のせいにしても
それはとても自然なことだ。だって貴方は―――人間なんですから」


兄さんがいなければ。


「この世界は、あなたの望みでこうなった」


ただの喧嘩の延長だったのに、世界は雪男の望むほうへ変貌したと言いたいのか。

「僕が望んだから、兄さんが記憶から消えたと?」

「ただの人間にそれができるとでも?」
「じゃあ貴方が?」
「私に何の得がある」
「じゃあ誰が・・・」


「いるじゃないですか。
ここは悪魔の時間。魔神は眠り、神が目覚めるまでの間。
魔神の炎を継いだ、物質界で唯一の存在が。その意志が、この世界を変貌させた。」

悪魔の時間は、世界が壊れないように悪魔よりも神の意志が優先される。
しかし、人間よりも悪魔の意志が優先されるようにできている。
だからこそ、神は協定と天罰を作った。しかし、魔神が眠り、神も目覚めない中。
力あるものが「あること」望み、世界は変貌した。
ここは悪魔の時間だから。

「まさか・・・」

雪男の手は震えていた。
自分が言ってしまった言葉を反芻する。

兄さんがいなければ、僕は祓魔師にもなっていなかった。
今頃医者になるために勉強をしていただろうね。

それに、兄はなんと答えた?


「そうだな」

この一言で、世界は変わった。
人は奥村燐を忘れ、いなかったことになった。

でもこれは兄が望んだことじゃない。
僕が望んだことを兄が叶えてしまった。
じゃあ、この世界は。

「この世界は、貴方にとって居心地がよかったでしょう?奥村先生」


僕の為に、兄さんが作った。
兄さんがいない世界だった。
それを僕は、確かに心地良いと感じていたんだ。

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