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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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焔の記憶



青い炎が視界いっぱいに広がっていく。
バキン、とガラスが割れるような音がした。
記憶を塞いでいたものが壊れ落ちていく、そんな感覚。


「大丈夫か、お前どこか調子でも悪いのか?」
「なんでもないよ」
「でもよ」
「どうでもいいだろ。それより宿題やったの。
いつもやってないんだから。苦労させないでよね」
「今やってんじゃねーか!それに、お前のことだろ!どうでもよくなんかねー!」
「うるさいな!放っておいてよ!
兄さんはいつも僕のこと引っかき回して・・・迷惑だ!」
「お前・・・」
「僕の邪魔してる自覚あるの?」
「俺は・・・」



「兄さんがいなければ、僕は祓魔師にもなっていなかった。
 今頃医者を目指して勉強していただろうね」



嫌悪感を隠さない僕を見て、兄さんは椅子から立ち上がる。
倶利伽羅を背に背負った。
宿題は机の上に置いたまま、扉の前で靴を履く。
僕はそれを止めない。むしろ今この場に一瞬でもいて欲しくなかった。
兄さんが扉を開ける。
一言だけ、兄さんは言った。


「そうだな」


扉の向こうに兄さんは消えていく。
静かな部屋。机の上には兄さんがやっていた宿題。
中を見る気にはなれなかった。
どうせ、またやってないんだろうな。
そう予測できたから。
ため息をつく。

そうだ、いつものことじゃないか。

しばらくして、ようやく僕は冷静になった。
失敗したな、任務のことを引きずるなんて。
八つ当たりするなんてらしくなかった、と反省する。
でも後を追いかける気にはなれなかった。
気まずかった。見せたくない部分を見せてしまって。

兄さんが、帰ってきたら謝ろう。

嫌な思いを抱えたまま、それに見て見ぬ振りをして僕は自分のベットの上に転がって目を閉じる。
次にある記憶は、豪華な部屋。
旧館ではない、新館の男子寮にいる自分。
そこでなんでもない風に振る舞う自分。


兄さんのことを忘れて過ごす時間。
兄さんがいなくなって、平穏だと感じていた日々。
兄さんの声が響く。


「そうだな」


僕は否定をしなかった。
それは兄さんがいなくなることを、肯定したのと同じじゃないか。
違うよって言えば良かった。
あの背中に向けて、言えば良かった。
そうすればこんなことにはならなかったんじゃないか?

炎の向こうに、兄さんの姿が見えた。
僕を呼ぶ声が、炎の向こうに消えていく。

倶利伽羅の鞘が自然と閉じていった。
青い炎も消えていく。
僕は床に座り込んで、呆然と。
だが確信をもってつぶやいた。

「僕は・・・最低だ」

ぎりっと剣を握る。
僕が忘れていたのは、僕のたった一人の家族だったなんて。




自己嫌悪でいっぱいになっていると
クロが雪男の手に顔をすりつけてきた。
にゃーと心配そうな顔で鳴いている。
クロの声は、兄さんじゃないとわからない。
でも、僕には聞こえた。
大丈夫か、と心配する声。
兄さんが僕にいってくれた言葉。
クロの頭をなでる。

そうだ、後悔は後でいっぱいしよう。
雪男は記憶を頼りに、机の上にあったノートを手に取る。

中を見て、驚いた。

悩んだ跡や何度も消した痕跡があったけど、宿題はできていた。
ざっと見ただけでも、ミスはあるけどあっている。
きっと雪男が任務に言っている間に一人で頑張って問いたのだ。
ノートの裏を見れば、名前があった。


『奥村燐』

この世界で初めて兄の名前を見た。


兄さんも頑張ってたのに。
それを、僕は。


雪男は立ち上がった。


記憶の蓋が開いたことで、見えなかったことが見えてくる。
不自然に移動されたこの部屋もそうだ。
奥村燐の存在と痕跡を消す為にかなり大がかりなことがされている。
そして、みんな示し合わせたかのように『奥村燐』の存在をなかったことにしている。
こんな人知を越えたことできる奴は、知る限り一人しかいない。
雪男は携帯電話を取り出し、電話をかけた。
呼び出し音の後に、相手が出る声が聞こえた。


「もしもし、しえみさんちょっと聞きたいことがあるんですが」



雪男は携帯している銃の位置を確かめた。
銃弾の切れはない。いつでも応戦もできる。
今回の目的は、あくまで兄の救出だ。
相手が何を考えてこんなことをしているのかわからない内は、
できれば、相手との交戦は避けたい。

が、万が一に備えて準備は怠らない。
倶利伽羅はクロに預けている。
もし僕がまた兄さんのことを忘れた場合に備えてだ。
僕が忘れた僕たちの部屋を覚えていた猫。
きっと何があっても忘れたりはしないだろう。

雪男はしえみに電話であることを聞いた。



「雪ちゃん、どうしたの?」
「突然すみません。しえみさん、この前言っていた『僕に似た男の子』は
通学路のどのあたりにいたか覚えていますか?」
「え?ああ、あのクッキー渡した時のこと?」
「ええ」
「うーんそうだな、通学路じゃなくて学校より上の建物だよ。
窓のところにいたの。屋根の色が独特だったの覚えてる。
ピンクのような紫のような・・・あの辺りは確か学園の理事長先生の土地って聞いたことあるよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「ううん、どうしたの急に」

「思い出したことがあって。行かないといけないんです」

「そうなんだ・・・窓にいた子ね、寂しそうだったからすごく気になってたんだ・・・」
「しえみさんはすごいですね。僕が気づかなかったことに気づくなんて」
「そ、そんなことないよ」
「いえ、すごいです」
「そんな事全然・・・あ、雪ちゃん。あのクッキーね、
2つ渡したんだけど・・・もう1つはとってある?」
「ええ、ちゃんと」



雪男は電話を切って通学路から学園の上部を見上げた。
この世界の違和感を感じていたのは僕だけじゃない。
それが聞けて安心した。
兄さんは、きっとあそこにいるはずだ。
しえみが言っていた屋根の建物は複数あった。
でも、ここから窓の中にいる人物の顔がわかる距離にある建物は限定される。
あの屋敷か。
雪男は狙いを定めた屋敷に向けて駆けだした。



メフィストはこの屋敷に近づく者の気配を感じた。
気づいたのは彼だろうと思っていた。
にやりと口角をあげて笑う。
鳥かごの中には目を閉じたままの子供がいる。メフィストは鎖の端を持った。


鎖にひとつキスを贈る。


世界は―――まだ眠っている。


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