青祓のネタ庫
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ちんちーんというベルの音がして
電車のドアが閉まりそうになる。
「乗ります!ちょっと待った!!」
ドアに手をついて間一髪で滑り込む。
プシューと空気を排出して、ドアは燐の背後で今度こそ閉まった。
焦って乗ったので、荒い息をひとまず整える。
任務の待ち合わせ場所にはこの電車でしか間に合わない。
時計を確認して、ほっと一息ついた。
これなら遅刻だと雪男に怒られないだろう。
本来なら一本前の電車に乗るはずだった。
焦りたくなければ、余裕をもって電停にいるべき。
しかし、いかなければならない気持ちより睡眠欲が勝ってしまって
こんなギリギリの時間になった。
流石に、寮から全力で走っただけあって疲れた。
できればイスに座って休みたい。
ドアに背を預けて周囲を見るが、車内は完全にすしずめ状態だった。
今も、目の前にいる白い服の男と体が密着するくらい近い。
そして気づいた。
「あ」
「・・・ん?」
目の前の男が振り向いた。
金髪長髪に真っ白い祓魔師のコート。
流石に車内に魔剣は持ち込んでなかったが、
正真正銘アーサー=オーギュスト=エンジェルその人だった。
燐は反射的に後ろを向いた。
なんでここでこいつに出くわすのか。
と、いうかなんで電車に乗ってんだ。
寝坊した自分を呪いたかった。
ばれてない、と思いたかったがドアのガラスに写ったアーサーと目があった。
「貴様、奥村燐か」
ぐるりと体の向きを反転させられる。
向かい合わせになって、目が合って。
回転させられた勢いのまま平手打ちされた。
ぱしーんという乾いた音が車内に響く。
「いてぇ!」
「なんだ、夢じゃないんだな。とてつもなく不快だ」
平手打ちした手をアーサーは聖水とかかれたスプレーをかけて消毒していた。
頬を押さえて燐は抗議をしようとするが、同時にがたんと電車が止まる。
車内が揺れた。人の圧力に押されて、燐の目の前に白い制服が迫る。
「うぎゅ」
アーサーの胸に思いっきり潰された。喉から変な声が出る。
しかも身長差があるものだから上から包まれるように、完全に潰れた。
燐に触れたことが不快なのか、アーサーもその場から逃れようともがく。
しかし、すしずめの車内はびくともしなかった。
一時停止した車内にアナウンスが響く。
この先車両トラブルを起こした電車があるため、停止します。
お客様にはご迷惑をおかけしますがもうしばらくお待ち下さい。
そのコメントは燐に絶望をもたらした。待ってられない現状がある。
遅刻してもいい。今すぐここから出してくれ。
「くそ、こんなことなら電車を使わなければよかったな」
アーサーも燐と同じことを思ったらしい。眉間に皺が寄っている。
ただでさえ離れたい相手がいるのに、電車はいつ動くともわからない。
不快にならない方が無理だ。なんとか顔だけ出して、燐も反論する。
「そりゃこっちのセリフだ。セレブの癖に電車乗るな!」
「全くだ。庶民感覚を理解しようと任務ついでに試しに乗ってみたのだが、
二度と乗りたくはないな」
ぎろりと鋭い目で見下される。
アーサーの長い髪のせいで、燐の周囲は金色で覆われている。
身長差と、髪のカーテンと、人ごみ。
乗客も、アーサーの前に人がいるとは気づかないくらいに燐は隠れてしまっていた。
つまり、アーサーは周囲の人間からしたら独り言を言っている変人だった。
「おい、離れろ奥村燐」
「俺に言うセリフかよ・・・お前が動け!」
「では試しに」
「だああ!足を踏むな!」
「ハハハ、貴様こそ俺の腰についている手をどかせ!」
「そんなとこ触ってねーよ!」
「嘘をつくな。ここに一般人がいなければすぐにでも消してやりたい所だ!」
アーサーの手が燐の背後のドアにつく。
その手が少し動けば、燐の首くらい簡単に刎ねるだろう。
そんな位置だ。燐は、緊張からごくりとつばを飲む。
アーサーという檻の中に閉じ込められたような感覚だ。
やらなければやられる。燐はぐっと拳を握った。
突然、アーサーは不快そうに眉を寄せた。
「ところで奥村燐」
「・・・なんだよ」
「貴様、いい加減その手をどかせ」
「は?」
燐の手は背後のドアについている。
アーサーは何を言っているのだろう。
首を傾げる前に、また平手打ちされた。
「ちょ、イテェな!!お前さっきから何言ってんだよ!俺の手はここにあるだろ!」
両頬がひりひりして痛い。なんとかもがいて、両手で頬を押さえた。
その手を見て、アーサーは驚く。
「貴様、腕が4本あるのか」
「・・・お前マジでいってんの?」
「そうとしか説明できないだろう。でなければ何故。誰が今俺の尻を触っている」
沈黙。
燐は咄嗟に声が出せなかった。
そもそも何故自分がアーサーの尻を触るのか。
アーサーの尻を触る理由は無い。
では、現状一体誰がアーサーの尻を触っているのか。
燐が嫌な汗をかいているのにも気づかず、アーサーの言葉はエスカレートしていった。
「・・・大胆だな、コートの中に手を入れるとは」
「え・・・その・・・」
「くっ・・・だが、残念だったな奥村燐」
「何が」
「今、俺のパンツに手を入れようともがいているだろう?」
「・・・」
痴漢の実況中継にマジ泣きしそうだった。
しかも、成人男性の尻を揉むアブノーマルプレイ。
15歳の燐にはいささかハードルが高すぎる。
「だがお前の思惑通りにはいかない!」
「思惑って何だよ」
「さっきから写真とろうとしているだろう。レンズが当たる。そうか、貴様の狙いは俺の下着か!」
「何!?どういうことだよ!?意味わかんねーよ!」
下着の写真でも撮って弱みでも握ろうとか思われているのだろうか。
心外だった。
「下着狙いというのなら。この勝負俺の勝ちだな奥村燐」
アーサーは痴漢されているのに何故こんな態度なのだろう。
意味がわからない。何も聞きたくない。耳を塞ぎたい。
しかし、燐が耳を塞ごうとする前に爆弾が投下された。
「なぜなら俺は穿いていないからな!!」
そう、今は夏で、暑いからだ!と言った。
コートの下は穿いていない。
この純白の祓魔師の制服を脱げば、そこには全裸が?
嘘だろう。
こいつ白昼堂々すしずめの車内でノーパン宣言をしやがった。
車内の空気が明らかに変わった。
そして、先ほども言ったが燐は現在アーサーに潰されていて
周囲の乗客には見えていない。
つまり、アーサーは痴漢の実況中継をしたあげくに、
下着つけてません宣言を全て独り言で語ったという風に見られている。
完全に周囲はドン引きだ。
本人は、全く気づいていないが。
手が、前のほうにまわってきたな・・・大胆だ。
というアーサーの声で、燐は我慢の限界を超えた。
馬鹿力を発揮して、アーサーに潰された身体の隙間から両腕を抜く。
そしてアーサーのコート内に入っていた手と、アーサーの腕を同時に掴んで言った。
「この人達痴漢です!!」
車内からの視線が痛い。
頭上に上げた痴漢の犯人の腕には腕時計があった。
時刻を見て、もう完全に遅刻であろうことを悟る。
雪男には怒られるだろうが、事情を話せば今回はわかってくれると思う。
アーサーはきょとんとした顔を燐に向ける。
「私もか?」
言って、アーサーは何を思ったのか。掴まれていない手で、また燐の頬をビンタする。
「いてぇ!」
「残念、現実だ!!」
涙目になりながら、燐はアーサーに訴えた。
未成年に猥談囁くのだって立派な痴漢だ!
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