青祓のネタ庫
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≪ 告白してさよなら | | HOME | | おいおい忍●さんよ・・・ ≫ |
潮のにおいと、汗のにおい。
茹だるような暑さがすぎて、夜の風が肌を撫でる。
慣れた寮のベットの感触ではなく、畳の肌触りで目が覚めた。
どうやら、布団からはみ出していたらしい。
起きあがって、部屋をみた。
そばに、あたたかい感触。
畳と、布団と、隣に眠る祓魔塾のクラスメイト。
奥村燐。
ぎょっとして、周囲を見回した。
窓の外には海が見える。
夜の海は月明かりに照らされて、静かな波音を立てている。
そうして、ようやく思い出した。
そうか、ここは正十字学園じゃない。
今回、講師の先生の手伝いの為に海まできたのだ。
海の悪魔、クラーケンが現れた事件が解決して、明日には学園に帰るところだ。
人騒がせな魔物だったが、実害もなく少年の父も帰ってきた。
退治はできなかったが、こういう終わりがあってもいいだろう。
クラーケンは、遭難した少年の父を送ってくれた。
そう考えると悪魔も悪い奴ばかりではないのかもしれない。
寝ぼけた頭をかいて、隣に眠る燐を見る。
なぜ人の布団に侵攻してくるのか。
侵入者の頬をつつくと、その指から逃げるようにごろりと転がった。
よりにもよって、志摩の方に。
追い出された。寝るスペースが完全になくなった。
近寄ろうとすると、彼は足を振りあげて大の字になった。
「寝相悪すぎやで・・・奥村君」
奥村燐の侵攻を避ける為、体が無意識に布団から逃げたのか。
おかげで、頬やら腕に畳の痕がついてしまったじゃないか。
寝る燐の体を押して、布団の半分まで寄せた。
その半分空いたスペースに寝転がる。
足下には燐の布団があったけど、そこまで運ぶ気にはなれなかった。
めんどくさかったから。
右耳から、寝息が。左耳から波の音が聞こえる。
寝ようと思って目を閉じたら、よけいに気になった。
昼間、志摩と元気に呼ぶ声が、今は密やかに呼吸するだけの音を出す。
呼吸音が聞こえる方に、体を向けた。
向かい合わせになった。
かすかに香る潮の香り。
目の前で眠る、燐から香る汗のにおい。
それが混じって、志摩の感覚を刺激した。
「・・・たまってるんかなぁ」
額を合わせた。
暑いせいか、彼の肌も熱い。
目の前にある顔は、非常に綺麗だ。
男だけど、そう思う。
黒髪に、今は見えない青い瞳もいい。
弟の雪男はモテるから羨ましいと昼間にグチっていたけれど、
彼も十分モテるだろうに。
ふと、眠る燐のズボンに足をかけた。
そういえば、今回泳ぎに来ていたのに自分達は一度も海に出れなかった。
彼の海パンは何色だったのだろう。
中学の時の名前入りのスクール水着だったら、からかってやろうと思っていた。
それができなかったので、今ここでズボンをずらして朝まで放置してやろうか。
足の指が、燐のズボンに掛かる。
足の間に、足を突っ込んでやった。
ぐい、と敏感な部分に足を当てられて、寝ている彼は眉を顰めた。
面白かった。
だけど、むずがるような仕草を見せたので、慌てて足を抜いて狸寝入りする。
彼は起きない。よかった。
犯人は志摩だとばれてはいけない。
これはあくまで彼自身の寝相が生み出したものとして処理しなければ、からかえないではないか。
目を開けて、様子を伺う。
起きる気配はなかったけど、足を閉じて。なおかつ曲げてガードしてしまっていた。
これでは、ズボンに手が、というか足が出せない。
ち、おしい。寝ているのにガードが堅い。
気を取り直して、今度は彼の黒髪に触った。
夜の闇の中、隣に眠るクラスメイト。
夢なのか現実なのか。
寝ぼけた頭では、はっきり区別がつきにくい。
もう一度、彼の髪に触れる。
ふいに、彼が笑った。
「 」
彼の唇から、声が漏れる。
志摩は、衝動的にその唇を塞いだ。
顔を押さえて、触れて空いた隙間から舌をねじ込んだ。
それ以上の言葉を漏らさないように。
「奥村君」
「・・・ぁ」
「奥村君」
「ん・・・」
「奥村君」
はぁと、息をついで彼を見た。
起きる気配はない。
そのままごろんと背を向けて、寝る体勢を取る。
背中から聞こえる、先ほどとは違う寝息。
乱れた息を無意識に整えているのか。
「・・・ん」
彼の声が、艶を帯びる。
それにほくそ笑んで、目を閉じた。
衝動的なイタズラは、彼の記憶には残らない。
そしてこのまま寝たら、自分もそうなる気がした。
潮の香りと、汗の香り。
波の音と、彼の寝息。
夜と朝の間の時間に、彼の息を奪った。
彼の口から、漏れる言葉止める為に。
手で口を塞ぐこともできたけど。
それをしなかったのは。
「ただの・・・気まぐれ、や」
背後から、声が聞こえた。
彼の弟の名前を呼ぶ声が。
その言葉を、志摩は聞かなかったことにした。
そうしてもう一度、目を閉じる。
ズボンのガードが固くて、キスしても起きない。
あげく、呼ぶ名があった。
「なぁ、もしかして。先生にも俺みたいな悪戯されたん?」
返事は無い。
だから、今夜のことは夢だろう。
目が覚めたら、朝になっていればいいと思った。
そうして、何食わぬ顔で彼に言うのだ。
「奥村君、寝相悪いなぁ」
悪戯の仕返しの様に、背中を蹴られた。
やっぱり、彼の寝相は最悪だ。
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