青祓のネタ庫
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銃の引き金はとても重い。
簡単には引けないようになっている。
例えば、訓練の受けていない者が片手で銃を撃とうとすると
発射の反動で肩を痛めてしまう。
両手で支えて撃ったとしてもやはりその反動で身を痛める。
銃を扱うにはリスクを伴う。
それはどの武器にも言えることだ。
命を奪う手段を持つものは、同時に自分も奪われる覚悟を持たなければならない。
勝呂は痛む頬を押さえて、一人縁側に座っている。
ここは正確には旅館の部屋に向かうための廊下だ。
しえみから頬を冷やす氷を貰って、部屋に戻る途中だった。
空を見上げたのは偶然だ。暗闇の空に青い月が灯っている。
青い―――奥村燐の出した焔のような光。
勝呂はそれを眺めて燐の言葉を思い出した。
父ちゃんに謝れ、今のうちに
まるで、自分のことのように怒っていた。
どうしてだろう。アイツの父親は魔神のはずだ。
父親に対してアイツはなにか謝ることがあったのか?
でも、奥村先生はアイツは自分が何者か知らずに育ったと言っていた。
祓魔の世界と関わらずに育ったということは、魔神との接点はなかったはずだ。
じゃないと、魔神を倒すなどどいう言葉は出ないはず。
魔神を倒したいと思うなにかが、アイツにあったのだろうか?
勝呂は考えて、首を振る。全ては仮定でしかない。
関係のないことだ。
魔神の息子のアイツのことなんてどうでもいいんだ―――
俺だって、好きで魔神の息子じゃねーんだ
でも、お前は違うだろうが
顔をしかめたせいで、頬がズキリと痛んだ。
いきなり携帯電話が鳴った。誰だろう。
気分が悪かった。確かめもせずに出た。
『もしもし』
携帯電話ごしで聞くと、アイツと区別がつかない。
その声にどきりと心臓が跳ねた。
ひとつ呼吸を置いて電話の相手に応える。
「奥村先生か」
『勝呂君、君が怪我したと聞いてね』
「いや・・・」
『言いにくいのもわかるよ。兄さんがやったんだろう』
沈黙は肯定。雪男は勝呂の言葉を待たずに話を続ける。
「えらい勢いで殴られましたわ」
『兄さんは殴ると決めたら容赦しないからね。すまない、謝るよ』
「いや、俺は別に。それよりアイツは大丈夫なんですか」
『シュラさんの術で気絶させられたみたいだしね。大丈夫とは言いがたい。気になるのかい?』
「・・・・・・いえ、そんなことは」
アイツは、志摩のじいさんと一番上の兄貴を殺した魔神の息子だ。
子猫丸の両親だって。寺の皆だって。俺の家族だって。
あいつの、青い焔のせいで。
『ねぇ勝呂君、君は祓魔師―――竜騎士になりたいって言っていただろう』
どうしてここでその話が出るのだろう。
でも、勝呂は黙って雪男の言葉を聞いていた。
燐が牢屋に閉じ込められたことも雪男は知っているのだろう。
兄が幽閉される喧騒を作った自分を、彼はどう責めるのか。
『銃ってね。引き金がとても重いんだ』
簡単には引けないようになっている。
例えば、訓練の受けていない者が片手で銃を撃とうとすると
発射の反動で肩を痛めてしまう。
両手で支えて撃ったとしてもやはりその反動で身を痛める。
銃を扱うにはリスクを伴う。
それはどの武器にも言えることだけどね。
『ねぇ、竜騎士を目指す君は引き金を引いて僕達を殺したいって思うかい?』
燐は魔神の青い焔を継いだ悪魔だ。
雪男はその弟だ。人間だけど、魔神の血縁者だ。
祓魔師として悪魔は祓魔の対象になるだろう。
でも、雪男は人間だ。祓魔師は人間を殺せない。
じゃあ、燐なら殺せるか?
お前は僕の兄を殺せるか?雪男は勝呂に問いかける。
勝呂は言った。
「まだ竜騎士になってないから、わかりません」
『そのはぐらかし方は上手いな。君は頭がいいね』
夜の静かな旅館の庭に、かしゃんという金属音が響いた。
それは、銃の安全装置をはずす音のように勝呂には聞こえた。
何故わかったのか。理由は簡単だ。
電話の向こうから同じ音が聞こえたからだ。
『僕は兄さんを殺せるよ。同時に、兄さんの刀で刺されて死ぬ覚悟もある』
もしも兄が焔に飲まれて戻ってこれなくなったら、僕は覚悟をもって引き金を引く。
そして、兄さんの刀に刺されて死ぬんだ。
『勝呂君。命を奪う手段を持つものは、同時に自分も奪われる覚悟を持たなければならないよ』
電話が切れた。銃の音も聞こえない。
勝呂は切れた携帯電話を操作して、電話帳を開いた。
画面にはグループ分けされたフォルダが表示される。
勝呂の性格と同じく、画面もきっちりと整理されている。
グループ1家族
グループ2旅館
グループ3友達
グループ4クラスメイト
等々
検索して、名前を開く。
「奥村燐」
この番号だけは、どこのグループに入れようか悩んで結局どこにも設定してない。
あいつと俺の関係はなんなんだろう。
俺は、あいつにどうしてやるべきだった?
あの青い焔は人を殺すことができる。
考えてもわからない。
でも、一つだけ確かなことがある。
「俺は・・・奥村を殺したくなんかないんや」
命を奪う手段を持ったとしても。
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