青祓のネタ庫
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びゅうびゅうと吹きすさぶ雪の勢いに燐は眉をしかめた。
候補生の任務で雪山に入ることになったのだが、
途中で天候が変わってしまったのだ。
雪山に入るということで、防寒装備はしているが、
このまま吹雪にまみれているとさすがにまずい。
今回の任務では、雪山にしかない雪の結晶を探すために来た。
普通の雪の結晶とは違い、手のひらサイズで、なおかつ溶けない。
魔力が集結した雪の結晶だ。
滅多にとれない希少な結晶らしく悪魔薬学では薬を作る材料として珍重されている。
雪男も、本では知っているが実際に見たことはないらしく、
この結晶採取の話が出た時には目に見えて興奮しているのが燐にはわかった。
雪男は悪魔薬学の天才だ。
燐を守る為に祓魔師の資格を取ったが、薬学が好きなのは雪男の性だろう。
将来医者を目指すだけあって、こういった分野の話になると雪男は目を輝かせる。
そして、弟の好きなもの。といったらあげたくなるのが兄としての性だろう。
燐は、この結晶を見つけたら一番先に雪男にみせてやりたかった。
「ふふふ、どうだ弟よ!お前が欲しがっていた結晶を俺が見つけたんだぜ!」
「うわあすごい、兄さんそれ見せて!」
そんなやりとりを夢想した燐は、俄然今回の任務に対してやる気満々だった。
普段は雪男に小言やため息ばかりつかせているのだ。
たまには、兄としての威厳を見せてやりたい。
雪男とシュラを筆頭に、塾生と隊を組んでいた時のこと。
山の上から、雪玉が転がってきた。落石ならぬ、落雪玉。
それはまっすぐに燐達めがけて転がってきていた。
「右に寄れ!」
先頭にいたシュラが、すぐさま号令をかけて隊列移動で雪玉を避けようとした。
しかし、ここは雪山だ。
右に避けようとしても、雪に足を取られてすぐに体は移動できない。
雪玉がこのまま直撃すれば、人間である雪男やシュラ。
塾のみんなが危険に晒される。
決心した燐は、青い炎を纏って雪玉に体当たりした。
普通の雪玉なら、青い炎の熱で溶かされ、砕けただろう。
しかし、予想に反して、雪玉から手が生えてきた。
手は、燐を抱きしめて離さない。
「雪玉・・・じゃない!スノーマンだ!燐離れろ!」
シュラが叫んだが、もう遅かった。
スノーマンに抱きしめられた燐は、転がるスノーマンもろとも崖下に転落した。
気がついた時には、周囲には誰もいなかった。
転落した際に燐の下敷きになっていたスノーマンは、砕けたせいか、
今や手のひらサイズの大きさまで縮んでいる。
スノーマンは悪魔だが、クロのように人間の言葉を解さなかった。
しかし、まるでついてこいとでも言うように雪道の先頭を歩き、
燐の方を振り返ってはついてきているかを確認している。
正直、このままついていっていいかはわからない。
でも一面銀世界のこの場所では、目印になるようなものなんてない。
燐は、スノーマンの導きに従うしかなかった。
「お前が転がってこなきゃー、こんなことにはなってねーんだぞ・・・」
にー?というグリーンマンと同じ鳴き声をあげながら、スノーマンは燐に返答した。
なにが言いたいのかよくわからん。
そのまま歩いていくと、雪の中に一点だけ黒いものがあるのが見えた。
スノーマンはそこをしきりに指さしている。燐は首を傾げながら黒い点を目指した。
びゅうと寒い風と雪が燐を苛む。
くしゃみをしながら、黒点に近づくと、どうも雪の中に穴が空いているようだ。
燐がつつくと、雪が崩れていった。洞窟のようだった。
「ここに入れってか?」
燐がスノーマンに問いかけると、スノーマンはこくりと頷いた。
どのみちこのままでは凍えて死んでしまう。
燐は意を決して洞窟の中に身を潜り込ませた。
ひやりとした感覚はするが、外に比べれば数段ましだ。
幾分暖かい場所を得たことで燐はほっとした。
落ち着いたところで、携帯電話を取り出す。
「・・・圏外か」
電波は雪で遮られている。このまま、雪がやむのを待つしかないか。
燐が思っていると、背後から殺気を感じた。
「誰だ!」
洞窟と同じ闇色が、燐に覆い被さった。
どさりと引き倒された燐に向けられたのは刃物だった。
それも、刀だ。鋭利な刃が首もとに向けられている。
のしかかっている人物の顔は暗いため見えにくい。
この人物がちょっとでも刀を動かせば、燐の首は切れる。
このまま死ぬわけにはいかない。燐は全身から炎を吹き出した。
青い輝きが、洞窟を照らす。
「どけよ!!!」
「く・・・ッ!」
その人物は燐から飛びのき、二人の間に距離ができる。
燐は青い炎を纏ったまま、その人物を観察した。
黒い祓魔師のコートに、刀。黒髪。瞳は赤く染まっていた。
「祓魔師・・・?」
燐が話しかけようとすると、その人物は刀を納めて、その場に座った。
どうも、体勢からいうと跪いているようだ。
「若君様とは知らず、無礼をしました。お許しを」
「は?」
若君?誰?俺のこと?祓魔師がなんで俺のことを?
ぽかんとする魔神の落胤と跪く祓魔師。
意味がわからない状況に、燐は青い炎を納めた。
洞窟の中が、再び暗闇に包まれる。
雪男は非常にいらいらしていた。
燐が無茶をするのはいつものことだが、今回も最悪の事態だ。
雪男達は今、非常時の避難場所に指定されている山小屋で暖をとっている。
騎士團指定の場所だけあって、山小屋の中に不自由はない。
問題は、メンバーが足りないことだ。
欠けた一人は。今どこにいるのだろうか。
窓の外を見ても、吹雪はまだ続いている。
先ほどよりは、ましにはなったが、人間が動くには危険だろう。
「兄さん・・・大丈夫かな」
「まさか、スノーマンが転がってくるとは思わなかったよな。
しかも燐を離さないとか、名前の通りまるでお前みたいな・・・」
「ちょっと黙って頂けますかシュラさん」
「いらいらしてもいいことねーぞ?燐のことだ。
炎でも纏って暖をとっていると信じようぜ。悪魔は人間よりも頑丈だ。
雪が止んだら、探しにいこう」
「・・・はい」
雪男はもう一度、窓の外を見た。
吹雪はまだ続いている。外に黒い点がちらりと見えた。
「気のせいかな?」
真っ白の雪の中の黒い点が、雪男は妙に気になった。
「へぇ、夜っていうのか」
燐は、洞窟に腰掛けて、横に座っている夜に話しかけた。
目の前には、たき火が焚いてある。
炎の色が青いので、燐が発火した炎の残り火で火種を作ったことがわかる。
「俺も悪魔ですが、祓魔師になったのはかなり前の話です。
こんな所で若君様に会うとは思ってもみなかったのですが」
「敬語やめろ。年上のくせに。なんか若君様って呼ばれるの気持ち悪ぃんだけど」
「悪魔にとっては共通の認識です・・・いや、怒るなって。
わかった、敬語やめるから」
「悪魔ってそういうもん?」
「そういうもんなの。たぶんスノーマンがお前を助けたのも、
若君だっていうのに気づいたからじゃないか」
「ふーん・・・なぁ」
「なんだ」
「なんでそんな距離空いてんだよ夜」
「いや、ちょっと近寄り難いというか・・・」
夜は、自分の身の上を話した。
夜は、祓魔の技術で悪魔討伐という仕事をやっているが、悪魔としては下級だ。
これはもう生まれ持ったことなので変えようがない。
つまり、燐には申し訳ないが魔神の炎は畏怖と恐怖の対象なのだ。
悪魔としての本能には逆らい難い。
「・・・なんだよ、せっかくお仲間に会えたと思ったのに」
燐がふてくされたように、膝に顔を埋めた。
燐の周囲には仲間がいてくれる。しかし、みんな人間だ。
弟である雪男もそうだ。悪魔で、人型で。祓魔師の夜。
燐の将来なりたい理想像みたいな存在が目の前にいる。
しかも、二人そろって遭難しかけていることまで同じだ。
仲良くしたいと思うのは、当然のことだろう。
夜は、青い炎のたき火をみた。手をかざせば暖かい。
隣に座っている燐は、上級悪魔が好むように下級の悪魔を殺害したりはしないだろう。
それはわかる。
ふてくされている姿は、子供そのものだ。
夜はため息をついて、燐の頭を撫でた。
そして、体を燐のそばに寄せる。
「寒いからな」
「・・・おう!」
燐はへへへ、とうれしそうに笑った。
目の前の青い炎は暖かい。二人は、吹雪が止むまでの間ずっと話し続けた。
眠れば、体温が奪われるという理由もあるが、
二人とも同族に会えた喜びというのがやはりある。
「夜も任務できたのか?」
「ああ、俺の所属は日本支部じゃないんだ。お前とは別の任務だよ」
内容までは、教えてくれなかった。極秘の任務なのだろう。
夜は、立ち上がって入り口を塞いでいた雪を取って外を見た。
吹雪はもうやんでいる。外に出ても大丈夫だろう。
「たぶんお前の仲間は山小屋に避難しているだろう。途中までなら、送ってやるよ」
「いいのか?・・・って、そうだ。まだ結晶見つけてないんだけど」
「なんだよ、そんなに弟に見せたかったのか?」
夜がからかったように言うと、燐は顔を赤く染めた。
「だって雪男見たいって言ってたし・・・やっぱ見せてーじゃんか」
「立派なお兄ちゃんだな」
「からかうなよ!」
「いや、褒めたんだよ」
夜は笑った。家族がいる。大切な者がある燐は、きっと大丈夫だろう。
自分がそうだったように。記憶の中の少女の姿を思い出して、そう思った。
「でも、今はお前の無事を知らせてやったほうが、喜ぶと思うぞ」
入り口の雪をすべて壊せば、外から光りがあふれてきた。
空は青く、太陽も照っている。もう荒れることもないだろう。
燐が洞窟の中の残り火を消そうと思い背後を振り返る。
すると、奥の方できらりと何かが反射したのが見えた。
「なんだ?」
燐が光りの方向へ向かうと、そこにはガラスのような欠片が転がっていた。
手に取ってみるとひんやりと冷たい。しかし、溶ける気配もない。
「ああ、それが雪の結晶だよ。よかったじゃないか派生場所を見つけたってことは、
調べれば定期的に取ることもできるかもしれないぞ」
「これがそうなのか!?やったー!!」
燐は、結晶を数個とってポケットの中に入れた。帰ったら雪男に見せよう。
うれしそうな燐に、夜も笑う。
「ほらいくぞ若君様」
「若君じゃねーし」
「はいはい」
外に出たら、スノーマンがいた。
吹雪のおかげで周囲に雪がついたのか、元の大きさまで膨れている。
そのままスノーマンに案内されながら、夜と燐は雪山を下山した。
しばらく歩けば遠くの方に山小屋らしきものが見えてきた。
「俺が先に行って仲間がいるか見てきてやるよ」
夜が言うと、燐は夜のコートの端を掴んだ。
別れの時を察したのかもしれない。
少しだけの邂逅だったが、二人の仲はもう近くなっている。
燐は、ポケットから雪の結晶をひとつ取り出した。
「これ、やる」
「いいのか?」
「まだあるからいいんだ。よかったら使えよ。薬になるみたいだし」
「・・・わかった、ありがとな」
「近くに来ることあれば、寮に遊びに来いよ」
「ああ、お前の料理食べてみたいしな。近くに行ったら必ず寄るよ」
「約束だぞ!」
「わかった、じゃあまたな」
夜はその場から消えた。
燐は、スノーマンの後をゆっくりとついていった。
また、と夜は言ったので。夜とはまた会えるだろう。
その日を楽しみに思いながら、燐は雪道を歩いた。
ポケットには、雪の結晶がある。
「雪男、喜んでくれたらいいなー」
のんびりと歩きながらそう思った。
こんこん、という音がして、雪男は扉を見た。
もう吹雪は止んでいる。もしかして、帰ってきたのだろうか。
しかし、ここは悪魔もいる山の中だ。
雪男は、いつでも銃を手に取れるようにホルスターに手を置いたまま、扉を開けた。
そこには、兄がいた。
「兄さん、心配したんだよ!!」
雪男が叫ぶと、相手は少し怯んだ。
いつものように叱ろうと雪男は口を開こうとするが、目の前の人物はどうも何かが違う。
顔も姿も燐そっくりなのに、なんというか。
燐が成長したらこうなってそうな、大人の姿なのだ。
自分の兄は十五歳である。目の前の相手は、もう少し年上に見えた。
「あー、えっと・・・」
「お前の兄ちゃんはすぐ来るよ。迎えに行ってやれ雪男」
指さした先には、遠目だが燐の姿が見えた。
雪男は走りだそうとする。しかし、その人物が誰かも気になった。
振り返った先に、その人物はいなかった。
消えた。どこに。でも、相手から害のようなものは感じなかった。
それよりも、今は兄の姿を追いたかった。
雪男は走って燐の元にたどり着いた。
「兄さん!」
「ふふふ、どうだ弟よ!お前が欲しがっていた結晶を俺が見つけたんだぜ!」
燐がポケットから取り出した結晶を雪男に見せた。
雪男は、燐の手を掴んだ。
「怪我してないよね!?低体温になってない?!みせて!!」
「あれ?そっち?」
想像していた答えと違って、思わず燐がつぶやいた。
雪男は、燐の頭をはたいた。
「結晶はまた探せばいいけど、兄さんは一人しかいないだろ!」
ぎゅっと抱きしめられて、燐は夜の言葉を思い出した。
今はお前の無事を知らせてやったほうが、喜ぶと思うぞ。
燐は、雪男を抱きしめ返した。
「あー、心配かけてごめん」
「わかればいいよ」
二人の体温でも溶けない雪の結晶が、手の平できらきらと光っていた。
雪山を歩く夜に、空から客人が降りてきた。黒い鳥。カラスのようだ。
雪山で見ればまるで黒点のようにも見える。
夜はカラスに向かって腕を差し出した。
カラスは夜の腕を止まり木にして一声鳴いた。夜はカラスに告げる。
「カモフラージュはいいから要件を」
「今回の任務は如何でしたか?夜君」
カラスから、人の声が聞こえてくる。
それは、夜もよく知る人物の声だった。
正十字騎士團日本支部長、メフィスト=フェレスだ。
夜は、たまにメフィストからの指令を受けて任務を行なっている。
今回もその類だった。
「若君様には一度会ってはみたかったが、
まさか若君様に会うことが任務になるとは思っても見なかった。しかも、遭難中かよ」
「でも、彼面白いでしょう?」
「それはわかるが・・・もしかして若君様のこと、フェレス卿も心配だったのか?」
「そこはノーコメントで」
「今度会ったら伝えておくよ」
「それはいいですから、次の任務お願いしますよ」
夜は少し笑って、カラスの足についていた手紙を取った。
今度は、南の方か。夜は刀を抱えなおすと、了解した。とひと言カラスに告げる。
カラスは、一声カァと鳴いて飛び立っていった。
メフィストの使い魔は、主人の下に帰っていく。
その姿が、昔の自分の姿のようで笑えた。
「南か・・・寄れたら、寮の方にも行ってみるか」
夜のために、美味いご飯作って待ってるぞ!と燐は意気込んでいた。
その意気込みを無駄にするのは忍びない。
夜は新たな楽しみを糧に、また歩き出す。
南の方なら、燐が見たことのない花があるかもしれない。
それを土産にしてもいいだろう。薬草だったら、雪男も喜ぶかな。
記憶の中で、花の種類を嬉しそうに教えてくれた少女の面影を思い出し、夜は笑う。
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