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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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告白して告げ口

今までの恋愛遍歴を見れば、その人の性質がわかるというが、
志摩の遍歴を一言でいうならば手当たり次第。とでもいうべきだろうか。
近所に住んでいた子から同級生に転校生。果ては観光客から道行く人まで。
志摩の心は揺れ動く。
ただ、それが長続きするかというとまた別の話である。
志摩がいいなと思った女の子が、自分の家族。
柔造はその筆頭だが、金造から父である八百造まで目移りさせていくのを
間近に見ると、志摩の心はすとんと切り替わる。
ああ、俺やのうてもええんやな。
そんなことが多くあったためか、
相手が自分が好きなのかそうでないかを見極める目が自然とついてしまっていた。

だからだろうか。恋愛沙汰に関していえば
志摩は、気になったことは解決させておきたいタイプだ。
悪く言えば我慢ができない。とでも言おうか。
自分に関わりのないことなら知らぬ存ぜぬを通せるが、
こと自分の中に入れた人間に対しては、心を傾けてしまう傾向にある。
それは志摩だけではなく志摩家全体に言えることなので、
もはやこれは遺伝と言っていいかもしれない。
弟と歩いていく燐の後ろ姿を、志摩は止めることができなかった。
だからだろうか、燐が無事であることをこの目で確かめたい。
そんな思いがよぎったのだ。

我慢は体に毒。と言い訳をして志摩は体調不良と偽って、
授業中ながら学園の廊下を歩いていた。
志摩は別に優等生ではない。
だから幼なじみの勝呂や子猫丸のようにまじめに授業を受けなくても、
良心は痛まなかった。
だいたい、上の兄金造などは志摩よりももっとひどいことをいっぱいしている。

どの程度ならサボっても学校に許されるかは、兄から学んだ部分もある。
志摩と燐は普通科だ。
だから、通りすがりに教室にいる姿を見れればそれでいいと思っていた。
燐のいるクラスの前を通りかかる。
ざっとみたが、一つだけ教室の席が空席になっていた。
あの目立つ姿は教室にはない。サボりだろうか。
志摩は教室には用はないとばかりに、急いで階段を駆け降りた。
いるとすればどこだろう。あの昼休憩の木陰。それとも。
かたん。という音がして、志摩は特別教室の廊下を見た。
補修授業などで使われる教室だ。いつもは、空き教室になっている。
サボるなら絶好のポイントだろう。
志摩は音のした教室の扉を静かに開ける。

ぱっと見。人はいなかった。気のせいか。
志摩が扉を閉めようとするとツンと鼻を突く、鉄錆のにおいがした。
ここは祓魔塾の教室とは違う。
あの祓魔の教室には日常的に悪魔が潜んでいるので、悪魔人間双方に生傷が絶えない。
血のにおいなど日常のことだ。
しかし、ここはそんな殺伐とした光景があっていい場所ではない。
昼間の、一般的な高校の教室なのだ。志摩は目を凝らして、教室の中を見た。
教室の隅でうずくまる。黒いものを見つける。
志摩は、後ろ手で扉を閉めて、その黒いものへと近づいた。
正十字学園の制服から延びる黒いしっぽが不安定に揺れていた。

「おくむら・・・くん?」

おそるおそる呼べば、相手は答えた。
血のにおいは、彼から香っている。
志摩の嫌な予感は、確信に変わった。
うずくまる燐の足下には、赤い血が滴り落ちている。
志摩は男子寮での出来事を思い出す。
駆け込んだトイレ。排水溝に消えていく血。致死節。

「・・・奥村先生、か」

志摩は携帯電話を取り出した。
外部と連絡を取られることを恐れたのか、弟に知られることを恐れたのか。
志摩にすがるように、燐は叫んだ。

「よせ!!」
「なんでや!奥村君、なんで先生に言わへんのや!」

志摩は怒鳴った。志摩は詠唱騎士を志望している。
悪魔を殺す詠唱を唱える術者だ。
志摩の家系は皆取っている称号の為、
詠唱で消える悪魔を幼い頃から何度も見てきた。

跡形もなく、欠片も残さずに消失していく姿。
まるで最初からいなかったみたいに消えていく。
悪魔は自身の致死節をよく知っている。
だから戦闘時には、自分を殺そうとする詠唱騎士を真っ先に狙う。
その死に至る言葉を拒絶するために。
しかし、燐はそうしない。
本能で理解した致死節を知っていながら、それを止めようともしない。
燐は、悪魔としての本能を拒絶して自身を死の間際まで追い詰めている。
志摩は納得がいかなかった。
燐まで、あの悪魔たちと同じように。
ある時からふと志摩の前から消えてしまうことを。
志摩はなによりも恐れていた。

「言えるわけないだろ!!」

燐は叫んだ。やはり、弟が放つ自身の致死節を止めようとはしない。
志摩は燐の胸ぐらを掴んで、自分と目が合うように持ち上げた。

「言うたらええやん!先生のせいで、奥村君はこんな傷ついとるんや!」
「だからだよ!」

志摩は続く言葉を飲み込んだ。燐はぽつりぽつりと心中を吐き出していく。
雪男のせいだ。なんてそんなこと言えるわけがない。
燐はか細い声でつぶやいた。
それが、いつもの燐らしくなくて、志摩はひどく動揺した。
自分のせいで兄を傷つけていると知ったらどう思うだろうか。
守ろうとしているものを、自らの言葉で傷つけているなんて。
それを知って、燐よりも傷つくのは雪男だろう。
雪男の好意は、燐を害す毒になる。
兄を守るために死にものぐるいで祓魔師の資格をとって、
高校生になった今も寮で監視をしている。
雪男は、本来なら高校に入った時点で燐と別れることができたのだ。
それを不可能にしたのは、燐が悪魔として目覚めてしまったから。
唯一頼りにしていた神父も、自分のふがいなさで死なせてしまった。
雪男の重荷になるつもりは、燐は更々ない。
そして、自らが死ぬつもりもなかった。
今という時間を壊したくなかった。
言えば、すべてが変わってしまう。
そんなことできない。
雪男は大切な家族で、燐にとってかけがえのない存在だ。
離れたくはないし、その好意を拒絶することもしたくはない。
うれしい気持ちは確かにあるのに、体はそれを拒絶する。
燐は魔神を倒すという信念がある。
それを叶えるまで、燐は死ぬことはできない。
だから、雪男に答えることはないだろう。
この不毛なやりとりで削られるのは自分の体だけだ。
だからこのままがいい。それは燐の正直な気持ちだった。
燐は志摩に縋って頼んだ。

「頼む、雪男には言わないでくれ」

瞳の奥の、赤い光彩が揺れている。
志摩は、取り出した携帯を握りしめた。
燐は、自分の状況から逃げない。逃げたりはしない。
そのまま、燐の肩を抱き寄せて寄り添った。
いつもの軽口を真似るように言葉を吐き出す。

「奥村君、好きや」
「・・・うん」
「好き」
「・・・うん」
「すき」

何度も口に出して、雪男の代わりとでもいうように志摩は燐に囁いた。
燐は、雪男の時のように好意から逃げたりはしない。
志摩の好意を受け入れて、感謝の言葉を口にする。
志摩の言葉は燐を追いつめないし、傷つけもしない。
ただ、優しく包み込むだけだ。

「・・・ありがとな。志摩、楽になった」

燐はうれしそうに、申し訳なさそうに笑った。
こんな顔をさせたい訳じゃない。
志摩は好きな子には笑っていて欲しいし、幸せになるべきだと思っている。
しかし、燐の幸せはどんな形をしているのだろう。
志摩には想像もつかなかった。

「俺は、約束は守る男や」

志摩はわざとらしく携帯電話をポケットにしまった。
燐は知ってるよ。と答える。
二人で少しだけ笑った。
まるで演技してるみたいだけれど、そんな器用なことはできないことくらい志摩も燐も知っている。

しばらくすると、燐は自力で立ち上がることができるようになった。
血だまりをそのままにしておくわけにもいかず、二人で掃除用具入れから雑巾を取り出して床にたまった血をふき取った。
燐がふき取った雑巾を洗いにいく間、志摩はもう一度携帯電話を取り出した。
何度か文字を打って、送信ボタンを押す。
志摩は連絡がつかないことを覚悟で、メールを送った。

「言わんとは約束したけど、メールするなとは言われとらんわ」

揚げ足を取るようなやり口で吐き出した思いは、電波に乗って飛んでいった。
ほどなくして、燐が洗い場から帰って来た。
志摩の様子に気づいた様子は全くない。志摩は誤魔化すように言葉を続ける。

「もう授業受ける気せぇへんな、このまま塾いかへん?」
「俺は別にいいぞ」
「じゃ行こ行こ、奥村君」
「なんだ、やけに急ぐ・・・」

燐が振り返ったところで、志摩は燐の唇を塞ぐ。
触れるだけの感触でも、血の味がした。
いったい、どのくらい血を吐いたのだろう。
日にちが立つごとに、燐の寿命は雪男の言葉でどんどん消費されていく気がする。

「口止め料って、こういうこというんかな?」

わざとらしく舌を出して唇を舐め取る。
へらりと笑えば、燐も真っ赤になって降りあげた拳を降ろすしかない。
唇を何度も触って、違和感を拭おうと必死になっている。
こういう初心なところがあるから自分につけ込まれるのだ。
志摩はおもしろくてしょうがなかった。

「次はねーぞ!」
「はいはいー」

怒った燐は教室のドアに乱暴に祓魔塾の鍵を差し込んだ。

志摩の携帯が着信を告げている。
着信の相手を確認して、志摩はつぶやいた。

「まだるっこしいことは、やめや」

告げ口をするずるい自分を自覚して、志摩は一歩を踏み出した。
魔神が物質界に侵攻をかけたという情報が入ったのは、祓魔塾に着いてすぐのことだった。

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