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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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告白してお別れ

「兄さん、聞いてくれる?」

雪男は唐突に言葉を放つ。
雪男は燐に背を向けている。視線は旧男子寮に向いていた。
修道院から離れて、今までを過ごした二人の家だ。
魔神との戦いで、半分崩壊してしまっているが、二人のいた部屋は無事のようだった。
燐は、約束通り雪男の言葉を黙って聞いていた。
木陰に背を預けて、雪男の言葉の続きを待っている。
雪男は燐に背を向けたままぽつりと語りだした。

「僕はさ、今まで言い訳みたいな言葉でしか兄さんに言ってこなかったよね。
「たった一人の家族だし・・・」「作ったものが・・・」いっつも言ってたけど、
やっぱり隠していたんだよ。ひとまず、全部終わった。だから僕はもう隠さない。
聞いてくれる?」

雪男は再度問いかけた。
雪男の言葉を燐は遮らない。
そう約束したからだ。

「僕は、兄さんのことが好きだ」


***


魔神を討伐することは、できなかった。
ただし、ダメージを与えられなかったかといえば、別の話だ。
虚無界の門を開いて現れた悪魔の軍勢は、
門を閉じることで侵攻をくい止めることができた。

魔神は、物質界に出現することはできない。
しかし時折上級悪魔に取り憑いた魔神は、何度も燐と刃を交わした。
そして、二人はどこまでも相入れなかった。
人を蔑みながら人を殺した悪魔と、人に蔑まれながら人を好んだ悪魔。
交わることは永遠にないだろう。
燐と祓魔師の努力の甲斐あってか、魔神の物質界への侵攻は止まった。
おそらく一時的なものだ。今回だけではなく、またあるだろう。
それでもひとときの休息が物質界に訪れたのは確かだ。
その安息を導いたのは、他でもない。
魔神の息子である奥村燐だった。

「これで、ヴァチカンもおいそれと奥村君を処刑なんてできへんやろな」

志摩は怪我人が多くひしめく学園内を走っていた。
虚無界の門は閉じられた。戦いは、終わったのだ。
聞いてほしいことがある。
あの日言えなかった言葉の続きを言おう。
志摩は燐を探してさまよっていたが、どうも姿が見えない。
もしかして、戦いが終わって早々にヴァチカン本部に呼び出されたのだろうか。
志摩の心に一抹の不安が宿る。
早く彼を見つけたかった。誰よりも早く見つけたかった。
志摩は忙しくかけずり回る祓魔師の隙間をぬって、
一番近場にいた医工騎士に話を聞いた。

「奥村さんですか?いえ、怪我をしたとかは聞いてないですよ。名簿にも載っていませんし」
「・・・そう、ですか」

一番の可能性として、怪我を疑ったが、どうやらそれもなさそうだ。
祓魔塾の同期と燐は最後まで虚無界の門を閉じようとあの場で戦った。
結局、戦いを集結に導いたのは燐だが、
信頼できる仲間のサポートがあったからできたのだと燐は笑って語っていた。
度重なる戦闘で燐はだいぶひどい怪我をしていたが、
悪魔特有の治癒力で学園に戻るころには大方の傷が癒えていたことを志摩は知っている。
志摩は、なぜだかあの昼休みの出来事を思い出していた。
怪我を隠して一人木陰にいた燐の姿。
誰よりも先に見つけたのは、志摩だった。
そうだったはずだ。
医工騎士は去り際に思い出したかのように言葉を口にした。

「ああ、でもさっき別の部の人が奥村上一級祓魔師と
奥村さんが一緒に歩いているのをみかけたようで・・・」
「なんやてッ・・・!?失礼しますッ!」

その言葉を聞いた途端、血の気が引いた。
雪男と燐が、ふたりっきりになっている。
それは、今この場面では非常にまずい。
魔神を追い払ったとはいえ、致死説の問題は何一つ解決していないのだ。
燐のそばに、雪男を近づけてはいけない。
志摩は本能で感じた危機に忠実に動いた。
魔神との戦いが終わった後。
区切りのいいこの時期を、あの弟が見逃すはずはない。
魔神の侵攻があったからこそ遠ざかっていた彼らの距離。今はなにもない。
走った。走った。走った。
ずきりと、戦闘で負ったわき腹の傷が痛むが気にしてなんかいられない。

志摩は悪魔ではないし、特別な生まれというわけでもない。
自分程度の祓魔師は、それこそ吐いて捨てるほどいるだろう。
それでも、志摩は今この瞬間。
譲れないものがある。その為に走っていた。

「奥村・・・君ッ・・・!!!」

あの昼休憩の時の木陰。
怪我をした燐が、誰にも言えないとひっそりと隠れていたその場所を目指した。
彼がそこにいるとは限らないだろうけど。
鍵を使って抜け出して、学園内を走り抜けて。
そして、あの時の木陰の近くに人影がいるのを見つけた。

『その続き。全部終わったら聞くからさ』

燐はそう言った。
だから、あの日言えなかった告白を今度こそ言おう。

木陰まであと数メートルというところで、ふいに、燐の声が聞こえた。
とても近くで。すぐそばで聞こえてきた。
ああそうだ。きっとあの木陰に座っているのだ。
あの時のように。
傷はもう痛まないのだろうか、そうだといいと思った。

「俺も―――」

聞こえてきた声に、志摩は、間に合ったと思った。
木陰をのぞき込んだ。

そこには、誰もいなかった。


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