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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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兄弟は譲らない

兄さん、待って。

そんな雪男の言葉を聞かなかったことにして、燐は駆けだした。
事の発端は路地裏で、不良に絡まれていた燐を見つけ、雪男が間に入ってきたことから始まる。

燐は、よく中学をサボっていた。
授業には出ずに、神社や町をさまよって、時間を潰す。それが燐の日課だった。
学校に行っても、不良だ悪魔だと噂され、燐は一人で過ごすだけ。
燐は、自分がそんな風に言われることは慣れていた。

我慢ができないのは、雪男のことを悪く言われることだ。
あんな兄がいて、弟もどんなやつかわからない。
そんな風に言われることがイヤだ。
雪男は努力家だ。
小さな頃は燐の後ろに張り付いて泣いていた弟は、
今や勉強もスポーツもできる優秀な学生へと変貌していた。燐は、そんな雪男が誇らしかった。
周りは才能だなんだというけれど、その結果は雪男が努力をして得たものだ。

だからこそ、兄である自分がそんな弟の名誉を傷つける存在でありたくなかった。
小学校までは一緒に通っていた通学路も、今や別々に通う日々だ。
雪男も忙しいらしく、兄弟が会う時間と言えば修道院に帰った後くらしかない。

しかし燐は今、修道院にも帰っていなかった。

性質の悪い連中に、燐が付け狙われ始めたからだ。
最初は喧嘩の延長戦の恨み目的で狙われているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
燐の行く先に潜み、じっと燐を見つめている。そんな気持ちの悪い視線を燐は感じていた。
このまま修道院に帰って、自分の家の場所を知られてしまってはまずい気がした。
家族に手を出されたらどうしよう。そんな不安から、燐はここ数日家に帰っていなかった。
一応、ポストに手紙だけ入れておいたから、大丈夫だと思っていたのだ。

燐はそのまま視線から隠れるように町に潜んだ。
寝る場所は、公園でも神社の裏でも平気だ。
不思議と、神社の中では視線を感じることもなかった。
燐は神社の裏を拠点にして相手が出るのを待った。

「・・・来るならこい」

視線の相手に向けて、燐はつぶやいた。
燐が消えて、二日たった朝の出来事だ。



しかし、そんな燐の手紙を見て藤本と雪男が動かないわけがない。
藤本と雪男は、燐の手紙をテーブルの上に置いて深刻な顔をしていた。

「・・・しばらく帰らない。心配するな、か。あいつ、今どこにいやがる」
「いつもなら、朝には帰って来てたのに。どうしよう神父さん。兄さん、何かに巻き込まれたんじゃ」

雪男は不安そうな顔を隠さない。燐が帰らないことは今までもあった。
だが手紙を残して消えるなんてことはなかった。
燐は二人を心配させまいと手紙を残したのだが、これでは余計な心配をかけるだけだ。
藤本は、他の修道士にも声をかけ、燐の捜索をすでに開始している。

だが、未だ燐は見つかっていない。

燐は、本人が気づかないところで狙われている。
魔神の落胤。魔神の血を引く悪魔。燐にはまだ秘密にしているが、
燐の存在はあらゆるものを引き寄せる。
もし、藤本や雪男のいない間に、悪魔に浚われでもしたら。

「・・・兄さん、バカなこと考えてなきゃいいけど」

商店街や、行きそうな場所を雪男は虱潰しに探した。
見つけなければ、燐は帰ってこない気がした。
そんなこと許さない。兄さんがいなくなるなんて。
雪男は唇を噛みしめる。
雪男が商店街を通っていると、路地裏から声が聞こえてきた。
喧嘩特有の、そんな喧噪が漏れ出ている。
雪男は一瞬躊躇したが、声のしたほうへ足を向けた。
別に、喧嘩くらいなら雪男が祓魔師になったときに習った護身術でなんとかなる。
問題は、そこに燐がいた場合にどうするかだ。雪男が祓魔師であることは燐には秘密にしている。
弟が出てきて、喧嘩に割り込んだら燐はどう思うだろうか。
駆けている間に悩んだが、とにかく燐を連れて逃げれればいいか。と思い直す。

なるようにしかならない。
今は、とにかく見つけて連れ戻す。それだけだ。

雪男は路地の先にたどり着いた。
ゴミが当たりに散乱していてにおいがひどい。近くには割れたガラスも落ちていた。
視線の先には、不良に絡まれている燐がいた。

「・・・まずいッ!」

しかも、不良の周囲には燐には見えていないだろうが、コールタールが群がっている。
悪魔に取り憑かれる寸前の状態だ。やはり、付け狙われていたのか。

「おいおい奥村くんよぉ、いい加減俺らと来てくれねぇ?」
「ちょっとだけでいいんだよ。そうすりゃ、家族には手を出さねーでやるからさ」
「てめぇ!あいつ等に手出したら許さねーぞ!」
「だから、一緒に来てって行ってるんだよ。しばらく家帰ってなかったんだってな?
大方家族を巻き込みたくなかったんだろうが。お前の家見つけるくらい、簡単なんだよ」
「俺らのリーダーがお前を呼んでる。場所は、ここからすぐ。去年廃校になった学校だ。
来なきゃ、いつまでたっても終わらねーぞ。お前の家に放火するくらいすぐだからな」
「・・・くそッ」

燐は両サイドを不良に挟まれて、しかも家族を人質に脅されていた。
雪男は唇を噛んだ。喧嘩なら燐は負けを知らない。ここで不良を伸すことなど簡単だ。
だが家族を見捨てることなど燐にはできない。
燐の帰る場所はあそこしかないのだ。燐はそれを全力で守ろうとしている。
雪男はそんな燐のことを正直イライラした視線で見ていた。
消える前に家族に相談することくらい、できたはずだ。でも燐はそれをしなかった。
そんな燐の態度が雪男は許せない。
お前なんか関係ないと言われているみたいで腹が立つ。
雪男は路地から飛び出して、不良の背後から声をかけた。

「兄さんになにしてるんだ!」

いかにも、今ここに来ました。といった風を装って。
不良は怪訝そうな顔を。燐は驚いた表情を雪男に向ける。

「なんだよ、ご家族のお出ましか、愛されてんなー」
「ちょうどいいぜ、こいつ脅せば奥村も一緒に来るだろ」

不良の言葉に驚いたのは燐だ。
家族を巻き込まないようにしていたのに、雪男が狙われている。
燐は叫んだ。

「弟は関係ないだろ!」

燐の言葉に怒ったのは雪男だ。

「関係ないわけないだろ!家族なんだから!!」

雪男はポケットから取り出した瓶を不良の一人に投げつけた。
ぱりんと音を立てて、中の液体が不良の頭上に降り注ぐ。
不良の一人は、叫び声をあげて倒れた。
祓われたコールタールが天高く舞い上がって消えていく。
中身は、聖水だった。悪魔に取り憑かれる前ならばこれで祓うことができる。
雪男は続けて、聖水を投げようとした。しかし、それを燐は止めた。

「やめろ、雪男!お前が手を出すことなんてない!」
「兄さん、だって・・・!」

不良の一人が、携帯を手に取っていた。それを見て、雪男は舌打ちする。
燐ならばまだしも、雪男が不良相手に喧嘩しているところを撮られれば、雪男も只では済まない。
受験を控えている雪男はちょっとの喧嘩が内申点に響かないとも限らないのだ。
燐はそれがわかっていたからこそ、雪男を止めた。
汚れ役は自分だけでいい、燐はそういう考えだ。
しかし、雪男はやめなかった。
燐には見えていないだろうが、あの不良は取り憑かれる寸前の状態だ。
燐が魔神の落胤だと気づかれれば、この日常は終わる。
兄がいなくなってしまう。
それは雪男にとって自分の将来のことよりもよっぽど怖かった。
燐は、不良と雪男の間に立ちふさがった。雪男は燐に怒鳴る。

「どけよ!!」
「いやだ!」

こうしてみると、まるで兄弟喧嘩だ。
小さな頃は喧嘩をすれば燐が折れることが多かった。
なんだかんだ言って、燐は雪男に甘い。だが、今回は燐も譲らない。
大切な家族の将来を傷つけるわけにはいかない。
燐はそのために家を離れ、雪男からも離れたのだ。

燐も雪男も譲れないものがある。

動いたのは、雪男が先だった。不良に向かおうとする弟。
燐はそれを止めた。
そして、そのまま雪男を路地へと突き飛ばした。
がしゃん、と雪男の倒れる音が聞こえる。
咄嗟の事だったので思ったよりも強く突き飛ばしてしまったようだ。
燐は真っ青になった。見れば、雪男の手から血が流れていた。
運悪く落ちていたガラスで切ってしまったようだ。
雪男は手を押さえて、路地にうずくまっている。

「・・・あ」
「あーあ、なんだよせっかく優等生君の喧嘩シーン撮れるかと思ったのに。
兄弟喧嘩の果てに、弟君傷つけるとかひどい兄ちゃんだよな」
ニヤつく不良の言葉に怒ったのは雪男だった。
「黙れ・・・!」

突き飛ばされたせいで、胸を打って痛い。すぐに立ち上がるのは難しそうだった。
そんな雪男を見て、燐は泣きそうな顔をしている。
雪男を、家族を守ろうとしてがんばっていたのに。
その自分が雪男を傷つけてしまった。
燐は雪男に背を向けた。そして不良に声をかける。

「・・・俺が行けばいいんだろ。案内しろ。
その代わり、雪男は見逃せ。家にも放火する必要はないだろ」
「物わかりがよくて嬉しいぜ。そうだな・・・お兄ちゃんの頑張りに免じて。
仲間の一人をダウンさせたオトシマエはお兄ちゃんに取ってもらおうか」

燐の腰を引き寄せて、不良は笑った。
燐は手を振り払うが、どっちの立場が上かわかってんだろ。
そう言われればもう燐にはなにもできない。
不良が歩き、燐がその後をついていく。
雪男は止められなかった。
燐には見えていないが、雪男には見えていたもの。
群がっていたコールタールが不良の体と融合してしまっている。
その姿は、もう完全に悪魔に取り憑かれていた。
燐は雪男から遠ざかる。

「兄さん、待って」

そんな雪男の言葉を聞かなかったことにして、燐は駆けだした。
雪男の手からは赤い血が流れていた。

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