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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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ファントム・トレインの助言


貴方は自覚が無さ過ぎるようですね。
そんな頭の悪い子には御仕置きが必要です。
自分の立場をきちんと自覚しなさい。



目が覚めると空は暗闇で雲は紫色をしていた。
どういうことだ。
燐は寝ていた身体を起こして、辺りを見回した。
目の前には電車のホーム。自分が寝ていたのは駅にあるベンチだったらしい。
正十字学園駅で待ち合わせをしていた。
いや、でも誰と待ち合わせをしていた?
燐は頭を抱える。
待ち合わせをしていた事実は覚えているのに、それが誰なのか思い出せない。
眠る前の記憶を辿る。
目の前を変な電車が通過した時、急に眠気がきたのは覚えている。
駅の構内に人気はない。もしかしたら今は夜中なのかもしれない。
それだったら、駅の天井から覗く暗闇の空に説明がつく。
時間を確認してみる為、携帯電話を開いた。

「・・・おい、どういうことだ」

時間は12時半。夜ではない。昼の12時半だ。
おかしい。
燐は立ち上がって、駅の改札のほうへ向かった。
身体がとても軽いのは寝たからだろうか。
改札に駅員はいない。燐は思い切って改札を飛び越える。
それを咎める人はいない。
駅の外を見る。目の前の光景に愕然とした。
昼間なのに暗闇の空に紫色の雲。町並みは同じなのに、そこにいるモノが違う。
角を生やした人間が道を歩き、羽根が生えた犬がゴミを漁っている。
悪魔の住処。
まさか。自分がいる場所は。
悟った瞬間背筋が凍った。
燐は道を歩く悪魔に見つからないように、駅の柱に身を隠した。
駅の名前を見て確信する。


虚無界入口前


「・・・嘘だ」
燐は肩にかけていた降魔剣を降ろして握り締める。

記憶を辿る。目の前を変な電車が通過した時、急に眠気がきたのは覚えている。
電車。燐は気づいた。
あれは初任務の時に遭遇した悪魔。
『幽霊列車』
列車に憑依している悪魔で、別名人喰い列車とも呼ばれている。
人気のない駅のホームで列車を待っているとどこからともなく現れて
魂を奪い走り去る。
問題はここからだ。
列車はそのまま魂を『虚無界』へと連れ去ってしまう。

手を握ってから体を触ってみる。見たところ自分は生きている。
喰われてここに連れてこられたわけではないらしい。
燐が悪魔だからだろうか。
それにしてもまずい。非常にまずい。
考え込んでいると声をかけられた。

「おい、おめぇこんなとこで何してんだよ」
「え」
顔を上げると、魍魎に群がられている角を生やした学生がいた。
「あれ、お前どこかで・・・」
言う前に相手が感激した声で叫んだ。
「若君!どうされたのです!このようなところで!」
「・・・うわわわわ!!!」

見覚えがあると思ったら、こいつは人生ではじめて遭遇した悪魔だ。
学生に取り憑いて、燐を魔神の元へ連れて行こうとした。
青い炎が目覚めるきっかけを作った奴。
「自ら虚無界へ来られるとは、連絡を下されば我らお迎えにあがりましたものを」
「いや、違ぇし!っていうかお前神父に祓われたんじゃなかったのか?」
「それは大丈夫です。祓うといってもあくまで物質界にいられなくなる
だけですから。ああこの姿はむこうにいたときの借物の姿を模しているだけですよ。人型のほうが便利なもので」
そういうと、腕を形作っていた魍魎がばらけた。
有象無象の魍魎の集合体というわけだ。
それにしても気持ち悪い。

「では、魔神様の下へ参りましょうか」
悪魔はぐいっと手を引っ張って燐を連れて行こうとする。
「待て待て待て!どこ行くんだ!」
「どこって魔神様の下へ。ここはまだ虚無界の入り口の入り口です。
どちらかというと物質界に近いので。虚無界はもっと下層にあってですね。」
「無理ーーーーー!!!」
動揺しすぎて思わず炎が出た。悪魔の腕が焼け落ちる。
燐は逃げ出した、もう泣きそうだった。
「若君どうされたのですー?!」
「どうしたもこうしたもあるかー!!!」


目が覚めたら虚無界だったなんて冗談じゃない。
どうにかして向こうへ帰らないと。
幽霊列車に拉致されるとかなにがどうしてこうなった。
雪男、ごめん。お前の言うとおりだったな。
普段から警戒感が無さ過ぎる。
そういってお前は何度も注意してくれてたのに!


改札を飛び越えて、ホームに入った。
駅の電光掲示板を見る。
幽霊列車は人間を虚無界へと連れ去っていく列車だ。
だが、人間を連れ去るには物質界へ行かなければならない。
列車は一方通行ではないはずだ。
つまり、行きがあるなら帰りがあるのではないか。
燐は掲示板を確認する。


正十字学園駅→虚無界入口前

虚無界入口前→虚無界

虚無界入口前→虚無界血の池地獄行

違う、これじゃない。

ホームを走る。
一番線、二番線、三番線。どれも虚無界へ向かう列車だ。
四番線。ここが最後の線だ。


虚無界入口前→正十字学園駅


あった。これに乗れば帰れるかもしれない。
燐が4番線に向かおうとする。
背後から、襲われた。駅の柱に叩きつけられる。
「ぐ・・・・!!」
体と首に蔦のようなものが巻きついて、柱に固定される。
目の前には先ほどとは違った悪魔がいる。
『おめぇさっき炎だしてたなぁ!どういうことだ』
「・・・なんのこ・・・と」
蔦の締め付けが増してくる。息が苦しい。
反撃したいが、腕が蔦に挟まれて、降魔剣が抜けない。
目の前の悪魔は背中に羽根が生えており、口が大きく裂けていた。
額から角が生えているので鬼に連なる種族なのかもしれない。
鬼は蔦を燐の体に這わせる。
気持ち悪い。燐は思わず炎を出した。
蔦が焼ける、だが鬼は動じない。新たな蔦を出して拘束を緩めない。

『すげぇ、本当に魔神様の炎だ!若様は生きておられた!』
「てめぇいい加減離せ!」
プルルルルルル。電車の音が聞こえる。
4番線に幽霊列車が入ってきた。
まずい、あの4番線の列車において行かれたら帰れない。
『若様だ!若様だ!』
鬼の声に惹かれたのか、駅にいた悪魔が集まってくる。
『どうした』
『若様がご帰還されたらしい』
『お付の者はいるのか』
『いやいないぞ』
『チャンスだ』
『若様との間に血を作れば、我ら種族は魔神に連なることになる』
『血を』
『若様の血を』

上着が破られて、白いシャツが露になった。
こいつらなにをいっているんだ。
血?魔神に連なるとか、血を作るってまさか。
二重の意味で襲われるという状況、その事実に燐は戦慄した。
「やめろ!」
青い炎を出す。降魔剣さえ抜けばなんとかなるのに。
蔦を剥がそうとするが、燃やしてもまた生えてくる。
蔦が制服を剥がそうと蠢く。

「嫌だ!!」

「若君!!」
悪魔の蔦が切断される。魍魎の集合体の悪魔は燐を背後に庇って
悪魔達に一喝する。
「無礼者どもめ!」
『お付の者だ』
『ちくしょう』
『逃げろ』
集まっていた悪魔が散る。
燐は蔦を抜け出した。
悪魔達が散って空いた隙間を縫ってそのまま4番線に走った。
驚いたのは魍魎の悪魔だ。
「若君ー!」
「わりぃ!助かった!じゃあな!!」
燐は振り返らない。そのまま幽霊列車に乗り込んだ。
追いかけてきた魍魎の悪魔はドアの前で蹴り飛ばした。
列車のドアが閉まる。走り出した。
魍魎の悪魔はホームを走ってなにかを叫んでいた。
もう追いつけはしないだろう、燐は窓を開けて叫ぶ。
庇ってくれたお礼だけはしようと思った。
「若君!今はお逃げになっても我らはきっと、きっとお迎えにあがります!」
ありがたくない言葉が聞こえたので、そのまま窓を閉めた。
駅が遠く遠く離れていく。
幽霊列車の行き先を確認する。

虚無界入口前→正十字学園駅

一息ため息をついて、席に着いた。
帰れるだろうか。燐の意識が遠のいていく。




「兄さん、兄さん!」
呼びかける声が聞こえて、燐は目を覚ました。
少し肌寒い、身震いして目の前を見る。
「・・・雪男?」
「ここ正十字学園駅だよ!なんでベンチで寝てるの!丸一日どこいってたのさ!」
辺りを見回す。
駅のホーム。改札には駅員。人、人、人。よかった、戻ってこれた。
目の前には普通の列車がある。
「お前、幽霊列車祓ったのか?」
「うん、兄さんが起きる前に」
「そうか」
雪男がコートを燐の体にかけた。
そういえば、服が破れている。
蔦に締め付けられたからあざもついてるかもしれない。

「兄さん、なにがあったのさ」

雪男が燐に問いかける。
そんなの燐にもわからない。
正十字学園駅で待ち合わせをしていた。
気がつけば虚無界にいた。
わけがわからないにもほどがある。

燐の携帯電話がメールの受信を告げる。
携帯電話を取り出して、メールを開く。


おかえりなさい


送信者はメフィスト・フェレス。
それだけで全てを理解した。
待ち合わせの記憶がないのもメフィストならどうとでもできるはずだ。

「雪男」
「なに」
「俺の行方不明の原因がわかった。いまからメフィスト殴りに行くぞ」
「僕も行くよ」

道すがら、今日あったことを雪男に話そう。
きっと雪男は喜んで協力してくれるだろう。
燐はメフィストに対しての警戒値が飛躍的に上がった。




「やれやれ、今回のことで自覚くらいはしましたかね」

メフィストは携帯電話を閉じて、ドアの扉を開ける。
あの双子が来る前に退散するとしようか。
彼は虚無界に行って自覚したことだろう。
自分が悪魔に狙われる存在だということに。


自分の立場をきちんと自覚しなさい。

でなきゃ、悪魔にペロリと食べられてしまいますよ?

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