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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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クロと行き先


しろうがいなくなった。
つぎはりんがどこにもいない。


クロはとてもとても悲しかった。
獅朗が死んでしまったことを知ったときと同じ。
クロは獅朗が死ぬわけは無いと思っていた。
だって、獅朗は最強だったからだ。
でも、獅朗はクロを置いて死んでしまった。
そのことがどうしようもなく悲しくて、門番なのに
暴れて、獅朗が死んだことを信じたくなかった。
でもその時、燐が来てくれた。
獅朗の子供の燐だ。燐には雪男という弟もいた。
獅朗が死んで、クロはひとりになってしまったと思っていた。

でも違った。

燐がいて雪男がいて、クロには友達ができた。
一緒に住んで、燐の作ったご飯を食べて、家族がいたらこんな感じなのかな。
三人で一緒にいるといつも温かい気持ちでいれた。
そこに獅朗もいたらな、とも思ったけど。
クロは三人でいる時間が好きだった。


(あれ?)
違和感を感じた。妙に部屋が明るい上に布団がふかふかだ。
クロは目を開けた。豪華な部屋だな、というのが第一印象。
しかも、床の上にはカーペットがあるではないか。
肉球にいつもの木の板を踏む感触がなくてなんだか気持ちが悪い。
ベットがあるのが見えた。ぴょんと近くにあった机の上に登って確認してみる。
(ゆきおだ)
どうやら雪男は寝ているらしい。大きな窓の外を覗けば太陽はまだ隠れていた。
クロは部屋を見回した。この部屋にはベットは一つで机は一つだ。
雪男はどうしてここで寝ているのだろう。
旧男子寮では、ひとつの部屋で燐と一緒だったのに。
燐はどこに行ったのだろう?
クロはドアをカリカリと爪で引っかいた。
どうにも開かない。旧男子寮ではクロが押せば開くくらい建て付けが悪くて便利だったのに。


突然、雪男が起きた。顔がなんだか不安そうな表情をしている。
雪男は何かを考えるようにして洗面台で顔を洗った。
いつもの雪男の朝にしてはのんびりしてるなと思っていると、クロは気づいた。

(ゆきお、どうしてりんのことなんにもいわないんだろう?)

いつもなら、兄さん起こさなきゃとか、今日の追試どうしようとか
起きた瞬間からブツブツ言っているのに。
クロはもう一度雪男のいたベットに乗った。
もしかしたらベットの向こうにもう一つベットがあるのかと思ったのだ。
でも、そこにはベットなんてなくて、燐の姿もなかった。
これはおかしいんじゃないか。
クロは雪男に訴えた。

(ねぇゆきお、りんはどこ?)

聞いたけど、クロの言葉は雪男にはわからない。
もどかしくなって、ドアをカリカリ引っかいた。
雪男が開けたドアの隙間から急いで外に出る。

(りん、りん。どこー?)

燐にはクロの言葉がわかる。だから呼べば必ず燐は答えてくれた。
小奇麗な寮の部屋をひとつひとつ回ってみたけど燐は答えてくれない。
(ここにはいないのかな)
クロは探した。燐がいた場所を探した。
こんな朝早いから燐はまだ起きてないだろう、だからどこかで寝てるんだそうに違いない。
学校の方、寮のほう、駅のほう。
クロは走って探した。なんだか町を廻っているうちにクロはおかしなことに気づく。

(あれ、なんだか変だぞ)

クロが知る風景となんだか違う。
結局燐は見つからなくて、気がつけば道に学生服姿の人が歩くようになった。
その中にいないのかな、と植え込みからじっと観察をする。
雪男がしえみと笑いながら歩いてきた。
二人はクッキーのことを話していた。
しえみがなんで2つクッキーを作ったのか疑問に思っている。
雪男はそれを貰っていた。
それを見て、クロは少しほっとした。きっと燐にあげるんだ。
そのために雪男は2つ貰ったんだ。
二人がクロには気づかず遠くに歩いていく。声が聞き取りにくいから二人の後を追いかけた。
雪男は言った。




「だって、僕は一人っ子ですし」




クロは立ち止まった。二人に背を向けて走り出す。

(ちがうもん、ちがうもん!)

だって獅朗は生きてた頃クロに言っていた。
俺の息子達な、双子なんだ。
性格は似てないし喧嘩だってするけど可愛い俺の息子達なんだ。
クロ、仲良くしてやってくれな。

クロは走って、旧男子寮までたどり着いた。
ここに最初に来なかったのは、怖かったからというのもある。
ここに燐がいなければ燐は本当に『いなかった』ことにされるんじゃないか。
そんな不安があったからだ。
クロは階段を駆け上がって、「いつもの」部屋の前に来る。
カリカリと爪でドアを引っかく。建て付けが悪いおかげですぐ開いた。


中には、誰もいなかった。


慣れた木の感触を肉球で確かめて、部屋の中を探る。
誰もいないせいか、床の上にかすかにほこりが積もっていて
歩くたびクロの肉球の跡がついていく。
ベットが二つ。机も二つ。
雪男がいたほうにはなんにもなくなっていた。
きっとあの豪華な部屋にそっくりそのまま移動しているんだろう。
燐のほうの机を見るけど、ノートが転がっているだけでそれが燐のものかは
クロには判別できなかった。クローゼットもクロでは開けられないから中を
確かめられない。仕方なく、燐のほうのベットに飛び乗った。
ふかふかじゃなくて、ちょっと固めの感触。
布団から、かすかに燐のにおいがした。
このかすかなかおりに、クロはすごく安心した。

(りん、どこにいったんだよう)

涙が出そうだ。
なんでクロの大切なものはいなくなってしまうんだろう。
布団の上を歩いていると、布団に硬い感触があった。
なんだろうと思って、クロは布団の中に潜って中にあるモノを探し出した。
(あ、これしってる)
獅朗が持ってたやつだ。確か、今は燐が持っていたもの。

(そうだ、かみかくしのかぎっていってたな)

なんでも隠せる鍵だと獅朗は言っていた。
そして、クロはふと今まで感じていた違和感に気づいた。


(どうしてあくまがいなくなってるんだろう?)


クロが感じていた違和感。
いつもなら空中にコールタールがとんでいる。
学校の植え込みに小さなゴブリンがいることだってある。
なのに、朝起きてから今までひとつだって悪魔に出会っていない。
ましてやここは正十字学園だ。中級以上の悪魔は入ってこれないとはいえ、
下級の悪魔がいなくなるなんてことはありえない。
まるで神隠しにあったみたいにあらゆる悪魔が消えている。
なにが起きているんだろう。


しろうがいなくなった。
つぎはりんがどこにもいない。


(りん、どこー?)


クロはにゃーと一声鳴いた。

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