青祓のネタ庫
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「夏には魔物が棲んでるわ」
「まもの?そんな気配ねーけど・・・」
きょとんとした顔で辺りを見回す燐に、隣に座っている志摩は苦笑した。
木陰のベンチに座って、二人は任務後の休憩をとっている所だ。
「ちゃうちゃう、前見てみ」
志摩に言われて、前を向く。
そこには先日衣替えをしたばかりの正十字学園の生徒達が歩く姿があった。
女生徒の服は、普段よりも露出が多くしかも暑さのせいかガードが緩い。
駆け足で走っていく女生徒のスカートの裾も、冬場よりは2センチは短い。
そう、あとちょっとイタズラな風が吹けば、
その裾がめくれるという期待をしたいくらいの絶妙の丈。
燐と志摩の視線は釘づけだ。
しかし、今は夏。そんな滅多なことで良い風は吹かない。
女生徒のスカートはガードされたまま、目の前を素通りしていった。
「・・・ああ。確かに」
「やろ。奥村君と俺ほんまに通じあってて感動するわ。
見えなくて残念・・・って奥村君も思てるやろ?」
「た、多分な」
燐は顔を背けた。心なしか顔が赤い。
「そっけない。本心みせあいっこしよー」
「お前が本心語ることなんかあんのかよ?」
「あるちゃう?多分」
志摩は、ベンチの背に頭を預けた。
木に宿る新緑が目に入る。
木の葉の隙間から太陽の光が透けて、綺麗だ。
目線をそのまま光の射し示す方向に向ける。
燐の顔に射す、夏の光。
小さな風が吹いて、木陰が揺れる。
その揺れにあわせて、光が揺れる。
その光に包まれる燐の姿。
「なんや、きらきらしてて綺麗やな」
思わず口をついて出た。
燐はまた不思議そうな顔をしてこちらを見る。
「今度はなんだ?」
「いや、奥村君から青い炎が出て、それがきらきらと・・・」
「え!?まじかよ!どこから出てた?!」
「・・・ごめん嘘や。びっくりした?」
「呼吸をするように嘘をつくな!」
「俺、嘘してないと息とうんこができへんねん」
「うんこはつかなくてもできるだろ」
「あ、呼吸のことは否定してくれへんの?」
「呼吸する嘘つきとはお前のことだ」
「それ、ただの嘘つきちゃう?」
「う、うるせーな!ビビらすなよ!」
「ごめん、そないに動揺するとは思わんくて」
燐は頭や背中を叩いて、炎が出てないかを確認した。
その様子があまりにも鬼気迫るものだったので、
とっさにでた言葉とはいえ志摩も悪いことをした、と思った。
燐は炎に飲まれることを恐れている。
この炎に飲まれたら、自分が自分でいれなくなるのではないかという恐怖。
強すぎる力に苛まれていることは知っていたはずなのに。
志摩は、燐の肩を抱き寄せた。
「ごめんな、今の俺が悪かったわ」
「なんだよ急にしおらしくなって。つーか暑い。離れろ」
「イヤや」
「なんで」
「奥村君、もしも炎が出てて俺が傷ついたら嫌やなー思てるから俺は離れへん」
「志摩・・・」
燐は、人なつっこいが人とは距離を置く。
それは、その人を例えば自分の強すぎる力だったり、
炎だったりが傷つけないようにする為の予防線だ。
理由はわかるが、志摩はその予防線の外にはいたくなかった。
ぎゅうぎゅうしがみついてくる志摩に、燐は諦めて志摩の肩に頭を預けた。
心地よい風が、二人の間を通り抜ける。
暑さが、少し和らいだ。
「なんでわかったんだ」
「俺と奥村君は通じあってるしな。だからわかる」
「嘘くせーの」
「でも、嫌じゃないって思てる」
「ちょっと黙れ」
風がまた吹いて、木陰が揺れた。
木漏れ日が二人の体をきらきら照らす。
そうして、思った。
「なんか、きらきらしてて綺麗だな」
「さっき俺もそう思った」
「えー、本当か?」
「これはほんま」
肩に回していた手をはずして、手を握った。
風が通り抜けて、木陰は涼しいはずなのに。
また、体温があがっている気がする。
志摩は、燐の耳元で囁いた。
「奥村君、きらきらしてて綺麗やで」
途端、燐の顔に熱が籠もった。
視線を志摩からそらして、そわそわしている。
「暑さで、頭やられたか?」
「多分そうや」
志摩は、視線を燐の全てに向けた。
足の先は靴で覆われているけど、靴下はくるぶしまでの夏仕様。
暑さのせいか、制服のズボンをたくしあげているから足首が露出している。
膝、太股と視線をあげてそのままベルトを見た。
ベルトもしっかり閉めていないから、ちょっと触れば簡単にはずれそうだ。
上はシャツ一枚。ボタンは下2つを止めていない。
ズボンとシャツの間で肌色が少しだけ覗いている。
そのまま腹、胸と辿り、首もとに汗が伝うのが見えた。
そこに顔をよせて、汗をなめとる。
うわ、という色気のない声が聞こえた。
「しょっぱいな」
「い、いきなりなにすんだよ」
燐は離れようとするけど、そのまま体を強引に寄せて、ベンチの端まで追い立てた。
少し動けば落ちる。
そのことに気をとられれば、結果逃げるのが遅れる。
ベンチの端で、キスをした。
触れて、そっと離れて。また触れる。
そうして、燐の額にこつんと額を寄せた。
熱かった。
「なぁ奥村君。夏に魔物がおるって知ってた?」
囁いて、燐の腰に手を回す。
見つめた志摩の瞳に宿る、焔のような何か。
それを悟って、諦めた。
志摩の手に、燐の手が絡む。
「今、俺の目の前にいるよ」
暑さに狂った、夏の魔物がな。
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