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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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目が覚めれば消えるけど

疲れた。本当に疲れた。
雪男はかつてない疲労を感じていた。祓魔師としての任務を始め出すと、休日出勤は当たり前。
明け方に出て、深夜に帰宅するのもざらだ。
雪男はまだ中学生なので、任務でびっちりというスケジュールではない。
どちらかというと補佐の意味合いが強いのだ。
しかし、そこはなり手の少ない職業なだけあって、ハードだ。
事務手続き、備品管理という建前はあるが、実際には悪魔のおとり役、排除までこなさなければならない。

今日も、大型の悪魔のおとり役をして、森を走り回っていた。
森で動くのにはコツが入る。蔦や雑草、唐突に現れる穴や、獣道だって足を取られる天然の罠だ。
慣れない筋肉を使ったせいで足が痛い。しかも、泥まみれだ。
「おかえり雪男首尾はどうだった?」
「…まぁまぁ、といっておくよ神父さん」
修道院に着いたのは夜中の12時を過ぎてからだった。これからまだ事務作業が残っている。
そういえば、中学の実力テストも近かったような気がする。
雪男はスケジュール帳を確認した。
明日、正確には今日の夕方までの事務作業と、英語の予習、出席番号順でいくと先生に当てられるからコレは優先的に。
あとは1週間後に控えた実力テストの範囲の確認と、今日使った弾薬の補充。明後日辺りに祓魔屋にいかなければならない。

「あー、今日4時間くらい寝ればどうにかなるかな」
雪男は眉間に皺を寄せた。そうしているととても中学生には思えない。
終業直前に残業を言い渡されたサラリーマンみたいだ。
「おい雪男、今日は風呂入って寝ろ。俺が事務作業くらいやってやる。オーバーワークなんだよ」
「でも、これも修行のうちだし」
「休むのも修行のうちだ。テスト近いんだろ?俺がやってやるからお前はさっさと風呂入ってこい。
たまには父さんに甘えろ、息子よ」
正直、父のその申し出はありがたかった。
本当は眠くてしょうがない。今日だけ、お言葉に甘えさせてもらおう。
「ありがとう神父さん」
「ゆっくり休め」

風呂場に向かうために廊下を歩いていると、兄の部屋の扉が開いていた。
暗い。寝ているのだろうか。でも、人気はなかった。
(兄さん、また朝まで帰ってこないのかな)
兄が朝帰りをするようになったのも、最近では珍しくなくなった。
きっとまた不良にからまれて喧嘩でもしてるのだろう。
でも、そのおかげで自分の祓魔師としての仕事を怪しまれなくてすんでいる。

兄が帰ってこないほうが秘密はバレない。
おかしな話だ。兄を守るためと訓練を受け始めたのに、今の自分は怪我をして帰ってくる兄の手当てしかできない。
兄を守れてなんかいない。
しかも、兄がいないことに安心している自分がいる。
嘘がばれないことに安堵している自分がいる。
雪男は脱衣所で服を脱ぐと、洗面所の鏡を見た。顔にも泥がついている。

「汚い…」

僕は兄さんに嘘をついている。
顔についた泥を手で拭った。それは頬を伝って一つの線を描く。
見ると、泥の涙を流したようで滑稽だった。

風呂から上がると、眠気はピークに達していた。
今すぐ布団に入らなければ廊下で寝てもおかしくない。
父の部屋を見れば、明かりがついていた。きっと代わりに作業をやってくれているのだろう。
今日は本当に助かった。
ふらつく足元で部屋にたどり着くと、ふわりと安心する香りがした。

(あー、なんか気持ちいい)

雪男はそのまま布団に倒れこんだ。
枕に顔を埋めて深呼吸する。安心する匂いだ。
自分が兄についている嘘も、すべてを忘れて眠れそうな気がした。
それでも、呟く。

「ごめんね…に、い…さん」

雪男は眠りに落ちる前、久しぶりに兄の顔を見た気がした。


「別に謝んなくてもいいのによ、律儀なヤツだな」
燐は雪男の寝姿を見て、一人呟いた。
喧嘩から帰ってきて父に見つからないようにこっそり部屋の窓から入ってきた。
すると、今にも寝そうな雪男が燐の部屋に現れた。
きっと夜遅くまで勉強していたのだろう。雪男は真面目で勉強家だから。

兄の自分とは違って。

燐が止める間もなく、雪男は燐の布団に倒れ、寝入ってしまう。
雪男は寝る前、謝っていた。きっと自分の部屋までたどり着けなくてここに来たのだろう。
そんな弟を追い出すほど、自分は冷酷ではない。
「俺こそごめんな、ダメな兄貴で」
雪男と自分は違う。雪男は優秀だし、成績だって学校でもトップクラスだ。
不良に悪魔と罵られる自分とは違う。

「謝るのは俺のほうだ」

迷惑をかけていると思う。父にも弟にも。そんな自分が歯痒い。
面と向かってはいえないから、寝ている雪男にしか伝えない言葉。
燐は、掛け布団を雪男にかけてやると

「最近、一緒にいる時間がなかったから言っていなかったな」

ひと言「お休み」と呟いた。

雪男はその日夢を見た。
兄と自分が一緒に朝ごはんを食べる夢。

幸せな匂いが詰まった夢。

何の変哲もない幸せがそこにはあった。
 

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クロと大人の絵本

「コレはいったいなんの本ですか」
クロの目がすごく真面目だった。いつものひらがなセリフではない。
漢字を使って喋っている。
「クロ…?酒でも飲みすぎたのか?」
燐は不安になってクロに話しかけた。
ここは寮の部屋だ。朝起きたら何故かクロが絶対零度の瞳で燐を見つめて、問い詰めてきた。
クロはいったいどうしたのだろう。酒の飲みすぎでアル中を超えた向こうの世界にいってしまったのだろうか。
布団の上に正座する燐、対峙するクロ。間には本。
「コレはいったいなんの本なのですか」
「コレは、本です」
燐も何故か敬語になった。
「コレはなんの本なのか聞いているのです」
「コレは…」
「コレは?」
燐は本の表紙を見て言った。
「コレはエロ本です」
「エロ本なのですね?」
「はい、エロ本です」
「では、この表紙に書かれたタイトルを答えなさい」
有無を言わせない圧力に、燐は涙声になりながら言った。
「巨乳小悪魔系美少女ヌレヌレ特集、18禁なんて目じゃないぜ!!です」
「あなたの年齢は何歳ですか」
「じゅうごさいです」
「はっきりと言ってください。何歳で、高校何年生なのですか?」
「15歳、高校一年です」
「ではなぜ表紙に18禁とかいてあるのでしょう」
「18歳以上が読む本だからです…」
うわっ、と燐は布団に顔を押し付けて泣き出した。
ペットに自分の読んでいるエロ本について断罪されるなんて。
これなら雪男に見つかった方がましだった。いや、それも嫌だけど。
「なぜ女の子がヌレヌレになっているのですか」
「俺の、趣味だからです」
「その嗜好にあう本を購入した訳ですね」
「はいそうです」

「では、なぜこの中にあなたのクラスメイトと似たアイドルのヌレヌレ写真があるのですか」

燐は思った。いっそ殺してくれ。
中を見たのか。表紙だけでなく、中まで。
やめてくれ、これ以上俺の心を壊さないでくれ。

「このアイドルはまるで杜山し…」
「やめてくれええええええええええええええ!!!!」

起き上がると、目の前には驚いた表情の雪男の姿があった。
「夢…?」
燐は大量の汗をかいて、息も絶え絶えに呟いた。
夢か、よかった。布団を剥ぐと、燐の腹の上で寝こけるクロがいた。
道理で寝苦しいわけだ。だから悪夢を見たわけか。
「どうしたの兄さん?」
「いや、夢見が悪かっただけだ」
ここが現実でよかった。本当によかった。
燐は安堵の息をはいた。

「ところで兄さん一つ聞きたいことがあるんだけど」

雪男は手に持っていた雑誌をゆっくりと燐に見せた。
ああ、嘘だろう、そんな。
目の前には燐がベットの下に隠していた本が。
表紙にはヌレヌレの女の子の姿が。
18禁の紅い文字が。

悪夢は始まったばかりだ。

クレイジーアップルの宴3

塾が終わり寮に戻ると、雪男が薬を調合しているところだった。
ごりごりごりとすり鉢で何かを擦っているが、その様子が鬼気迫る様子だったので、なんとなく声がかけずらい。
「おかえり」
「お、おう。ただいま」
後ろを向いたままボソッと言われたので、危うく聞き逃すところだった。
そのまま荷物を床に置いて、ベットの上に座る。お互い無言だ。
髪が青くなった日から弟の反応がにぶいというか、ギスギスしている。
部屋に帰っても以前のようにくつろげない。
「あ、あのさ、この前俺が悪魔に捕まった時、助けてくれたのって雪男だろ?」
「まぁね、銃で打ち抜いたんだ」
「助かったよ、ありがとな」
「別に…仕事だし、当然だよ」
「……」
「……」
気まずい。
「ちょっと勝呂達の部屋行ってくる」
「待って兄さん」
雪男はすり鉢の中身を薄緑色の液体の入った瓶に入れる。
どうやらミストスプレーみたいだ。
それをいきなり燐の頭に吹きかけた。
「くっさ!!何コレ青汁みてぇ!!」
目に入った!とのた打ち回れば、雪男は冷たく「失敗か」と呟いてまた席に着いた。
薬学書を開いてそこにバツ印を付け加えている。
同時に開かれた悪魔辞典には、任務の時に戦った悪魔「クレイジーアップル」が記されていた。

強いて言うならあなた達が兄弟で双子だから

メフィストのやつ、教えてくれてもいいだろう。
こんな風になったのはすべて髪が青く染まってからだ。
だが、この魔障を受けたのだって不可抗力だ。
自分は悪くないはずなのになんでこんな目にあうのだろう。


「お前、最近変だぞ…」
目頭を押さえながら、雪男に訴えた。
雪男は変だ。深夜遅くにたたき起こされて、変な薬を飲まされたり。
風呂場にいきなり乱入してきて思いっきり頭を洗われたり。
「変なのは兄さんのほうだ」
それにそっけない。
「お前さ、何焦ってるんだよ」
それは燐の感じた正直な気持ちだった。
この一週間、雪男は何かに焦っている。
「だって…」
椅子に座ったまま、雪男はうな垂れた。


「兄さんが、兄さんじゃなくなったみたいで…」


その声は不安そのもの。
そうか、と燐は気づいた。急に他人行儀みたいになったのは。
「青い髪になったとき、兄弟じゃないみたいだって言われたからか?」
二人は性格は似ても似つかないが、外見は兄弟なのでそっくりだ。
顔が似ていないといわれたことは記憶にない。

だが、最近になって二人の間に決定的な溝ができた。
燐の悪魔としての覚醒だ。
人間と悪魔。兄弟なのに違う。双子なのに違う。家族なのに違う。
ずっと雪男は兄との違いを感じていた。

そんな中、唯一の共通点である黒髪に青い瞳という外見まで突然変わってしまった。
兄弟なのに違う。双子なのに違う。家族なのに違う。
目まぐるしく変わっていく燐の姿。変わらない自分。
だからこそ、雪男は必死に燐を元に戻す方法を探していた。

雪男はこれ以上燐と自分の間に差異を作りたくなかったのだ。

燐は雪男の頭をぽんっと撫でた。
「俺は変わってねーよ雪男、大丈夫だ」
大丈夫といって頭をなでる。小さな頃から続く燐の慰め方だ。
触れる手は暖かい。
俯いていた顔を上げれば青い髪と青い瞳。
いつもと違う、でもいつもと同じ兄の姿がそこにはあった。
「ごめんね兄さん」
視線が交差する。
自然な動作だった。謝罪と親愛が篭もった触れ合うだけのくちづけ。

その瞬間、ボフンという音と共に燐の髪が元の黒髪に戻った。
「おお!?」
「戻った!」
見て、と雪男は燐に鏡を見せる。
「よ、よかったー、これでもう食堂でにらまれなくて済む!!」
燐は嬉しそうにはしゃいだ。雪男は突然のことに驚いてずれた眼鏡を直して、考えた。

(もしかして、さっきのが魔障の治癒方法だったのか?)

悪魔の名は「クレイジーアップル」
狂った林檎。
おとぎ話で白雪姫が食べたとされる林檎だ。
白雪姫の呪いを解く方法は、物語にも記されている。

魔障を受けた時、燐は眠っていた。
本来なら、クレイジーアップルの魔障を受けた者は白雪姫のように深い眠りにつく。
しかし魔神の落胤である燐は魔障の類を受け付けにくいという性質があったため、眠りにつく
ことはなかったのだ。だが強力な魔障をすべて弾くことはできなかった。
魔障を受けているのに、完全に魔障に侵されない。
そんな変わった状態を現したのが、青い髪だった。

ヒントはあったのだ。

「なるほど、厄介な体質だね兄さん」
「何納得してんだよ」
「ううん、でも元に戻ってよかった」
目の前には自分と同じ。以前と同じ、黒髪に青い瞳の兄の姿がいた。
「やっぱりこっちのが安心するな」
「あ、でもこの魔障の解き方って皆には言いにくいね」
「……恥ずかしくなってきた」

顔を紅くする燐を見て、雪男は自分の日常が戻ってきたことを感じた。
悪魔辞典の「クレイジーアップル」の項目を開く。
口頭では言いにくいし、「クレイジーアップル」の魔障の解き方はメモだけで十分だろう。

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報告は任意ですので、ご自由にどうぞ。

サイト名 CAPCOON7
管理人  konbu
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検索よけ済、なおパスワードについては検討中なので
今後方針が変わる可能性がある場合はお知らせします。







お世話になってます

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家族の傷

怪我をして、痛くないわけないじゃないか。

燐がシュラに連れて行かれてからもう一時間が経過していた。
雪男は腕時計を確認してふう、とため息をついた。

「お前は部屋に戻れ」とシュラに言われたが、兄が大監獄へ連れて行かれたのだ。
落ち着いていられるわけがない。しかし、このままここにいても埒があかないのは事実だ。
シュラは自分が納得いくまできっと兄を出さないだろう。
今回はゴーストを処理できるレベルの装備しか持ってきていない。
あのままあそこに閉じ込められてしまった場合のことも考えて動かなければ。

「いったん戻って、態勢を整えるしかないか・・・」

扉の前まで来て雪男は後ろを振り返った。
兄は無事だろうか。怪我を負っていたのに、満足に傷も見れないまま連れて行かれてしまった。
シュラは大丈夫だと言っていた。
だが、この気持ちは理解していないだろう。自分の家族が怪我をしたのに対して、あんな扱いされて。
兄は悪魔だ。
だが怪我をすれば痛むし、血だって出る。

「・・・兄さんを傷つけたら、たとえシュラさんでも許せない」

神父が死んだ今、唯一の家族は兄だけだ。絶対に守ってみせる。
鍵をドアに差し込んで扉を開けた。

本部に入る時に使った――――メッフィーランドの傍の倉庫のドアから出ると
辺りは薄暗くなっていた。今日は任務のために休園して貰っていたので辺りに人影はない。
無人の遊園地はどこか侘しく、またある種の恐怖感を掻き立てる。夕暮れに染まる
メッフィーランドのキャラクターバルーンがそれに拍車をかけていた。
不気味に染まったバルーンから視線を外すと、入場口に一つの人影があるのに気づいた。
「しえみさん、どうしてここに」
「雪ちゃん・・・」
しえみは雪男の姿を見つけてほっとした表情をした。だが、隣にいるはずの人物がいないことに気づいて
また不安そうな顔をした。
「燐は?一緒じゃないの?」
「兄さんは・・・大丈夫ですよ」
嘘だ。でも、口に出して言うことで自分もそう思いたかった。
「神木さん達にも寮に戻るように言われたんだけど、でもなんだか不安だったんだ。
燐、怪我してるようだったから」
その怪我をした兄を、監獄に残したまま戻ってきてしまった。
今更ながら、不安が押し寄せてきた。

「僕も、です」
「え」

しまった。雪男は口を噤んだ。不安、しえみには悟られたくなかった感情なのに。
しかし、しえみはどこか納得したような表情で雪男に言った。
「そうだよね、家族だもんね。燐が怪我してたら、雪ちゃんだって不安だよね」
「すみません」
「なんで謝るの?謝るなら、燐に謝ってもらわなきゃ、こんなに人に心配かけさせて!って」
しえみは制服のポケットに手を入れて何かを探った。今日はじめて着た洋服のせいか、若干苦戦していたが。
平べったい円の蓋がついたものを取り出し、雪男の手に乗せた。
「これは?」
「おばあちゃん特製の傷薬、燐が戻ったら使ってあげて」
「これを渡すために待ってたんですか?」
夏とはいえ、夕暮れになれば冷たい風が吹く。特にメッフィーランド周辺は正十字学園のなかでも
上部に建てられているので、風も強めだ。
クラスメイトが帰った後、一人で帰ってくるかわからない相手を待つのは酷な環境に思えた。
雪男はしえみに声をかけようとしたが、察したしえみの方が雪男を制した。
「私は鍵を使えばすぐ帰れるし、大丈夫だよ。雪ちゃんに会えてよかった」
くるりと踵をかえし、帰ろうとするしえみを呼び止めた。
「しえみさん、送っていきますよ!」
振り返ったしえみは雪男に言った。
「私は大丈夫だから、燐のところに行ってあげて」

また明日ね
しえみは扉の向こうへ帰っていった。

「ありがとうございます、しえみさん」
兄には心配してくれる人がいる。帰りを待ってる人がいる。
僕以外にもちゃんといる。
雪男は寮に向かって走った。兄を迎えに行かないといけない。
シュラが何かを言ってきても言おう。家族を心配してなにがいけないのかと。
寮の前に着くと、部屋に灯りが灯っているのが見えた。
電気は消して出たはずだ、となると。

「兄さん!」

部屋の前まで駆け上がって、扉を蹴破る勢いで開けた。
「な、なんだよ雪男!?びびらせるなよ!」
ベットの上に座って、その隣にクロを侍らせている燐がいた。
はぁと安堵の息を吐いた雪男は、自分も靴を脱いで部屋に上がった。
「よかった、無事で」
雪男の表情から察したのか燐はおう、とひと言応えた。
だが、さり気なく右手を隠した燐の仕草を雪男は見逃さなかった。
「怪我してるの!?見せて!」
「たいしたことねぇよ」
クロもにゃごにゃご訴えてくる。きっと燐の怪我を心配しての声だろう。
言葉がわからない雪男にもわかった。
「余計なこというなクロ」
「見せて」
燐を黙らせるように肩を押して、身体をベットに押し付けた。
右の手の平を見えるように、手首も押さえた。
そこまでされて、ようやく燐は大人しくなった。

手の平には、刀の切り傷と紅く爛れた痕がある。特に爛れ方が酷く手首の方まできていた。
「魔剣に斬られたんだね」
シュラは兄を傷つけていた。殺されなかっただけましだが、自分の無力さに腹が立つ。
そして、どうしようもなく悲しくなった。
影になって見えなかったがベットの上には包帯が転がっている。自分で手当てしようとしたのだろう。
見れば、頭の方にも固まった血がこびり付いていた。
「隠さないでよ、兄さん」
「お前、心配するじゃん」
「そりゃあするよ。家族なんだから、でも隠したりする方がよっぽど心配だよ・・・」
雪男は黙った。俯いている雪男の顔が、下にいる燐にはよく見えた。
燐は怪我をしていないほうの手を伸ばして、雪男の頭をくしゃっと撫でる。
「悪い」
「しえみさんも心配してたよ」
「明日、謝っとくよ」
「そうして」
「雪男」
「うん?」
「重い」
「あ、ごめん」

燐の上から退いて、ベットに腰掛けた。ポケットからしえみから貰った傷薬を取り出す。
「しえみさんから貰ったんだよ、魔剣の傷は傷薬だけじゃ治らないから、僕の薬と混ぜることになるけど
ありがたく使わせて貰おう」
「謝るだけじゃなくて、お礼もいるな」
「そうだね」
雪男は慣れた手つきで薬を塗る。こうしていると、まるで昔みたいだと二人は思った。
まだ藤本神父が生きていて、怪我をした燐を叱った後、雪男が手当てする。
時間にすれば数ヶ月しかたってないが、まるで何年も前のことみたいだった。
あの頃と今は随分違う。藤本神父は死んだし、燐は人間ではなくなった。
「なぁ雪男」
「何?」

「俺、絶対聖騎士になる」

兄の目つきも違っていた。
雪男は変わらずに燐の手当てをする。
きっとこれから何度も燐は怪我をする。それでも何度も雪男は手当てをするだろう。
心配して、不安になって、でも、生きていて欲しいから。
雪男は燐を守り続ける。
「うん」
雪男は応えて、そして心の中で願った。
神がいないことは知っていたから、今は亡き神父に願う。

どうか、兄さんが死なないように守ってください
 

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