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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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北極星の見つけ方

小さな頃、神父さんは僕と兄さんに北極星の見つけ方を教えてくれた。
北極星の位置を知っていれば、迷子になっても修道院に帰れるから。
だけど、兄さんはいつも北極星を見失ってしまう。

だから星を見つけるのは僕の役目だった。

北斗七星が作るひしゃく部分の先端の2星。
その長さを5倍した先に北極星は輝いている。

兄は覚えているだろうか。
北極星の見つけ方を。
兄は帰れるだろうか。
僕達のいるところに。





夢の中、兄が遠くに去っていく風景が見える。
兄の温かい手が、僕の元から離れていく。
いかないで
言ってみたけど、兄には聞こえなかったらしい。
体温が離れていく。
その手を掴みたかったけど、僕の身体は動かない。

じゃあな

ひと言だけ兄が言った別れの言葉。
今も耳に残る寂しそうな声。
僕は止めることができなかった。

「にいさん」

無意識のうちに、天井に手を伸ばしていた。
ベットの横に設置された椅子に、望んだ姿はなかった。
青い月が空っぽの椅子を照らしている。
起きた時から感じていた、言いようの無い喪失感。
神父さんが死んだ時と同じ感覚。

「にいさん・・・」

兄はいなくなってしまった。
その事実がどうしようもなく悲しかった。




次に目が覚めたとき、腕に包帯を巻いたシュラが椅子に座ってこちらを見ていた。
「シュラさん、無事だったんですね」
「まぁな、無様だろ」
話を聞けば、前線で腕をやられて身を潜めていたらしい。

見つけられては逃げ、見つけられては逃げの繰り返しで
傷を癒す暇も、連絡を取る手段もなくなってしまった。
そんなことを繰り返していたある日、いきなり悪魔の進行が止んだ。
悪魔達の進行方向の先に、アマイモンが現れたからだ。

「アマイモンが悪魔達に囁いていた言葉を聞いて、愕然としたよ」



我らの小さな末の弟は我らの手に落ちた。
目的は達成された。
末の弟はお前達との腕試しをお望みだ。
我らの悲願のために、虚無界に向かえ。
喜べ。我らの小さな末の弟は、我らのものだ。



悪魔達は一斉に歓喜の雄たけびを上げていた。


「若君が帰還された、って言ってやがったよ」
「やっぱり、兄さんは・・・」
「・・・すまない。雪男」
「予感がしたんです」


胸糞悪い、といった表情をシュラは隠さなかった。
結局、自分達がやったことは全て無駄になってしまったということだ。
だが、燐があちらにいかなければ間違いなくやられていただろう。
完全なる敗北。屈辱以外の何物でもない。
何よりもむかつくのが。

「あいつが、俺達になにも言わずに行っちまった事だ」

そうしなければならなかったことも。
そうせざるをえなかったことも。
そうしなければ守りたいものを守れなかったことも。
全部理解できるけど、それでも行かないで欲しかった。

「あいつ、ここが好きだったから守りたかったんだろうな」

初めて出来た仲間や友達を見捨てることができなかった。
雪男は、傷口を押さえて起き上がった。
まだ熱は下がっていないようだ。荒い息を吐きながら、搾り出すように雪男は言った。

「僕は、絶対に諦めません」

怪我人とは思えない力強い声で宣言した。

「当然だ、このままじゃ獅朗に合わせる顔がないからな」

諦めない。諦めてたまるか。人間はしぶといのだ。
今度は負けない。絶対に取り返してやる。
悪魔に思い知らせてやる。






兄さんが北極星を見失ったなら
僕が代わりに見つけてあげる。
物質界から届かなくても、虚無界まで聞こえるように。



北斗七星が作るひしゃく部分の先端の2星。
その長さを5倍した先に北極星は輝いている。

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クロとはつじょうき

寮の部屋で薬の調合をしていると、クロがいきなり膝の上に乗ってきた。
雪男は慌てて倒れそうになっていた薬の瓶を押さえる。
よかった、中身は零れていない。
ほっとため息をついて、膝に乗るクロをしかる。
「クロ、だめじゃないか」
「にゃおんにゃおん」
兄のようにテレパシーが使えるわけではないので、クロが何をいっているかさっぱりだ。
兄は今、アイスを買いに購買に行っている。肝心な時にいないんだから。
と雪男は燐に心の中で八つ当たりしておいた。
「にゃおおおう」
「クロ、どうしたの?」
膝の上でコロコロ転がって、腹を見せている。
なんというか、喜んでいるようである。
もっと詳しく言えば悦んでいる。
雪男は、机に設置されているパソコンを弄ってネットに繋げた。
「猫ってこういうときなにして欲しいんだろ・・・」
ネットの大海には先人達の知恵がある。
単純に猫とくくっていいかわからないクロだが、猫叉も猫なんだから習性は同じだろうと
検索をかけた。そして、雪男はひとつの単語にたどり着く。


「発情期・・・だと・・・」


しかも、クロはオスだ。燐はクロの言葉を翻訳する時「俺は~」と訳していた。
だからきっとオスなんだろう。
猫のオスは、メスが出すホルモンに引かれて発情する。
クロは、雪男の膝の上で狂っている。

にゃおおん。にゃおおおん。

「・・・いやいや、そんな」
雪男の臭いに反応してるとかそんなことあり得ないだろう。
雪男の思考が疑問スパイラルに陥りそうになったところで、燐が帰ってきた。




「なんか、おまえからマタタビの臭いがするから狂ってたんだとよ」
「マタタビ?僕そんなの使ってないけど・・・」
今だ狂うクロを抱き、雪男は机の上にある薬を確認した。
「これはハーブのオリーブオイル漬け、これはコールタールの瓶詰め、これは・・・」
雪男は後ろの品質表示を見て、驚いた。
マタタビが0.1グラム入っている薬を使って調合していたらしい。

「どんだけ求めてたんだろうね、クロ・・・」
「最近酒もマタタビもやってないからだろうな・・・可哀想に」

クロは、アル中でマタタビ中でもあったらしい。

不憫に思った奥村兄弟は、翌日マタタビの粉を買いに祓魔屋に足を運ぶのだった。

北極星に背を向けて

俺達が住んでいた南十字男子修道院はその名の通り町の南に位置している。
だから、北極星に背を向ければ修道院に帰れると言っていた。

神父は子供の俺と雪男に、迷子になったときの帰り道を教えてくれた。

道に迷ったら空を見ろ。空が帰り道を教えてくれるから。

俺が帰る場所は、家族のいる場所だった。

でも、空を見上げても北極星は見えない。
俺は帰る道を見失ってしまった。





剣を深々と刺した。牛の形をした悪魔は、額から血飛沫を撒き散らしながら動かなくなった。
疲れた。剣についた血を振り払って、今しがた殺したばかりの悪魔の死体に寄りかかる。ここは虚無界と呼ばれる世界だ。
物質界と合わせ鏡のように位置する世界は、町もみんな物質界に似通っていた。俺が今根城にしているところも、住んでいた南十字修道院とそっくりだった。違うのは、いるのが人か、悪魔かの違い。
でも、植物とか空の色とかの自然物はどれも不気味な色合いをしているから、やっぱり悪魔の世界なんだと実感する。

正十字学園に通っていたことも、なんだか遠い昔のことのように思える。

突然のことだった。
悪魔の総攻撃が始まり、学園が襲われた。
祓魔師の数が少ない日本支部にとっては、対処しきれないほどの攻撃だった。
塾のクラスメイトも必死で戦ったが、称号を取り立ての祓魔師に
できることは少ない。怪我をして次々に倒れていく仲間。
きっとあれは俺に思い知らせるために行なわれたのだろう。
お前はここにいるべきではない。
悪魔側からの圧力を感じていた。それでも学園側に残る俺に、地の王アマイモンから
こう告げられた。

「君が虚無界にくるなら、攻撃をやめてもいいと父上はいっていましたよ」

雪男が悪魔に魔障を受けて、倒れた時のことだった。
その申し出もタイミングが良すぎたので、きっと俺のことを全て知った上で仕掛けてきたのだろう。




病室、目の前の白いベットの上。雪男が熱に浮かされている。
肩口を悪魔の爪で抉られているのだ。当然だろう。
「ダメな兄貴でごめんな雪男」
俺のちっぽけな手一つじゃ、皆を守ることもできなかった。
しえみも、今他の祓魔師の傷の手当に追われている。
勝呂も、前線に近い場所で戦っている。
志摩は足を怪我して、別の病院に入ってる。
子猫丸は後方で勝呂を補佐している。
神木も、悪魔を召還して戦っている。
シュラなんかはもろに前線で負傷して、今連絡が取れないらしい。
雪男も倒れた今、俺がやることはひとつしかないだろう。
青い月に照らされて、雪男がまるで冷たくなってしまったかのように感じた。
神父が死んだ時のようだ。
燐は、唇を噛み締める。そんなのは嫌だ。絶対に死なせてたまるか。
寝ている雪男の額に手をのせた。
汗をかいている。
遠い昔、雪男がまだ体が弱かった頃、よくこうしていた。
死ぬなよ。
お前まで死んじまったら、俺はきっと帰る場所を失くしてしまうから。

「じゃあな」



言いたいことがいっぱいあったけど、言ったら行けなくなるから言わないでおく。
名残惜しいが、お別れだ。
お前らは日の当たるところで生きてくれ。
俺は日陰からお前らのことを想うよ。





「覚悟は決まったようですね」
アマイモンが、学園の門の前で待っていた。
そのなんとも思ってなさそうな無表情がむかつく。
「仕向けたのはお前らだろ」
「決めたのは君でしょう」
そっけなく言って、俺の腕を取って歩き出した。
俺はそれを振り払って言い放つ。
「ちょっと待て、学園から悪魔を退けるのが先だ」
「えー、ダイジョウブダイジョウブ」
「信用できねぇんだよお前らの言うことは」
「まぁ悪魔なんて99パーセント嘘で出来てますからね」
「最後の1パーセントはなんだ」
「悪意ですけど何か」
「いいからやれよ。じゃねーといかないからな」
「うーん、でもあいつ等も殺気だってますから簡単に言うこと聞かないんですよ」



「じゃあ、あいつらまとめて俺が虚無界で相手するから来いって言え」



アマイモンは目を開いて燐のほうを見た。
そして、面白いといった表情をする。
「そういうの僕嫌いじゃないからいいですよ」
「だから絶対学園には手を出すな」
「はいはい、じゃあ行きましょうか」
アマイモンはまた燐の手を取って歩き出した。
最期に、後ろを振り返った。
青い月に照らされて学園が遠く見えた。
空には星が瞬いている。学園の後ろの空に北極星が見えた。
これが、俺が見た物質界の最後の風景。





悪魔が集まる気配がした。
少し寝てしまっていたらしい。悪魔の死体に寄りかかるのを止め、剣を抜いた。青い焔が甦る。虚無界に来て、焔は一層強くなった。
おそらく、サタンの狙いはこれだろう。俺に焔を使わせるためにここに連れてきたのだ。
サタンの最終的な狙いは今はわからない。だが、このままで終わるつもりはなかった。

アマイモンは、虚無界から物質界に来ていた。
おそらくこちらから物質界に帰る手段があるはずだ。

そのため、虚無界にきて真っ先にしたのはアマイモンから逃げ出すことだった。あいつもそれをわかっていたらしく、特に引き止めることはしなかった。俺を追う代わりに、学園にいた悪魔をこちらに差し向けている。
悪魔が来る内は学園は安全だろう。悪魔の相手をするのは大変だが、
このよりどころのない世界で唯一、物質界と繋がっていると感じる瞬間だった。

今のままじゃ、サタンにも、アマイモンにも勝てないだろう。
だから俺は悪魔を殺して、機会を伺う。
少なくともアマイモンに勝てるようになれば、物質界に帰る手段を吐かせることができるかもしれない。
剣の柄を握って、集まってきた悪魔を見据える。
こいつらを俺が殺せば、またきっとみんなに会えるよな。

悪魔の死体を蹴って、燐は走り出した。





神父は子供の俺と雪男に、迷子になったときの帰り道を教えてくれた。

道に迷ったら空を見ろ。空が帰り道を教えてくれるから。

俺が帰る場所は、帰りたい場所は、みんながいる所だった。





虚無界の空は、真っ暗で、雲は紫色をしている。
何度も空を見上げたけれど


北極星はまだ見えない。

拍手返信であります

拍手返信!
空パチの方々もありがとうございます!!



2010/02/14 23:27  初めて~の方

ふおお、ss気に入って頂けてよかったです。
読んでて楽しかったと言って頂けて、嬉しい限りです^^やったー!
アマイモンとメフィストのやり取りは人気ありますね。
悪魔兄弟はやることえげつないけど可愛いと思います。
まだ寒い日が続くのでそちらもお体にはお気をつけて!
お暇な時にまたどうぞ!^^
拍手ありがとうございました!


2010/02/16 18:45 「瞬間を~」の方

わ か っ て い ら っ しゃ る !
ほんのりの切なさとノーブルを混ぜてみました。
人と悪魔の違いっていうのを周囲も感じていそうだなと思いまして。
燐には是非ドレスアップしてもらいたいものです。
きっとすさまじく美味しい子になるでしょうハアハア
拍手ありがとうございました!


2010/02/17 22:12 だみ様

誤字指摘ありがとうございました!指摘して頂けると私が楽できるので
助かっています(オイ 
だみ様にはいつもお世話になっています!
志摩vs雪男も予想に反してバトルが激化してきました。
瞬間を~は周囲と「少し違う子」を強めに出してかいてみました。
テーマはノーブルと切なさ。テーマを感じていただけたみたいで安心しました。
拍手ありがとうございました^^

悪魔で魔法使い

夜、雪男に黙って寮の部屋を抜け出す。
最近悩み事があるとやる、癖みたいなものだった。
夜の街、ネオンが遠く見える。風も冷たく心地よい。
空を見上げれば星が見えたが、街の灯りが邪魔して二つくらいしか見えなかった。
それでも星は、遠く瞬いている。綺麗だった。風がまた吹いた。
前髪が風に巻き上げられて邪魔だ。髪をかき上げると、ふわふわしたものが腕にあたった。
肩にはクロが乗っており、夜風を楽しんでいる。

(りん、おいていくなんてひどいぞ)
「悪い、寝てたから起こしちゃ悪いと思ったんだ」
(きょうはあそぶのか)
「いや、今日はいいや」

クロを抱いて、膝の上に乗せた。下を見れば地面が随分遠くに見える。
星空と地面の中間地点にいるみたいだ。
落ちたら死ぬな、と他人事のように思った。下から風が巻き上げられてくる。
少しだけ肌寒かったから、クロをぎゅっと抱きしめた。

「お前なら平気なのになぁ」
(なにが?)
「なんでもねーよ」

人に触ることが怖くなった原因もわかってる。
志摩と雪男と接触してわかった。
力加減ができるようになったとはいえ、やっぱりまだ怖いという感情が抜けてない。
このままじゃダメなこともわかってるが、どうすればいいんだろう。

「練習っつっても・・・なんか複雑だ」



ハグの練習とかなんだ。外国の挨拶をするわけでもあるまいし。
そもそも相手は誰だ。勝呂か。ダメだ。あいつ怖いし。
子猫丸。身長足りないし、丈夫そうじゃないからダメ。
しえみは・・・無理。すごくしてみたいけど俺男だし。


じゃあ志摩?アイツにはバレてしまっているからやりやすそうだけど、からかわれそう。
じゃあ雪男?全部知ってるから、協力はしてくれそうだ。でも、あんまりあいつに頼りたくない。
今でも頼ってるから、これ以上頼るのも兄としてどうだろう。



燐はうーんと頭を悩ませる。
考えたって、俺の頭じゃ答えがでない。
クロの頭に顔を埋めた。耳の後ろの産毛に頬ずりする。
産毛だからか、背中の毛並みと違った柔らかさが気持ちいい。
しかし、耳の後ろというデリケートな部分なだけにクロが嫌がる所でもあ
った。

(やー、りん)
「悪い悪い」

顔を離して謝った。クロはぴょんと燐の膝から飛び降りて化けた。
クロは大きく変化するとそこらの動物園にいるライオンよりも大きい。
近くで見ると迫力ある。
クロは燐の顔に鼻を押し付けて強請った。

(なやんだときはあそんだらいいんだぞ)
「・・・はは、それもそうか」

遊んで欲しいという要求を燐は受け入れる。
先ほど嫌がることもしてしまったし。
ぐいぐい押し付けてくる、クロの鼻が唇にあたって冷たかった。
その感触を感じてふと思う。



志摩とキスしたんだな、そういえば。
あの時はなにがなんだかわからなかったけど。
キスは平気だ。口だけしか触れ合わないから、力加減なんて必要ないから。



燐は持ってきた木刀を構える。クロは遊んでもらえる喜びが全身から湧き出ていた。
クロはわかりやすい。遊びたいから遊ぶ。食べたいから食べる。悲しいから泣く。
寝たいから寝る。
人間は考え事が多くて面倒だ。
厳密に言えば人間ではないけど。


そこで気づく。



あれ、俺このままだと付き合った相手とセックスもできないんじゃなかろうか。

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