青祓のネタ庫
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燐が任務から帰ってこない。という話を聞いたのは、
雪男が自分の任務を終えて帰還した時のことだった。上層部は、まさか逃亡か。
という疑いを持っているらしく、一刻も早い発見を。
と雪男に命令が下った時には、既に燐が消息をたって3日たっていた。
・・・なんで誰も兄のことを心配しないんだ
雪男は歯痒い思いを抱きながら、燐が消息を絶った森を探索していた。
燐に下されていた命令は、この森の主に取り付いた上級悪魔の退治だった。
祓魔師はいつの世も人材不足だ。普通なら候補生がやる任務ではないのだが、
上層部は人材不足を理由に他の祓魔師を同行させることなく燐一人で任務に就かせた。
森に入った時から感じる威圧感からすると、この森の主というのは神に近い存在なのかもしれない。
そんな力の強い主に取り憑く悪魔を、一人で退治しろとは無茶もいいとこだ。
目の前の草むらをかき分けて進んでいくと、小さな古ぼけた社にたどり着いた。
社は老朽化が進んでいるらしく、所々穴が空いているのが見える。
社の近くまで進むと、血と、争った形跡があることが伺えた。
サタンの落胤
その言葉が雪男に重く伸し掛かる。
上層部は燐を捨て駒としてしか見ていない。
死ねばサタンの落胤がいなくなったということで喜ばれる。
もしも、生きて戻れば厄介な悪魔が退治できたと喜ばれる。
どちらにしてもそこに燐の身を心配する気配はない。
どう転んでも上層部に利点があるようにできている。
兄が進んだ道は茨の道だ。
点々と落ちている血の後を辿って行くと、紅い鳥居が見えた。
その鳥居の傍に、人影を見つけた。
「兄さん!!」
雪男は急いで鳥居の方へと駈けていく。
姿が確認できた。
鳥居に背を預けている燐がいる。
「雪男か」
「雪男か。じゃないよ!心配したんだから!!3日も消息が・・・」
激しい剣幕の雪男を見ても燐の反応は薄かった。
肩に剣を立てかけたまま燐は立とうとしない。
様子がおかしいことに気づいた雪男が燐を問い詰める。
「・・・なにかあったの?」
「なんでもねーよ」
「嘘だ。兄さん何かあるときは絶対なんでもないっていうじゃないか」
雪男は座っている燐に視線を合わせた。
お互いに座って、見詰め合う。そのうちにぽつりぽつりと燐が話し始めた。
「上層部の説明どおり、森の主には悪魔がついていたよ。
しかもその悪魔がタチの悪い奴で、何回やっても森の主から離れないんだ。
寄生タイプっていうのかな。
森の主は小さい女の子の姿しててさ。何回も助けて、助けてって言ってた」
俯いているため燐の表情は伺えなかった。
剣を持つ手だけが震えていた。
「助けようとしたんだ」
燐はぎゅっと拳を握った。
「でも悪魔に不意を突かれてさ。俺・・・」
「もういいよ、兄さん」
殺すしかなかった。その森の主ごと。
降魔剣でその女の子の胸を刺し貫いたのだ。
小さな女の子の姿をしていたとしても、人間と神は違う。
何百年も神として存在していただろう。
姿と中身はまた違っていただろう。
でも。
「最期にさ、その子死にたくないって言って消えていったんだ・・・」
その子が残した言葉が楔となって燐の心に突き刺さった。
助けれなかった。
それが例え人ではなかったとしても。
助けたかったのに。
自分はこんなにも無力だ。
その想いが燐をこの鳥居の傍から動けなくさせていた。
「・・・兄さんは悪くないよ」
雪男は燐の方を抱いた。
身体を見れば、制服には血がこびり付いていたし、切り裂かれた痕もある。
傷口はないようだった。ここから動けない間に治ったのだろう。
でも、心に負った傷は塞がっていない。
「ねぇ兄さん。兄さんは悪くないよ。こんな結果を望んだわけじゃないだろう」
燐は黙ったままだ。
お互いに無言のまま時間だけが過ぎた。
しばらくそうしていると、燐がゆっくりと立ち上がった。
背を向けているため表情は見えない。
先に歩き出す燐の後を雪男はゆっくりとついていく。
燐が選んだのは茨の道だ。
自分が望まなかった結果も受け入れて進むしかない。
「なぁ、雪男」
「何?」
「・・・迎えにきてくれたのがお前でよかった」
なぁ雪男。
あの女の子殺した時。
女の子の胸を貫いて、溢れる血を浴びた時、確かに感じたんだ。
楽しいって。
俺は本当にこの結末を望んでなかったのかな。
続く言葉を飲み込んで燐は歩き出した。
塾のクラスメイトの言葉が思い出される。
なんでサタンの子供がここにおるんや!
どうして笑うの?なんにもおかしくなんかない!
迎えに来てくれた弟に、ひと言だけ感謝の言葉を呟いて。
後は無言のまま二人は帰路に着いた。
迎えにきてくれたのがお前でよかった。
お前の姿を見るたびに俺は確認できる。
悪魔として生まれた自分。落ちこぼれの自分。
かたや人間として生まれた弟。優秀で誰からも認められた弟。
お前の姿を見るたびに俺は自分がどれだけ異常なのかを確認できる。
それで、少しだけ正気に戻れるんだ。
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