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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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話の通じない大人

小さな器の中にちょこんと鎮座する物体を見て、燐は嫌そうにうっとひと言呟いた。

「どうしたの?兄さん」

聖十字学園の食堂で、雪男と燐は並んで昼食をとっていた。
メニューに特に変わったものは無い。
聖十字学園はお金持ちが通うセレブ高校だ。当然昼食の値段も庶民のものとは格段に違う。

しかし、いつもいつもフルコースのメニューというわけではない。
高級なものを毎日食べているとカロリーオーバーにもなるし、
寮生活を送る生徒には母の手料理が恋しくなるものもいる。
学園側はそういった事情にも配慮して、高級メニューの日と普通の食堂で出されるような、オムライスやお味噌汁といったものも日替わりで用意していた。
その日替わりランチは、使われている材料も普通の家庭料理と変わらないものだ。
当然値段も安くなる。

金銭的な問題で普段食堂を使えない燐と雪男にとって、この日替わりランチの日は狙い目だ。

「いや、別になんでもない・・・」

おかずやご飯はあらかた食べ終わっているが、デザートに出た柏餅を燐は嫌そうに見つめている。
甘いものは嫌いではない。むしろ好きなはずなのに。どうしてかそれを食べる気にはなれなかった。

「どうしたの、甘いもの嫌いになった?」
「いや、そうじゃないけど・・・食欲がわかないというか・・・」
「好き嫌いはだめだよ兄さん」
「わかってるって」

燐は箸で柏餅をつついて、柏の葉をはがした。
しかし、一向に食べようとしない燐に雪男が言った。

「僕が食べようか?」
「うーん、でもなぁ・・・なんで今日に限って食べたくないんだろうな」

甘いものを食べたい自分と、それを拒否する自分。
どうやらふたつの想いが燐の中でせめぎあっているらしい。
雪男は時計を見る。まだ時間はあるが、昼休憩も無限ではない。
もう僕が食べるよ、と箸を伸ばそうとしたところで。



机の上に剣が突き刺さった。



しかも、ピンポイントで燐の目の前。
食器の隙間を狙った、絶妙の刺さり加減だった。
この剣には見覚えがある。


「俺の名前はアーサー=オーギュスト=エンジェル!後でテストに出すからな!」


燐の背後に降り立った、金髪長髪白服の男。
まぶしいほどの白を携えて、男は自己紹介をした。
「・・・ええ、知っています」
テストってなんだ。講師でもないくせに。
雪男の眉間に皺がよる。
いまさら自己紹介されなくても知っている。大嫌いな男だ。
神父を史上最低の聖騎士と言い、兄を殺そうとした。好きになれる要素がない。
アーサーはカリバーンを机から引き抜いて、肩に担いだ。
カリバーンの切っ先には赤い液体がついている。


「い・・・てぇ」


燐は机に突っ伏して何かを堪えていた。
それに気づいた雪男が急いで机の下を見る。
机に突き立てられたカリバーンは机を貫通し、燐の太腿に刺さっていたのだ。
太腿からは血が出て、机の下に滴っていた。
これが一般生徒のいる時だったら騒ぎになっていただろう。
しかし今回は違った。
昼休憩の時間も後半に差し掛かっていたので、生徒はそろそろ教室に戻る時間だ。
食堂にはもう人はいなくなっていた。それを見越した上でこの男は仕掛けてきたのか。

「いきなりなにをするんです!」

雪男は一気に頭に血が上った。兄を目の前で傷つけられた。怒らずにはいられない。


「ははは、食べ物を粗末にしてはダメだと言おうと思ってな」
「口で言ってください」
「今言ったぞ!」
「兄に剣を刺さないで下さい!」
「もう刺した後だ!」


こいつ、話が通じない。自分のペースで生きている。
この点も雪男が嫌いなところだ。


「いやあ、悪魔の仔。
しかもサタンの落胤ともあろうものが随分と気楽に生きているものだと思ってな。
食堂で食事とはいかにも人間らしいふるまいだ。
しかも好き嫌い?よくも言えたものだ。人間もどきが」

「てめぇさっきから聞いてりゃゴチャゴチャと・・・!」

動けるようになった燐が背後の男に殴りかかる。
アーサーはそれを難なく交わすと、足を引っ掛けて燐を転ばせた。

「はは、よく吼える犬だ。いや、悪魔か」
「てめぇなにが目的だ!」
「いや、悪魔が人間の食べ物を嫌うのは当然か。とからかいに来ただけだ。お前の好物って人肉だもんな」
「喰わねぇよそんなもん!」
「じゃあなんで柏餅食べないんだ?」
「今から喰おうとしてたんだよ!」
「じゃあ喰えよ」
「今すぐ喰ってやる!」

話がおかしな方向になってきた。
雪男は不穏な気配を感じて燐を止めようとするが、燐のほうが早かった。
燐は柏餅を掴んで食べた。
飲み込んだ。
と、同時に青い顔をしてその場に倒れこむ。

「兄さん!」
「ははは、本当に喰ったぞ。おかしな奴だ」

アーサーは心底おかしそうに燐を指差して笑っている。
こいつ、何か仕掛けたのか。雪男はアーサーを怒鳴りつける。

「兄に何をした!」
「俺は何も。喰ったのはあいつの意思だろう」
「何を仕掛けたと聞いている!!」
「別に、人間には害はない。CCC濃度の聖水を使って炊いたもち米と
清めた柏の葉。それにこどもの日、といえばわかるかな」

こどもの日に柏餅を食べる。餅は古来より神が食べる神聖なものとして供え物に利用されてきた。
柏の木は神聖な木とされ、その葉もまた神聖なものとされる。餅と柏の葉が合わさった柏餅。
子供の日の柏餅は邪気をはらう厄除けの役割を果たしているのだ。燐が食べたくないと感じたのも頷ける。
しかも今回はアーサーの策略で更に神聖さが増している。


それを悪魔である燐が食べれば、倒れるのは当然だ。



「ああ、そういえばお前もサタンの仔だったな奥村雪男。
こいつと同じ双子でアレ喰っても平気なんて、お前も相当気持ちが悪い存在だな」



倒れている燐。
ユカイそうに笑う聖騎士の男。
不愉快だ。
日常を壊した男を憎しみの篭もった瞳で雪男は睨み返す。



「わざわざ僕らに嫌がらせするためにここまでやるとは、あんたも相当気持ちが悪いな」



雪男は言った。
アーサーはきょとんとした顔で言い返す。


「サタンの仔に気持ちが悪いといわれるとは、貴重な体験だ。
悪魔が気持ちが悪い、ということは人間にとっていいことが多いな。
聖水も悪魔は嫌がるが、人間にとっては悪魔を近づけさせない、いいものだ。
おお、そうか。それは最高の褒め言葉をとっておこうか」


雪男は燐を抱き起こしながら思った。
こいつ、話が通じないにもほどがある。



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