青祓のネタ庫
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「援助交際」
一時的な交際の対価として金銭の援助を受ける行為そのものを指し、
また必ずしも性行為は伴わない。
勝呂は学校から塾へ行く途中、志摩達と別れた。
ジュースを買おうと思ったからだ。
売店には気に入るものが置いてなかったので、ちょっと足をのばして普段使わない自販機のところまで行った。
いつもなら絶対によらない道だったのに、この日に限って通ってしまった。
事件とは大体こういうときに起こるもので、後悔とは後から悔いるから後悔と書く。
思い返せばこの時が分岐点だったのだ。
未来の勝呂がいたならば、まっすぐ塾に行けと警告できたのに。
自販機にコインを入れ、ボタンを押そうとしたときカラフルな柄が視界に入った。
十字学園と寮を繋ぐ渡り廊下の前だったので、普段見ない色が気になったのかもしれない。
色のある方向に目をやると、ピエロの格好をした男と、十字学園の制服の男子がいた。
「あれは、奥村と理事長か・・・?」
奥村は確か理事長の口利きで特別入学したらしい。
奥村の入学経緯について納得はしていないものの、本人に対してはある程度認めてきている。
いやしかし、こんな金持ち学校の理事長と渡り廊下で話すなんて一体あいつは何者なのか。
「今月の分ですよ奥村燐君」
理事長が茶封筒を渡し、それを受け取る奥村の姿が見えた。
奥村の表情は不機嫌そうだ。
「この前はよくも遊んでくれたな」
「二千円札なんて斬新だったでしょう?」
「しるか」
「おや怖い」
「遊びじゃなくてこっちは真剣なんだからな」
理事長を見る奥村の顔が真面目だった。あいつのあんな表情はじめてみた。
茶封筒を受け取った奥村は、用はないとばかりに去ろうとする。
が、理事長が奥村の腕を掴んで引き寄せて・・・
「は・・・?」
引き寄せてというか、抱き寄せてというか、はっきり言うと二人の口がくっついてというか。
(は、はああああああああああ!???)
驚きすぎて声すら出なかった。思わず押した自販機のスイッチ。
出てきた味は「濃厚ミルクサイダー」だった。
まずそうだ。いや、今の状況はいろんな意味でまずい。それなのに自販機からは間抜けな声で
ルーレットチャンス、あたりが出たらもう一本。などとほざいている。いっそぶっこわしてやろうか。
奥村は弾かれたように理事長から離れていった。
理事長はニヤニヤ笑いを浮かべて去っていく奥村の後姿を見つめた後、鼻歌を歌いながら校舎の中に消えていった。
奥村のセリフが頭の中に響く。
「この前はよくも遊んでくれたな」
「こっちは真剣なんだからな」
あのセリフはどういうことなのだろうか。
「援交・・・なんてそんな。はは、あいつ男やもんな」
電子音を響かせていた自販機が「大当たりぃ」と間抜けな声を響かせた後、ジュースを吐き出した。
出てきた味は「初恋の味レモン水」だ。
やっぱりこの自販機ぶっこわしておけばよかった。
塾へ行っても勉強はできなさそうだ。
「最近の援助交際って男の子でもやるんやなぁ」
志摩がワンセグで表示されたニュースを見ながら言った。
まだ塾が始まるまで時間がある。今は高校で言えば放課後にあたる時間だ。
塾の教室にはまだ三人以外に人は来ていない。
最近暇つぶしに三人で志摩の携帯を使って番組を見るようになった。
ワンセグには「揺れる日本の社会!援助交際の実態」
といった夕方のニュースにありがちなドキュメンタリー式の番組だった。
顔をぼかしてはいるが学ランを着た男子高校生がテレビに映る。
制服でたら見る人が見たらわかるんじゃないですかねぇと子猫丸が呟いた。
男子高校生は家出中、一時の宿を得るために携帯電話で「泊めてほしい」との旨と、
プロフィールを援助交際のサイトに書いたところ一日で20件もの申し出があったという。
しかもその中のほとんどが男からのメールだというから驚きだ。
男子高校生はその中の一人と実際にあって、家にも泊まったらしい。
泊まった時になにがあったかなどの詳細はぼかされていたが、見てるこっちが邪推する程度のことはあったのだろう。
未成年を食い物にする社会はいけない、というありきたりな締めで番組は終わった。
番組を見終わった後、勝呂はなんともいえない気分になった。
「この学園でもあるんですかね?」
子猫丸が言うとすかさず勝呂が否定した。
「あるわけないやろ!」
否定したところで、メフィストと燐のやり取りが頭に浮かんだ。いや、違う。ありえない。ありえない。
「そうですか?案外やってる奴おりそうですけどね」
「志摩も何いいだすんや」
「だって、ここお金持ち学校でしょう。ブランド力あるし、男女ともに食いつく大人はいくらでもいそうですけどねぇ」
「なんやそれ、ありえへんわ。だいたい、男同士やろ・・・」
強面の顔をさらに歪めて、勝呂は唸った。
「まぁ世の中には坊みたいな強面を好きな大人もいるっちゅうことですよ」
「そんな情報いらんわ!気色悪い!」
「でもそれでいうと奥村君みたいな人は好かれそうですね」
子猫丸の爆弾発言に勝呂の顔が一気に青ざめた。頭の中にまたメフィストと燐のやり取りが浮かんだ。
停止する勝呂を尻目に、子猫丸と志摩の話が進む。
「ああ、奥村先生も奥村君もかわいい顔してはるもんね」
「僕、ネットで十字学園をネタにした掲示板にアクセスしたことあるんですけど」
「ふうん、そんなのあるんやねぇ」
「この人の情報モトム!っていうので奥村君と先生の二人が写ってる写真がありましたよ。勿論削除申請しときましたけど」
「うわ、本格的やな。奥村ツインズはそのテの人のツボでもついてるんやろか。どんぶり狙いとかタチ悪いわ」
「第一の興味はやっぱり顔なんですかねー」
「・・・なんか奥村ツインズ可哀想なことになってるってことやん・・・・・・」
手の震えが止まらない。世の中に蔓延る援助交際がまさか、こんな身近で起こっているなんて。
正十字学園はもっと意識の高い人らが集まる神聖な学び舎だと思っていたのに。
その理事長は子供を食い物にする性癖だったなんて。
まじでそういうことなのだろうか。理事長と奥村は。
聖書学のテキストを持ったまま固まる勝呂に、志摩と子猫丸が訝しげな目を向けた。
「坊、調子でも悪いんですか?」
「なんか悩んでいるなら相談に乗りますよ?」
志摩と子猫丸の言葉に甘えるべきか。勝呂は悩んだ。これは自分ひとりの問題ではなく奥村兄弟にも
関わってくるから。いや、でもクラスメイトが間違った道に進んでいるならば、それを止めるのもクラスメイトの役目ではないだろうか。
決心した勝呂は重い口を開けて二人に自分の見たこと、その詳細を打ち明けた。
「あのな、奥村が・・・」
話した後、志摩は大笑いしたし、子猫丸は苦笑いしていた。
しかし、勝呂の顔が大真面目だったことから事の重大さに気づいた二人の顔は、見る見る青く染まっていった。
「嘘でしょう・・・」
「嘘やったらよかったわ」
あの時、あの自販機にいかなけりゃこんなことにならなかったのに。
濃厚ミルクサイダーを飲んだ。吐き気がする。
こんなまずい味生まれて初めてだ。
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