青祓のネタ庫
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それから、どうやって空き地にたどり着いたのかは覚えていない。
冷たくなった兄の身体を背負ったまま、立っていた。
シュラとメフィストの視線が雪男の心に突き刺さる。
「雪男・・・」
「兄さんが・・・」
「雪男、燐を降ろせ」
シュラが雪男の肩を叩いた。
燐の様子を見て気づいたのだろう。
「・・・兄さんが」
「雪男」
「もう死んでる」
その言葉を聞いて、地面に膝を着いた。
シュラが背中にいた燐を地面に横たわらせる。
腕にかけていた倶利伽羅を、燐の体の傍に置いた。
雪男は、横たわった燐の顔を見る。
血がついている。
それを手で拭った。
兄は起きなかった。
「兄さん、死んじゃったんですね・・・」
家族が死んでしまった。
心にぽっかりと穴が空いてしまったようだ。
虚無界と物質界で離れ離れになっていた時のような寂しさとは違う。
本当の孤独だ。
シュラは雪男の背を支える。そして、燐に向き直った。
「馬鹿だな、燐。虚無界に行くのも、何もかも自分ひとりで決めちまいやがって」
「・・・・・・」
「死ぬところまで、獅朗に似なくてもよかったじゃねぇか」
雪男は何も言えなかった。シュラも寂しそうな表情をしている。
当然だ。燐に剣を教えたのはシュラ。いわば師弟のような関係だった。
生き残るために剣を教えたのに、その教え子が死んでしまってはどうしようもない。
それが守りたいものを守るために選んだ道だとしても。
「お前は、もっと周りを頼ってもよかったんだよ。本当、そこだけは死んでも直らなかったな」
頬に触れるシュラの指、冷たい温度しか伝えないそこを何度も撫でた。
燐の目は開かない。
メフィストも燐の傍に近寄って、顔を見た。
次に足元まで来て、確認をする。
そして思いもよらない言葉をかけた。
「まだ、間に合います」
弾かれたように、雪男はメフィストの方を向く。
間に合う?一体どういうことだ。
「先ほど開けた虚無界への門は奥村君の焔で燃やされてしまったのですが、まだ倶利伽羅がある。
彼を引き戻せるかもしれない」
「おい、どういうことだ説明しろ!」
シュラがメフィストに向かって叫ぶ。
メフィストはたんたんと話を続けた。
「虚無界にアプローチをかけたときに見た光景を覚えていますか?」
「忘れませんよ。兄さんが・・・足を折られて、血まみれになって倒れてました・・・なんの関係が?」
「彼の足を見てください。治っているでしょう。普通なら全治3ヶ月は下らない傷も跡形も無くなくなっている。悪魔の再生速度は人間のそれとは比べ物にならないくらい速い。
ですが特に、虚無界にいるとそれが顕著に現れます。
虚無界とは悪魔の住む世界です。悪魔のための世界と言ってもいい。
しかも、サタンの直系で青い焔を継いでいる。彼の感情としては受け入れがたいでしょうが。
虚無界ほど彼に味方する世界は無い。その力を借りるんです」
メフィストは倶利伽羅を銜えて雪男の前に置いた。
「抜いて御覧なさい」
雪男は縋るような思いで剣の柄を掴み、引き抜いた。
剣から青い焔が出る。しかし、焔に勢いは無くどこか弱々しい。
「倶利伽羅の刃の部分は虚無界に繋がる小さな入り口になっているんです。鞘はその扉の役割をしている。奥村君は「焔」は虚無界に「身体」は物質界に存在している」
「理屈はいいです、どうすれば!どうすれば兄さんは助かるんですか!」
雪男はメフィストに訴える。剣に宿った焔の勢いがどんどん弱くなっていた。
それが、雪男の不安を掻き立てる。
「その剣を奥村君の心臓に刺しなさい」
雪男の顔がこわばる。その表情を青い焔がゆらりと揺れて照らした。
「焔は、奥村君の生命力と考えてください。倶利伽羅は虚無界と繋がっている。虚無界の焔・・・「生命力」を物質界の「身体」に送り込むことで、生命力を活性化させるのです。もしかしたら」
「助かるかもしれない・・・?」
雪男とシュラの顔に希望が出てきた。しかし、メフィストの表情は浮かない顔のままだ。
「失敗すれば、彼の身体は焔に焼き尽くされて消滅しますよ」
メフィストの言葉は、深く雪男の胸に突き刺さった。
消滅する。つまり、死体も残らない。言い方を変えれば、止めを刺すのと同じ行為なのではないか。
神父がサタンに憑依されて死んだ時、身体は残っていた。
死に近づく燐の身体は焔を許容できないかもしれない。
そうすれば、焔は逆に燐の身体を蝕む刃と化す。
焼き尽くされて、身体すら残らない。
それを、雪男は選択しなければならない。
「倶利伽羅の焔が消えれば、奥村燐の命は終わる。それまでに決めてください」
雪男は倶利伽羅を見た。刃から焔が淡く揺れている。
シュラが雪男に問いかけた。
「雪男、私が代わりにやってもいいんだぞ?」
「いえ、これは僕が背負うべきことです・・・」
「まったく、お前も燐も。周囲に甘えたりはしないんだな」
「そうでしょうか」
「でも、お前が背負うと決めたなら私は止めないさ。どんな選択の結果でも見届けてやるよ」
「・・・ありがとうございます」
もう一度、倶利伽羅を見た。
この焔は兄の命の証でもあり、同時にこの世から兄を奪うものでもある。
雪男は空を見上げて、星を見た。
帰り道を指し示す星の輝き。
北極星がみつけられなかったら、僕が教えてあげる約束だったよね。
剣を構える。
燐の心臓の上に切っ先を合わせた。
迷うな。
迷うな。
殺すためじゃない。
生かすために。
雪男は剣を突き刺した。
焔が燐の身体を包む。
青く、青く、燃えて逝く。
雪男は燃えて逝く焔を見続けていた。
いつまでも。
火の粉が舞って空に消えていく。
燃え逝く焔は空に輝く青い北極星の輝きにも似ていた。
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