青祓のネタ庫
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
≪ 12話 | | HOME | | 拍手返信であります ≫ |
誰かに頭を撫でられた感触がした。
驚いて起きてみた。けど、目の前には壊れた十字架があるだけ。
周囲には人の気配も、悪魔の気配もしなかった。
「・・・なんだったんだ」
頭を触ってみる。なんだかまだ感触が残っている感じがしたからだ。
気絶している時に見た。過去の記憶。
人間死にそうな時になるとそれまでの人生が走馬灯のように頭の中を駆け巡るという。
あれはそういう類のものだったんだろうか。
三人で見た星空。
とても、温かい記憶。
燐は、倒れていた床から起き上がった。
折れていた足は治っている。
少しだけふらついたけれど、大丈夫だ。
「俺は、まだ戦える」
もう一度頭を触ってみた。
倒れている間、雪男が傍にいてくれたような気がした。
兄さん、ここにいるの
声が聞こえた気がしたんだ、雪男。
俺は、ひとりじゃない。
孤独な世界に堕ちたけど、俺はひとりぼっちじゃない。
それだけで俺は戦える。
「ああ、俺はここにいるよ」
聖堂の外で悪魔達が集まる気配がした。
倶利伽羅を持って、外を見据える。
俺は戦う。むこうの世界に帰るために。
雪男は祓魔師が使用する退魔図書館で資料を調べていた。
ここには退魔に関する資料が保管されており、術式を調べるのに適している。
大量の古書、術書が机に散乱しており、それを貪るように見る顔は鬼気迫っている。
「おい、雪男いきなり消えたから逃げたかと思ったじゃねぇか」
シュラがようやく見つけた、という表情で部屋に入ってくる。
理事長室を後にし修道院に行き、今度は図書館。
せわしなく移動を繰り返したのでシュラも見つけられなかったのだろう。
雪男はシュラを一度見て、また資料に目を戻す。
「僕は逃げません」
兄を迎えに行くと決めたのだ。
血まみれで一人横たわる姿。
あんな光景を見せられて平気でいられるわけではない。
動揺がなかったといえば嘘になるが、諦める理由になるわけがない。
寧ろ、火がついたといってもいいだろう。
逃げてたまるか。
僕はもう、兄さんの後ろで怯えて守られるだけの存在じゃない。
「じゃあ、なにか思いついたってことか?」
「ええ」
雪男は地図と資料を広げてシュラに見せた。
「バミューダトライアングルって知ってますか?」
「ああ、船や飛行機が突然その海域に入ると失踪するとかいう場所のことだろ?迷信だけど」
「だけどそういうところには決まって悪魔が出たとか。幽霊がでた、とかいう話がありますよね。
異界に続く道がある。とも」
シュラは頭を捻る。そういう話はよくあることだ。
「幽霊や悪魔が出現しやすいスポットっていうのは確かにあるだろう。そのバミューダトライアングルなんていう外国の話じゃなくてもいいさ。
日本だと恐山や富士の樹海なんかがそれにあたるな」
「つまりそういう所って、物質界と虚無界の境目が曖昧なんですよ」
「それは私も考えなかったわけじゃないが、境目が曖昧なだけじゃアプローチもできないだろう」
雪男は、地図と資料を閉じて机の端に置く。
一呼吸置いて、話し始めた。
言葉に説得力がなければ作戦は実行できない。
シュラに自分の考えを伝え、尚且つ納得させなければならない。
「兄さんがいなくなった時、門番の人が目撃しているんですよ。奥村燐と黒い服を着たとんがり頭の男が学園を出て行ったって」
「・・・アマイモンだろうな」
雪男が頷く。さんざん苦労を強いられた相手だ。
特徴を聞いただけでわかるくらいには因縁がある。
「兄さんは虚無界に行きました。それはアマイモンの手引きがあったからでしょう。
でも、アマイモンと兄さんはどうやって虚無界に行ったんですか?
ここは物質界だ。どうやってアマイモンは虚無界にアプローチをかけたんですか?」
シュラは、ため息をついて雪男を見た。
そもそもこいつは一介の祓魔師と悪魔の王の力の差をわかっているのだろうか。
いや、わかった上で言っているのか。
「つまり、アマイモンが虚無界に行くために使った場所に、行くと?」
「そうです。そこに行くにはクロを使います。兄さんの匂いを辿ればいけるはずです」
「で、そこから虚無界にアプローチをかける、と?」
「そうです」
「正直、もう虚無界に行く道は閉じてるんじゃないか?
あいつらだって馬鹿じゃない。道を閉じるくらいするだろう」
「理事長がヒントをくれました。虚無界を見るときに使った術がありましたよね。
『こちらから虚無界にアプローチをかけることは世界の均衡を保つ上で良いとはいえませんから』っていってましたけど」
アマイモンが使った虚無界へ続く道。
閉じていたとしても物質界と虚無界の境目が曖昧な場所だ。
そこにメフィストの使った術を使うことで、虚無界と物質界へのつながりを作る。
世界の均衡を崩すかもしれないが。
雪男はにっこりと笑いを返した。
「虚無界へ続く道ができれば、それに越したことはありませんよね。」
「・・・メフィストが悲鳴をあげそうな作戦だなそれは」
ただでさえ力が封印されている状態なのだ。
雪男は途中で退室したから知らないだろうが、あの術を使っただけで犬メフィストはへばって動けなくなっていた。
「でも、俺達は虚無界へはいけないだろう。それでもいいのか?」
どうあがいても人間が虚無界へいくことはできない。
それでもこの作戦を強行する意味はあるのか、とシュラは問うた。
雪男は窓の外を見上げる。空っぽの空に青い月だけが輝いている。
「兄は、きっとこちらに帰るための帰り道を探していると思うんです。
その帰り道を作ってあげたいんですよ。
一人じゃ帰れないならその道を照らすことくらいはしてあげないと」
虚無界への道を物質界から作れば、虚無界から物質界への道も開くということだ。
その道を辿って、会いにいくのではない。
こちらに帰ってきてもらうために、道を作るのだ。
≪ 12話 | | HOME | | 拍手返信であります ≫ |