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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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声も電波も届かない

題名:兄さんへ

ちゃんとご飯食べてる?兄さんがいないから
勝呂君やしえみさんも心配しています。
兄さんが帰ってこれそうになかったら僕が迎えに行くから
迷子にならないようにそこにいて。
必ず迎えに行くよ。
だから――――


携帯電話を開く。
返信は無い。きっとメールも電話も届いてないんだろう。
電波が届かないから、声だって届かない。
この世界は不自由だ。




祓魔屋で買った銀弾と、薬草を持って寮の部屋に雪男は戻った。
大荷物で両手が塞がっていたから、扉を開けるのに苦労した。
足でドアを蹴りながら中に入る。
「にゃー」
クロが嬉しそうに寄ってきた。
雪男は荷物を置いてクロにあいさつする。クロは雪男の後ろを確認して
その場でうろうろと様子を伺った。
そこで、雪男は気づく。

「ごめんクロ、まだ兄さん帰ってきてないんだ」

雪男の言葉を聞いたクロはピンと立っていた尻尾を下げて、残念そうな声で鳴いた。
クロの言葉を雪男は理解できない。でも、悲しいんだということはわかった。部屋を見れば、兄が出て行ったままの状態になっている。
祓魔師になってからも学校の学生寮で二人で暮らしていた。

ベットが二つと机が二つ。
その一つはまだ埋まらない。

ベットの上には兄が脱ぎ捨てたパジャマがそのまま置いてある。
兄がいなくなってから、クロはその上で丸くなって寝るようになった。
兄の匂いが残っているのかもしれない。それに素直に縋れるクロが少しだけ羨ましい気がした。

「クロ、兄さんは帰ってくるよ大丈夫」

クロはにゃーと雪男に応えた。
それは、自分自身にも言い聞かせるような言葉だった。







「なんとも難しいですねぇ」
「おい諦めるな犬。こんな時くらい役に立とうとは思わねぇのか」
「先生・・・ヒドイ」

本性がチラリと覗いた雪男は、咳払いをひとつして犬に向き合う。
犬、もといメフィストは理事長室の机の上にお座りした状態でシュラと雪男に睨まれていた。

「ひどい言い様ですね。私がこんな姿になってまで頑張っているというのに」
「だからもっと頑張れって言ってんだ!」
シュラはいい加減切れてメフィストの頭を掴んだ。もどかしい返答を聞きたいわけではないのだ。

「だから、言ってるでしょう。正十字騎士団本部の連中に奥村君を隠していたことがバレて、ペナルティとして力を封じられてしまったんですよ。まぁそこを悪魔側に突かれたせいでこの前の大戦争に繋がった訳ですが。
本部の連中は極東ごときの支部などトカゲの尻尾斬りくらいしか思ってなかったんでしょう。
まだ学園に結界張ってる私を褒めてくれてもいいくらいです」


「質問に答えてくださいフェレス卿。こちらから虚無界に行く方法はないんですか」

メフィストはうーんと悩んで、ため息をついた。
そもそも、虚無界のことを人間は理解していない。
虚無界とは悪魔の住む世界だ。
世界が分かれているのには理由があるのだ。
悪魔は物質界にあるものに「憑依」する形で物質界にアプローチをかけている。
悪魔は安定した身体を持っていない。
虚無界と物質界を行き来できるのは超上級、サタンの子供であるメフィストの兄弟達くらいだ。
そもそも姿かたちが安定していない生き物だからこそ物質界の生き物への「憑依」が成立するのだ。

では、逆はどうか。

カタチが定まっている人間がカタチないものにどうアプローチするのか。
答えは「不可能」
「そもそも並みの人間が虚無界なんかに堕ちて平気でいられるわけないでしょう。精神も身体も壊れて、人間としての残りかすを悪魔に貪られるのがオチです。奥村君なんかは異例中の異例ですよ。
堕ちてもカタチを保っているのはサタンの焔を宿している特殊な体だからです」


「じゃあ、一体どうすればいいんですか。虚無界へは行けない。
 兄が怪我しているのか、無事なのか。どうしているかもわからない状況のままなんて・・・」


雪男は拳を握り締めた。兄を迎えに行くこともできないのか。
同じ双子として生まれたのに、兄とは違う自分がもどかしい。
どうして自分はただの人間なんだ。

雪男の様子を見て、またメフィストはため息をついた。
「確かに、奥村君の様子は私も気になるところです」
「なぁ、お前が犬のまま虚無界に突撃する選択肢はないのか。ちょっと見てこいよ」
「ああなるほど」
「ちょ、できるわけないでしょう!力封じられた状態なんですから!」
「その封印は解けないんですか」
「解けてたらとっくにしてますよ」
「・・・おしい」
「ですが、様子を見るくらいはできるでしょう」
「本当ですか!!?」

雪男はメフィストの身体を掴んで揺さぶった。
虚無界の様子が、兄が無事か確認できるのか。
なんの手がかりも無い今の状況から言えば、それは願ってもみないことだ。

揺さぶる雪男の腕から逃げ出し、メフィストは椅子の上に乗っかった。
「ただし、回数には限度があります。こちらから虚無界にアプローチをかけることは世界の均衡を保つ上で良いとはいえませんから」
「お願いします」
雪男はメフィストに頭を下げる。
メフィストはそんな雪男に忠告をする。


「・・・見ないほうがいいこともありますよ奥村先生」
「見なければ、対策も立てられないでしょう」


雪男の意思を確認して、メフィストは虚無界へのアプローチの準備に入った。机の上に、大きな杯を用意する。直径が1メートルはあるだろうか。
そこに聖水を並々と注ぎ、メフィストの血を一滴垂らす。
「奥村先生の血も一滴垂らして下さい。奥村君と双子である先生の血なら、奥村君を捕捉する目印になります」
「わかりました」
雪男も血を垂らした。血が聖水についた瞬間、聖水の中がどす黒い渦に包まれる。渦の回転がどんどん速くなる。黒と、紫の渦が交互に渦を巻いてきたところで、中央にぼんやりとした風景が写された。
教会かどこかの、聖堂のようだった。

「もう一度いいますよ先生。見ないほうがいいこともありますよ」
「いえ、僕は逃げません」

逃げたりしない。

杯の中に、虚無界の様子が映し出された。





雪男は、南十字男子修道院に来ていた。
修道院の顔なじみたちは雪男の帰還に驚いたが、そんなのには構っていられない。修道院と繋がる教会の聖堂へ続く扉を開いた。
窓から青い月の光が零れている。月の光は祭壇の後ろに設置されている十字架を照らしていた。
紅い絨毯が敷かれた、祭壇に行く途中の場所。

そこに、血まみれの兄が倒れていた。

勿論、虚無界での話だ。
しかし、物質界と虚無界は表裏一体。
鏡一枚隔てた世界の裏、この場所で兄は死にかけていた。
足が折れていたので、腕で張って移動したのだろう。
床を張った後に血の痕が残っていた。
顔に血の気はなかった。それでも倶利伽羅を握り締めて離さない手。
それが、むこうでの戦いの凄まじさを物語っていた。
虚無界の様子を映し出した杯は、無残な様子を映し出していた。

見ないほうがいいこともある。あの忠告はその通りだった。
雪男は床に膝を着いて、その場所をそっと撫でる。
そこはただの冷たい床だ。
血の匂いも、兄のぬくもりも感じられない、ただの床だ。

「兄さん、ここにいるの?」

呼びかけたけれど、応えはなかった。



この世界は不自由だ。
声も電波も、鏡一枚が邪魔して届かない。

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