青祓のネタ庫
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「奥村先生ちょっとええですか?」
塾が終わった後の廊下で、志摩が駆け足で近寄ってきた。
今日はちょっと難しい内容の授業だったから、質問だろうか。
思い、雪男は抱えていた授業用の荷物を床に置く。
「どうかしましたか、志摩君」
「ええ、奥村君のことで聞きたいことが」
「失礼します」
「ちょ、待ってくださいよ先生!!」
足早に去ろうとする雪男の肩を掴んで強引に止める。
雪男は後悔した。あんまり良い内容じゃなさそうだったからだ。
「兄さんがまたなにかしましたか」
「んーまぁおもろいことはしてましたけどね」
曰く。植物系の悪魔との戦闘の実技で逆さづりにされていた。
食われそうになっていたから皆で助けようとしたのだが、
燐を捕まえたまま悪魔が逃走したらしい。
これには監督の先生も焦った。しかし、近くの森に入ってしまった魔物は
なかなか見つからない。木を隠すなら森、とはいうが捜索は難航した。
みんなが最悪の状況を思い浮かべる中、燐はひょっこり帰ってきたという。
手には黒焦げになった悪魔の一部を抱えて。
「奥村君は、落ちてたライター拾って燃やしたっていうてましたわ」
(・・・迂闊すぎるよ、兄さん)
話を聞いて、自然と雪男の眉間に皺が寄る。
誰も焔を出したところを見ていなかったのが不幸中の幸いだ。
「無事だったのはよかったんですけど、なんや不思議やな思て」
「兄さんは時々突拍子のないことするもんで」
雪男はなんとか誤魔化そうと言葉を濁した。すると志摩から思いもよらない言葉が出た。
「いや、不思議なんは奥村君のことじゃなく先生のことなんです」
何故自分のことなのか。雪男は面食らった。
「だってそうでしょう、先生と奥村君の関係見てると逆やと思うんです」
「逆?」
「そう、奥村君って何も知りませんよね。退魔の事、塾のこと、悪魔のこと。
あれだけ悪魔に対処できる力あるのに。それっておかしくないですか。
それに対して、先生は史上最年少の天才祓魔師。
奥村君、先生のこと一緒に住んどってなんも知らんかったっていうてましたよ」
兄のほうは悪魔に対処できる力を持ちながら、なにも知らされずに育った。
普通あれだけの力があれば、早くに目を付けられ祓魔師として育てられていてもおかしくない。
それなのに、祓魔師になったのは弟の方が先。
では、弟のほうは兄よりもすごかったのか。
聞けば、「雪男は昔病弱だった」と燐は言う。
何故力を持った兄より、病弱な弟を選んで祓魔師にしたのか。
順番が逆な気がしてならないと志摩は言う。
「祓魔師になるのなんて1年やそこらじゃできませんよね。
何年にも渡って訓練するもんでしょう。訓練するなら早い方がいい。
奥村君祓魔師になれる環境におったのに、なんでなんもかんも秘密にされとったんかがわからんかったんです」
厄介だ。雪男は思った。
まさかここで兄の正体を言えるはずもない。
志摩は、嫌なところに勘付くタイプか。それに賢い。
勝呂に隠れて普段は見えないが、この上なく厄介な性質を持っている。なら、嘘をついても無駄だ。
「兄には」
「?」
「兄には普通の道で生きて欲しかった。僕も育ての神父もそう思っていたからです。それだけですよ」
こういうときは言葉数を少なくして答えるものだ。
多く語ればボロがでる。
だが、それは雪男の本心だった。
兄は料亭で働いて、自分は医者として人助けをする。
人並みの幸せ。神父と自分が心の底から思っていたことだ。
燐が覚醒した今もう叶わない夢だけど。
志摩と視線が交わった。
志摩はため息をついて、踵を返した。
「なんとなく、わかりましたわ」
「それはよかった」
「先生って、大切なものを大切にし過ぎて壊すタイプなんですね」
志摩は、本心を言わず、雪男の本心を聞き出した。
今日はそれだけで十分だ。
隠していることはまだありそうだ。
そのことを何も知らないから、大きなことは言えない。
それでも、この兄弟の関係はどこか歪に見えた。
クラスメイトがクラスメイトのことを心配するくらい、いいだろう。
志摩は開き直って、歩き出す。
「奥村君には内緒にしときますよ、先生」
去っていく志摩の背中は何故か笑っているように思えた。
雪男はその背中が見えなくなったことを確認して、足元の教材を蹴り飛ばした。
書類が宙を舞う。
片付けるのが大変だ。
そうでもしないとやってられない。
(なにも、知らないくせに)
だが、何も知らない志摩の言うことが図星だったことに一番腹が立った。
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