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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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トイレの神様


「いい、これから兄さんの上司に当たる人に会いに行くんだからね
決して失礼のないようにするんだよ」

雪男はこんこんと燐に言い聞かせた。それも昨晩からずっと同じセリフだ。
流石の燐でも耳にタコができそうである。

燐ははいはいと適当に雪男の言葉を流した。
ちょっと聞いてるの、というセリフも聞き飽きた。

祓魔師を目指して早数年。弟の雪男は一足飛びに免許を取得したが
弟程頭の出来がよくない燐は苦労して苦労してようやく祓魔師の免許を取得した。

養父の藤本と最年少免許取得者の雪男が二人揃って座学を教えてくれなければ
とてもじゃないが取れなかっただろう。
そうまでして取った免許を、
まさか上司との諍いで取り上げられるようなことがあってはならない。
燐だってそれは十分に分かっている。
それなのに雪男は何故こんなにもしつこく言ってくるのだろう。

「うっせーな、そんなに何回も言わなくてもわかってるよ」
「心配なんだよ。ただでさえ彼は面白ければなんでもいいって考えを持ってる。
兄さんなんか生まれつきのトラブルメーカーじゃないか。
目をつけられたらどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない」
「死ななきゃ大丈夫だろ、それに俺には目的があるんだ。大抵のことなら我慢するさ」
「ああ、昔会ったっていう神様の事?諦めてないんだね」

雪男と燐は日本支部の支部長室前に来た。
燐は扉を開ける前に雪男に言った。


「そう、俺はトイレの神様を探しているんだ」



***


燐が家族と衝突をするようになったのは中学に入ってからの事だった。

学校に行きたくないといい、雪男とは通学途中に離れて家にも帰らない日が続く。
当然養父の藤本は心配して何度も燐を探して家に連れ戻した。
けれど、燐はそんな藤本の元から。
家から、何もかもから逃げ出したくてしょうがなかった。

悪魔みたいだと人から言われて、
そんな悪魔の傍にいるから周囲の人まで同じような目で見られるんだと罵られ、
燐には居場所がなかった。

藤本や雪男はそんなことはないと言ってくれるだろう。
けれど燐自身が彼らの傍にいる自分を許せない。
まるで甘えているかのような自分がやるせない。

「兄さん、せめて夜には帰ってきてよ。
一人でふらふら歩いていて、危ない目にあったらどうするのさ」

雪男はそう言って燐の行動を咎めた。
けれど燐には夜家にいれない理由があった。
雪男と燐は二人部屋だ。燐がいては雪男の勉強の邪魔になってしまう。
最近塾に行き始めたというから、なおさらだ。

「俺、喧嘩強いから大丈夫だろ」
「…喧嘩だけが。暴力だけが人を傷つけるとは限らないだろ」

雪男の言うことも最もだと燐は思う。

何故なら燐の心を深く傷つけたのは、
雪男のことを慕っている女子生徒からの言葉だったからだ。

彼女たちは直接燐に対して暴言を吐いたわけではない。
ただ、通りすがりに燐が聞いてしまった。それだけのことだった。
彼女たちも面と向かって言うことは憚られたのだろう。
けれど、それだけに本心からの言葉が刃の様に胸に刺さった。


あんなお兄さんがいるなんて奥村君可哀想だよね。


燐にとって自慢の弟の雪男。
けれど雪男の将来にとっては邪魔でしかない自分の存在。
燐はどうしたらいいのかわからなくなった。

いっそ自分が消えてしまえばいいのだろうか。

そう思って家にも帰らないようにしたのに、
中学生の身である自分ではどうしたって独り立ちはできないのだ。

泣きたいのに泣けない。
こんな不確かな自分はどうしてここにいるのだろう。
はやく大人になりたいと思った。

ここから逃げ出して、父さんや雪男に迷惑をかけないように遠い何処かへ消えてしまいたい。
思春期の逃避とはまた違う。
燐の優しさが、脆さが、ここじゃない場所を求めて彷徨っている。

暗い胸の内が、暗い暗いものを呼び寄せたのかもしれない。
燐の周りは次第に暴力を纏った人物が引き寄せられるように集まってきていた。
その彼らに悪魔が憑りついていたことを、当時の燐は知らなかった。


「うっせーな、近寄るな!」

燐は目の前にいる人物を殴り飛ばした。
人は面白いくらいに飛んで、公園の外にいる自動販売機まで飛んでいった。
ぼこん、という鈍い音がしたけれどうめき声をあげているだけなので生きているだろう。
燐はそのまま周囲にいた仲間を回し蹴りで吹き飛ばす。
彼らは茂みの辺りに放り込まれて、意識が戻る気配はなかった。

最初に燐にいちゃもんをつけてきたのは彼らだ。自業自得の輩に情けはいらない。
彼らはカツアゲをしようとしていたのだが、生憎燐はお金など持っていなかった。
持っているんだろ、持ってねぇよ。そこからはよくある不良のやり取りだ。

口論はエスカレートしていき、あっという間に暴力の応酬になった。
喧嘩になれば、燐は負け知らずだ。
夜は喧嘩に明け暮れて、もう何日修道院に戻っていないのだろう。

藤本や雪男は燐のことを探しているだろうけれど、二人は燐の行きそうな場所から探すはずだ。
今燐は隣町まで来ていた。
歩いて歩いて、行く当てもなくここまで来てしまったから、
二人は容易に燐を見つけることはできないだろう。

もしあと数日戻らなければ、警察に捜索願でも出されてしまうかもしれない。
それは嫌だな、と思った。
警察に補導されてしまえば、燐は藤本が迎えに来るまで交番でお世話になる。
せっかく逃げてきたというのに、意味がなくなってしまう。

「…俺、どうしたいんだろう」

逃げてきたのに、見つけて欲しいような。
二つの気持ちがないまぜになる。

もしこのまま燐が二人から逃げたら、いつか二人は燐の事を追ってくれなくなるのだろうか。
見捨てられるのだろうか。そう、なればいいのだろうか。

額から流れ出た血が頬を伝う。泣いてなんかいない。
不良の一人に木刀で殴られて、派手に出血してしまっている。
ふらふらと足取りはおぼつかないが、燐の傷はすぐに治ってしまう。
どうせすぐに血は止まるだろう。

燐は公園内にある公衆トイレを見た。
夜中だからか、薄ぼんやりとした灯りしかなくて不気味だった。

けれどこのまま血の付いた顔で街中をあるけば一発で補導されるのは目に見えている。
燐はまだしばらくは修道院に帰るつもりはない。
顔でも洗おうか。
そう思って、恐る恐る公衆トイレの中に入る。
お化けでも出そうな雰囲気だが、特に何かが、誰かがいるような気配もない。

燐は鏡で自分の顔を見てぎょっとした。顔中が血まみれでゾンビか何かかと思った。
悲鳴は上げなかったけれど、これはまずい。
燐は手洗い場の蛇口を捻り、自分の顔を洗った。
ついでに拳についていた返り血も一緒に洗い流す。

その間に、外で伸びていた不良たちが走り去っていく音が聞こえて来た。
よかった。流石にこれ以上刃向ってこられたら燐も手加減ができなくなりそうだ。

燐は不良だが、人殺しにはなりたくない。
それだけは、絶対になりたくなかった。


蛇口を閉めて、顔を上げる。
薄明りの中、血を洗い流したおかげで先程よりも随分と顔色も良くなった。
これから、どうしようか。ひとまずは今晩はこの公園で野宿でもしようか。
野宿の際に困るのが、トイレだ。
まさか外でするわけにもいかないのでここ数日コンビニのトイレを借りたりと苦労していた。
ここは公衆トイレがあるので行きたくなれば行けばいい。
その面では、今日ここに泊まるのはいいかもしれない。

燐は寝る場所を探す前に、要を足そうと思いトイレに足を踏み入れる。
薄暗い灯りの中、こんな時に限って学校の怪談などの怖い話を思い出す。
悪い子はいないかと子供を探してうろつくお化け、闇の中に潜む幽霊、
トイレは異界に通じており、夜の闇は異界から来た者と遭遇しやすい云々。
燐は頭を振って、怖い話を打ち消した。

「お、お化けなんていない、いない…」

それでも、そっとトイレの扉を開けた。
そこには便器があるだけで、他には何もない。
公衆トイレでもここにはトイレットペーパーが完備されているようだ。よかった。
正直、この着いては消える電気だけはなんとかして欲しいところだが、
贅沢は言ってられない。燐は家出をしている身である。

トイレの個室に入り、鍵をかける。
その場には、燐しかいない。
そのはずだった。


けれど要を足してトイレから出ようとした所で。
扉が、何かにぶつかった。

燐は扉の隙間から外を見た。そこには、人が立っていた。
燐は思わず、すみません。と声に出した。
声は男の声だった、いいえ。と彼は答える。
燐は動揺した。あれ、俺の後ろに誰かが待っていたのか。
でも、こんな深夜に人なんているのか。
動揺している頭では上手く考えがまとまらなかった。
少し空いた扉の隙間に手を差し入れられて、扉が開かれる。
燐は目を見開いた。

ピエロの格好をした男が、目の前に立っている。
男はニヤリと悪い顔をした。


「こんな夜更けに家に帰らないような悪い子には、お仕置きが必要ですよね?」


個室の中に、男が足を踏み入れる。
燐は男に押されて、トイレの個室の中に押し込められた。
無情にも施錠音が静かなトイレの中に響く。


その夜は、燐にとって一生忘れることができない夜になった。

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