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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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小屋暮らしの奥村燐

高校を卒業してから、僕たち兄弟は別々の部屋に住むようになった。

兄は祓魔師として、僕は医大生としてそれぞれの生活があったからだ。
医大に通うようになって、祓魔師としての活動は休止している。
緊急召集がかからない限りは、普通の大学生として過ごしている。
最初は自分がいなくなって兄は大丈夫なのかと心配したこともあったが、
それなりに仕事も上手くいっているようだった。

今日は久しぶりに兄弟水入らずでの食事だ。

会うのはどれくらいぶりだろう。一年、とまではいかないがそれに近い。
毎日寮で顔を会わせていた日々が懐かしいと思うくらい。

僕たちはお互いの近況を知らなかった。

兄の部屋は騎士團が用意したと聞いている、
貰った地図を見ながら兄が住んでいるアパートを探した。
工業団地ともいえる場所にあるらしく、珍しいなと思っていた。

近くに人が住んでいる気配は薄い。
工場の緑色のライトにぼんやりと照らされた町は、
工場萌えという写真集にもピックアップされたことがあると聞いている。

つまり、専門的な人以外余り人が寄りつかない場所というわけだ。
疑問に思いながらも地図通りの場所へたどり着いた。
目が点になった。

「ほったて小屋・・・だと」

旧男子寮の方がまだましだと思えるくらいの。
トタンと錆びた鉄骨。古びた木でできたアパートとも呼べない。
小屋がそこにあった。
すりガラスの向こうに豆電球の光が見える。

呼び鈴は故障中とガムテープが貼られていた。
中からドタドタと足音が聞こえてきた。
足音に合わせて小屋が揺れていたのは気のせいだと思いたい。
がらりと開けられた引き戸は、所々穴が開いている。
薄暗い部屋の中から、兄がひょっこり顔をのぞかせた。

「雪男!久しぶり!」

変わらない兄の姿に安心して、小屋の中に入った。



部屋の中は豆電球の明かり一つだけだった。
今は夜だ。雪男には暗闇と同等である。
歩くたびに天井から飛び出た木に頭をぶつけた。
そもそも、天井低すぎる。

雪男が抗議をすると、燐の身長だとぎりぎりぶつからないようになっているらしく、
燐はそのことに余り頓着していなかった。
部屋の暗さについても燐は悪魔なので夜目が利く。
今まで困ったことはないようだ。

「それより、腹減っただろ。飯できてるぞ」

気配で指を指した先を探ると、いい匂いがした。
本当に久しぶりの兄の手料理だ。前が見えないので、
一言断ってから携帯電話のライトで部屋を照らした。

四畳半あるかというくらいの畳の上に、古びたちゃぶ台が置かれている。
その上に出来立てのご飯があった。おいしそうだった。
雪男が来るからと聞いていたからだろうか、魚料理だった。

二人で畳に座って、ご飯を食べた。

場所があれだけど、変わらぬおいしさを雪男の舌に伝えてくれる。
おいしいおいしいと雪男は燐の手料理を食べた。

「ねぇ兄さんはどうしてここに住んでるの」

雪男は疑問を投げかけた。祓魔師の給料だったらなにもこんな所に住まなくても
他に安いアパートを借りることくらいできるだろう。燐はまだ雪男より階級が低いが、
危険手当もつく職業なので同年代よりは給料はいいはずである。
燐は首を傾げた。

「え、だってここ以外暮らせる場所ねーもん」
「どうして?」

燐の方がわけがわからない。という風に雪男を見ている。
燐は暗闇をあさって、おそらくタンスだろう。と思われる場所から通帳を取り出した。
ほら、とその通帳を燐は雪男に見せた。人様の通帳を見るのは初めてだ。

僕に見せてもいいのか。弟だからいいとか思われているのだろうか。
あんまり人に見せるものじゃないよ。とだけ言って中身を確認した。


「・・・残高二千円」
「そう!すげーだろ!がんばったんだぜ!」

何を頑張ったというのか。残高二千円って子供の小遣いか。
祓魔師の給料丸ごと何処に消えた。

「いやいや、この残高信じられない!給料何に使ったのさ!!?」
「だからそれ給料だろ」
「何のだよ?!」
「祓魔師の給料。毎月二千円」
「え?」
「え?」

雪男は絶句した。高校時代の兄の月のお小遣いは二千円だった。
そして祓魔師になって数年が経ったというのに、給料が二千円。どういうことだ。
高校時代に雪男が貰っていた金額と比べて、ゼロが二つも足りない。

雪男は震えが止まらなかった。
おい嘘だろ。冗談だと言ってくれ。

雪男は現在祓魔師としての活動を休止しているから大学から貰っている奨学金で生活している。
寮に入っていながら月々十数万円。それも返還しなくていい貸与型の奴だ。
それを使って細々と大学生活を送ってきていたけれど、
働いている兄より学生の自分の方が貰っていたこの事実。

「二千円じゃやってけないからさ~、大変なんだやりくりするの」

そう言って今までやってきたやりくりを燐は語る。


「まずネギともやしは家で作ってるんだ。電気ガス代はお金かかるから止めてる。
水道だけだな。電気もガスも炎使えば何とかなるってわかったから、それから使ってない。
騎士團の紹介だから家賃かからないのが助かるよな。

問題が食事だったんだけど、最初の頃は慣れなくてお腹減って
動けなくなってたりとかあったけど、近くにある寺の人が見かねて
ご飯食べさせてくれたりしてさ。
親切だよな。だから俺もちゃんとしなきゃって思って。

それからかな。一日一食で大丈夫になるようにしたんだ。悪魔の体って便利だよな。
この時ばかりは感謝したぜ。肉も魚も月に一回食べれたらいいなって思っててさ。
貯金もしたかったからずっと頑張って。

でも今日お前来るから、奮発したんだぜ。
魚もちゃんと国産の買って。野菜も卵も、久しぶりにスーパーで買った。
おいしいって言って貰えてよかった。俺もおいしかった。
あと数ヶ月は食べられないごちそうだったからな~。喜んで貰えて本当によかったぜ」

雪男はうつむいたまま動かなかった。
燐は更に追い打ちをかける。


「ジジイやお前がいてくれた頃の生活が懐かしいな。
二人がどれだけ頑張ってくれてたのかがよくわかった。
ご飯三食食べられるって幸せだったんだなぁ」


布団も買えないので、夜は新聞紙にくるまって寝ているらしい。
意外とこれが暖かいと兄は笑っている。

雪男は兄の信じられない生活を現実だと思いたくなかった。

いや、これどう考えても普通じゃない。
兄を正しい生活に導かなければ。
暗闇の中で兄の手首を握った。動揺した。

兄は高校時代から成長が止まっている。
そのはずなのに、兄の手首は雪男の記憶の中より一回り小さくなっている。
それに、暗くて今はわからないけれど。
明るい所で見たら確実に体はがりがりのはずだ。
栄養失調だ。倒れないのは悪魔の体だからだろうか。



雪男は燐を立たせた。
荷物をまとめるようにと言う。

神父さんごめんなさい。
少し目を離した隙に守りたかった兄を栄養失調で失う所でした。

「なんで?」
「離れたのは失敗だったね。今すぐ僕の部屋に来て」
「いや、俺大丈夫だって。お前の方が大変だろ。学生なんだし」
「兄さんを一人で小屋暮らしさせない程度の甲斐性はあるよ!!」

国と大学からの奨学金だけど、家族を養ってはいけないとは書かれていない。
それに祓魔師として働いていた時代の貯金だってあるのだ。
兄一人くらい養うのは訳ない。

なんでもっと早く気づいてあげられなかったのだろう。

今日ここに来なければ、兄はきっと学生の自分に頼ることなど絶対にしなかっただろう。
一日一食。ふざけるな。
悪魔の体力に甘えていたら、そのうちガタが来るに決まってる。
医者の卵嘗めるな。

栄養失調で反論するまで頭が回っていないのだろう。
燐は素直に荷物をまとめた。バックに一つだけの荷物だった。
バックは高校時代の鞄だった。
ここ数年、買い物することもできなかったのだろう。
手にネギともやしの生えた鉢植えを抱えれば準備万端だ。

雪男は燐の手を握った。
薄暗い小屋を出て、月明かりの工場街に出る。


「雪男、別に俺のことそんなに気にすんなよ。
給料低いってメフィストの所に訴えに行ったら、
夜にメフィストの所に来たら、一晩で一万円くれるっていう話も・・・」


雪男は思わずその場に立ち止まってうずくまった。
アイツかちくしょう。少し目を離した隙に悪魔に言い寄られるなんて。

やっぱり目を離すんじゃなかった。

未遂でよかった。今日ここに来て本当によかった。
心からそう思う。

「おい雪男どうした。腹痛いのか」
「痛いのは胸だから兄さんは気にしないで」

帰ったら、六法全書を頭にたたき込んでやる。
医者から弁護士に方向転換するのも有りだろうか。

「兄さん、訴えるよ。そして勝つよ」

頭脳明晰な人間の復讐ほど恐ろしいものはない。

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