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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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亡国のプリズム



その騎士の姿を見たのは、任命の儀のただ一度きりだった。
雪男は王として王座に座り、騎士団長に任命される騎士は顔を伏せて膝を立て、
王座の前に坐している。
右手を立てた膝の上に置き、武器を持っていないことと
利き腕を差し出すことで王に忠誠を誓う仕草となっている。
雪男は側近が持ってきた剣を手に取ると
騎士の前に差し出し、言葉を放つ。

「これより彼の者を正十字騎士団長に命じる。我が剣となり、祖国の為に戦うと誓うか」

セオリー通りの言葉だな、と雪男は思った。
この後、目の前に坐している彼が放つ言葉も決まっている。
この国は建国から戦争ばかりだ。
新たな騎士団長を任命するのだって、前任者が先の戦争で亡くなったからである。
雪男は王として、国を守り民を守るために騎士となった国民に死ねと言わなければならない。

この騎士団長はいつまで生きているのだろうか。

団長に上り詰めるのだから剣技の腕は確かだろう。
しかし風貌からして雪男と同じか、年下のようにしか思えない。

子供の力に頼らなければ成り立たない国に、未来はあるのだろうか。

自分がしていることが全て正しいとは思えない。
雪男はまだ十五歳の年若い王であった。
王の血を引く兄弟の中で一番下位に当たる自分が王になるなんて、夢にも思ったことはなかった。
他の兄弟たちの間で殺し合いが多発し、最後に残ったのが雪男しかいなかったのだ。
消去法で王に選ばれ、国を動かし、王としての役割を果たす自分は、
この国の歯車の一部でしかない。目の前の彼もそうだろう。
国という大きな共同体にならなければ、人は迫りくる悪魔に対抗できなかった。
人が集まれば、それを統治するシステムがなければならない。

雪男はいわば、そのシステムを動かすための代表者といったところだろう。

例えそうだとしても、雪男には果たしたい目的があった。
王となり、自身の采配に悩み、人を失い。
幾度も辛く苦しい日々を過ごしてきたけれど、全ては自身の目的を果たすため。

幼い頃に生き別れた、兄を見つけること。

それは雪男が心に決めた自分の信念であり、また生きる糧でもある。
広大な世界の中で特定の個人を探すならば、人手は多い方がいい。
王としての地位は国の中で一番人を多く使えるので、まさにうってつけだった。
兄を探し、共に生きるために、この国を守らなければならない。
そのために犠牲になる数多の命と人生を。雪男は見送らなければならない。

己の理想を叶えるために。

こんな傲慢な王の為に、目の前の彼は死地へと向かうのか。
雪男は自嘲した。それでも前に進まなければこの国は守れない。
目の前にいる彼にもきっと、大切な誰かがいるのだろう。
だから、人は戦っている。
その気持ちを利用して、国は繁栄している。

騎士は差し出された剣をゆっくりと右手で握る。
そのまま、両手で王からの剣を受け取り心臓の前に持ってきた。
王が騎士団長の顔を見ることはない。
騎士団長も、王の顔を見ることはない。
下々の者が王に向けて顔を上げるなど、不敬に当たるからだ。
騎士団長は顔を下に向けたまま、言葉を口にする。

「誓います。この命を、王と我が祖国の為に」

いずれ死ぬだろう騎士団長の名前は、儀式の場では告げられない。


***


「燐君、ちゃんと儀式できてたやん。
よかったわ~失敗して殺されやせんかて心配やったんやで」
「徹夜で特訓した甲斐があったぜ・・・志摩、俺もう眠い」
「寝てもええけど、部隊の訓練どうすんの」
「俺人に教えるの苦手だから、シュラに任す」
「ははは、燐君完全に実践型やしこの展開は予想はしとったけどね。
その方が部隊にとってもええか」

騎士団の休憩室で、年若い少年二人が談笑を交わしていた。
外見からはわからないが、一人は新たに騎士団長に任命された燐であり、
その燐と親しく会話を交わしているは騎士団の副長をつとめる志摩だ。
この国の前線の指揮を執る戦闘集団のトップである。

「にしてもなぁ、このところえらい小競り合いが多発してるやんな」
「悪魔は容赦がねぇってのもあるけど、一番は国の国境が動いたことだろ」
「俺たちが頑張っちゃったおかげで、奪われた土地が取り返せたってのはでかいやんなぁ。
そのせいで、悪魔がまぁ怒っちゃうのも無理はないか」
「あれは作戦がよかったってのもあるけどな」
「せやね、王様なのに参謀も務めるとか。
一昔前に比べたら。えらいやり手な王様になったもんやわ。
なぁ、王様ってどんな顔してはるんかな。見た?」
「―――見てねぇ」

王の顔は、下々の者にはわからない。
この王宮でも王の姿を知る者は、ごくわずかだ。
顔を隠すことで暗殺者の脅威は少なくなる上に、
決して見ることのできない王は威厳溢れる存在だと認識させることができる。
けれど、だからこそ。
前線にいるものは王の駒なのだという意識が消えることはない。

「次の戦争が始まる前に、家族と過ごせる人ってどれくらいいるんやろね」

志摩はぽつりとつぶやいた。
騎士団には家族を戦争で亡くしたものが多く入っている。
戦う理由は人様々だ。残された家族を養う為の糧にしているもの、復讐の炎に身を任せるもの、
ここ意外に行き場がないもの。
志摩のように家族はいるが、家督を継げない為にここにいる者もいる。
それでも志摩は家柄が良い為騎士団の中でも優遇されている方だ。
燐は、孤児の為ここ以外に帰る場所がない。
そのため、戦いの前に会う家族もいない。
苗字も無いので唯一持っているのは名前だけ。
志摩は燐に疑問を投げかけた。

「なんで燐君は騎士団長になったん?」
「なんだよ今更」
「だって、騎士団長になったら絶対に戦争に行かなあかんやろ。
俺は副長やけど実際戦うより偵察とかの役割の方が強いし。
燐君はなんでそんなに頑張るんかな、って思って」

志摩はへらへらしているが、燐のことが心配なのだろう。
国の為に死ぬのは馬鹿らしいと普段から言っているので、死に急ぐような
燐の行動が理解できない。
志摩は前任の騎士団長が悪魔に惨い殺され方をしたことを知っている。
あれは見れたものではなかった。
腕は千切られ、内臓は食い荒らされていた。瘴気に毒された皮膚は紫色になっている。
悪魔に喰われて死んだ者はその遺体を家族の元に返すことも難しい。
だからこそ、騎士団には家族に縁のない孤児が集うのかもしれない。
燐には友人としてそんな死に方はして欲しくなかった。
本当なら、騎士団長にもなって欲しくはなかったけれど。
万年人手不足の騎士団には、他に適任者がいなかったのも事実だ。

「そうだなぁ。この国の上にいけばいつか弟に会えるかな、って思って」
「燐君、弟さんおったん?」

初耳だった。
そんな話は今まで聞いたことがない。
燐は驚く志摩の表情を見ながらも、笑いながら話す。

「そう、俺の一番大切なもの」
「生き別れなんや・・・もしかして弟さん探すために騎士団入ったん?」
「そんなところだ」

燐は王から賜った剣を手に取る。
青色の装飾が美しい鞘と柄、その剣の全てが燐の手に馴染む。
この剣は、悪魔の加護を受けた魔剣で抜けば青い光と共に悪魔を殲滅することができるという。
騎士団長が代替わりしても、この剣だけは受け継がれてきている。
いわば、団長の証とも呼べる代物だ。

けれど、この剣が使われることが無ければいいと思っている。
志摩は知っている。
魔剣は使用者の命を喰らい、その命と引き換えに悪魔を殺すと言われている。

「弟さんに会うために頑張っとるんやったら、死んだらあかんよ」
「わかってるよ」

志摩はそう言うと、訓練の様子を見てくると部屋を出ていった。
適当に生きるをモット―にしている身からしたら、恥ずかしいことを言ってしまった自覚はある。
燐もそれ以上何も言わなかったので、志摩が逃げ出した形だ。
戦争の度に知った顔が死んでいくのは、辛いものがある。
昨日まで共に笑っていた友達が血を流して死んでいく姿を何度も何度も見てきた。

何で俺が生きて、あの子が死ぬんかな。
世の中って理不尽やな。

生き残り続けるのが志摩の役目だけれど、時々その役目がひどく重く感じる時がある。
だから生き残る人が一人でも増えてくれるのは、志摩にとってはありがたい。


***


燐は誰もいなくなった休憩室から、隣接されている仮眠室へと移った。
騎士団長になってから使用できる部屋が個室になったのはありがたい。
扉を閉めて、固いベッドに横になる。
王が使用するような、贅を尽くしたようなベッドとは天と地の違いだ。
これでも、下っ端時代に比べたら破格の待遇である。
志摩の言葉に甘え訓練は任せて、このままひと眠りさせてもらおう。

燐は剣を胸元に引き寄せる。
普通の人間からしたらただの冷たい武器だが、燐にとってこの剣は自身の一部だ。
とくんとくんと温かい温度が伝わってくる。
昔、弟と二人で寄り添って寝たあの夜を思い出した。

「雪男、覚えてないだろうな。それも当然か・・・」

悪魔の俺のことなんか、お前はきっといらないだろうから。
魔剣倶梨伽羅。王家に伝わるこの剣には今、燐の心臓が封印されている。
悪魔の血を色濃く引く燐は王家にとって害にしかならないと判断され処分が命じられた。
それでも使えるものは使えと、王家はまだ幼い燐の悪魔の心臓を奪い取り、
魔剣に封印することで悪魔と戦う武器を作り上げたのだ。
用済みになった燐は命である悪魔の心臓を奪われたまま、
王家とは全く関わりの無い荒野に一人捨てられた。

燐の手に残ったのは、名前と人よりも強い力だけ。
悪魔の力のおかげだろうか、普通の人間なら死ぬような状態でも生き残ることができた。

ここまで這い上がって来たのは、一目弟に会いたかった。
それだけだった。
王族としての身分などはなから興味は持っていない。
けれど、今の身分になっても王に目通りは叶わない。
どんな顔をしているのだろう。
背は伸びたのだろうか。
会話はできなかったけれど、声だけは聞くことができた。
昔はあんなに弱々しかったのに、すっかり王様っぽい固い声になってしまって。


「いつか、お前に会いたいな」


燐は倶梨伽羅を失った弟の代わりの様に抱きしめて目を閉じた。


その数日後、王からの命令で燐は戦争の最前線に立つことになる。


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