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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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逆様鏡10


兄と二人の空間の中雪男が感じていたのは幸福だった。
ずっと会っていなかった彼は頬が少しこけていて、大人びた風貌に変化している。
悪魔になって年をとらなくはなったけれど、年月による変化は確かにあるようだ。
その間、兄と共にいることが叶わなくてとても残念だ。
雪男は確かにそう思っていた。自分がその原因であることも、
兄を今日に至るまで追いつめていたことも全て理解した上で
雪男はただ兄に会えたこの瞬間が愛おしいと思っている。

僕は、本当に最悪の人間だ。
だから兄さん、早く僕から逃げるべきだよ。
もう一度手元に帰ってきたら僕は今度こそ兄さんを離さない。
それこそ使い魔の契約だって交わしてまで僕との繋がりを強要しそうだ。
雪男はポケットからあるものを取り出して、そっと掌に握った。
兄の幸せを思ってこそ、自身の心を偽り続ける。

「兄さんを不自由させない為の環境を整えた。
少しずつだけど騎士團の方には僕の息のかかった人を潜り込ませているから、
前のようにはいかないよ。監視はまたつくだろうけど騎士團の上層部は僕が言いくるめておくよ。
僕が下したあの日の判断は・・・兄さんにとっては納得のいくものではなかったと思う。
僕は必死だった。けれど許されないことをしたこともわかってる。
その上で、兄さんにもう一度聞きたい。帰って来てくれない、かな」

ここまで言えば、いくら燐でも怒るだろう。
雪男に都合のいい話ばかりを業としているので、
いくら鈍感な兄でも自身を馬鹿にされたと感じるはずだ。
喧嘩をして、これまで以上に僕を遠ざけてくれるはず。
雪男は頭を下げた。

あの時謝れなかったことを雪男は悔いているけれど、
こんな謝罪の仕方は正直ないなと心の中で苦笑した。
年代もののカウンターテーブルがその目に入る。

この店を持つためにどれほどの苦労をしてきたのだろうか。
身よりのない人間が店を持つこと。
それこそ保証人だって人よりもずっと苦労して探したはずだ。

雪男にはそんな相談できなかっただろうし、離れている間に知り合った者の中でいい人がいたのだろう。
雪男の知らない人と燐が一緒に笑ってこの店を作っている姿を想像して、
腸が煮えくり返るかと思った。

僕は嫉妬の塊だ。兄さんを追いつめてもなお独占したいと思っている。
けれどそのせいで、そのおかげで。
兄は今日まで警戒心をもって生きていてくれただろう。
誰でも信じて傷つくより、警戒心を持って人を遠ざけて懐に入れれる人のみを信じたはずだ。
兄さんは人を信じすぎる。
だから人に対しての不信を持たせるには家族である僕が裏切ることが一番のことのように思う。

ばしゃん。

雪男の頭に水が降りかかった。ぽたりぽたりと落ちる液体はテーブルの上に貯まっていく。
視線をあげれば、今にも人を。雪男を殺しそうな視線で見つめている。

「帰って来て欲しい?じゃあ、お前の手にあるそれはなんだ」

燐が雪男の手の中にある物を指摘した。雪男はテーブルの上に置いていた手を開く。
そこには透明な石が握られていた。先程ポケットから取り出したものだ。
雪男はばれていたか、といたずらが見つかったような子供のような、苦笑を浮かべた。

「使い魔契約の石、よく知ってたね」
「気配でわかる」
「すっかり悪魔らしくなって残念だよ」

そして憎らしい。本当は、悪魔になんかならないで欲しかった。
そうすれば兄さんは誰にも見つからず、誰にも傷つけられずに、
ずっと僕が守っていられたはずなのに。
雪男の心に黒いものが浮かんでは消えていく。

「例えばね、これを悪魔に飲み込ませたとしようか。
するとこの石は悪魔の意志に関係なく体内に根を張り、悪魔を縛る。
使役者の命令を遂行しなければ石が悪魔を体内から苛むわけだ」
「とんだ外道だな」
「騎士團ではよく使われているんだ、高位の悪魔は人の言うことを聞かないからね」
「遠まわしに俺のこと言ってんのか」
「遠まわしも何も、兄さんのことを言っているよ」

これを飲み込ませたら、言うことを聞いてくれるのかな。
僕が帰ってきてと言ったら、帰ってきてくれるような。
僕が逃げてと言ったら、逃げてくれるような。
兄の幸せを思ってこそ、自身の心を偽り続ける。
兄を思う心は裏返せば全て自分の望む方向へと向かわせる為の意志。
これを偽善と呼ばずして何と言うのだろう。

「今のお前の言うことだけは、死んでも聞きたくねぇな」

燐は雪男の考えをバッサリと切り捨てた。
燐も雪男ももう交わることはできはしないのだと、思い知らされた。

燐はカウンターから出ると、扉にかけてあったOPENの札をひっくり返した。
一般の客はこれで入ってはこないだろう。店の中には二人だけ。
これから起こる出来事を知っているのも二人だけだ。
燐はかけていたエプロンを外して、近くにあった椅子に置く。
格好はラフだった。Tシャツにジーンズ姿。昔はよくジーンズの隙間から尻尾を出していたが
しまうようにしているようだ。
あれだけ言っても隠さなかった尻尾を隠す。
それは一般人の生きる世界で生きていくために必要だったからだ。

腕の筋肉も、重い鍋や荷物を運ぶことでつく筋肉がついている。
こうして見ればただの一般人だ。
だが、祓魔師として生きている雪男から見ればその体つきには一般人とは異なる
決定的な違いがあった。

その体からは、戦う者特有の生きるために必要な肉がついている。
例えば敵の攻撃を避けるために。例えば敵の身を打ち砕くために。
日常的に戦闘を行っているものでなければつかない均整のとれた体。
とても一般人が見にまとうものではない。
全く、何時まで経っても言うことを聞かない兄には心底腹が立つ。

「普通に、生きようとは思わなかったの」
「俺は普通に生きてる」
「店の店主が悪魔を殺すことが普通だと思うの」
「それが俺にとっての日常だ、お前にとってもそうだろう」
「祓魔師の資格を剥奪されたのに、どうして活動を続けているのさ。違法だよ」
「悪魔に困ってる人がいたから助けてるだけだろ、騎士團がやってることと何も違わない。
違法だってんなら剥奪した資格を俺の所に送って来るくらいしたらどうだ。
俺は過去に一回正式な手段で取っているしな。そこらの奴よりよっぽど使えるぜ?」

にやりと笑った燐の瞳からすう、と一筋の青い炎が宿った。
神の炎を操るその能力は健在のようだ。
やはり、手放すべきではなかった。
雪男は立ち上がった。
燐もそれに合わせて歩き出す。
向かうのは店の裏口だ。
店の正面は大通りに面しているが、裏口は人通りも少ない裏通りへと続いている。
二人で店から出て、肌寒い路地へと出た。
人はいない。周囲には魍魎が浮かんでは消えている。
肌を刺すような静寂。お互いに向かい合ってお互いだけを見つめていた。
その瞳はとても冷たい。
静寂を初めに破ったのは、燐だった。

「聖騎士の奥村雪男、俺の夢の続きはどんな気分だ」

燐の夢だった聖騎士。その夢を奪い、追放した雪男。
その雪男の、医師になる夢を奪った燐。

「少なくとも、医者になるよりは自分の目的を達成できていて何よりかな」
「ぬかせ、今からでもなったらどうだ」
「年だしね、年々集中力が落ちてるよ」
「集中力が無い奴は今俺の眉間を狙ったりはしないね」
「よくわかるね」
「悪魔だからな」
「なって欲しくなかったよ」
「俺だって人間のままのがよかったけど、
元々悪魔なんだからきっといつかこうなっていただろ」
「ねぇ、悪魔なら祓魔師の真似事なんてやめてよ」
「やめねぇよ」
「じゃあ帰ってきてよ」
「嫌だね」

俺はお前に守られるつもりなんて、更々ないね。

その一言が合図だった。雪男が銃を取り出した。

「どうして兄さんは、いつもいつも僕の言うことを聞かないんだよッ!!」

守らせて欲しかっただけなんだ。
それなのに、兄さんはいつもいつも僕の手の届く範囲から飛び出していく。
もう嫌なんだよ。何もかもが嫌だ。傷ついて欲しくなんかなかった。
でも兄さんを徹底的に傷つけたのは僕なんだ。
せめて普通の世界で生きていて欲しかったのに。物事は全てうまくいかない。
僕は、この世界が嫌いだ。僕も嫌いだ。何もかも、全部大嫌いだ。

燐は青い炎を纏う。叫んだ。


「てめぇが、俺の言うこと聞かねぇからだ!!!!」


青い炎と銃弾が暗い路地裏に舞っている。

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