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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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逆様鏡9


僕の話をしよう。

僕の名前は奥村雪男。
悪魔薬学の天才だとか、最年少で祓魔師になったとか、
そういった肩書みたいなものはあるけれどそれは僕にとっては重要ではない。
重要なのは、奥村燐の。魔神の落胤と血縁であるというその一点だ。

その一点で僕は随分と苦労をしたと思う。
普通に生きていれば負わない魔障を生まれた時から負っていたし、
兄さんがいなければ祓魔師になる必要にも迫られなかっただろう。
魔神の落胤、奥村燐の弟。
その肩書きが、恐らく僕にとって一番重くて一番手放すことのできないもの。
兄だけではない。僕だって騎士團からの監視の対象なのだ。

けれど僕の立場はあくまで人間だった。幸か不幸か、兄と同じ悪魔にはならなかった。
人が悪魔になる機会は多くあれど、悪魔が人になったケースはあまりない。
兄さんはもう人間には戻れない。悪魔として生きていくしかない。

僕は兄さんを守りたかった。だから祓魔師になった。

人としての立場から、兄さんを守ろうとした。
けれど、僕はある時間違えた。それも最悪の方法で。
僕は兄さんの行く先を、夢を、その全てを奪うことで兄さんを守った。

守ったといえるのか、と言われれば反論をしよう。
僕は間違えたけれど、兄さんを守ったという一点だけは本当だ。

あの時兄さんを追放していなければ、騎士團は兄さんを殺しただろう。
兄さんは悪魔を殺し、騎士團に貢献し、あれだけの人を守ったというのに
人は兄さんが魔神の落胤だからという理由だけで殺そうとしたのだ。
それならば、僕も一緒に殺せばいいという話にならないのが不思議な話。
僕だって魔神の落胤だし、奥村燐の血縁者は僕しかいない。

僕が殺されなかった理由は簡単だ。
人にとって、祓魔師にとって。重要な犯してはならないラインというものがある。
悪魔を殺せば祓魔師だけど、人を殺せば人殺し。
僕も祓魔師になった時に神父さんに言われた言葉だった。

祓魔師は一人では戦えない。
それは悪魔に立ち向かっていく時にチームワークが必要だという理由もあるけれど、
裏の意味ではお互いに一線を越えないように監視しているという側面もあるのだ。
敵対する者が人なのか、悪魔なのか。区別は容易にはできない。
さっきまで人間だった、同僚だったものが悪魔に堕ち、自分たちを殺そうとすることだってある。
悪魔に堕ちた人は、悪魔とみなされる。
悪魔とみなされれば、祓魔の対象だ。殺しても文句は言われない。
もし、その人の家族に説明を迫られたときは悪魔に殺されたとでもいえばいいのだ。

人の世界は、悪魔を利用することでとても都合がいいように作られる。
人は悪魔を排除し、駆逐しようとしているけれど、悪魔が一匹もいない世界を作ってしまえば
困るのは人間だと僕は思う。

悪魔は確かに悪いことをするし、人の生活を命を脅かす。
けれど人が起こした悪事を悪魔のせいにして生きているのもまた人間だ。
僕は小さなころから騎士團の容赦の無さ、大人の世界の汚さを目の当たりにしてきた。
兄さんは人のことが好きだ。けれど僕は嫌いだ。
こんなにも汚く、醜いものにどうして兄さんが憧れるのかがわからない。
そして人間に対しての醜い思いはそのまま僕の心に返ってくる。

僕は僕が嫌いで、人も嫌いだった。
だからこそ今日まで生きてこれたんだと思うけれど。
僕は人だったからこそ、間違えたのだ。

人の恐怖は伝染し、ある時一方的な暴力を生み出した。
あの裁判とも呼べない代物は、人の正常な思考を排除していた。

奥村燐を処刑しろ。

群衆心理とも呼べるだろうそれは、気づかぬうちに僕の心にも影響を与えていた。
あの時、ああしなければ兄さんは処刑されていたのだという強い洗脳。
他の選択肢だって、きっとあったはずだ。

けれど僕はあの時それを選ばなかった。
選択の果ては結果がある。

結果として処刑は免れたが、僕は二度と兄さんに会えなくなった。
兄さんは生きているけれど、もう一緒に暮らすことはできない。
どんなに会いたいと望んでも、どんなに謝罪をしたいと思っても。
それはもう許されないことなのだ。

僕は兄さんを追いかけた。あらゆる手を尽くして追いかけた。
今でも考えるのだけれど、もしあの時。
僕が去っていく兄さんを呼び止めることができたなら、
未来は変わっていたのだろうか。考えてもしょうがないことだけれど。

僕は今兄さんを追いつめて、追いかけている。
志摩君が知っていた兄さんの携帯番号。
腐の王、アスタロトが匿っていた兄さんの暮らしていた部屋。
そこに入って、僕は周囲を見回した。

なんてことはない、男の一人暮らしの部屋と呼べる光景があった。
けれど、兄と暮らした僕だからこそわかった。
部屋の中には、兄が使いやすいように動かしたであろう家具の位置。
後からつけ足されたであろう食器。そして寝具。
綺麗に整頓された台所。ここに、兄がいたという痕跡が僕には手に取るようにわかる。
沸き上がるのは寂しさと嫉妬だ。
兄さんの傍にいたのは僕じゃない。もう僕は必要じゃない。
兄さんは僕から離れて、この世界のどこかで生きている。


「・・・けど、それが一番いいんだ」


兄がいたであろうソファをそっと撫でた。
ぬくもりも何もない。ここを離れてどこに行ったのだろう。
ここじゃないどこか。僕がいない何処かへ逃げればいい。
僕はそれをただ、ずっとずっと追いかける。

騎士團の上層部は言った。
やはり悪魔を野放しにはできぬ。
奴は魔神の落胤。騎士團にいつ牙を剥くか。
追放した後に兄を追跡するように命令を出すこの矛盾。
魔神の落胤が騎士團から離れたことで騎士團の安全は確保された。
だが追放された悪魔がどうなったのかを確認するまで、野放しにはしておけないということだ。
兄を追いかけたかった僕は二つ返事でその命令を受けた。

僕が追いかけて、兄さんが逃げる。

最初は僕以外にも兄を追いかける部隊があったのだが、今では僕しか残っていない。
兄を見つけることができたのが僕しかいなかったという理由もあるが、
僕が僕以外の者に兄を追うことを許さなかったからだ。
志摩君も僕の言うことを聞いていれば怪我をすることもなかっただろうに。
けれど、あれで思い知っただろう。

兄さんは今では僕だけが追いかけている。

それは、僕以外の輩が決して兄を害さないという事実以外の何物でもない。
僕が追いかければ兄はどこまでも逃げるだろう。

悪魔と人。人が好きな兄と人が嫌いな僕。
騎士團にいたかった兄、騎士團から追放した僕。
祓魔の世界を離れて普通に生きて欲しかった。
けれど兄は祓魔の世界から離れることはできなかった。
僕の望みと兄さんの望みは違う。僕たちは決して交わることはない。

だからこそ、僕は兄さんを守ることができるのだ。


「僕たちはね、逆様なんだよ兄さん」


悪魔なのに、人の心を持った奥村燐。
人間なのに、悪魔のような奥村雪男。
例えば兄が人間だったらよかったのかもしれない。
例えば僕が悪魔だったらよかったのかもしれない。
そうすれば、僕たちはこんなにも歪な形にならなくて済んだかもしれない。
鏡の向こう側にいるように、僕たちは永遠に触れることはできない。

僕が望むことは、ただひとつ。兄に帰ってきてほしい、それだけだ。
僕たちは逆様だから、僕がそれを本気で望んでいる限り
兄さんは決して僕の元には帰ってこないだろう。
それでいいんだ。
兄さんは僕から逃げ続けることで、その身を騎士團からも僕からも守ることができる。


僕が兄さんを追いかけることができなくなれば、僕は迷わず兄さんを見つけ出して引き金を引くだろう。
その身に銃弾を撃ち込んで死なないのならば、倶梨伽羅を狙って銃を撃とう。
倶梨伽羅は兄さんの心臓だ。至近距離で刀身に銃を打ち込めば、砕け散るだろう。

確実な方法で、僕は兄さんを殺すよ。
誰かに殺されるくらいなら、悪魔にも人にもやらないよ。
僕がこの手で殺してやる。

そして、砕かれた倶梨伽羅で僕は喉を掻き切って死ぬよ。
鏡の向こう側に銃を撃ち込んだのなら、その破片で僕が死ぬのは当然だ。


いつか来るその日が来たら、僕は兄さんに会えるのだ。
その日まで、ねぇ僕から逃げて。
誰にも見つからないように生きて、生きて、生き抜いてくれ。
僕が殺すその日まで。

僕は見つけた兄に向って微笑みながらこう告げる。

「帰ってきてよ兄さん」


それは確かに本心のはずなのに、それら全ては逆様だ。


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