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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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逆様鏡8


燐は携帯電話を見て、志摩の番号を確認した。
志摩はおそらく自分の番号は消してくれているだろう。
でも、やっとできたつながりだ。
残しておいても、いいだろう。燐は携帯を閉じる。
いつの間にか慣れてしまった帰り道。いつもと同じ道を歩く。
たった数ヶ月のことだけれど、燐にとっては貴重な時間だった。
この時があったから燐はまた前を向いて歩いていこうと思えたのだから。
鍵を開けて部屋に入ると、アスタロトがパソコンに向かっている姿が見えた。
燐はそのまま洗面所へ行き手を洗う。

リビングに戻るとアスタロトは難しそうな顔をして、キーボードを叩いている。
どうしたのだろう。いつもなら燐が帰ってきたら飛びつく勢いで声をかけてくるというのに。
燐はアスタロトの背後から画面をのぞき込む。何かのゲームかと思った。
ステージは町、黒い悪魔が敵と抗戦を繰り広げており一進一退を繰り返している。
燐はそのステージを見て不思議に思った。このステージは、この町と全く同じ作りをしている。
まさか。燐はアスタロトの肩を掴んだ。
アスタロトは振り返らずに燐の手を握った。

「申し訳ありません、突破されました」

見れば敵が町に進入していた。
黒い防護膜の用に広がっていた物が、集中的に敵の前に立ちふさがっている。
進路の先は、二人が住まうこのマンションだ。

「まさか・・・」
「ええ、祓魔師に見つかりました。私の眷属を向かわせてはいますが、それもいつまで持つか」

アスタロトが本気を出せば、この町一帯を腐らせ祓魔師を殺害することはたやすい。
けれどそうすれば町の人間は全員死ぬだろう。燐はそれを望まない。
だからアスタロトはこんなにも手間がかかる手段で攻撃を防ごうとしているのだ。

燐の脳裏に、志摩の顔が浮かんだ。
裏切られたのか。一瞬その考えが浮かんだけれどそのはずはない。
あのときの志摩の表情や答えから考えると、燐を裏切るとは考えにくい。
志摩と遭遇してから、侵攻が始まった。
ならば志摩自身が知らない内に、監視されていたのかもしれない。
別れてからかなり時間が経っている。彼は無事だろうか。
携帯電話を確認しようとするが、アスタロトに止められた。

「敵に連絡を取ってはなりません。
若君、今すぐここから逃げてください。それもできるだけ遠くへ」
「お前はどうするんだよ!?」
「私は少しでも時間を稼ぎます。ここまでと思い、私を切り捨ててください」
「死ぬつもりか」
「私は悪魔です。死にはしません。
虚無界へ帰るだけです・・・けれど貴方を置いていくことになる。
最後までお供できず申し訳ありません」

俺はまた一人になるのか。
行く宛もなく、町から町へ放浪する毎日。
誰も自分のことを知らない。誰も頼れない。あの日々へ。
燐はアスタロトの手をそっと握った。

「俺も戦う」
「ならば、虚無界へ。悪魔側として生きることに納得されたということですか?」
「それは・・・」
「できないでしょう。それでいいのです。私は若君を人間の手に渡したくない。
それだけです。私のエゴですから、若君が気にされることはないのですよ」

行ってください。と言ってアスタロトは通帳を渡した。燐の名義で新たに作ったものだった。
その中には今まで貯めたお金がかなりの額入っている。一人でも生きていけるくらいに。
燐は通帳を握って考えた。俺が捕まれば、事は丸く収まるんじゃないだろうか。
けれどそれをしてしまえば燐の夢は永遠に叶わない。
夢を追いかけて、逃げ続けなければならない。その業を背負って生きていかなければならない。
燐は覚悟を決めた。

「いつか、またどこかで。お前を呼ぶよ」
「お待ちしております」

燐は荷物を手早く纏めると、部屋を後にした。
遠くで銃声が聞こえる。覚えのある気配がした。
きっと雪男が来ているのだ。だからアスタロトは逃げろと言ったのだろう。
雪男と会えば燐はどうなるかわからない。捕まれば、今度こそ燐の夢は潰えてしまう。

一度だけ、燐はアスタロトと暮らしたマンションを振り返った。
あそこにいたのは数ヶ月だった。けれど、その間にどれだけ救われたことか。
アスタロトのしぶとさは知っている。きっと雪男の足止めは成功するだろう。
そして、きっと殺せるはずの雪男に祓われて彼は虚無界へと帰るのだ。それは、燐が望んだことだから。
燐は雪男のことを許せないけれど、死んでほしいわけではない。アスタロトは燐の願いを叶えようと動いてくれている。
雪男とは違い、燐の思いを汲んでくれている。
燐は涙を堪えて、駆けだした。今日まで過ごした町を、今日捨てることになるとは思いたくなかった。
次に彼に会ったとしても、アスタロトが取り憑いていた彼は燐のことを何も知らない瞳で見るだろう。
燐はまた一人になる。

「・・・なんでだよッ」

雪男。
お前はいつだってそうだ。
俺の思いはお前にとって関係ないのか。
俺が祓魔師になることにお前は反対していた。
青い炎を使うことにも反対していた。
聖騎士になることも、俺には無理だと止めようとする。
挙げ句の果てに、俺の一番の夢を目標をお前は奪う。
俺がお前にしたことだ。だからお前は俺を追うのだろうか。

お前は俺を従わせないと、気が済まないのか。
お前にとって、俺は都合よく扱いたいだけの道具なのかよ。
なら、お前は最低だ。

そして、一番最低なのは周りを巻き込んでそれでもなお、夢を捨てられない。この俺だ。
俺たちは、永遠に交われない。
俺たちはお互いに最低だ。だからこそ許せない。
お前も自分も俺はきっと一生許さない。

燐の行く先には、雨が降っていた。


***


アスタロトは魍魎からの報告で無事に燐が町を抜けたことを知った。それでいい。
彼が生きていくにはこの世界は優しくはないけれど。
思うとおりに生きようとする彼の生き方は、まさしく悪魔そのものだ。

「いつか虚無界へ来られる日を私は待ち望んでおります、若君」

我が君のために戦うこの時、ああなんと甘美なことか。
気が高ぶって思わず殺してしまいそうになりそうだ。
けれどそれは決してしてはいけないこと。
しかし、しかし。半殺しならどうだろう。生きてさえばいればいいのではないか。
瀕死ならば生きていることになるのではないだろうか。

ああ、この殺人衝動が若君に知られなくてよかった。
悪魔とはこんなものです。私が従うのは貴方だけ。
他の物など、ゴミと同じなのですよ。

アスタロトは携帯を持って、道路を歩いていた。
昼間のはずなのに人がいない。きっと祓魔師達が避難させたのだろう。
大方、上級悪魔が突如出現したとかいう理由だ。馬鹿らしい。
もうかなりの日数アスタロトはここにいたというのに、今更すぎて笑いが止まらない。
アスタロトは携帯に電話をかけた。燐が最後に連絡を取った相手に。
数コールの後に、彼が出る。

「もしもし」
『兄さんがお世話になったようだね。ひとまずお礼でも言おうか?』
「結構だ。若君に仕えるものとして当然のことをしたまで。
人にとやかく言われる筋合いはない・・・この電話の持ち主はどうした」

魍魎はそれこそ空気中のどこにでも存在する。
燐の行動をアスタロトが把握していたとしても、なんら不思議なことではない。

『ああ、知っているんだね。彼は謹慎処分だよ。
しばらく入院するけど命に別状はないんじゃないかな。
携帯を壊そうとするから、ちょっと痛い目にあってもらっただけさ』
「表向き悪魔に襲われたということにしてか。いつの時代も人間の取る行動は同じだな」

アスタロトはそっと周囲にいた魍魎に命令して、燐の元に伝言を頼む。
下手に志摩と連絡を取ろうとしてその身を危険に晒させるくらいなら、情報はすぐに渡した方がいい。
どうせ、アスタロトと燐はもう連絡を取ることもできなくなるのだから。

『全く、少し目を離すとすぐ味方面した悪魔が周囲を彷徨くんだから。
やっぱり一刻も早く見つけないといけないね』
「味方面か。その言葉そっくりそのまま返してやろう。
あの方はもう騎士團などという組織に捕らわれるべきではない」
『騎士團に渡すわけないだろう』

僕の元に帰ってきて欲しいだけさ。
雪男の言葉を聞いてアスタロトはある考えが浮かんだ。
その意志に関係なく屈服させようとするその意識。
きっと間違ってはいないはずだ。
吐き捨てるように、アスタロトは呟いた。

「・・・若君を、使い魔にする気か。何という侮辱!」
『悪魔に誘惑されるより、騎士團に捕らわれるより。
よっぽど兄さんにとっては安全だと思うんだけどな。わかってもらえないね』

アスタロトは携帯を叩き壊した。
上級悪魔にとって使い魔の契約は侮辱でしかない。
人よりも優位である悪魔が人に頭を垂れる契約は決して受け入れられる物ではない。
魔神の落胤を従わせようなどと、悪魔すべてに対する侮辱だ。
許せない殺してやりたい。しかしそれは止められている。
そうだ。殺すことが許されないのなら、自ら死にたくなるような目に遭わせてやればいいのではないだろうか。
指先から腐っていく恐怖を抱いて、頭を銃で打ち抜いて死ね。
そうすればアスタロトが殺したことにはならない。
悪魔は、そういう考えの持ち主だ。
視線の先には、黒い祓魔師のコートを着た男が立っている。

「ここから先は通さぬ」

アスタロトは魍魎を身に纏う。
雪男は笑っていた。
欲しいものは決して逃さない。まるで、悪魔のような笑みだった。


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