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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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逆様鏡7

「これからは、人間殺す覚悟がないと勝てへんで」

そう彼に言っても彼は相変わらず優しいままだった。
いくら自分が忠告しても、きっとその信念は曲げないのだろう。
彼は悪魔だけれどそこらにいるどんな人間よりもずっと人間らしかった。
おそらく、大半の者が憧れるであろう「人」という存在にきっと誰よりも近い存在だった。
悪魔という強い力の持ち主だから、彼は人に優しくできたのだろうか。
力を持つからこそ優しくなれるとするならば、それは力持つ者の傲慢だ。
弱者を助けるという体裁をとりながら、その実周囲を見下しているのと同じではないか。

彼のことをすごいと思う自分がいたことも真実だけど。
彼のことをとても憎らしいと思う自分がいたことも本当だ。
俺はあんな熱くなれへん。
なんであんなにがんばるんや。
俺には全くわからへん。

家族は自分に重石を乗せて、仲間は自分に正しさを求めた。
そんなもの、クソくらえ。俺は皆とはちがうんや。
志摩の心には影があった。そしてその影に呼応するかのような使い魔、夜魔徳もいた。
夜魔徳は自身の主の心を見抜いていた。
だからこそ、自分は彼らと敵対したのだろう。
イルミナティに入って、出雲を浚って、仲間とも思えないようなことをしたというのに。
あれからいくらか時間が過ぎてこうして会えるようになるなんて、当時は思ってもみなかった。
それなのに、どうして彼が消えてしまうことになってしまったのだろうか。
世の中とは理不尽だ。そう志摩は思っていた。

「・・・うーん」

少しの肌寒さを感じて志摩は目を覚ました。目の前には木の天井。部屋の中ではない。
外だ。道理で肌寒いはずである。自分は神社の境内で倒れていたようだ。
そして思う。どうして自分はこんなところで倒れていたのだろうか、と。体がどっと疲れている。
以前に比べて格段に召還の負担は減ったとはいえ、力あるものの召還には体力を消耗する。
まるで夜魔徳を召還した後のような疲労感。記憶が繋がっていく。
脳裏に青い炎の姿を思い出す。急いで飛び起きて、周囲を確認するが
そこには志摩以外誰もいない。彼は去ってしまったのか。

「あー、りんちゃんのパンツみれんかったか」

残念、と冗談めかしてつぶやいて、がしがしと乱暴に頭をかいた。
軽口をたたいてはいるが、内心穏やかではない。
ようやく出会えたというのにみすみす逃がしたと彼らに知られれば、
どんな目に遭わされるかわかったものではない。
彼ではない可能性にも賭けてはみたけれど、
夜魔徳を退ける為に呼び出した青い炎は本来ならこの世に存在するはずのない力だ。
特定するのには十分だろう。
志摩は境内に背を預けて、ため息をついた。

燐がいなくなってからというもの、勝呂は怒るわ子猫丸は動揺するわ。
出雲は寂しそうな表情をするわ、しえみは泣き出すわ。志摩はその収束に追われたり、
八つ当たりを受けたり散々な目にあった。
しかしその中でも雪男の動揺は、志摩の目から見ても異常とも呼べるようなものだった。
なんとしても見つけださなければならない。それは皆同じ気持ちだ。
けれど、追放の命令を出したのも雪男で、追うのも雪男なのだ。

そこにどんなすれ違いがあったのかは、当人たちでないとわからないだろう。
でも雪男と燐は確実に道を違えてしまっている。このままでいいはずもない。
一度、話し合うことはできないのだろうか。会うことはできないのだろうか。
昔から知る双子が今絶縁とも呼べる状況になっていることは、やはりとても心が落ち着かない。

「おせっかいは、坊たちの仕事やというのに・・・めんどくさ」

志摩は腕と足を回して体の状態を確かめてから立ち上がった。足下はふらつくけれどなんとかいけるだろう。
今日の出来事をどのように報告するべきか。志摩が悩んでいると、神社の階段をあがってくる姿が見えた。
その人物は志摩が出会った彼と同じ服装をしている。唯一違うといえば、
手にコンビニの袋を持っていることくらいだろうか。志摩は思わず境内の影に隠れた。
彼は境内に近づいて来ている。志摩がいなくなっていることにはまだ気づいていないようだ。
射程範囲内に彼が足を踏み入れた。今だ。志摩は全力で飛び出した。

「貰ったぁあああああああああ!!!」
「うおおおお!!?」

背後からの強襲だったせいか、全力で二人で境内の、それこそ社の中まで転がり込んでしまう。
志摩は自分よりいくらか細い体に全身でまとわりついた。
そのままマウントポジションを取ると、勝ち誇ったように彼のフードを奪い取る。

「観念しいや奥村君!」

頭の両側に手をおいて、視線をそらせないようにする。
志摩の目の前には十五歳の姿のままの燐がいた。特徴的な青い瞳と赤い虹彩がこちらを見ている。
自分と同じ年のはずなのに、この若作りは犯罪やな。と志摩は冗談めかしてつぶやいた。
燐は観念したかのように志摩に向かってゆっくり手を挙げた。

「・・・ひさしぶり」
「うん、おひさしぶり」

二人はこうして再会を果たした。

***

「まさかあのサイトで悪魔じゃなくて志摩が釣れるとは思ってもみなかった」
「俺も如何わしいサイトかと思ってアプローチかけて奥村く・・・りんちゃんが釣れるとは思ってもみんかったわ」
「おいなんで言い直したんだよ」
「サイトにりんちゃんってあったやん。詐欺やパンツ見れるかと思ったのに。蓋を開けたら男子高校生かいな」
「高校生じゃねーぞ、それに如何わしい依頼は受けてねぇって」
「見た目の問題やろ。AVでもよくあるやん、明らかに高校生じゃないやつ。
あ、それでいうと奥村君って合法?」
「・・・やめろよ、気持ち悪ぃ。口がまずくなる」

燐が持っていたのはコンビニの袋だった。
中にはいくつかの飲み物が入っている。
その内の一つを志摩に投げて寄越した。
戻ってきて志摩の目が覚めなかったら、これだけ置いて帰るつもりだったと聞いて、志摩はほっとする。
早めに目が覚めた自分をとても誉めてやりたい気分だ。

「お前さ、監視の悪魔が憑いてねぇけどどうしたんだよ」

燐が志摩に疑問をつげた。騎士團から燐が同期に接触しないようにと、監視の悪魔が付けられていたはずだ。
燐が近づいたり、話そうとすればすぐに監視者に対して危害を加えるというとても危険な代物である。
志摩はそれならな、と呟いて指先に黒い炎を灯した。

「俺の場合、夜魔徳君がおったから誤魔化せてるってだけやな。他の人の場合はまた別やと思う」
「どういうことだよ」
「黒い炎は物質界のものに干渉できない代わりに、悪魔に対して効果を発揮する。
物に取り憑いた悪魔は、器は傷つけずに中身だけ燃やす、みたいなもんや。
今回のはそれの応用。騎士團から憑けられとった悪魔の「中身」だけ燃やして「外見」はそのまんまにしとるんよ。
召還者との縁は切れずに中身は夜魔徳君のままっていうちょっと特殊な状態にして放置しとるからね。
間違っても「俺を襲え」なんていう命令は聞かへんよ」

騎士團も悪いことするからな。これくらいはやりかえされて当然やで。
志摩は悪い顔で笑う。燐は思い出した。志摩は笑顔で自分たちを裏切ったのだと。
彼は呼吸をするように嘘をつく。それが今は役に立っているといえばそうなのだけれど。

「他の奴にはまだ憑いてるのか」
「うん、確実におるね。俺の場合は使い魔が特殊やったからよかったけど。
皆の場合正攻法で悪魔を祓っても、また騎士團からの監視の悪魔が増えるだけになるから現状維持しかできへんやろな。
俺も、そんな遠方に夜魔徳君飛ばせるわけちゃうから、せいぜいできて自分の周囲が精一杯やわ」
「・・・そうか」
「今のところ会えるとしたら、俺くらいでごめんな」
「別に残念ってわけじゃねーぞ。お前に会えたってだけでうれしいし」

志摩はさびしそうな燐に向けて言った。

「奥村君・・・結婚しよ」
「しねーよ、誰がするか」
「じゃあ同棲しよ」
「居候の身だから却下」
「付き合おう」
「そのつもりはない」
「ひどいわ」
「その気もねーくせに言うな」
「俺は本気やで」
「お前の本気は信用できない」

久しぶりに軽口をたたき会って、お互いに笑う。
やっと少し笑ったな。そう思って志摩は話を切り出した。

「奥村君、奥村先生のこと・・・どう思っとるん?」

燐から表情が消えた。当然だ。自分を永久追放する判断を下した、唯一の家族。
どうしてだという気持ちと、納得のいかない思い。

志摩は燐が騎士團から去ったと聞いたとき、同時に雪男も去ったのだと思っていた。
彼は兄である燐を守ることを人生の目標にしていたし、実際にそう生きてきていた。
だから、雪男が燐を追放したというのも理由があるのだと思っていたのだけれど。
それでも、彼がした永久追放という処分が燐を傷つけたのは本当だ。
志摩は雪男の味方でもなければ、燐の味方というわけでもない。
ただ、二人がお互いを嫌いになったのだとしても、どこかで手は打てないのだろうかと思っている。
少し話をするだけでもいい。会えないのなら、電話だけでもいいだろう。
どこかで繋がりを持っていて欲しかった。
高校時代に、家族も友達も。全ての縁を切ろうとしていた自分だからこそ言いたい。

奥村君それはあかんって言って俺を止めてくれたやん。
諦めないでいてくれたのは他でもない君なんやで。

燐は戸惑いながらも気持ちを口に出した。

「正直に言うと、俺はあいつのこと許せない。
俺の目標も夢も全部。あいつの一言で無くなっちまったって言ってもいいからな」
「・・・うん」
「でもさ、それって俺にもそのまま。俺の言葉がそのまま俺に返ってくるんだ。
アイツの小さなころの夢は医者になることだった。でも、銃を持たせて悪魔を殺すようになったのは
他でもない。俺が悪魔だったからなんだ。だから、俺のせいであいつの目標も夢も全部無くなっちまったって
考えたら・・・俺は」

もう会えないし、会いたくない。
会えばきっと許せない思いが爆発してしまう。
でもその思いはそのまま燐を傷つける。

「だから、さっきから先生のこと一回も名前で呼ばへんの」

志摩の言葉に燐は思わず口を抑えた。無意識だったのか、それとも。
燐の様子を見て、志摩はため息をついた。
これは修復、というよりは再建。といった方がいいかもしれない。
自分が雪男に燐を見つけたと連絡を取ろうかと思っていたけれど、言わない方がいいだろう。
もう一度会えば、兄弟の仲は完全に壊れてしまう。
少なくとも志摩にはそう思えた。
あれだけ家族のことを大事にしていた燐が弟の名前を呼ばないなんて重症だ。
それに、先程燐は居候をしていると言っていた。
弟以外の者に、家族以外によりどころを見つけたのなら新たな関係を築いていった方がいい。
時が解決する問題だってあるだろう。それに。

「祓魔の世界から足を洗おうとは、思わんかったんやね」
「うん、俺が役に立てるっていったらやっぱりこれかと思ってな。
俺を生かしたことが正しかったってことを、どんな形でもいいから証明してやりたい。騎士團に居られなくなっても。
方法はまだいくらでもあると思ったから」
「それでええと思うよ」

祓魔の世界で繋がっているなら、いつか会える日も来るだろう。
今はまだその時ではない。
志摩は立ち上がった。そろそろ戻らなければならない。
空は白んできており、朝日が昇ろうとしていた。
二人の別れの時間だ。

「携帯番号は・・・たぶんバレるからやめとこか」
「そうだな、お前に迷惑かけたくねぇし」
「俺はええんやけどな。うまいこと逃げるんやで奥村君。皆には俺からうまいこと言っとくわ」
「そうしてもらえると助かる」

志摩は燐に手を振った。燐も志摩に手を振った。
元気で。お互いにそう言って、後は別々の道に進んだ。
燐はアスタロトが待つ家に帰っていく。
志摩は燐の後を追うこともなく、そのまま道を歩いて行った。
携帯が着信を告げる。そういえば依頼を受けるやりとりの上で「悪魔高校生探偵りん」の番号はこの携帯に入っているはずだ。
この電話が終わったら消去しなければ。

「もしもし」
『ああ志摩君ですか、急で悪いんですけど任務をお願いできませんか』

声の主は、奥村雪男だった。燐を追っている男からの電話。
志摩は何事もなかったかのように雪男に話しかける。
志摩は嘘がつける男だったから。

「ええですけど俺今まで女の子と遊んどって、朝帰りなんですよね。きっついわ~」
『簡単なことなんですけど』
「ならいいですよ」
『それはよかった―――その持っている携帯を、僕に渡して貰えばいいだけですから』

志摩の呼吸が一瞬止まった。心臓が早鐘を打つ。まさか。
電話口の向こうで雪男が笑った。

『一度組織を裏切った者に対して、監視をつけないわけがありませんよね。
そう、悪魔だけじゃない。例えば盗聴器、とかね』

志摩は携帯を叩き壊そうとしたが、遠方から足元に向けて弾丸が飛んできたせいでそれもできない。
そういえば、彼は遠距離射撃が得意だっただろうか。腕や足の一つくらいは打ち抜かれそうである。
志摩は迫りくる者に対して、せめてもの抵抗の意志を見せつけた。

「夜魔徳君立て続けで悪いけど。せめて携帯壊すくらいの時間、稼いでくれる?」

志摩は今にも倒れそうな体力の中、夜魔徳を呼び出した。

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