青祓のネタ庫
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燐が仕事を始めてから早数か月。最初の内は手探りだった仕事も徐々に軌道に乗ってきた。
最初に仕事をした学校では予想通り、やはり悪魔が関係していた。
幽霊はその学校の七不思議と呼ばれるものに属していたが、その実態は悪魔が
思春期の子供を拐し力を得ていたという類のものだった。
被害者の子は皆原因不明の衰弱に陥っており、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。
燐が悪魔を祓うと、被害者の子は目に見えて回復していった。
依頼主の女の子は、病院で親友が目を覚ましたと聞いて号泣していた。
本当に心配していたのだろう。
しかし、大人は悪魔や幽霊などどいったものは信じておらず、子供たちが何を言っても聞かなかった。
子供だけがこの学校に蔓延る異常に気付いていた。
被害者の子の中にも、原因を突き止めようとして逆に被害にあった子達もいたらしい。
依頼主はだからこそ。藁にもすがる思いで燐に助けを求めたのだ。
友達を、自分たちを助けて欲しいと。
燐はその期待に応えることができてよかったと思う。
被害に遭った子達は、力を奪い取られていただけで傷は負っていなかった。
魔障を受けた子がいなかったのが不幸中の幸いだ。
「これで被害は無くなると思うけど、もう危ないことはすんなよ」
燐は依頼主にそう声をかけた。依頼主も燐が戦っていた姿を見ているので、
どれだけ相手が人知を超えたものだったかは姿が見えていなくても理解はしたらしい。
依頼主は燐にお礼を言うと、もうこういった案件には関わらないことを約束した。
一般人には一般人の生きる道がある。
例え友達を救うためだったとしても、自分が傷つけば友達はそのことを気に病む。
それを繰り返さない為にも、自分の身を守る大事さも教えた。
燐が雪男から口を酸っぱくして言われたことを、まさか他人に言うことになるなんて
思いもよらなかったが。
「何か困ったことがあれば、また言えよ。力になるから」
依頼主はこくりと頷いた。依頼主とはもう会うこともないだろう。
依頼を終えて学校を去るころには、もう朝日が出ていた。
燐は初めての仕事を終えて手に入れた一万円を朝日に照らした。
依頼主の心からの、ありがとう。という一言が胸にしみる。
お金も、言葉も。全て自分の力で得たものだ。
燐は騎士團で働いていた頃、ふとした瞬間に自分はやはり兵器なんだと感じていた。
それは自分を遠巻きに眺める同僚だったり、心無い一言や陰口を聞いたときにいつも衝動的に
訪れていたものだった。
なによりそんなもの達から必死に自分を遠ざけようとしていた雪男の姿を見て、
自分よりも怒っていた雪男を見て、俺はまだ大丈夫だと、耐えれると思っていた。
燐は雪男にも自分にも言い聞かせるようによく言っていた。
おれはへいきだよ。しんぱいするな。
その度に雪男は辛そうな顔をするんだ。
そんな顔をさせたいわけじゃなかったのに、俺たちはうまくいかない。
最後まで、うまくいかなかった。どうしてだろう。
青い炎を知る人は、必ずあの青い夜のことと繋げて燐を見ていた。
燐は、悪魔だ。祓魔師は人間だ。どうしようもない隔たりがあったし、実際に差別もあった。
そこから解放されて、夢を奪われて、絶望を知って。
それでも人と接することを諦めることができなかった。
燐は寂しかったのだ。誰とも繋がれない、一人に戻るのはもういやだった。
助けてくれてありがとう。
その依頼主の一言が、どれだけ燐を救っただろうか。
依頼主は燐のことを何も知らない。悪魔を祓ったのも、倶梨伽羅を抜かずに
青い炎だけを操って消失させたことが原因だったかもしれない。
燐を悪魔と知らずにいたから、よかったのかもしれない。
だけど、何も知らない人からの言葉こそが燐を救ったのだ。
騎士團にいたころには味わえなかったこの思いは、燐の支えになるだろう。
燐はアスタロトのいる家に帰ってきた。
帰った、というのは語弊があるかもしれない。ここはアスタロトの憑りついた人間の住まいだから。
燐の家ではない。それでも扉を開けた先にいたアスタロトは燐に声をかけた。
「お疲れ様です。お帰りをお待ちしておりました」
燐は一言、ただいま。と声をかける。
今だけはこの場に、この状況に甘えていたかった。
全てを無くしてもなお、燐を支えてくれるものはある。
それを糧に、燐は生きていこうと思った。
***
何度目かの任務を終えた後、燐の携帯が着信を告げた。
それはアスタロトからの転送メールだった。パソコンから受けたメールを自動的に燐の持つ携帯に転送し、
そのまま次の任務先へ行けるというものだった。
もちろん、受ける受けないは燐の自由意思によるものだ。
胡散臭いものはそのまま流して、次に送られてくるメールを待つ。ということもできる。
いわゆる自由業だ。燐はこの職業は性に合っていると思った。
がちがちの組織の中で働くよりは、自分の力を役立てるにはよほどいい使い道だと思う。
燐が携帯を開くと、示された場所はここからすぐ近くの神社だった。
依頼主は悪魔の誘惑に困っており、なんとか解決して欲しいとの依頼だった。
依頼主に悪魔が見えているため、実際に会って祓って欲しいらしい。
悪魔に取り憑かれているわりには緊迫感の無いメールで、
アスタロトからは一言、お止めになった方がいいかと思います。という文章までメールに書かれていた。
燐は携帯を閉じて少し悩む。悪魔に取り憑かれているのなら祓った方がいいだろう。
でも、悪魔が見えて、憑りつかれているのならなぜ騎士團の方に助けを求めなかったのだろうか。
この依頼主は悪魔関係のことを人に隠そうという気がない。それが疑問だ。
開き直っているならば、騎士團に相談する糸はいくらでも掴めるだろうにそうしない行動への疑問。
燐の仕事はいわばモグリだ。正式な手続きさえ踏めば騎士團も助けてくれるだろうに。
騎士團には言えないようなことでもあるのか。それとも。悩んで、燐は諦めた。
「あー、やめだやめ!考えても始まらねぇなら会えばいいんだよな!」
少しでも怪しい依頼、所謂アダルトな依頼だと感じれば逃げればいいだけのこと。
燐はフードを被って頭を覆った。これなら悪魔になったときでも耳や角が隠せるし、
体型が隠せるので年齢もばれにくい。なにより、あまり顔を人に知られたくなかった。
黒髪に青い瞳、それに赤い虹彩となれば知り合いにばれれば一発である。
燐はあくまで人に知られないように生きなければならないのだ。
だから依頼主とも必要最低限のことしかしゃべらないようにしている。
燐がビルの合間をぬって飛んでいくと、待ち合わせの神社が見えた。
鳥居の向こうには暗闇が広がっている。あまり人気のない神社らしい。
燐は注意深く周囲を伺ったが、依頼主はまだ来ていないようだった。
依頼主にはフードを被った人物が目印だと伝えているので、程なく会えるだろう。
そう思っていたのがいけなかった。
暗がりから突然、誰かが燐に向かって飛びかかってきた。
「ッ!?」
燐は咄嗟に身を屈めて襲撃者を避けた。少し遠くでぶお、と襲撃者のくぐもった声が聞こえてくるので
顔でも打ったらしい。燐は急いで逃げようとした。すると、覚えのある感覚が燐を襲う。
「夜魔徳くん!捕まえてや!!」
ぼう、と暗闇から湧き上がる黒い炎。覚えのある気配。当然だ。
夜魔徳を使役できる人物など一人しかいない、上に聞き覚えのある声。
最悪だ。燐は声を出さずに呟いた。目の前にはピンクの頭をした優男が笑っている。
手加減はしてられないようだ。
燐はフードがずれないように押さえながら、夜魔徳に向き合った。
夜魔徳の炎から流れるように身を翻して逃げ、燐は志摩に向かう。
召喚者を叩くのは戦術の基本だ。夜魔徳は自分の炎が避けられたことに驚愕する。
そのまま主の元に向かう敵の前に黒い炎を灯した。
黒い炎は悪魔を害し、人に使えばその魂を焼き尽くす。
勿論、殺すつもりはないので手加減はしているがそれでも人にとっては十分脅威なはず。
しかし、敵なる人物。燐はその黒い炎に身一つで突っ込んでいった。
「なッ!?」
志摩も驚く。黒い炎を超えて、敵が来た。殴られると思った瞬間には錫杖で攻撃をいなして躱す。
夜魔徳は黒い炎に触れたことで人物が何者かを察知することができた。
急いで主に危険を告げる。
『主よ、相手が悪い。退かねばやられるぞ!!』
悪魔の中では階級が全てだ。自分より上の相手となると手加減はできない。
主の望む生け捕りが難しいとなれば殺し合いしかない。
若しくは主の安全を考えるなら逃げるのがいいだろう。
夜魔徳が警戒し、フードを目深に被り、正体を隠す謎の人物。
志摩は当初あのサイトは完全にアダルトなものだと思っていた。
最初に飛びついたのも、冗談のつもりだったのだけれど目の前の相手は志摩の襲撃を避けた。
悪魔探偵と名がつくからには、悪魔に関する知識もあるだろうと夜魔徳も呼び出した。
明王クラスの悪魔を呼び出せば普通驚いて動けなくなる。
それを狙ったのだけれど相手はあろうことか夜魔徳に向かってきた。
攻撃を躱した上に、黒い炎をものともしない。
これは自分の予想が当たっていれば、なんという大物を引いてしまったのだろうか。
志摩は鳥肌が立つのを押さえられなかった。
彼がいなくなって、志摩の知っている彼らは随分と動揺していた。
八方手を尽くして探しても足取りも掴めなかった。
騎士團からは彼を探すことは禁止されていたけれど、誰も諦められなかった。
自分たちの前から姿を消した友を、皆ずっと探している。
これを逃せば、志摩はたぶん彼らに殺されるだろう。
今ここで善戦するしか志摩に道は残されていない。
「夜魔徳くん、悪いけど頑張ってもらわなあかんみたいやで。
奴さん逃したら俺の生死に関わるわ」
志摩は錫杖を向けた。フードを被った相手は逃げる機会を伺っているようだが、
夜魔徳の黒い炎がそれを阻止する。夜魔徳にはもう手加減は一切不要だと告げた。
それでもどのくらい持つかはわからない。
味方にすると頼もしいけれど、敵にするととてつもなく厄介だ。
けれど、こちらにもアドバンテージはある。もし相手が志摩の想像する相手だとしたら、
彼は間違いなく志摩を殺そうとはしないだろう。
付け入る隙があるとすればそこしかない。
だけど、と志摩は考える。
彼ではない可能性も否定はできない。
体のラインを隠す服を着ているので男女の区別もつきにくい。
そうだ、女子ならば気絶させればあんなことやこんなことができるかもしれない。
勿論志摩とて紳士の端くれなので最後まではしないけれど、エロいことすれすれまではできるかもしれない。
仮に女の子だった場合を考えて、志摩は戦闘に向けて布石をうった。
「悪魔高校生探偵りんちゃんに告ぐ!俺が勝ったらパンツ見せたって!!!」
志摩はそのまま夜魔徳の炎を持って突っ込んでいく。
夜の神社に燃え盛る黒い炎と青い炎が交差した。
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