青祓のネタ庫
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先月号のショックで書き上げた夏コミの無配です
ネタバレ有りの為注意。
お前の命は、あいつに生かされた命なんやで。
子供のころから何度も聞いてきた言葉が頭に響く。
志摩はその言葉を聞くと何も言うことができなくなった。
会ったこともない、知らない兄の話を聞いて、自分にどうして欲しいというのだろう。
立派になれ?ちゃんとしろ?そんな言葉聞き飽きた。
言ってやりたかった。俺じゃなくて兄貴が生きとったらよかったんやないの。
俺にはそんな責任とか重すぎる。俺はもっと楽に生きたい。もっと楽しいことをして生きていきたい。
それの何があかんのや。苦しいことから逃げて、何が悪いんや。ずっとずっと。そう言ってやりたかった。
「だから、俺は楽な方に行こうと思ってん」
志摩は抱えていた出雲を、イルミナティ側の人間に引き渡した。
燐はやめろと叫ぶが、出雲はそのまま連れていかれてしまう。抵抗しようとする燐を、志摩の黒い炎が突き刺した。
身体を刺し貫かれてしまえば、身動きは取れない。
自分も炎を宿しているが、この炎は質が違う感じがする。
黒くて、どろどろしてて。まるで。燐は倒れたまま、志摩を睨み付ける。
「流石奥村君、感じる?俺の炎のこと」
志摩を現しているかのような、黒い炎。魂を、心を焼き尽くすような痛みに耐えながら燐は叫ぶ。
「なんでだよ」
なんでお前がスパイなんだ。燐は信じたくなかった。
出雲が連れていかれそうになっている。その光景を目にした時、燐は真っ先に刀を抜いて、
出雲を連れ去ろうとしたイルミナティの男に襲いかかった。しかしその刃を止めたのは、志摩だった。
「志摩!?なんでだッ」
動揺している燐に黒い炎が襲いかかる。燐は青い炎で防御した。
黒い炎は青い炎に遮られては近づくことができないらしかった。
炎と炎のぶつかり合い。志摩は言った。
「この炎を燃やされるとな。俺、死んでまうねん」
聞いて、燐の炎の勢いが収まった。刀を持つ手が震える。
その隙に、志摩は黒い炎で燐の体を絡め取った。
自身の危機に反応したのか。
青い炎は燐の意志に反して黒い炎を焼き尽くそうとする。止めたのは、燐だった。
「ダメだ!」
志摩を殺してしまう。そう思い、倶梨伽羅を鞘に納める。焔は一瞬にして消えていった。
志摩はにやりと笑って夜魔徳を使って燐を拘束する。
手と足。体を上から押さえつけられ、燐は地面に縫い付けられた。志摩は燐に話しかける。
「ごめんなぁ。出雲ちゃんは頂いてくわ」
「・・・てめぇ、本当に」
燐の言葉に志摩は笑って頷く。
「そうやで、俺はスパイ。敵側の人間や」
奥村君達上手に騙されてくれて助かったわ。そう志摩は告げる。
燐は納得ができなかった。勝呂達とあんなにも仲が良くて。
不浄王の時には一緒に戦った仲間なのに。
そうだ、京都の。明蛇宗の人たちともあんなに楽しそうに。
家族がいて。友達がいて。そんな世界を捨てて、暗い世界を選ぶ志摩を燐は理解ができない。
「お前、家族や。勝呂達のことも裏切ってたのかよ」
家族。その言葉に志摩の笑顔が消えた。
「家族?そんなもんクソくらえや」
志摩は家族に、家に縛られてきた。長男は、志摩を守って死んだ。
よくできた兄で、家を継ぐことに何の障害もない立派な人だった。らしい。と志摩は聞いている。
そう、志摩は兄に会ったことがない。会ったこともない家族に、生まれた時から縛られていた。
聞いた話では、この夜魔徳は死んだ兄が使役できる悪魔だった。
志摩の家に憑く悪魔。勝呂家のカルラと原理としては同じだろう。
家を継ぐ者が継いでいく悪魔。家督の象徴の様なものだ。
兄は夜魔徳を、自身ではなく。まだ見ぬ母の腹にいる弟へと譲った。
そして魔神の炎に焼かれて死んだのだ。だから志摩はこうしてここにいる。
「…恩着せがましい。この力譲ってくれなんて。そんなこと頼んどらんわ」
志摩は恨めしそうに黒い炎を見た。本当に、自分の内面を移すような炎だ。
燐の青い炎が美しく全てを燃やす炎なら、自分の炎は心を砕く薄暗い炎。
お前の命は、あいつに生かされた命なんやで。
子供のころから何度も聞いてきた言葉が頭に響く。
志摩はその言葉を聞くと何も言うことができなくなった。
会ったこともない、知らない兄の話を聞いて、自分にどうして欲しいというのだろう。
立派になれ?ちゃんとしろ?そんな言葉聞き飽きた。
言ってやりたかった。俺じゃなくて兄貴が生きとったらよかったんやないの。
俺にはそんな責任とか重すぎる。俺はもっと楽に生きたい。もっと楽しいことをして生きていきたい。
それの何があかんのや。苦しいことから逃げて、何が悪いんや。ずっとずっと。そう言ってやりたかった。
「だから、俺は楽な方に行こうと思ってん」
これが無ければ、志摩はもっと自由に生きられたのかもしれないのに。
勝呂の家を守ることも、悪魔と戦うことを強いられることもなかったはずだ。
こんな道を選ばなくても、よかったはずなのに。
「お前、本当にこの道が楽って思ってんのかよ」
「…思ってへんよ」
「だったら」
「もう戻られへんのよ」
黒い炎がまた燐を刺した。燐が低く呻く。かなりの痛みだろう。
この炎は悪魔の器ではなく、魂を燃やし尽くすもの。
内部から甚振られる痛みはどれほどのものか。
耐えられるのも燐が魔神の落胤という特殊な立場だからだろう。
炎を出さないようにはしているが、内部では青い炎が黒い炎の侵入を阻止しようとしているはずだ。
それにしても。と志摩はため息をつく。
燐は自分に。志摩に害が及ぶとわかった途端に、青い炎を収めた。
本当は焼き尽くしたい本能を抑え込んでまで耐えている。
馬鹿だ。この同級生は本当に馬鹿だ。
志摩がうそつきなことを知っている癖に、その言葉を信じているなんてとんだ大馬鹿だ。
志摩は言った。
「奥村君って優しいなぁ。反吐が出るわ」
燐の態度は力ある者故の優しさだ。人よりも力があるから。
人よりも特殊な力を持っているから。全てを壊す力があるから、誰よりも人にやさしくできる。
志摩には燐の優しさがまぶしいものであると共に、どうしようもなく憎い。
恐らく、人が彼を恐れる理由もそこからだ。人は弱いからこそ、誰よりも人に厳しく、人を切り捨てる。
燐は悪魔だ。悪魔だからこそ人にやさしく寄り添える。
人が憧れる人間という者に一番近いのが悪魔だなんて。本当に、笑えない。
志摩は父親から譲り受けた錫杖に黒い炎を灯した。
その矛先を、燐の心臓に当てる。
「ああ、そうや。違うわ」
錫杖を燐の身体から離して、手の先。燐が握りしめている倶梨伽羅に向けた。
そこには燐の悪魔の心臓が封印してある。全ての情報は、志摩に筒抜けだ。
仲間の手の内は知っている。
誰よりも近くにいたからこそ知っている。
「狙うなら、ここやんな」
黒い炎が倶梨伽羅を包めば、反射的に燐の体と刀が青い炎に包まれた。
本能的にまずいと感じているのだろう。悪魔の心臓を壊されれば、いくら上級悪魔といえども死ぬ。
悪魔の急所を志摩に壊されようとしている。
燐はもがいてなんとか黒い炎から抜け出そうとしているが、夜魔徳がそれを許さない。
「俺を殺したら、坊や子猫さんから奥村君すごく恨まれるやろうな」
例えばここで俺と奥村君が戦っとるとこ見られて、俺が奥村君が暴走した。
助けてって言ったら、たぶん騎士團側は俺の言い分を信じるやろうな。
だって俺人間やし。坊たちに必死に訴えてどっちの言い分信じるかやってみる?
きっとおもろいやんな。その想像がついて、少し笑う。
自分の嫌味な言い方にも嫌気が差す。燐は苦しそうに息をしながら志摩に言った。
「お前、自分の事嫌いなんだな」
「ああ大嫌いやで」
こんな風にしか生きることのできない自分が嫌いだ。
だからイルミナティに入ったのかもしれない。
イルミナティにはそんな輩ばかりだ。
世界を恨んで自分を嫌う。そんな集団ばかりだと思う。
「でも俺も皆もお前のこと好きだよ」
頼むから、戻ってこいよ。
聞いて、志摩は錫杖を倶梨伽羅に突き刺した。
黒い炎が倶梨伽羅を貫く。燐の体ががくりと力が抜けて、動かなくなった。
青い炎がろうそくの火が消えるかのように消えていく。
「奥村君…」
話しかけても燐は動かなかった。触れた体は冷たい。
「馬鹿やな、俺のこと燃やしたくなくて自分が刺されるとか。本当に馬鹿やな」
うそつきな自分の言葉を信じなくてもよかったのに。
錫杖をどかそうとすると、悪寒がした。命が脅かされるような、そんな危機感。
「夜魔徳くん!」
使い魔に声をかけて、急いでその場を離れる。
夜魔徳も状況のまずさを理解したのだろう。志摩を覆うように黒い炎を発動させる。
燐の体から、火柱のような青い炎が巻き上がった。燐に意識はない。
炎の勢いに支えられて倒れていた体が起き上がった。ぼんやりとした瞳でこちらを見ている。
『まずいぞ、あの炎には宿主の意識がない。悪魔の本能に従って、命を脅かす何物をも破壊する』
「えええ!?あかんやんまずいやん!」
志摩はとんでもないものを呼び起こしてしまったらしい。
魔神に通じる炎の意志を敵に回しては、勝てるわけもない。
燐の意識が無いのなら、志摩など一瞬で灰にさせられる。
魔神の炎は物質界、虚無界のどちらにも干渉する特殊な力だ。
こうなっては分が悪い。
「目的も果たせたし、とんずらやな」
志摩は夜魔徳に捕まって、その場を離れた。
すると、志摩がいた場所に青い炎の塊が降ってきた。あと少し離れるタイミングが遅かったとしたら。
そう考えて、ぞっとする。
やはり、奥村燐の存在は物質界のイレギュラーだ。
志摩に命令を与える上役もそこは十分すぎるほど理解はしているだろうが。
イルミナティの組織に必要な出雲。その先にある目的に燐も絡んでいる。
ここで彼を連れていくこともできただろうが、そうなればメフィスト=フェレスが黙っていないだろう。
時間を操る悪魔を敵に回すのは得策ではない。
現に、イルミナティが作った虚無界の門を周辺の時間を停止させることで止めたような悪魔だ。
次元が違う。
彼は燐の存在を守るためにあらゆる手を尽くしている。
メフィストがいなければ燐は物質界で生きていくことは難しい。
志摩は眼下に広がる光景を眺めた。学園祭の夜。普段とは違った風景だ。
提灯や雪洞の灯りに包まれて、町は騒いでいる。人が笑っている。
こんな戦いがあることなんて知らずに、普段通りの日常が過ぎていくのだ。
「くだらんわ」
だが、それこそが志摩が求めてやまないものだった。
誰に縛られるでもなく、捕らわれるでもなく過ぎていく日常。
この学園で過ごした日々は間違いなく楽しかったと言える。
例え皆を騙していたとしても、その思いだけは本物だ。
志摩はこの学園の裏側も知っていた。知っていたからこそ強く感じる。
まさしく、この学園は籠の鳥だ。出雲や、燐が囲われている牢獄のような町。
今日この町から、志摩は去っていく。
「またな奥村君、この道の行く先で待ってるで」
志摩の表情は、黒い炎の影に隠れて見えなかった。
***
燐が目を覚ますと、周囲は騒がしかった。
祓魔師達が慌ただしく現場検証を行っているし、救急車も来ている。
担架に乗せられて、自分は運ばれようとしているらしい。視線を横に向ければ雪男と目があった。
「兄さん!」
不安そうな顔をしていた。燐の目が覚めるのかどうか。
気が気ではなかったのだろう。自分たちは二人だけの家族だ。
一人を失ってしまえば、本当にひとりぼっちになってしまう。
燐は問いかけた。
「出雲は、志摩は…?」
雪男は口を噤む。それが全てを物語っていた。ああ、彼は去ってしまったのだ。
昨日まで近くにいて、寮の部屋にも遊びに行って。一緒に女の子に声をかけたり、学園祭を楽しんだり。
出雲にも悪いことをした。彼女は燐の呼びかけに答えて、店を手伝ってくれようとしていたのに。
出雲を守れなかった。
志摩を止めることもできなかった。
「ちくしょう」
悔しい。裏切られた思いは強い。
それでも何もできなかった自分が悔しい。
何かをしていれば止めれたのではないか。そんな思いが止まない。
「兄さんのせいじゃないよ」
たぶん、誰のせいでもない。どうしてもっと簡単に生きれないのだろうか。
この世界は不自由な事ばかりだ。
皆で笑っていられる世界。そんな日が続くことを望んでいただけなのに。
雪男はそっと慰めるように燐の手を握る。
志摩は何でも持っているように思えた。あたたかい家族、騒げる友達、
祓魔の家系だったとしても他と何も違わない。
「ひとりぼっちの寂しさだって、知らないくせに」
家族や友達が周りにいてくれることを、疎ましいと思うことすら燐には羨ましい。
悪魔だと罵られて、人に嫌われてきた燐にとっては。
悪魔の尻尾だって、牙だって、青い炎だって持ってないのに。
燐がなりたくてしょうがない人間なのに。
アイツはどこまで性格が曲がっているのだろうか。
燐は志摩にされた仕打ちを思い出して、ふつふつと怒りが沸いてきた。
「俺にしたこと。倍返しにしてお返ししてやる」
「温いね。僕も手伝って百倍にしてあげるよ」
思い知らせてやる。と雪男の眼鏡がきらりと光った。
その光景をそっと見なかったことにした。
志摩はさよならとは言わなかった。また、と言っていた。
だから燐はまた志摩に会う。出雲も取り返さなくてはならない。
彼女には直接危険な目に遭わせてしまったことを謝らなければならない。
志摩に会う。そして出雲を取り返す。
今度の敵は、昨日の友達だ。
もし次に会えたなら。今度こそ言えなかった言葉を言ってやる。
ぐだぐだと色々言っていたが、燐が志摩に告げる言葉はただ一つ。
「甘えるな」
ついでに一発殴ることも忘れないでおこう。
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