青祓のネタ庫
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≪ 1話目 | | HOME | | 聖騎士の夢2 ≫ |
「だれだおまえ」
燐は目の前に現れたピエロ男に驚いた。見たことないやつだ。
父親が読んでくれた絵本にあった道化に似た服を着ている。
「おや、あなたは・・・」
「なんだよ」
「いえ、これは面白いことになったと思いまして」
ピエロ男は燐をひょいと抱えて目を合わせた。
「なんだよ、だれだよおっさん」
「おっさんとはまた失礼な」
「おっさんはおっさんだろ」
ピエロ男はうな垂れた。まぁこどもに言わせればおっさんかもしれないが。
いささか心外である。
「私のことはそうですねぇ。お兄ちゃんと呼んでくれてもいいですよ」
「おれはゆきおのにいちゃんだ」
「私は貴方のお兄ちゃんでもあるんですがね」
燐はよくわからないといった顔をした。
「まぁあと十年もすればわかるようになりますよ。嫌でもね」
男は燐を抱えたまま玄関の扉を開けた。
「?」
「まぁ積もる話もありますし一緒に出かけましょう」
「やだ、おれははなすことねぇ」
男の顎鬚をぎゅうと掴んで燐は抵抗した。
「お父さんも来ますよ」
勿論嘘だ。
藤本との約束ではこちらが修道院に出向くことになっていたが、この際無視だ。
もっと面白いものを見つけた。
約束などすっぽかしてもなんら問題はない。
腕の中の燐はどうにも男の言葉が気に入らなかったらしく、しかめっ面をしている。
「おれたちのだ」
「私のお父さんといった訳ではありませんよ。貴方には弟さんもいらっしゃいましたよね」
生まれた時に兄に魔障を受け、既に悪魔が見えているというこどもだ。
「ゆきおっていうんだ」
「なるほど」
と、男の腕に抱かれ、燐はそのまま修道院から連れ出されてしまった。
修道院の近くに止めていた車に乗り込み、発進させる。
燐は車に乗ったことがないらしく、おおと歓喜の声を上げながら流れていく景色を眺めていた。
メフィストは車に備え付けてあるジュースと菓子を指差し、食べますか?と問うた。
「なんだそれ」
「お菓子ですよ」
「たべたことない」
牛皮に包まれた和菓子は藤本も与えていなかったらしい。
「美味しいですよ」
「じゃあたべる」
ぱくっと半分ほど齧ると、練られた餡子が出てきた。燐は何度か咀嚼すると目を輝かせてメフィストに言った。
「うまい!」
「そうでしょうね。それ全部食べてもいいですよ」
「やった!」
燐は夢中で和菓子に齧り付いている。外の景色はもう住み慣れた世界を離れているとは気づかずに。
「奥村燐君、外を見て御覧なさい」
「?」
そこはまるで城のようだった。モンサンミシェルのように上へ上へと積まれた建物が聳え立っている。
「正十字学園都市ですよ。きっと何年か後、貴方は嫌でも来ることになるでしょうね」
「なんで」
「それは秘密です」
餡子がついてますよ、と窓に張り付く燐を抱き寄せて膝に乗せた。
餡子を拭う振りをとって確認する。
まだ牙は生えていない。
膝に乗せるときに手をかけたが、まだ尻尾もない。
まだ、この子は人間だ。
「まだもう少し大きくなってからですかね」
「だからなにがだよ」
「あなたとお付き合いするまではまだ時間がかかるということですよ」
「?」
そう、嫌でもこの子供は自分の運命と向き合うことになるだろう。
そうなれば、騎士団の門を叩く日は必ず来る。
だが、それまではまだ人間として生きればいい。
だからそれまで。
「今の時間を大切にしておきなさい」
「?」
いずれ、藤本とも、弟とも。この世界とも別れる日が来るだろう。
男は自分の弟にあたるこどもをあやす。
「悪い男にかどわかされたものですね」
藤本は知らない男に付いて行かないようにと教えなかったのだろうか。
「なにが?」
「いえ、なんでもありません」
「おまえ、なまえなんていうんだ?おれは、おくむらりんだ」
「ふふ、あなたはまだ私の名前を知らない方が面白いかもしれませんがね」
「じゃあなんてよぶんだ」
「そうですね、恐らく帰ったら藤本にどこに誰といたか聞かれるでしょうしね。
聞かれたらこう答えておきなさい」
「・・・?うん」
男がなにかを言う前に、着信音が響いた。
携帯の画面を見て、男は心底面白い、といった顔をして笑った。
燐を右手一本で抱えて、顔を肩口に押し付けた。燐がふぐ、と潰れた音を出したが気にしない。
ここでこの子供に声を出されてしまっては、せっかくのお膳立てが台無しだ。
もごもご動く子供の口が開かないことを確認して男は電話に出た。
「藤本ですか」
「そうだ、お前が約束の時間を過ぎてもこねぇから電話した」
「よくおっしゃいますね、私が訪ねた時はお留守だったようですけど。
チャイムを鳴らしても出ませんでしたし」
これは嘘だ、チャイムなど鳴らさなかった。
「お前、いつもはチャイム鳴らさずに入ってくるだろう。今日に限ってどうした?」
「人がちゃんとしたというのに、結構な言い草ですね。何かあったんですか」
「質問に質問で返すなよ。やましいことがあるみたいだぞ」
「やましいこと?それはもう星の数ほどありますが?」
「茶化すな」
「怒りっぽいですね」
「ああ、怒りっぽくもなるさ」
「燐がいなくなった」
一瞬の沈黙。
「それは大変ですね。騎士団の方にも掛け合って探しましょうか?」
「そんなことをして、バレたらどうする。しねぇよ」
「ばれたら、子供もあなたの首も飛ぶでしょうね」
「俺のことは別に構わん。だが、子供たちに被害が及ぶとなれば俺は絶対に許さん」
「おや、いいお父さんになったものですね。最初の頃はどこぞに子供を捨てるのではないかとヒヤヒヤしたものですが」
「メフィスト」
藤本はなんの迷いもなく言った。
「俺はあいつらの親父なんだよ」
例え血のつながりがなくてもな。
「こどもの足でしょう。きっと近くにいますよ。悪いおじさんにかどわかされていたら話は別ですが」
「その悪いおじさんには心当たりがあるんだがな」
「あなたとかですか?」
「俺は悪いお父さんだからな。おじさんじゃねえ」
「私は悪いお兄さんなのでね。おじさんではありませんよ」
お互いに一笑して、電話を切った。
苦しそうにもがいていた燐を解放し、言った。
「そろそろお帰りの時間ですね。お父さんが心配していますよ」
藤本の顔が浮かんだのか、燐の顔が緩んだ。
「うん、かえる」
「さて、その前に覚えておいてほしいことがありますんで、ちょっと練習しましょうね」
「なんだよ?」
「さっきも言いましたが、恐らく帰ったら藤本にどこに誰といたか聞かれるでしょうしね。聞かれたらこう答えておきなさい」」
メフィストが燐を浚ったことは藤本にばれている。だが、悪戯するならば最後まで徹底的にやるのがメフィストの流儀だ。
藤本が慌てる姿が目に浮かぶ。
「燐!!どこに行っていた!?」
修道院近くの公園で車から下ろされた燐は、そのまま自分の足で修道院へ向かって歩いていた。
日も暮れだした頃、てくてく歩く燐の姿を見つけた近所の人が慌てて藤本に伝えに来たのだ。
すっとんできた藤本は、燐の無事を確認すると心底安心した表情をした後、燐をしかるように問い詰めた。
「どこに行っていた、心配したんだぞ」
電話での会話から察するに燐を連れていったのはメフィストであろうことは察しが着いた。
しかし、燐の口からどんなことがあったのかを聞かないと安心はできない。
「ごめんなさい」
「怪我とかしてないか?誰かに酷いこととかされなかったか?」
「ええ、と・・・」
燐はしばし考えたあと、藤本にこう言った。
『俺が父さんを探して玄関の方に行ったら、玄関の扉が急に開いたんだ。そしたら変なマスク被ったおっさんが
俺を見るなり「こいつは高く売れそうだ」とかなんとか言って、嫌がる俺の口を塞いで無理矢理連れて行ったんだ。
怖かった。そのまま車に乗せられて、連れまわされた後、急に人気のないところで車が止まったんだ。
おっさんが運転席から俺が乗せられてた後ろの席まで来て、売る前に味見がどうこうとか言ってた。
俺、怖くなって逃げようとしたんだけど鍵がかかってたから外に出れなくて。
そのままおっさんの下敷きにされて、そんで口を無理矢理開かされた。同時に手で尻の方撫で回された。
やめろって俺が言うたびに笑ってたから変な奴だなって思った。
しばらく体触られた後、おっさんはなんか残念そうな顔して「もう少しでかくなってからだな」って言って俺から離れたんだ。
その隙に鍵開けて、ここまで必死で逃げてきたよ』
覚えたことをすらすら言えたので、燐は大満足だった。
が、目の前にいる藤本は見たこともない顔をしていた。顔面が完全に固まっていて、氷のように冷たい顔だ。
「燐」
「・・・なに」
「俺が悪かったな。うん、だから今後は一人で玄関とか近づかないように」
「う、うん」
「その男の特徴は覚えてるか?」
『ううん、わからない』
この返答の仕方もメフィストの入れ知恵だった。
「じゃあ、今日は修道院から出ないようにな。雪男も心配していたんだぞ」
「う・・・ん」
優しい言葉のはずなのになぜだか怖い。雰囲気が冷徹で、まるでこれから人殺しにでも行くかのようだ。
修道院の者達が藤本を見た途端、「あの頃の藤本さんが帰ってきた!」「やばいぞ!死人が出る!」「止めろ!」
と絶叫していたことが燐の印象に残った。
あのピエロ男はこうすればお父さんは喜びますよと教えてくれた。
でも、父の顔は笑ってはいたが喜んではいなかったように思う。
変なの、と燐は特に深く考えずにそのまま修道院へと入っていった。
その夜、修道院の周りでは怪しい車が片っ端から爆破されるという不可解な事件が起きたという。
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