青祓のネタ庫
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兄さんは冷たい瞳で僕を見つめる。
当然だ、自分を追放する判断を下した輩を兄は一生許さないだろう。
そういう覚悟でここへは来た。
でも、当時の僕はそんな判断しかできなかった。
兄さんの状況は、まさに生きるか死ぬかの瀬戸際だったからだ。
「奥村燐の処刑を命ずる」
カンッと法廷に響いた裁決の言葉。三賢者は燐の存在を邪魔者とみなした。
燐は悪魔からも人間からもその存在を狙われていた。
悪魔からすれば、次期魔神ともいえる落胤を人間側に置いておくことが屈辱なのだろう。
悪魔からの襲撃は増していた。悪魔は口々に燐の帰還を望んで、消滅していった。
燐は何度も何度も悪魔をその手で殺した。
騎士團にとって悪魔への確かな対抗手段になっていたはずなのだ。
しかし一部の人間が、誠しやかに囁きだした。
魔神の落胤がこちらにいるから、悪魔は騎士團に牙を向くのではないか。
最初は馬鹿馬鹿しいとされていた言葉だ。
燐の騎士團への貢献度は知られていたし、大規模な悪魔の駆除を行うにも青い炎は不可欠だった。
だが、人間側の恐怖というのは伝染していく。
燐が行った行為に対して、人は少しずつ少しずつ毒を持って接した。
共に任務を行った者は、燐をまるで道具のように扱った。
傷を負っていたとしても、燐よりも軽傷な人間の治癒を優先した。
治療をしてくれればまだいい方で、そのまままるで燐が最初から任務にいなかったかのように扱う者も出た。
悪魔は人間が燐に対してそんな扱いをしていることが許せなかった。
悪魔は積極的に人間を襲った。燐への攻撃を最小限に留めて。
ほら、やっぱりあいつは悪魔なんだ。
人は燐を責めた。勿論そんな人間ばかりだったわけではない。
だが毒は確実に騎士團内部に広がり、取り返しのつかないところまで来ていた。
人は弱い。だから自分より強いものに対しての恐怖心を抑えない。
それは迫害という手段で確実に燐を追いつめていた。
対して、雪男への対応は緩くなっていった。
雪男は魔神の落胤と言えども人間だったから、矛先は全て燐へと向かっていった。
雪男は人間の中で追いつめられていく燐の背中を見ていた。
処刑宣言だけは免れたいと、雪男は八方に手を尽くした。
燐を殺されたくはなかった。無くしたくなかったからだ。
でも、全て無駄に終わった。
三賢者が下した決断が覆ることはない。
ならば。雪男はこの裁決に異を唱えた。
「お待ち下さい。処刑の判断は早計だと考えます」
燐の地位が陥れられると同時に、雪男の地位は上がっていった。
落ちこぼれの兄、優秀な弟。雪男の従順な姿勢は、騎士團にとって良いものに映った。
人間は言った。あんなのがお兄さんで、君の生まれはとても不幸だったね。
人は可哀想な者に同情的だった。
雪男はそれに対して腹立たしく思ってもいたし、内心そんな人間を全て皆殺しにしてやりたいと思っていた。
燐よりも雪男の方がよほど人にとって悪意を持っていたが、人はそんなことには気づかない。
人が最初に見るのはその人の外見。つまり表面しか見ていない。
それに雪男は取り繕うことがうまかった。
自分が人であったので、人がどんなに汚いことをするかもよく理解していた。
そうやってのし上がっていくことで、燐を守れると思っていた。
処刑の判断が下ってしまった今、どうやって燐の命を守るのか。雪男の考えはその方向にシフトしていく。
「三賢者の命令は絶対だぞ」
「ええ、十分承知しております。ですが、処刑すればそこで終わりです」
「何が言いたい」
「彼にはまだ利用価値があると言っているのです。
殺せば終わりですが、生きてさえいればまた利用することができるでしょう。
悪魔に対抗するためには、青い炎が必要だと考えます」
「ならばどうする。騎士團の地下深くにでも幽閉するのか」
幽閉。そうなってしまうとまずい。雪男は口を噤んで周囲の言葉を待った。
すると、裁判員の一人が叫んだ。あいつがいるから悪魔が来るんだ。
ここに幽閉されればこっちが悪魔に狙われる。
男の声に、周囲が賛同した。
そうだ、あいつさえいなくなればいいんだ。
殺せ、殺してしまえ。でも、どうする。落胤を殺されたことで悪魔がこちらへ復讐しに来ないのか。
ならば幽閉か。それは駄目だ。殺せ。どちらにせよ、ここに置いておくわけにはいかない。
周囲に伝染した言葉は、雪男に味方した。
雪男は発言する。
「奥村燐の、騎士團からの永久追放を提言します」
雪男の言葉は、裁決の場に染み渡った。
生かさず殺さすの判断。
それはこちらに被害が及ばず、また危険を遠ざける最も良い判断のように思えた。
雪男が三賢者の判断を待っていると、雪男の声に賛同するものがいた。
「僕もその方がいいと思うなァ、彼を殺せば失うものも多いと思います。
悪魔の復讐なんて皆ごめんでしょう?」
それはライトニングの言葉だった。彼は騎士團の参謀のような男だ。
現に大規模な作戦があれば必ずといって良いほど彼は関わっていた。
その騎士團の人望厚い者からの言葉だ。賛同者は多かった。
三賢者はそのまま再審議に入り、やがて一つの結論が出た。
「奥村燐を、騎士團からの永久追放処分とする」
雪男はひとまず胸を撫で下ろした。
兄が殺されるという最悪の結果は回避できたからだ。
後は、自分が彼を匿う準備をしなければならない。急がなければ。
雪男が審議の場を後にしようとすると、声をかけてきた男がいた。
振り返れば、その人物は雪男の提案に賛同した騎士團の参謀ライトニングだった。
「望む裁決を得られてよかったね」
「・・・貴方の後押しがあったからだとは自覚しております」
雪男はこんな場所でもたついている場合ではない、と思っていた。
早く帰って、兄に全てを説明しなければならない。
燐の知らない所で決定された事実は、きっと酷く兄を傷つけるだろうことはわかっていたからだ。
「それは全然構わないんだけどね。
実のお兄さんにこんなことできるなんて、君本当はお兄さんのこと嫌いなの?」
お兄さんのことが大嫌いなんだろう。
それはかつての雪男を苛んだ、藤堂の言葉の反復のようだった。
雪男はそれをすぐさま否定する。
「そんなわけないでしょう」
「生きてさえいればよかったの?うーん。それもまた難儀な答えだなぁ」
ライトニングは頭を掻いた。雪男の言葉に納得がいっていないようだ。
雪男は苛ついていた。早く帰りたかった。兄に会いたかった。
失礼します。と口にして素早くその場を離れた。
これ以上付き合ってられない。
そんな雪男の意識を感じ取ってライトニングもそれ以上は何も言わなかった。
ライトニングは雪男がいなくなった後、一人ぽつりとつぶやいた。
「だって、彼は。奥村燐の目標は聖騎士になって、
藤本獅郎のやってきたことが正しかったことを証明したかったはずだ。
騎士團からの永久追放ともなれば、藤本獅郎の名誉を回復させる手段を永遠に絶ったということだろう」
認めてもらう事ができなかった彼は、どんな思いであの判決を受け入れるのか。
しかもその判断は残酷なことに実の弟が下したのだ。
彼の目標を引き裂いても。それでも、生きていてもらいたかったのか。
「あの兄弟、なんだか根っこの所で完全にすれ違っている気がするよ」
ライトニングはため息をついて歩き出した。
***
雪男が日本支部に戻ってくると、扉の前にはメフィストがいた。
雪男はメフィストに声をかける。日本支部にはメフィストの結界が張ってある。
燐の場所を補足するにはメフィストの力が不可欠だ。
寮にいなかった場合を考えると、一刻も早く燐を見つけなければならない。
「フェレス卿、兄がどこにいるかわかりますか」
燐は現時点ではまだ監視の対象であるはず。
そうなれば居場所を知らないはずがない。だがメフィストは雪男の予想を覆した。
「さぁ、わかりません。彼はもうすでに私の結界の補足範囲から出ていますからね」
その言葉は雪男の心に突き刺さった。
まさか、自分は間に合わなかったのか。雪男はメフィストに詰め寄る。
「どういう、ことですか・・・」
「そのままの意味ですよ。奥村燐の永久追放が決定しました。
そうなれば彼がこの学園にいられるはずもない。彼は上級悪魔です。
この学園の結界は、上級悪魔の侵入を許しません。
私が丁重に結界の外まで案内して、先程最後の別れを済ましてきました」
雪男はすぐに部屋から飛び出そうとした。
先程、というならばまだ近くにいるかもしれない。
こんなにも早く決定が下されたのなら、燐は何も知ることができなかっただろう。
雪男は元生徒である燐の同期に連絡を取ろうとした。しかしメフィストがそれを無駄だと遮る。
「騎士團からの永久追放を受けた身です。もう誰にも彼と接触することはできません。
現に奥村君は同期に既に監視用の悪魔がついていることも悟っていましたよ」
誰にも連絡を取ることもなく、去って行った兄。
その胸中はどれほどのものだっただろうか。
雪男は燐に説明をしなければならなかった。
こうしている間にも、燐は一歩一歩雪男から遠ざかって行く。
待って、待ってよ兄さん。違うんだ。
「ああ、そういえば奥村君から言伝を預かっています」
メフィストは淡々とした声で告げる。
「お前を一生許さない、だそうです」
雪男が帰った部屋に、燐の姿はどこにもなかった。
代わりのように置いて行かれた荷物と、携帯電話。
そして、騎士団から通告された書類がぽつんとあるだけだった。
おかえりも、ただいまも、もう聞くことはできないのだ。
雪男はぽっかりと空いた部屋を見渡した。
まるで自分の心のような光景だった。
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