青祓のネタ庫
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燐が夕飯の買い物を終えて帰宅していると、誰かにつけられている感覚を覚えた。燐は後ろを振り返る。
すると、電柱の隙間から長い影が伸びていた。今は夕暮れだ。隠れようとしたのだろうが、丸見えである。
燐はため息をついて、電柱に近づいた。燐は魔神の落胤た。
だから誰かに狙われたり、暗殺されかけたりは日常茶飯事である。
雪男には言ったことはないけれど、今回が初めてというわけではない。バレたら怒られるだろう。
でも燐は只でさえ心配性の弟にこれ以上心配をかけたくなかったのだ。
燐は電柱に向かって叫んだ。
「おい、いるのはわかってんだぞ!出てこい!」
燐が呼びかけると、相手は素直に電柱の影から顔を出した。
***
燐は祓魔塾が終わった後、寮に帰ろうとしていた志摩に話しかけた。
相談があるんだけど、いいか。と。燐の声を聞いた志摩はきょとんとした顔をする。
相談事とは珍しい。深刻な問題なら、自分よりも勝呂や子猫丸にするだろう。
となると、今回のお悩みは自分にしか言えないこと。
つまり。
「エロ関係やんな、よしきた任しとき」
「間違ってないけどよくわかるな」
「こういう時の嗅覚は鋭いで」
志摩は廊下を歩いていた勝呂と子猫丸に先に帰ってくれと声をかける。
二人は訝しげな視線を向けたが、燐がいたことである程度の内容が掴めたのか、
門限は守れよ。とだけ声をかけて去っていった。よく心得ている二人である。
志摩と燐は人気の無くなった塾の教室内に入り、教卓に一番近い席に向かい合わせで座った。
志摩が前から燐をのぞき込む体勢だ。燐は鞄の中から携帯電話を取り出して、操作をする。
程なくして、メールの画面が表示された。
「えーっと、
『俳優募集の用件について。今回スカウトされた奥村様には、弊社の映像作品に参加して頂きたく存じます。
いきなりのことで警戒されているでしょう。ですが、弊社は参加を無理強いするつもりは毛頭ございません。
奥村様の警戒心を取るため、また弊社の映像作品に興味を持っていただくためにも、
弊社の者よりお話がありました映像作品のタイトルを送信させていただきます。
なお、こちらはあくまで仮のタイトルとなります。もしも気に入らない場合、または奥村様の方で良いタイトル案が
ありましたらご連絡をお願いいたします。折り返しこちらよりご連絡の方を―――』って何コレ?」
「なんか、俺のこと使いたいんだってさ」
「映像で?スカウトされたん?」
「うん、スーパーからの帰り道に。変なおっさんにすんごい口説かれた」
「ええええええ」
志摩はもう一度メールを見た。会社名についても記載されているし、担当者の名前も入っている。
そして、この会社名。どこかで見たことがあるぞ。と志摩は考えた。
しばらく考えて、ハッと閃いた。これは、まさか。
志摩は恐る恐る燐に問いかけた。
「もしかして、出演考えとるとか相手に言うたりしてへんよね?」
「ううん、実は明確に断ってもいない」
「うわあ、だからやわ。奥村君、この会社な。俺がいつもお世話になっとるところやわ」
「志摩知ってんの?」
「うん、だってAV作っとる会社やろここ」
二人の間に沈黙が走る。燐は手で顔を覆う。そして答えた。
「俺も知ってる会社だなぁって思ってたわ。そうか、あそこか」
「俺らの欲求を満たすための会社から、まさかお声がかかるとか思わんよなぁ」
燐はメールをスクロールしていった。そこにはあられもないタイトルが記載されている。
「禁じられた●五歳~やめてなんて言わせない~」
「出てくる言葉はあ行だけ。あぁ、イイ!、うん、えぇ!?おかしくなっちゃう六十分」
「やめて、は●●っての合い言葉」
「追突禁止、前だけを見て、はじめては」
「未性年の日常~衝撃の現役生デビュー~」
二人はしばらくそのタイトルを見つめた。そして、おもむろに口から言葉が漏れた。
「こんなタイトルじゃ・・・あかんよなぁ」
「うん、それは俺も思った」
もっとこう、性欲をかき立てるような題名にしてくれないと。
これではおもしろ映像特集やハプニング映像ではないか。いや、そういう分野がまずいと言っているのではない。
でも、こちらとら未経験の高校生である。即物的なのは何よりだが、もっと夢も見ていたいお年頃。
情緒が欲しかった。二人は頭をひねった。
「その倶利伽羅でブチ抜いて、とか?」
「センスの欠片もない。却下」
そして一般人は倶利伽羅というものが何かをまずわかっていない。
ギャグにしても、大衆がわかるものでなければ意味はないのである。
「初めては汚い倉庫」
「おい、無理矢理かよ」
「抱かれて寝間の上」
「古くさい」
「学園ダークファンタジー、青の寝取師」
「どこに学園要素が!?」
二人の会話はエスカレートしていった。
ヒートアップしすぎて、志摩も燐もまずは断りの電話なりメールを入れることを完全に忘れてしまっている。
二人はああでもない、こうでもないと議論を交わして気がつけば夜の七時を過ぎていた。
完全に門限をぶち抜いているが、そこで止まる思春期ではない。
議論の末に、一つのタイトルを導き出した。二人は意気揚々とメールを飛ばした。
そして、ほどなくして先方の会社から連絡がきた。
「こちらのタイトルでいきましょう、だってさ!やったな!」
「やっぱり現役の意見を取り入れな意味ないわな!わははは!」
二人は勝ち誇っていた。どうだ、男子高校生だって動けば一企業を動かす力を持っているのである。
そんな二人に追い打ちをかけるように、連絡が入る。
燐がメールを開くと、そこには次の日曜日に撮影がある旨と、時間と場所が書かれていた。
もちろん、キャストの名前には「奥村燐」とばっちりのっている。本名である。
「ん?おかしくね?」
「どうしたん」
志摩が燐に送られてきたメールを確認する。
キャストには、自分がお世話になったこともある映像作品に乗った男優の名前が載っている。
奥村燐、その後ろに男優の名前。
これは一体どういうことだろう。
燐が首を傾げていると、志摩がその場から逃げだそうとした。
志摩の運動能力と悪魔である燐の運動能力を比較してはならない。
志摩は教室から出る前に捕まってしまった。
燐に凄まれてしまっては、志摩は大人しくするしかない。
「忘れとったわ。その会社、両方やっとんねん」
「両方ってどんな意味だよ」
「えーと、つまり。男女ものと。男男もの、といえばいいか・・・」
「つまり?」
「つまり奥村君は今度の日曜日に男に体を売りにいかなければなりません」
燐に衝撃が走った。あのスカウトマンは君の初めてを捨ててみない。と誘ってきていた。
燐はてっきり男としての経験のことだと思っていた。
お相手はもちろん、想像の中でお世話になっている美人の女優さんだった。
蓋を開けてみれば、その女優さんの相手をしている男優さんを相手にする。
つまり、自分はその女優さんのようなことをされてしまうのか。
あんなことやそんなことを?
絶対に無理である。
志摩も動揺し過ぎて標準語になってしまっていた。
何故二人がこんなにも焦っているかというと、
メールの最後に『来ない場合違約金百万円支払え』と書いてあったからだ。
これは業者がよくやる常套手段である上に、詐欺行為にも等しい。
別に払う必要もないお金なのだが、社会人経験のない普通の十五歳が気づくはずもない。
今奥村燐は窮地に立たされていた。
借金百万円を背負うか。
今度の日曜日に映像と男としての尊厳をとられてしまうか。
どちらかである。究極の選択だ。
「うおおおお!騙されたあああああ!!!」
「奥村君、終わったら俺看病しに行ったげようか」
「いらねーよ馬鹿!なんで行く、行かないの選択肢の中で行く一択なんだよざけんな!」
燐の激怒で目の前の机が割れた。
そもそも、世の男の人がお金を払ってまでしたいと考えていることを、男子高校生にタダでさせるわけもないのだ。
世の中の世知辛さを思い知った。
でも、現状どうしようもない状況である。もはや二人の頭では解決できるような問題ではなかった。
「そもそも、奥村君って尻尾とかあるやんな。バレたらそれこそやばいやんな」
「だから何で俺が脱ぐ一択で考えてんだよ!そういう事いうのやめろ!」
「脱ぐってなんでですか」
「そりゃお前今度の日曜日に撮影があるからだろ!」
「撮影って何の」
「俺主演のAV・・・って」
二人は背後から聞こえてきた第三者の声に戦慄した。
そしてその声の主は今一番バレてはいけない相手である。
志摩も燐も逃げようとしたが、相手の手には既に銃が握られている。
走った瞬間に足を打ち抜くくらいはしそうである。それも驚くほど正確に。
「ゆ、雪男、これには事情が」
「言い訳なんて聞きたくないね。洗いざらい吐いてもらうよ」
固まる燐を前にして、志摩がせめてと現状を説明した。
燐がスカウトされて、撮影に来なければ違約金を払えと言われていること。そのすべてを。
いつまでも帰ってこない兄を心配して探しに来てみれば、何故いつも騒動に巻き込まれているのだろうか。
雪男は現状を正しく認識すると、燐の携帯を取り上げて先方の会社へと電話をかけた。
「すみません、奥村燐の担任をしている者です。責任者を出してください」
雪男は燐と同じ年だが、祓魔塾の担任をしていることは合っているので間違いではない。
そのまま保留音が途切れると雪男は弾丸のようなしゃべりで相手を攻めた。
そもそも、こんな違約金を払う必要もないですよね。払えというのならこちらだって考えがありますよ。
貴方達は正式な契約書を作り、本人の同意を得たのですか。日付と直筆の名前と、印鑑です。
それもないのに契約したなどと言えますか。言えませんよね。
あげくの果てには彼は未成年です。
営利目的で声をかけたのでしょう、これは立派な犯罪ですよ。
出るとこ出たっていいんですよ。このまま警察行ったっていいんですよ。
こちらには証拠となるメールも残っていますしね?
そのまま相手側から通話は切れた。雪男は急いで着信拒否とメール拒否の設定をする。
これで相手は引き下がるだろう。
もし違約金の百万の請求が来たとしても、払わなければいいだけの話である。
雪男が燐の携帯を閉じると、燐は安心したように肩の力を抜いた。
そして雪男に謝った。
「雪男!ごめん変なことさせちまって!」
「いいよ別に・・・っていうか常日頃から馬鹿だと思ってたけど本当に馬鹿だね兄さん」
「うう、今回のことは否定できねぇ」
「志摩君も、これに懲りたら面白がって変なことに首をつっこまないように」
「わかりました、すんません」
二人を立たせると、雪男は志摩に新男子寮に繋がる鍵を使って部屋に帰るようにと言った。
軽いお説教で済んでよかった。志摩は鍵を教室の扉に差すと、最後にもう一度振り返って謝ろうと思った。
するとどうだろう。
雪男が銃をこちらに向けて構えているではないか。
「大丈夫、ゴム弾ですよ」
言うやいなや、志摩の足と背中にゴム弾がぶち込まれた。
いくらゴムとは言っても痛いものは痛い。ぎゃああああ、という悲鳴を残して、扉は閉まっていった。
ぱたん。と閉まった扉。最後に見た志摩は部屋の中に倒れ込んでいる姿だった。
燐は止めることができなかった。なぜならもう片方の銃で狙われていたからである。
両利きの恐ろしさを思い知った。
雪男は志摩を見送ると、燐の尻尾をぎゅむ。と踏みつけた。
燐は痛いと悲鳴を上げる。雪男はいい笑顔で言った。
「反省するには、体で覚えるのが一番だよね?」
一回体を売ろうとしたくらいだもの、中途半端じゃ許さないよ。
雪男の声が響く。逃げたいけれど、尻尾を掴まれてしまった。もう逃げることなどできはしない。
「い、いたいいたい!やめろ、雪男!やめてくれ!」
「兄さんは思い知るべきだよ」
雪男は尻尾を掴んだまま燐を引きずって、旧男子寮への鍵を差した。
二人はそのまま扉の向こうへと消えていく。
その日、旧男子寮からは一晩中悲痛な悲鳴が響き渡っていたという。
***
メフィストは、録画のボタンを切った。
映像を再生すると、燐と志摩が祓魔塾の教室で会話をしているところから始まっていた。
「いやぁ、いつものように学生たちの悲喜交々を覗き見していたら。
とんだハプニング映像が取れました☆」
メフィストは映像を意気揚々とブルーレイディスクに焼き付けると、そこに日付を記入した。
これは永久保存版となるだろう。
末の弟がAVに出演しかけるハプニングなど、こんなにおもしろいことはない。
メフィストは笑いながらディスクの表面に題名を書き入れた。
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