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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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正十字学園お悩み相談室


ワンコールの電話音の後に受話器を取る。

「はぁいこちら正十字騎士團お悩み相談室ですぅ☆」

声を聞いた途端に受話器の向こう側から電話を切られた。
聞こえてくるのは機械音だけ。メフィストはチッと舌打ちをして受話器を置く。
今日だけで何回目だろうか。メフィストはため息をつく。
騎士團の方から、一般人や学園の生徒が感じている不和を調べるようにとのお達しがあった。
虚無界の門が開きかけている今、一般の人々が感じている異変こそが
この世界に訪れている異常を教えてくれる。

確かに大事なことである。
そこでお悩み相談という形で騎士團の方も一般人に窓口を開いているというわけだ。
些細なことから重い悩みまで内容を問わない相談を受け付けている。
普通なら部下である祓魔師に振っているのだが、悪魔であるメフィストにとって人の悩みは蜜の味。
どんな美味しい相談があるのかと意気揚々と電話に出てみたものの、メフィストの第一声が信用できないのか
電話を切られてしまう始末。おもしろくない。とメフィストは舌打ちをする。

電話口でも警戒すべき相手をわかっている辺り人間は侮れない。
それならばとメフィストは電話機を操作した。一般回線から、学生向けの相談室へと回線を移動させる。
いたいけな少年少女ならば、世間を知って警戒心を持っている大人よりも素直に悩みを相談してくれるだろう。
そう、少年少女の悩み程いじりがいのあるおもしろいものはない。
彼らの世代についた傷はその後の人間の人格形成に深く関わってくる。

深く傷つけるのもよし。放置するのもよし。
膿んだ状態にして一生消えない傷を残すのもよし。
ああ胸が高鳴るじゃないか。

メフィストはうきうきしながら電話が鳴るのを待った。
そのまま待っていると、程なくして着信を告げる音が鳴る。メフィストは電話を取った。

「はい、こちら正十字学園お悩み相談室です」

声色を変化させて努めて優しそうな声で出る。それだけで学生は安心して話し出すだろう。
ここでは匿名の相談を受け付けているので、名前を問いただす必要もない。
電話口の相手は少し躊躇してから、ぼそぼそと話し始めた。

『友達のことで・・・相談が』
「ええ、どんなことでもいいですよ。おっしゃってください」
『俺、友達のハンカチを。その。返しそびれてもうて』

話を聞いていると友達の落としたハンカチを教室で拾ったらしい。
返そうと思ったけれどタイミングを逃して返しそびれてしまったそうだ。
後で返そうとしているうちに、ハンカチを無くしたという話を相手の友達から聞いた。
そのハンカチはプレゼントでもらった大事なものだったらしい。

『そこで返せばよかったのに・・・返せなかったんですわ』
「なるほどなるほど」

つまり、この相談者は友達と呼ばれる子に少なからず想いを向けていたわけだ。
そこで別の男からもらったというハンカチを、大事なプレゼントだったと知って返したくなくなったと。
かわいらしい嫉妬心ではないか。メフィストはにやりと笑った。

「貴方はどうしたいと思っていますか」
『返そう、って思います。でも言いだしにくくて』
「本当に?本当に貴方はそう思っているのですか?」

メフィストは察していた。この電話口の相手は本気でそう思ってはいないと。
相手の本心を突く質問に、電話口の相手は口ごもる。メフィストは追い打ちをかけた。

「想い人の持ち物を手に入れて、貴方は何も感じなかったと言えますか。
大丈夫ここには守秘義務がありますから誰にもバレることはありませんよ」

悪魔の言葉をささやいて、相手の言葉を待った。
しばらくしてから、相手は口を開いた。

『興奮したんです』

少なからず想っている相手の持ち物が手に入って、この年頃の男が何もしないと言えるだろうか。
大事な人からもらったというプレゼント。自分以外の男から貰った持ち物。
想い人はそのハンカチを日常生活で使っている。

トイレに行って手を洗った後に。食後に口元を拭うために。汗をかいたらその汗を拭ったりもするだろう。
そうだ。その布には想い人の使用した形跡がある。自分の知らないところで使われているハンカチ。
それを手に入れたこの相談者は、ハンカチを汚す行為に至るまでそう時間はかからなかったはずだ。
想い人が使った痕跡を想像して、興奮した。することは一つだろう。

「なるほど、貴方はそれで罪悪感を感じたと?」
『どうしようもないくらいに』

想い人を思っているのに、自分がした行為は即物的かつ想い人を汚す行為だ。
やってはいけないことである。そこで相談室に駆け込んでしまったというわけか。
メフィストは笑った。そして再度問いかける。

「本当にそう思っているのですか?」

興奮した末に感じた罪悪感。罪悪感を感じたのは本当だ。でも、その罪悪感の先に感じたものがあったはず。
それを否定するのかとメフィストは問うている。
普通の人間ならば否定するそれを、メフィストは否定しない。

心の扉を開けるのだ。そうすれば人はもっと自由になれる。
電話口の相手が息を飲むのがわかる。しばらく無言の後、相手は答えた。

『あの子を汚して、あかん悦びに目覚めました』

メフィストは拳を握りしめた。
これだ。この若者の次の扉を開くこと。ああ教育者としての喜びにメフィストは浸る。
世間一般的には好きな子のハンカチ盗んで自慰に耽った行為は褒められるべきではない。
だがメフィストだけは褒めよう。なぜなら彼は悪魔だから。
人としての足を踏み外した生徒を褒めないわけにはいかない。

「すばらしい!貴方の今後に期待します!」
『なんか、あかんことしたのに褒められるのって不思議ですわ』
「いいんですよ。思春期にはよくあることです。気にしないことです」

電話口の相手は悩みが解消されたようで晴れやかな声だった。
方法としては完全に間違っているが、一人の悩める青少年を救ったのは事実である。
あとは彼が人としての道を完全に踏み外さないことを祈るばかりであるが、こればっかりは誰にもわからない。

メフィストに一言のお礼を言うと相手は電話を切った。
きっと彼はハンカチを返すことはしないだろう。
それどころか電話を切った今この瞬間にもハンカチを手にとって。
想像するだけで胸が高鳴るじゃないか。
メフィストはテンションが上がったまま、次の電話に出た。

『祓魔塾で、ゆ・・・弟に貰ったハンカチ無くしたんです。
大事にしてたのに。一体どこに行ったのか』

メフィストはしばしの無言の後、紛失物相談窓口の電話番号を伝えた。
そして、きっとそのハンカチは必要な人の元に行ったんですよ。と一応のフォローを入れておいた。

電話を切って、メフィストは自身の末の弟の行く末を案じた。
彼を脅して手に入れた自分が言うのもなんだが。
弟である雪男に邪魔されたあげくに別れ話を持ちかけられた時は非常に焦ったものだ。

その後話をうやむやにして以降、燐と関係を持つことは中断しているが諦めてはいない。
燐はそういう関係にはなれないとメフィストに詰め寄ったが、燐の意志などそもそも関係ないのである。
自分の欲をぶつけることになんの躊躇もない悪魔にとって、燐の抵抗など愛玩動物の甘噛みのようなもの。

次は旧男子寮にでも進入して、燐のベッドにだけ結界を張ろう。
どんなに暴れても外に音が漏れることはないし、声が聞こえることもない。
狭いベッドの中で押さえつけ、寝ている弟の目の前で思い知らせるのもいいかもしれない。

うきうきしていると、次の電話が鳴った。
時計を見ればそろそろ相談窓口も終わりの時間。これで最後だろう。
終わったら早速今夜の進入計画でも立てるとしよう。
今度の相手は高校生という年頃にしては珍しい極めて落ち着いた声色だった。

『家族に渡したプレゼントのハンカチがあったんですけど、
大事にしていたのに無くしたって言われて探してたんです』

メフィストは諦めて、代わりのものでも贈ったらどうですか。と相手に勧めた。
そのハンカチは間違いなく帰ってこない。そう策略を巡らせたのはメフィストだったからだ。
相談者は少しの間無言になって、言葉を発した。

『見つかったんですけど、他の人が持ってたものをもう一回渡すのもあれかなって思ったんで。
処分しちゃったんですよね』

メフィストはその声色にぞっとした。とても冷静だ。怖いくらいに。
そして先ほどの相談者の安否が気になった。
まさか殺してはないだろうが、陰惨な目には遭っているだろう。
自分のした行為の責任は取らないといけないが、彼は一時の思春期の性衝動に従っただけである。
それを断罪するなどあってはならないことだ。
処分。恐ろしい言葉だ。ハンカチではなく、持ってた者を処分したのではないのか。
メフィストは落ち着いて相談者に対応した。

「では新しいものをあげるつもりなのでしょう。それでいいじゃないですか」
『ええ、どんなプレゼントがいいかなと思いまして』
「欲しい物をあげればいいのではないですか。きっと喜びますよ」
『そうですね、それがいい』

相談の決着はつきそうだった。今日は早々に退散することにしよう。
そう決めたところで、電話にノイズが走り始めた。電波が悪いのだろうか。
相手は固定の電話機ではなく携帯からかけているらしい。周囲の雑踏の音もよく聞こえてくる。

『プレゼントをあげた家族なんですけど、最近よく眠れないらしんです』

どうしてですか。とはメフィストは聞かなかった。理由はよくわかった。
その家族は男と関係を持ったことで脳裏にフラッシュバックが起きるのだろう。
夢でうなされているのだ。自分の体を暴かれた行為を何度も何度も思い知る。
そうメフィストがし向けたからだ。
電話の雑音が急になくなった。

『だから、安心して眠れる夜をあげたいって思うんですよね』

メフィストは電話から聞こえて来た声で席を立った。

「今、どこにいるんですか」

わかりきったことだが、それでも聞いた。

「貴方の、後ろに」

電話口の声がそのまま背後から二重音声で聞こえてくる。
メフィストの指が鳴るのと、銃弾が発射される瞬間は同時だった。
相談窓口の終了のチャイムが鳴り響く。
戦いの火蓋は切って落とされた。

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