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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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もういっかい



「兄さんは真面目に祓魔師になる気はあるの?」

雪男は女の子に声をかけている兄を見つけてため息をついた。
眉間にしわがよっているのがわかる。明らかに不機嫌だった。
燐は去っていく女の子を寂しそうに見送っている。
燐の肩を叩いて、雪男は詰め寄った。
いくら処刑が保留になったとはいえ、いつそれが撤回されるか
わかったものではない。
真面目に勉強している気配もない今、兄の言葉が雪男には信じられなかった。
祓魔師になるためには、血のにじむような努力が必要だ。
雪男がそうであったように。塾の仲間がそうであるように。
兄はなぜもっと真面目にできないのだろうか。

「だって、高校一年生の学園祭は一回だけだろ」
「志摩君の受け売り?勘弁してよ」
「音楽フェス行きたいてぇな。お前は行かねぇの?」
「行くわけないだろ。女の子に誘われたりはしたけど、僕は興味ない」
「うわ、それ嫌味か最悪だな、こんな奴のどこがいいんだか」

燐は雪男をうらやましいと言って肩を小突く。
雪男にしたら、三か月後の祓魔師試験の方が大事だった。
いくら年一回あると言っても、燐には何回チャンスが残されているのかわからない。
だから生き残るためのチャンスを無駄にして欲しくなかった。
雪男のそんな思いを燐は考えてはくれない。
雪男のいらつきは増していく。

「音楽フェスなんて、来年行けばいいだろ」

祓魔師の試験に合格してから。そうすれば心の底から学園祭だって楽しめるだろう。
来年なら、雪男だって兄と一緒に楽しめたかもしれない。
燐は雪男の言葉を受け止めて、頷いた。

「わかったよ」

言葉では了承したといえども、諦めがつかなかったようで。
その後も隙を見て女の子に声をかけたらしいが、断られている様子を雪男はたびたび目撃した。
結局しえみの返事もいいものではなかったらしい。何と言われたのかは知らないが。

そして寂しく、学園祭最後のキャンプファイヤーの会場に来ている。
雪男は燐の監視の意味を込めて隣にいる。
男二人でキャンプファイヤー眺めるなんてあまり面白くはなかったけれど。
背後では人の喧騒と、かすかな音楽が聞こえてきた。
燐が行きたがっていた音楽フェスだろう。
中には入れなかったけれど、かすかな音だけは楽しむことができる。
皆音楽フェスに夢中になっているらしく、キャンプファイヤーの火を囲む者はほんのわずかだ。
それも暗闇で顔がよくわからないから、人がいるのかいないのかわからないような視界だった。
声が聞こえてきた。

「お前行かなくてよかったのか?」
「兄さんの監視があるからいいよ」
「真面目だな、少しは高校生活を楽しめよ」
「イイよ別に」

そのまましばらく火の粉が暗い空に消えていく様子を見ていた。
静かな夜だった。兄の背中を見て雪男は声をかける。

「来年行こうよ」

燐は雪男の言葉に答えなかった。
もしかしたら、予感があったのかもしれないと雪男は今になって思う。



キャンプファイヤーの火を見ながら雪男は考え事をしていた。
背後から声をかけられて、珍しく驚いてしまった。
振り返れば出雲がそこに立っていた。

「先生が驚くなんて珍しいですね」
「考え事をしてまして」

そのまま出雲は雪男の隣に立った。女子の視線も暗闇ではわからない。
お互いの顔がわからないという状況はありがたかった。
背後からは音楽が聞こえてくる。去年、燐が行きたいと言っていた音楽フェスが今年も開かれている。
雪男や出雲達は高校二年生になった。
祓魔師の試験が今年もあと三か月後に迫っている。
二人はもう試験に合格しているので焦らなくてもいい立ち位置だ。

だからこうして落ち着いて話をしていられるのだろう。
二人はしばらく無言のままキャンプファイヤーの火を眺めた。
薪が燃えていく姿は人をリラックスさせるらしい。
出雲はぽつりとつぶやいた。

「こんなことになるなら、一緒にいけばよかったかなって。今は思います」

出雲は去年、燐に音楽フェスに行こうと誘われていた。断ったのは祓魔師試験が迫っていたからだ。
燐は祓魔師試験に合格すると同時にヴァチカンへの配属になった。
配属という形は後付けの説明ともいえるだろう。
高校卒業を待つことなく、ヴァチカンは強引に燐を拉致していったのだ。
今ではアーサーの元で使い魔のようにこき使われているらしい。
監視役だった雪男もお役御免というわけだ。
今では燐がどう過ごしているかもわからない。
メフィストを問いただしてたまに近況を知れるくらいだ。
今どこでどんな空を見上げているのか。それすらもわからない。
一年前からは想像もつかなかった状況が今ここにある。

兄は雪男の隣から消えた。高校生活も一緒に送ることはない。
燐と過ごした旧男子寮も半ば強引に追い出されて、今では新男子寮で暮らしている。
雪男はごく普通の高校生活を送っている。
燐が聞けばきっとうらやましいと言われるくらいだろう。

出雲が呟いた言葉は、そのまま雪男が抱えている後悔とつながった。


「僕も、来年行こうなんて言わなければよかったって。今は思います」


燐には来年がなかった。
自分たちには来年があった。それだけの違いがこんなにも大きく心に響く。
お互いの顔は見えない。
二人はただ燃えて、暗い空に消えていく火の粉を眺めていた。
この炎が青かったらよかったのに。
そう思うのは都合のいい考えだろうか。

誰かが雪男の前に立っている。たぶん学園の生徒の誰かだろう。
去年いた背中はもう見ることはない。
高校二年生の奥村燐はどこにもいない。

それでも兄はこの世界のどこかで生きている。

キャンプファイヤーの火の影から、去年の僕が僕を見ている気がした。
高校一年生の学園祭がもう一回あれば。
できないからこそ、誰もが望むだろうやり直し。
もしも、もう一回送れるのなら今度は笑って兄の望みを叶えてやりたかった。

炎の幻影を見ながら、今もどこかで生きている兄の姿を思い出す。


***


燐は夜空を見上げて呟いた。今しがた燃やした悪魔から出た青い炎の火の粉が空へと消えていく。
それが去年見た学園祭のキャンプファイヤーみたいで、少し笑えた。
周囲には夥しい数の悪魔の死体がある。
仲間や家族から引き離されてもう一年近くたつ。
今の時期なら学園祭だろう。皆楽しんでいるだろうか。あの音楽フェスは今年も行われているのだろうか。
今の燐には確かめる術がない。それでも、生き残るためにここで足掻いている。

「何している、行くぞ」

アーサーに呼ばれて、燐は振り返った。半ば強引に拉致された挙句に使い魔のようにこき使われている。
厭味ったらしい上司に燐はため息しか出ない。それでも、出会った時よりはましな扱いだ。
他の祓魔師だったら未だに声をかけてくれる人もいない。
燐は一人だった。だから温かい思い出は前に進める勇気をくれる。

こんなことになる予感は、以前からあった。
誰かに話すことはなかったけれど、漠然と抱えていた将来への不安。
不安はやはり現実のものとなった。
だからこそ、あの学園での生活は間違いなく燐の支えになっている。
楽しく遊べる時間がどれだけ大事か。雪男も今俺の分まで遊んでくれていればいい。
あ、でも女の子と羽目を外して遊ぶのだけは許せないかもしれない。
できなかった燐からしたら、うらやましくてしょうがないからだ。
燐は少しだけ笑った。
雪男はまだ高校二年生だ。雪男にもそんな楽しい思い出が増えればいいと思っている。
それでも。

「もういっかいあればよかったのになぁ」

無くした高校二年生を、思わずにはいられない。

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