青祓のネタ庫
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「どういうつもりや奥村」
勝呂は周囲に人がいないことを確認して、燐を階段下の暗がりに連れ込んだ。
本来なら自分一人で来るはずだった場所だ。途中までは一緒に来たとしても、
燐が中に入ることまでは想定外だ。ここは京都の術師の集まり。
青い夜の被害にあった家だって、あるだろう。
そんな場所にのこのこ魔神の落胤が来ているなど知られれば、
燐がどんな目にあわされるかわかったものではない。
ここは古狸達の集まりだ。若い勝呂の手に負える相手ではないのかもしれない。
それでも家のためにここへ来た。
老人達とのやりとりに集中したいというのに。
「今からでも遅くない。帰れ奥村」
何かあってからでは遅い。だからその前に。
顔には面が着けられており、表情はわからない。
燐は勝呂の頬にそっと手を添えた。あたたかかった。
「イヤだね。勝呂を置いて帰るなんて」
「状況わかっとんのか。俺は目立てる立場やない。
それなのにこんな派手な使い魔連れて行けいうんか?」
燐の手首を掴んで、壁に押しつけた。美しい青い布地だ。
燐にとてもよく似合っている。こんな状況でなければ他人に見せびらかしてみるのも悪くなかったかもしれない。
勝呂が若旦那というならば、燐は若君。とでも呼べるような服装。
一体どこの坊ちゃん二人組だろうか。
今から海千山千の老人達と渡り合わなければならないというのに、笑えない。
「もっと仲間を信頼しろって言ったの勝呂だろ。
勝呂の家の問題なのかもしんねぇけど。
ここにいれるのは悪魔である俺しかいないじゃん。一人になんかにしねぇよ」
面の隙間から見える青い瞳が勝呂を射抜く。
手首から伝わる相手の体温。自分の手は珍しく冷たかった。
緊張していたのだろうか。
一人ではないと言ってくれる相手がいてくれる。
それはなによりの励ましになるだろう。
「・・・何かあったら言うんやで」
ここは術師の集まる場所。結界や退魔の術が施されている部屋だってあるだろう。
使い魔の正式な契約がなされていれば結界が無効化される術も存在する。
勝呂と燐は正式な使い魔としての契約を交わしているわけではない。
それが燐の体に悪影響を与えねばいいのだが。
勝呂の眉間に寄った皺を察したのか、燐が軽くデコピンをした。
「そうカリカリしなさんな若旦那」
「誰のせいやと思っとる」
それでも勝呂の緊張は不思議と取れていた。
***
会合は畳が五十はあるかと思われる部屋で行われた。
部屋に明かりはなく、薄暗い。所々ろうそくを灯す台があるがそれに火はなかった。
顔を見られないようにという配慮だろうか。面をつけた上に暗闇で行われるとは。
よほどお互いのことを信用していないのだろう。一寸先は敵の集まりだ。
縁側に一列。襖に一列。そして上座には御簾のかかった暗がりに誰かがいる。
きっとこの会合を取り仕切る頭領と思わしき者だろう。
下座に控える勝呂は傍らに燐を控えさせて頭を下げていた。
表を上げろ、との言葉に顔を上げることを許される。
「勝呂家跡取り、勝呂竜士と申します。本日はお招き頂き誠に有り難うございます。
本来ならここに来るべき家柄ではないことは重々承知しております」
「お前がカルラを率いておることは周知のこと。また下手な謙遜を」
「とんでもございません」
めんどくさい。という言葉が口に出そうになるが我慢だ。
周囲の視線が勝呂に集中していることがわかる。あれが達磨の倅か。
あのカルラを呼べると聞いているぞ。上級を従えられるのか。嘘ではないのか。
勝手なことをひそひそと呟いている。達磨が勝呂をここに来させたくなかったという言葉が頭に響く。
それでも、勝呂は家の名に恥じない振る舞いをしなければならない。
どこの誰かもわからない者が、カルラを見せてみろ。と言ってきた。
周囲もそれに同調して言ってくる。
言われてしまえば仕方ない。
勝呂は指を軽く噛んで出血させると、手のひらに円を描いた。一言呟く。
「来い、カルラ」
途端に薄暗い部屋にまばゆい明かりが出現する。
部屋にあったろうそくに火が灯り、赤い火の粉が舞う。
美しい赤い火の鳥。カルラが舞い降りた。
周囲の者が息を飲んだ声が聞こえる。本当だったのか。と呟く者もいた。
そして、向けられるのは嫉妬の眼差しだ。
「本来ある力を隠して申告していたとは。不敬にも当たるぞ勝呂の倅よ」
「申し訳ありません。カルラは人の疑心等の薄暗い芥を喰らう悪魔です。
契約上、父も祖父も。先祖代々家族にすら言うことはできなかったと聞いております」
「勝呂達磨は不浄王との戦でカルラを解放したな。それでも勝呂家に従っているのは何故だ」
「あの戦いで勝呂家との契約は破棄されました。
しかし父との個人的な契約であの場に残ったと聞いております。
重傷を負った父との契約を引継できるのが、あの場では血の繋がりのある自分だけでした。
ですから今は自分と共にあります。
まだ若輩である故、意のままに操るなどという器用なことはとてもできませんが」
修行は日々行っております。と勝呂は言葉を切った。
カルラは暗闇の中ふよふよと漂っている。
小さな鳥の姿で周囲を見回して、ふ。と小さく笑った。
『ふん、ここには我の糧となる疑念が満ち満ちている。
なんとも笑える会合だ。つまらぬことで私を呼ぶな』
余計なこと言うなや。と思ったが、勝呂は止めなかった。
周囲もカルラの言葉にかちんと来たのか、声を荒げた。
無礼な。勝呂家は落ちぶれておるくせに。生意気な。
そんな口さがない言葉が呟かれていた。
もうよい。という御簾の向こうから声が聞こえてきた。
勝呂はすぐに手のひらの円を消した。カルラは最後まで人を馬鹿にしたように見回して、姿を消した。
ろうそくの灯りもカルラが消えたことで消失する。
暗闇と沈黙が辺りを包み込む。御簾の向こうの人物が扇子で勝呂を指した。
「カルラの件は不問に処す。悪魔との契約上必要なこともあるだろう」
「あ、ありがとうございます!」
勝呂は頭を下げた。よかった。これで当初の任務は達成できた。
周囲はまだ何かを言いたそうにしていたが、頭領が許しているので文句も言えないのだろう。
勝呂はそのまま下がろうとした。
しかし、それはうまくいかなかった。
「して、そなたの後ろに控えている青い悪魔は一体何だ」
意表を突かれた。まさか燐のことについて聞かれるとは。
それでも勝呂は動揺を押し隠して事前に用意していた言葉を告げる。
「皆様に紹介する者でもございません。
私の側にいてくれるだけのしがない使い魔でございます」
「興味がある、近くへ来させよ」
強制的な言葉に従わざるをえなかった。
勝呂は背後を見て、少しだけ頭を下げた。燐も察したのか、立ち上がる。
そのまま部屋の中央まで歩き、立ち止まった。
御簾の向こうで扇子が開かれる音が聞こえると、暗かった部屋にまた明かりが灯った。
部屋に灯りが灯ったことで、今まで勝呂の背後に控えて見えなかった燐の姿が晒された。
青い着物に金の装飾。
目元を覆った面のせいで顔は見えないが、人目を引く姿をしていることは間違いない。
「勝呂の坊ちゃんは若いのに大層な御稚児趣味があると見える」
周囲の誰かが呟いた。途端に笑いが起こる。
綺麗に着飾った人型の使い魔。下種な輩はそういった夜の共に使い魔を使用することもあると言う。
自分のことはいい。だが燐のことを馬鹿にされたことは許せない。
勝呂は違うと怒鳴り散らしてやりたかったが我慢した。
今は一刻も早く燐を連れてこの場を脱出することを考えなければならない。
「ですから、皆様にご紹介する者でもございませんと申したのです。
後ろへ控えさせてもよろしいでしょうか」
燐がじろじろと老人たちの好奇の目に晒されることを阻止したかったのに。
御簾の向こうの御仁はそれを許さない。
「そうだな。そなたはもう良い。下がってよいぞ」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます」
勝呂は燐を呼ぼうとした。それを止めたのは、入り口付近に控えていた護衛の者だった。
両側を護衛の者に挟まれ、勝呂は冷や汗をかいた。
よくないことが起ころうとしている気がした。
扇子がまた鳴った。
「下がるのはお前だけだ、勝呂の倅よ。なに、一晩か二晩か。期間はわからぬが、
この青色の使い魔の具合を確かめさせてもらうとしよう」
「なッ!?なにをおっしゃっているのですか!!」
抗議しようと膝を上げると、目の前にあった襖を閉められた。
両腕は護衛に捕まり、勝呂は身動きが取れない。
そのまま廊下の方へと連れ出された。
離せと叫んだが、護衛は気の毒そうな視線を向けて呟いた。
「残念だが諦めろ、あの使い魔はもう戻らぬ」
そう言うということは、これまでも何度かあったことなのだろう。
というこはこの会合自体が仕組まれたものであった可能性もある。
当初の狙いはカルラだったのだろう。使える使い魔を持つものは少ない。
だが騒動を起こしてはこれからの家の存続が危ぶまれる。
これまでどれだけの家が使い魔を奪われてきたのだろうか。
腸が煮えくり返った。
老害が、馬鹿にすんなや。手のひらに円を描く。
「来い!カルラ!!」
勝呂の体が赤い炎に包まれる。
自分のものを奪われて、黙っていられるほど大人ではない。
***
勝呂と引き離されて、燐はただ一人部屋に佇んでいた。
周囲は術師達が召還した悪魔に取り囲まれている。
逃がさないという意味だろう。
勝呂などという家にいるよりは余程良い待遇を約束するぞ。と意味のわからないことを言われている。
燐は勝呂に迷惑をかけないようにと大人しくしていたのに。ため息が出てしまう。
視線が一気に燐に集中した。
「貴様、無礼だぞ!」
周囲の術師の誰かが呟いた。自分の使い魔を差し向けようとしている。
燐は視線を御簾の向こうへ集中させた。
少しだけならいいとメフィストにも言われている。
ろうそくの明かりが消えて、一瞬のうちに青い炎へ変わった。
周囲の者がざわつき始める。動揺した術師が使い魔を燐に向けた。
襲いかかってくる悪魔を燐は一睨みで黙らせた。
悪魔は燐の正体を察したのだろう。怯えてその場にうずくまっている。
その様子を見た使い魔達が、次々に燐に頭を垂れた。
部屋を支配する青い光に、従属する悪魔の姿。
それはあの青い夜を引き起こした魔神を彷彿させるには十分な素材だった。
術師達も怯えた目で燐を見ている。
「生憎だが、俺は勝呂の若旦那以外に従う気はない。
勝呂家や若旦那に手を出してみろ、思い知らせてやる」
御簾の向こうに向かってにやりと笑って無礼者が、と呟いた。
***
廊下に出てみると、そこにはこんがりと焼かれた護衛が何人も転がっていた。
見れば勝呂が最後の一人を伸しているところだった。
勝呂の姿を見つけた燐はうれしそうに駆け寄った。
「勝呂!大丈夫だったかー?!」
「奥村!?」
駆け寄ると、勝呂は思いきり燐を抱きしめた。
突然のことだったのでかなり動揺して燐はされるがままだった。
ぺたぺたと触られて、どこも異常がないかと何度も確認されてしまった。
燐は先ほどの出来事を軽く脚色して勝呂に伝えた。
あいつら、もう勝呂の家にも俺にも何もしないって言ってたぞ。と。
それでも勝呂にはお見通しだったらしい。
「脅したんか?」
「割と。台詞はメフィストに考えてもらった!」
「まったく、それで怪我はないんか?」
「平気だって」
「・・・心配さすなや。やっぱり連れてくるんやなかったわ」
「ごめん」
騒動を起こしてしまった自覚はある。
やっぱり来ない方が勝呂のためだっただろうか。
燐は落ち込んだ。どうして自分はトラブルを呼び込んでしまうのだろうか。
勝呂は落ち込む燐の頭を撫でると、そうやない。と照れくさそうに呟いた。
「こんな姿のお前をあいつ等に見られたことがあかんと思ったんや。はよ帰るで」
勝呂は鍵を取り出すと、近くにあった扉に差した。
任務から帰る分に使用するのはかまわないだろう。
そのまま燐の手を引いた。
「一緒に来てくれて、ありがとうな奥村」
照れくさそうな勝呂に燐が恥ずかしそうにうなずいた。
学園に向かって一歩を踏み出せば、隠遁の術が解ける。
制服姿に戻った二人が、笑いあう。
「やっぱりこっちのがいいな」
着物が似合ってかっこいい、若旦那の使い魔も悪くはないけれど。
対等な関係の方が、二人にとってはちょうどいい。
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